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557.また会おう

 単純計算でも最低あと九十六個は探し出さなきゃならない。そんで大陸の外には人間以外が国(のようなもの)を作っているところもあるらしく、そこには至宝として紅蓮魔鉱石が国の中心地に鎮座されていたりするんだとか……全部上位者からの伝聞でしかねえから俺もあやふやなんだが、まあこの情報に嘘や誤認はないと見ていいだろう。


 当然、そういうところから紅蓮魔鉱石を回収するのは一手間も二手間もかかる。ただ拾い集めるのとはわけが違うんだからな。いや、拾うにしたってそこがどういう状況かにもよるんでどっちが楽とか言い切れはしねえかもだけど。つーかたぶんどれもすげー大変だってのが正解だな、上位者のあの労い方を思うに。


「ところで。私とメモリちゃんは確定として、紅蓮石探しの旅には他にどのメンバーを連れていくつもりなんですか?」


「それなんだが……ちょっとまだ迷ってるとこでな」


 サラとメモリに加え、補佐のメイヤも異界行きと同じくこっちの任務にも同行させる。つまり現時点で俺含め四名が確定の面子ってことだ。


 んで問題なのはふたつ。もっと戦闘員を増やすかどうか。そしてこの旅に技術員も参加させるかどうかだ。


「技術員、とは?」


 素朴なメモリの問いかけに、俺は「紅蓮魔鉱石に詳しいやつ」と素朴に答える。


「お馴染みの職人組、ヤチ・ユマ・ガンズのトリオだよ。あいつらを置いて紅蓮魔鉱石の扱いに長けてるのは他にいねえだろ?」


 納得いった様子で頷いたメモリとは反対に、今度はサラが疑問を投げかけてきた。


「紅蓮魔鉱石に関わる任務なんですから、三人ともいてくれたほうがいいんじゃないですかね? ゼンタさんは何を理由に迷っているんですか?」


「同じことを言わせてもらうが、この任務が危険で長丁場のもんになるからだよ」


 ヤチの【従順】は実質転移魔法みてーなもんでめちゃ便利だが、それを使うヤチ本人に何かあればスキルも死ぬ。その仕組みからどうしてもワンテンポ遅れるとはいえ、場所を問わずどんなときでも避難や増援に期待が持てるのはデカい。それがあるのとないのとでは精神面での余裕も変わってくる。


 だったらヤチは同行させずギルドハウスからの支援に徹してもらったほうがいい、と考えるのは自然なことだ。連れてくよりかは確実に安全策だしな。


「そもそも回収だけが目的だから別に紅蓮魔鉱石の力を使おうとは思ってねえんだよな。だから技術員の有無がちと微妙になる……だけどいてくれたほうが助かりはするんだよなぁ」


 ユマはおそらくヤチが行くなら自分も行くし、残れば自分も残るから悩む余地はないとして……じゃあ二人は置いてせめてガンズだけでも連れてくのはどうか、とも思ったんだが。それもどうなんだろうな。普段は元気一杯だがあの人も歳は歳だからあんまり無茶をさせられん。本人としてはきっと行きたがるだろうけどよ。


「なるほどなるほど……では、戦闘員についてはどうお悩みなんです? 戦えるメンバーということなら、ヤチさんたちと違って自分の身は自分で守れるはずですよね」


「そこは純粋に誰を連れてくべきかで迷ってる」


 実力面で言えば……ビートとファンクは強くなってるっつってもまだちょっと不安か。コンビで色々とクエストをこなしてはいても、まだ死にかけたり全滅しかけたりの修羅場を潜ってねえみたいだし。いや、んなもんは潜らねえにこしたことはないんだが、けど紅蓮魔鉱石探しの旅に戦闘員として参加するならそういう経験は必須だとも俺は思ってる。なもんで、今んとこは除外対象かね。


 そういう意味じゃアップルも除外すべきか? やっぱなんと言ってもまだ子供だし。けど、あいつの戦闘経歴ってけっこう謎なんだよな。場慣れ具合じゃビートたちの比じゃねえ様子を何度も見せているし、パインの許可さえ貰えれば同行させてもいいかもしれん。強さは申し分なしだしな。


 同じ理由でテッカも欲しいし、聞けばシズクとヨウカのバフの効力は凄まじかったらしく、それも欲しい。新しい仲間であるエイミィやレヴィも強い。しかもこいつらはコンビになるともっと戦えるようになるとのことだったんで、やっぱり欲しいよな。


 ……しかしこの調子で面子を増やすと大変なことになるぜ。前にもいったがひとつのパーティとして成り立たせるには多くても五、六名が限度だ。それ以上となると全員での連携が取りづらく、下手すりゃ戦闘のたびにバラバラになってしまいかねん。


 邪魔が出るたび各個撃破を繰り返して進んでくのは無駄の極みっつーか、パーティを組んでる意味がない。連携で各々の負担を減らし、生存率を高める。それがパーティの意義だからな。


「あ!」

「なんだサラ、いきなり素っ頓狂な声出して」

「素っ頓狂は余計ですよ……思い出したんです、鼠さんからアドバイスを貰っていたことを」

「なに、鼠少女の?」

「はい。ゼンタさんが迷っていたらこう伝えてくれと言っていました――『戦力の出し惜しみはなしだ』と」

「……ほお」


 となると――こりゃ素直に従うが吉か。あいつも何かが見えたからこそこんな伝言をしたんだろうしよ。まさに今この瞬間を見計らったかのようなこのアドバイス、軽視も無視もできん。


 そうだな。そんじゃあ全員でひとつの班じゃなく、ふたつの班が合同で進んでると考えればどうだろうか。そういう形でガロッサにも挑戦したことだし――あの任務自体は大失敗だったが――俺とアップルがそれぞれの班のリーダーになれば案外いけるかもしれん。これが正しいかどうかは実地で確かめるほかねえが……。


「で、そういや鼠少女はどうしたんだ? まだ姿が見えねーけど、ちゃんと招待してるんだよな?」


「しましたよ、勿論。でも来るとも来ないとも答えてくれませんでした。その代わりに、これをゼンタさんにと」


「これ、って……なんだ、ただの紙かよ?」


 何も書かれてねー白紙。なんのこっちゃと眉をひそめたが、「あ」と気付く。これは上位者が鼠少女へ届けたもんと同じものじゃねえか?


「まさか手紙なのか?」


「あ、やっぱりそうなんですか」


「てかお前、こいつを預かってるってのを今の今まで忘れてたのかよ」


「ちゃんと思い出したことを褒めてくださいよー。芋づる式ですよ?」


 危うく渡しそびれといて図々しいことこの上ねえサラをスルーして、俺は白紙へと目を通す。俺ぁ鼠少女のような特別な目は持ってねえが、これでも管理者だ。もしこれが上位者が使ったのと同一の手法で書かれたものなんだとすれば――お、やっぱりだ。


 見える。


「……!」


 そこに書かれていたのはたった一言。『また会おう』。それだけだった。


 ――察したぜ。あいつはもう、この世界にゃいねーってことを。そんでもってたぶん、見抜いてやがるな。神の使者になったことで、俺から寿命ってもんがなくなってるってことを。だから世界を越えてもなお再会の言葉を残していったんだ。


 サラにもメモリにもまだ言えてねーことを勝手に知りやがるとは、マジでプライバシーの観念がねーやつだな。しかも別れの挨拶もなしにいなくなっちまう薄情なやつでもある。


 だが思えば、唯一の同じ境遇でありながらあの上位者が不自然なまでに言及しなかった鼠少女だ。きっと色々とまだ俺たちにも言えねーことがあるんだろうな。こんな簡素な手紙ひとつ置いてくのが精一杯ってわけか……へん。


「何が書かれているんです?」


「別に大したことじゃあねえよ。ただまあ、これを門出としておくぜ……お互いにとってのな」


 世界の終幕。一本の『糸』が切れる様を何度も見てきたっていう鼠少女が、別の『糸』へ移った。これは契機だ。この世界は確実にひとつの転換期を迎えたと思っていい。それも間違いなく良い方向へのな。


 鼠少女は去り行くことでそれを教えてくれたんだ。


「――うう、日も暮れてちょっと寒くなってきましたね……もう戻りませんか? 芋づるでまた思い出したんですけど、『ラステルズ』からお高めのお酒が届いているんです。なんでもゼンタさんに奢ってもらったお礼だとか」


「お礼……? あー、そういや前に酒奢ったっけな。あんときのお返しってか? あれぐらいのことで律義だな」


「それだけあなたが慕われているということ。……というか、いくらなんでもサラは忘れすぎ」


「まあまあ、いいじゃないですかメモリちゃん。お祝いの席ですよ? せっかくみんな飲めるようになったんですからぱーっといきましょう、ばーっと!」


「何もよくねーわバカたれ」


 まあせっかくだ。ここらで初飲酒も悪くねーかもな。


 屋根からパーティー会場へ戻ろうとする二人に続き立ち上がって、鼠少女の手紙を闇に溶かす。そっと手放せばそれは夜の闇に混ざり合って消えてった。どこか遠くにいる鼠少女にも、そこに夜があればきっと伝わるだろう。俺からの返事が。


 俺の人生は続いていく。これからも長く、ずっとずっと。だが今日のところはこれを一旦の区切りとしておこう。新しく始まる物語のためにも――。



「またな」



これにて『そうです、俺がネクロマンサーです!』は完結となります。最後までお読みいただきありがとうございました!


長編三作目となる次作も既に投稿を始めてます。タイトルは『伝説の魔女になった覚えはないんだけど?』です。

懲りずにまた転生物なんですが、今作とテイストは違っている(と思う)ので良かったらそちらも読んでみてもらえたら嬉しいです。下にリンクも貼ってありますので。


それではまたお会いしましょう!

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[一言] 続きは...続きはどこに!
[一言] オッツ
[一言] 完結オメ 評価はもう限界なのでイイネしときました
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