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549.下落・暴落・最新最善

 レンヤにとって此度の作戦は、命じられた当初からして順風満帆とは言い難いものであった。


 ローネンは他にも何かしらの準備を進めていた。闇ギルド連合を動かすのはそちらの用意も整ってからの同時進行、というのが彼本来の計画だったようだが……エイミィ・プリセットの離反により情報アドバンテージを削がれたことで片手落ちのまま作戦を進めるしかなくなった。


 レンヤが癪に思うのは、ローネンが端から失敗込みで先を見据えていることだ。闇ギルド連合を一番槍としつつも、その槍は折られるだろうと予想している。カスカたち来訪者組や『最強団ストレングス』を後に控えさせているのも、後続部隊ではなくどちらかと言えば敗戦処理をさせるためという意味合いが強い。


 統一政府セントラルに魔皇軍襲撃時のような混乱を起こさせ、そのゴタゴタに乗じて主要人物の二、三人を消せればいい。そういう狡くせせこましい策の一環に自分が組み込まれていることが腹立たしい。しかしそこでやる気をなくすでなく、むしろ俄然に殺る気を高めるのがレンヤという男だった。


 従えているチンピラたちが目晦まし代わりに扱われるのは別にどうだっていいのだ。レンヤとて今ここで使うために配下にした連中なのだから、消費することになんら躊躇いはない。ただし、ローネンが自分をもこいつらと同じ扱いをしているのだとすれば、その侮りは到底許せるものではない。


 ――奴の予想を覆す。後続に頼らずリストアップされていた全員をこの手で始末する。


 優先して消すべき者の羅列、ブラックリストには当然柴ゼンタの名前もあった。メインディッシュがいの一番というのも大味が過ぎるとは思ったが、敵同士であれ互いに一番槍を務めていることに多少のシンパシーもあった。


 ――俺様たちならそうだ、そうなる。後回しになんざできるはずもねえ。


 だからこその高揚。皆殺しの景気付けにこれほど相応しい奴もいない。と、意気軒昂であったレンヤの表情に陰りが差したのは、前提にあったものが崩れ去ったからだ。


「どういうことだ、オイ……! 来訪者を帰すなんてことは上位者にしかできねえことのはずじゃあなかったのか!」


 来訪者は上位者かみの手駒。手放すことは上位者も、そしてその従僕たる『灰』も良しとはしない。となれば万が一にも元の世界へ帰されたくないレンヤは、当然の如く『灰』傘下の『灰の手』へ協力することを決めた。


 カスカやハナとの話し合いの場も設け、彼女たちと共同することこそなかったが、ポジションに違いはない。共に等しくリーダーであるローネンに従うべき協力者の一員だ。


 上位者と『灰』を除く全ての存在の頂点にいずれ立つことを目論んでいるレンヤは、ローネンの指示を聞かざるを得ない現状を雌伏の時だと考えている。我慢を知らない彼からすれば凄まじいまでの忍耐を駆使して野望を必死に抑えつけているのだ。そうでないと下剋上は果たせない、と典型的な激情型でありながら計算高さも持ち合わせているレンヤはだから、作戦内容には不服ながらも襲撃の尖兵となることを快く引き受けた。


 しかし。ゼンタの言葉に抱かされたこの嫌な予感が当たっているのなら。


 これまでの忍耐がまったく意味を失くしてしまう――。


「ああ、違いねえ。神にしかできねえことだ。当たり前みてえに世界から世界へ人を飛ばすなんて真似はよ。つまりお前の想像通りだぜレンヤ。俺は上位者かみと謁見した」


「……ッッ!!」


「その甲斐もあったぜ。ちゃんと帰りたがってるやつらだけ送ってくれたみてーだからよ。四人の安否なら心配しなくていいぞ」


 そんなものは最初から気にしていない。問題なのは、ゼンタが既に上位者と接触していること。そしてその要望が通っていることだ。


 ゼンタに謁見の権利を与えない。それを第一としていたのは、レンヤを始め『灰の手』についた来訪者一同――カスカ、ハヤテ、カナデ、ハナが揃って強制送還を恐れていたからだ。だが自分たちはこちら側に残されたまま。ならば送還に怯える必要もなくなったという意味では、『謁見が成った』という事実は歓迎すべきことでもある。


 カスカたちなら、それを純粋に喜べもしよう。けれど。いずれ『灰の手』すらも乗っ取り、世界の王座を奪取せんと企てるレンヤにとっては。


「どうなってやがるんだゼンタ。上位者を動かせちまうお前は今――どの立場にいる!?」


 虎視眈々と自分が狙っていたそのポジションを、ひょっとしたらこいつは――。


「それも想像の通りだ。俺ぁもう来訪者じゃねえ」


「――、」


「管理者っていう神の使いが今の俺だ。『灰』と同列の立場にいる。だからまあ……こうしてお前を止めようとしてるってのは、そういうことだ」


上位者かみの指図か……っ!」


 ギリィッ! と周囲へ響くほど荒々しく歯を噛み締めるレンヤ。


 これでまさしく前提が崩れた。物の見事に崩壊してしまった。何せレンヤのプランは『灰の手』の頂点に立ち、『灰』に次ぐ立ち位置を得てようやく始まるのだ。


 行く行くは『灰』も引き摺り下ろしたいとは思っているものの今のところ――認めたくはないが奴は強すぎるために――その目途は立たない。なのでまずはローネンに成り代わることをゴールに設定していた。


 だというのに、そのローネンの計画に上位者かみからの横槍が入った。しかもそれは『灰の手』を飛び越えて『灰』と並んでしまったゼンタを差し向けるというやり口。これだけでも判明したことはいくつもあった。


(『灰の手』の価値は大きく下がった……! 特に危ういのはローネンだ。もしも新たな管理者の登場で体制が刷新されるのなら最悪現リーダーのあいつは処分される可能性すらある――そうなった場合仮に次のリーダーが置かれたとしてもそれはもう、今のローネンほどの力は持てねえ)


 ゼンタに寄り添うように横にいる女。お揃いの白ローブを纏うそいつもおそらくは管理者の一人だろう。


 容姿こそ不明だが『灰』とは身長も気配も異なるために、この時点で少なくとも三人。たった一人が無数に分裂していざというときの総処理を担っていたという管理者が、三人にまでその数を増やした。もしかするとまだ他にもいるのかもしれない。だとするならますます『灰の手』の価値は下落する。


 何故なら『灰』にできないことをやるという独自の役割が、そっくりそのままゼンタに奪われることになるからだ。


(チッ、腐れローネンめ! 俺様が簒奪する前に勝手に落ちぶれやがって……これじゃ何もかも台無しじゃねえか!)


 闇ギルドを束ねた際のように強行的にリーダーの座に就かなくてよかった、と己の判断に満足すると同時、それ以上の不満が怒りとなって溢れ出る。


 もはや『灰』に次ぐ地位は得られない。ゼンタに掻っ攫われた、どころかそれ以上の地位に好敵手は収まってしまった――『灰』の横に立てる人間になってしまった。何がどうなればそんなことが可能になるのかまったくわからない。それがまた一段と腹立たしい。ゼンタのスケールに自分が及んでいない証拠のように思えてしまう。


 こちらの世界で著しく忍耐を鍛えられたレンヤであっても、こればかりはどうしても我慢がならなかった。


「――考え方を変えるぜゼンタ」


「!」


「今ここでお前がぶっ倒されればよぉ! そりゃ管理者の資格なしってことになるんじゃねえのか……? 上位者かみから与えられた任務をこなせなかったお前の価値こそが暴落するんじゃねえのか!」


 そしてゼンタを倒したレンヤの価値は反対に上がる。管理者に相応しいと一応は認められた人物をこの手で下したならば上位者からの覚えがよくなることは確実だ。


 上位者に人の心はない。ならばゼンタの立ち位置にそのままレンヤを据える可能性だってある。


 ローネンを見限った今、これこそがレンヤが王となるための最新最善のプランとなった。

 そのためには。


「せっかくこんだけ集めたんだ。これも俺様の力の内だ――なら存分に振るわせてもらうぜ」


「レンヤ――」


「かかれ野郎共ォ! 一発でも食らわせた奴には追加の褒美をたんまりくれてやるぞ!」


 ゼンタが何か言おうとするのにも耳を貸さず号令を下す。四百人がかりでもゼンタには物の数ではないだろう。だが、これだけの人数を一人で相手するとなれば少なからず疲労はするし、SPも消費する。途中でレベルが上がってしまわないかだけが気がかりだが、この際構うまい。


 今のゼンタの手の内がある程度見られるだけでも人員を注ぎ込む理由になる。


「「「おぉおおぉおおおおぉ!!」」」


 レンヤが与える罰は苛烈だが、褒美もまた豪勢であることは闇ギルド連合所属の全員が知るところだ。たった一発当てる。それだけでしばらく酒にも女にも困らなくなる。となれば男たちが歓喜と共に戦意を漲らせるのは当然のことであり。


「はあ……どうせのことだからいいんだがよ」


 そんな敵陣の様子に嘆息しつつ、ゼンタはまるで祈るように両の手を組んだ。


心象偽界・・・・――」


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