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553.おめでとうと言わせてもらおう

「それでは僭越ながら乾杯の音頭を取らせてもらいますね! せーの、ゼンタさーん! 管理者就任、おめでとうございまーす!」


「「「おめでとー!」」」


「わー……」


 パーン! と炸裂する人数分のクラッカーの音と火薬臭は思いのほか強烈だった。飛び出た紙吹雪を頭から浴びながら一応は喜びの表現を取ったが……いやテンションよ。何だこの状況?


 来訪者から管理者にジョブチェンジしたぜ、と。そう伝えて驚かれこそすれ、こんな風に就任祝いのパーティーを開かれるとは予想だにしてなかったぞ俺ぁ。


「どーしたのゼンタっち。せっかくのお祝いなのに元気なくない?」

「もしかして、体調が良くない? だったら私たちに気を使わずに休んでくれても……」


 上位者かみの下で話し合いに修行にと色々やってきたことはみんな知ってるんで、それで俺が疲れてるんじゃないかとヤチ・ユマコンビは心配してくれた。まったく、そんなことは露ほども思っちゃいないサラとは大違いだな。言うまでもなく、この祝賀会の主催者はあいつだ。


「や、特に体の不調はねーさ。むしろ絶好調なぐらいだよ」


 そう答えてもまだ不安そうにしてるヤチに笑ってやって、他と一緒に食べ飲みを楽しんでこいと送り出した。ユマに手を引かれて去っていくヤチはそれでもちらちらとこっちを見てる……俺、そんなに元気なさそうか?


「元気がない、というよりは落ち着きがあると言うべきだろうか。以前よりもしっかりとした貫禄が身についているように見えるぞ、ゼンタ」


「マクシミリオンさん」


 今回のパーティーの参加者は『アンダーテイカー』内に限らない。外部からの列席者であるマクシミリオンは、グラスを片手にいつもより柔らかめな笑みを浮かべて俺に話しかけてきた。


「貫禄っすか」


「そうだ。どこがどう変わったというわけでもないが、それでも見違えたな」


 あー、まあ。上位者んとこで体感上五歳ぶんは歳取ってるもんな。元の世界基準でもこっち基準でももう成人だ。ずーっと訓練しかしてなかったとはいえそりゃあ、多少なりとも変化くらいあるか……俺自身じゃあんましよくわからないが。ヤチとユマが戸惑ったのもそこなんだろうな、たぶん。


 なんと言っていいやら頭を掻く俺に頷いたマクシミリオンは、立食形式の食事――もちろんそこに並んでるのはテッカが腕を振るった料理たちだ――を堪能している面々を見渡していった。


「こうしていると、心から実感するよ。『葬儀屋アンダーテイカー』はいいギルドだとな」


「……その感想には異論ないっすね」


 釣られて俺もこの場にいる面子を見渡すが――こうしてみると大所帯になったもんだ。


 カルラたちが帰っちまって事実上の解散となった『天道姫騎士団プリンセスナイツ』所属だった双子姉妹、ヨウカとシズクは結局うちに移籍することになって冒険者を継続している。今はテッカからの言いつけで世話を任されたビートとファンクにあれやこれやと食べたい物を持ってこさせているところだ。

 ……前々から思ってたが、俺以外のみんなはちとやつらに甘すぎやしねーか? 見た目も雰囲気もとてもそうとは見えないっつっても、あんなんでももう高校生相当だぞ、あいつら。将来どうなっちまうんだよ。


 『灰の手』を離れたはいいがやったことがやったことなだけに『恒久宮殿アーバンパレス』に戻るわけにはいかなかったエイミィとレヴィの二人組も、冒険者以外にやれることもねーだろうってんでうち預かりとなった。今はサラの招待で来たルチア、カロリーナといった教会の面子と何やら楽しそうに駄弁っている。

 俺の指示に絶対服従ってとこ以外は晴れて自由の身の二人だが、これが決定したつい先日までは何をするにも復帰したスレンティティヌスの監視付きだったという。両手両足と首にも水の輪っかを嵌めて、いざとなったらスレンお得意のウォーターカッターっぽい魔法で即切り落とせるようになってとか。うーむ、エグいぜ。当然の処置だとは思うが。


 それから……一応カスカ、ハナ、カナデ、ハヤテといった未だ『灰の手』所属のクラスメートも集っている。当然、ヨルもいるぜ。サラやメモリと話しているのはたぶん、お互いが知らないこれまでの歩みに関してだろうな。

 俺たちとしては全員まとめてギルメンになってくれてもよかったんだが、ヨル含めたこの五人で新たにパーティを組むそうだ。冒険者資格を手に入れるかはまだ未定だが、とにかく当面はそれで活動していくらしい。管理者である俺が命令を下す場面もいつかはあるかもしれないので、そんときはよろしくと言っておいたが……なんか変な感じだぜ。つーかこん中だとハナがぶっちぎりで不穏なんだが、大丈夫なのかね。


 あと『最強団ストレングス』もここに全員揃っている。何を隠そう誘ったのはサラでも、ポレロにこれだけの人数を集めたのはヴィオの転移魔法なんだ。その立役者も今は久方ぶりに顔を合わせたパイン、トードと嬉しそうに酒を酌み交わしている。

 うーん、前に戦ったときとはかなり印象が違うな。どちらかと言うと変装だったはずのキッドマンに近い雰囲気だ。案外こっちが素なのか? アップルやガンズも加わって根掘り葉掘りと色んなことを聞き出してるようだが……お、そこにヤチとユマが新しい料理を持っていった。楽しめっつったのに結局給仕してんのかよ。やっぱヤチは根っからのメイドだし、ユマは根っからのヤチ好きだな。


 ギルドの内外問わず集合した面々は多い。紅蓮魔鉱石で拡張させた食堂はこれだけの人数も問題なく収めてくれているが、普段との人数の違いでどうにもパンパンに感じるぜ。


 本当はこの顔触れに加えスレンさんら特級構成員エンタシス、ガレルを始めとした他ギルドの世話んなった人たち、あとは委員長あたりも呼びたかったがな。どうしても都合がつかなくて今日は不在になったんだ。こんだけ大勢だとみんなの予定が合う日なんざそうそうねーから仕方ないんだけどよ。


 これ以上増えてたら食堂をマジもんのパーティー会場に仕立てなきゃならなかっただろうってことを思えばまあ、今回のところはこんなもんでいいかとも思う。


 共に一同を見回して息をついたところで、マクシミリオンがグラスを掲げながら言った。


「改めて、俺からもおめでとうと言わせてもらおう。Sランクギルドへの昇格。それから『アンダーテイカー』が『恒久宮殿うち』以来の政府直轄となったこと……これで名実ともに同僚・・だな」


「よしてくれよ。そう言うマクシミリオンさんは団長かつ政府長じゃないっすか」


 そう、結局のところ実務で鍛えられてメキメキ内政面の資質を覚醒させた彼は『灰の手』リーダーの座を降りたローネンを内々の参謀役としてそのまま正式な政府長となった。暫定という枕詞が外れた形だ。


 なので、同じ政府傘下ギルドと言っても立場としては断然『アーバンパレス』のが上だ。なんせそこのトップが政府のトップも兼任してるんだからな。


 ちなみに。『灰の手』所属であることに変わりはなくとも縛りがほぼなくなったことで、リオンド曰く『最強団ストレングス』は近く活動を再開させるとのことだった。トードたちと一緒にあれだけ盛り上がってるのはその前祝いの側面もあるんだろう。


 てなわけでますます『アンダーテイカー』は偉大なSランクギルドの先輩らを必死に追いかけなきゃならなくなった。つっても、それにプレッシャーを感じるようなのはうちにゃ一人もいねえがな。


 あと、言っておくが『アーバンパレス』とは違って政府の専属ではねえからな。政府からの任務を優先的に受けはするが他からの依頼だってこれまで通り受けるつもりだ。名指しで頼まれたものかつ、俺たちでないと厳しそうだと判断できたものはな。けれど本拠地ホームに関してはさすがに中央都市セントラルシティへ移すべきかなと考えてはいる。


「政府長として大いに頼らせてもらうつもりだが……しかし立場の話を持ち出すならゼンタ。そういうお前こそ世にも稀な、神の次席に座す偉人じゃあないか」


 珍しくもいたずらっぽい口調でそんなことを言ったマクシミリオンは、顔をしかめる俺を見て口の端を上げた。


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