58.キョロの持つ恐ろしい能力
「ゼンタさーん! 頑張ってくださーい!」
背中に届くサラの応援。声こそ聞こえないが、メモリのあの静かに圧のある視線も感じている。
アクションで返してやりたいところだが、視線を前から動かすわけにはいかねえ。決闘はもう始まってんだ、相手から目を逸らすなんて危なすぎてできん。
ただカスカのやつは一歩もその場から動かず、俺が仕掛けるのを悠々と待ち構えていやがるがな。
ちっ、余裕の笑みが気に食わねえな。確かに思ったよりもレベル差はあったが、互いにスキルは未知数だろうがよ。レベルの差が戦力の決定的な差とは限らんぜ。
それをわからせてやろうじゃねえか!
『シバ・ゼンタ LV16
ネクロマンサー
HP:88(MAX)
SP:57(MAX)
Str:71
Agi:58
Dex:41
Int:1
Vit:50
Arm:48
Res:18
スキル
【悪運】
【血の簒奪】
【補填】
【SP常時回復】
【隠密:LV2】
【活性:LV2】
【心血】
【集中:LV1】
クラススキル
【武装:LV4】
【召喚:LV3】
【接触:LV2】
【契約召喚】』
「あら、近づいてくるの? 私の翼の威力を目の当たりにしていながら」
「だからどうした。【武装】発動、『肉切骨』ダブル!」
両手に骨のナイフを装備して駆け出す。なのにカスカはちっとも焦らず、にやりと笑みを鋭くさせた。
「いい思い切りじゃない。まずはレベルの差分、手加減してあげる」
「こなくそが!」
生意気を言いやがるカスカへナイフを振るう。きちんとしたナイフの扱い方なんざ知らねえんで、やたらに振り回すくらいしかできねえが、だからこそカスカにとってもどこからどう切り付けられるか読めないんじゃないか――と思えば。
「んだと……っ!」
俺のナイフ攻撃はまったく当たらなかった。カスカは翼を使わずに、手だけで二刀流ナイフの連撃を捌いていく。ナイフそのものじゃなく俺の手首や前腕を的確に叩いたり抑えてくる――こいつ、全部見えてやがるのか!
こういうのは攻める側のが遥かに有利なはずなのに、カスカの完璧な捌きによって俺のほうが先に崩れた。ナイフ攻撃に生じた淀みを見逃さず、カスカはここぞというところで蹴ってくる。足裏が鳩尾に当たって、俺は後方に押しやられて倒れた。
「く、っそ……!」
「どうしたのよ。もうギブするわけ?」
「誰が!」
「そう、なら今度はこっちからいくわよ。翼魔法『フェザーショット』!」
「い!?」
ズバババッ! とカスカの翼から羽根が弾丸みてーに飛び出してきた!
二本のナイフで切り落としてやろうと思ったが、あまりにも弾の数が多いし速い!
すぐに無理だと判断した俺はナイフを放り出し、【武装】を再発動する。
「『骨身の盾』!」
骨の盾で羽根を受け止める。手元に来る衝撃はそれほどでもない……速いが見た目通りに重さはないようだ。防げるのはいいが、HPがもう二割減った。これはこっそりと【補填】で少しずつでも回復しておかんとマズいな。
SPを犠牲にHPを取り戻していると、不意に羽根のマシンガンが止まった。
「亀みたいに守ってるだけなの? いつもの強引さはどこに置いてきたのかしら」
カスカめ、さっきからやたらと挑発してくんな。
なんかの作戦なのか、ただやる気を煽ってるだけなのか……どっちにしろじっとしてんのは俺の性に合わねえってのは確かだな!
「【召喚】、『ゾンビドッグ』――からの変態、『ゾンビウルフ』!」
「バウルッ!」
「行け、ボチ!」
俺の指示に従ってボチは風のようにフィールドを走る。正面から突っ込まずに、一旦カスカの視界から消えるように横から回り込んで近づく。が、ナイフの連撃を見切るカスカの目はボチを見失わなかった。
「『フェザーショット』」
放たれる羽根の弾丸。
真っ直ぐ飛来するそれを、ボチはすんでのところで走る向きを変えて逃れた。
そしてそっからはジグザグの動きで狙いを付けられないようにして走る。
「賢いし、反応もいいわね。ゼンタよりよっぽど」
「んだこら?!」
「だったらこれはどう? 精霊魔法『風の小精霊』」
ゴウッと風が巻き起こり、そこにうっすらと子供のような形が浮かぶ。空を自由に舞うそれは本物の風そのものだ。地を駆けるボチに易々と追いついて纏わりついたそいつは、そのまま高く飛び上がった。
「風の精霊シルフに捕まったら最後。翼を持たないことにはどうにもならないわ」
「バゥ……ッ」
「ボチ!」
「叩き付けなさい!」
頭から地面に落とされるボチ。ただ落下しただけじゃねえ、カスカの言葉通りに風のガキが勢いをつけて自分ごと落下したんだ。どごっ、と嫌な音がしてボチの召喚は解除されちまった。ただし――。
ボチがやられるのと同時に、カスカの風も収まったがな。
「……! 落とされ際にシルフの喉を噛み切ったのね。やるじゃない、あんたのワンちゃん」
「へっ。どうだよ、ボチはすげえだろ」
「肝心のあんたはまだ何もしてないけどね」
「焦んなっての。こっからが俺のターンだぜ――【武装】と【召喚】を発動だ!」
「!」
右手に新しく『恨み骨髄』を装備。
そして『ボーンヴァルチャー』のキョロも呼び出す。
盾と剣を持ち、骨だけの身で動く鳥を従えた俺に対し、カスカも少しは警戒の色を顔に浮かべた。
「用心したって無駄だぜ。見せてやるよ、キョロの持つ恐ろしい能力をな!」
「「!?」」
恐ろしい能力って言葉にカスカと、他でもないキョロ自身がビックリしている。
そらそうだ、キョロには空を飛べるってこと以外に特筆できる力なんてねえ。
だがそんなことカスカにはわからねえからな。
「……クゥエッ!」
俺の意図を汲み取ったキョロは、自信満々な勇ましい羽ばたきかたでカスカへ飛んでいく。ボチとは違って正面から突撃を敢行してくる骨のハゲタカを不気味に思ったか、カスカは翼を動かして何かしら対応しようとしている――よし、今だ!
奴の目が俺から離れたところで【活性】を発動させ、猛スピードでスタートダッシュを切った。
「【翼の加護】発動!」
「クエェ――ッ!」
光り輝く翼がカスカの全身を包み込み、そこに突っ込んだキョロは一発で沈んだ。それはまるで電気柵にかかった動物みたいなやられかただった。
くっ、すまんキョロ……!
だがお前の犠牲を無駄にはしねえ!
「! あんた……、」
「もう遅ぇ! 食らいな、恨みの力ぁ!」
キョロが囮だったってことに、隙を突いて接近していた俺を見て気付いたんだろう。カスカの目付きが険しくなったが、既にここは俺の射程内。そんでもってキョロを警戒して、ガード用っぽいスキルをこいつは切ったばかりだ!
つまりは今こそが攻める最高のチャンス!
「うぅおおおっ!」
「づっ……!」
蹴られたのと、羽根の弾丸を浴びた恨みをぶつける。ボチやキョロがやられたぶんも恨みが溜まってくれるならよかったんだが、残念ながらこいつは自分が食らっただけしか怨念を放ってくれねえ。
だからボチたちの恨みぶんは、俺の力で上乗せする!
俺の最強攻撃法である【活性】での強化+恨みパワーでの強化の二重バフ攻撃が決まって、カスカの顔がぐっと歪む。
だが、倒れはしない。
まともに食らったってのに、さてはステータスだけで耐えやがったなこいつ!
「【発光】!」
「なにっ?」
ピッカァ! と強烈な光が俺の目を眩ませる。なんの攻撃かと思ったが光はすぐに収まり、そしてそこにいたはずのカスカはいなくなっていた。
「っ、目晦ましかよ!」
「そう、単純でしょ。だけど意外と便利よ」
傍から聞こえる声。だけじゃなく、カスカの手が俺の腕に触れている。次に何が起こるのかをなんとなく理解した俺は、【活性】で強化された身体能力で咄嗟にこちらもカスカの腕を握った。
「「【接触】発動!」」
俺たちの声はシンクロした。カスカは目を見開く。そのピンクの瞳には俺の顔が映っている――何かに怯えるような表情をした、弱々しい俺の顔が。
これは思った通りに同スキルが使われたってことか……カスカが怖くて仕方がない。いや、これはただ怖いってんじゃない。恐怖じゃねえ――畏怖だ! 俺は急にカスカのことが敬服すべき存在に思えてきている!
だが、すっとその気持ちは静まって消えていく。
僅かに尾を引くようにしつつも、俺の中の何かがその余波も完全に払った。
カスカのほうはどうかと確認すると……まだ俺の【接触】の効果が出てるみてーだ!
「だったらもう一発! 恨み骨髄ぃ!!」
「きゃあっ……!」
いつも勝ち気なカスカの瞳が、明らかに恐怖に揺れている。それを見て取った俺は自由を取り戻した体で恨み骨髄を振りかぶって、カスカをぶっ叩いた。
あのインガも打ち抜いたホームラン斬りが炸裂し、カスカは今度こそ吹っ飛んで地面に倒れた。
――今のはかなり手応えありだぜ!?
『シバ・ゼンタ LV14+2
ネクロマンサー
HP:80+8
SP:48+9
Str:64+7
Agi:48+10
Dex:29+12
Int:1+0
Vit:44+6
Arm:40+8
Res:14+4
スキル
【悪運】
【血の簒奪】
【補填】
【SP常時回復】
【隠密:LV2】
【活性:LV1】+1
【心血】
【集中:LV1】New!
クラススキル
【武装:LV4】
【召喚:LV3】
【接触:LV2】
【契約召喚】』




