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544.来訪者を飛び越えて

「ちょーだいって……要するになんだ、俺がお前の所有物にさえなれば、それで満足ってことか?」


「『灰』は私の道具だし? それと同じ立場になるってことは、そうだね。貴方が私の物になる。そうすれば、クラスメートを元の世界へ帰してあげてもいいよ。これはそういう提案だ」


「提案とはマイルドな表現だな。みんなを帰したけりゃあ俺に拒否権はねえじゃねーか」


「初めはね、こんな交換するつもりなんてなかった。貴方の要望はなるべく聞いてあげたいと思ってたんだー、ホントだよ? お友達のこともそうだし、自分もそれと一緒に帰りたがるなら応じてあげよう。それが『灰』のテストに合格したゼンタくんへの上位者わたしなりの礼儀だ、ってね……でも気が変わっちゃった」


「気紛れが過ぎっぞ。神がそんなんでいいのかよ」


「あはは、神以上に気紛れな存在なんていないよ。でもそれを言ったら、貴方の望みを叶えるつもりだったことのほうが気紛れなんだから。どちらかと言えば神としての本分を取り戻したってところかな。ゼンタくん。貴方が何よりも、自分よりもクラスメートを優先するというのなら、私の道具になりなさい」


「……昔神域ここに来させたっていうマリアさんや魔皇にも、その提案をしたのか?」


「ノー、していない。あの子たちにはスペシャルな『灰の手』になってもらいたかった――んだけど、ちょっと扱いをミスったよね。その失敗の反省も込めて、今日はこうして勧誘してるんだと思ってほしい。貴方はバグの温床としてあの二人以上にシステム外の来訪者になっちゃってるし、このまま放置はしておけないっていうのもあるけど。だから元の世界へ送り返すか、神域ここの住人にするか。それ以外にはないんだよ」


「まるで俺が何かよからぬことでもやったみてえな言い方だな」


「そう聞こえたならごめんね。でも、貴方のしてきたことがシステムに過度な負荷をかけたのは事実だからなぁ。処理できなかったのが悪いのか、処理しきれないものを押し付けたのが悪いのか……ここは両成敗ってことでいいんじゃない?」


「だから都合のいい表現をすんじゃねえって。実質クラスメートを人質に取られて身柄を要求されてるようなもんだぞ、こちとら。これのどこが両成敗だよ」


「いやいや、そこは心を苦にしての鞭だとして。ちゃーんと飴になる部分も用意しているよゼンタくん。具体的にはそうだね……貴方の仲間たち。サラちゃんやメモリちゃんを始めとしたパーティやギルドの面々だけじゃなく、対魔皇軍のために団結した全組織の全メンバーのことだけどさ。『彼らの命が助かる』ってことで、どう? これは貴方にとって最高の飴になるんじゃないかな?」


「っ……。お前、そりゃどういうつもりで言ってんだ。クラスメートを帰さないって以上にまんま脅しにしか聞こえねえぞ――俺が言うこと聞かなきゃ連中を殺すってか?」


「私が、じゃないよ。勿論『灰』がそうするわけでもない」


「じゃあ誰が……!?」


「『灰の手』だよ、決まってるじゃん。そもそも戦うつもりでいたんでしょ? ローネンくんが率いる『灰の手』と。『最強団ストレングス』や貴方のクラスメート、ならず者たちも大勢いるその勢力と真っ向からぶつかり合う覚悟をしてたんでしょう……だったらわからないとは言わせないよ。そうなれば確実に、どちらの陣営からもたっくさんの死者が出る。それは私がどうこうしなくても決まり切っていることだ」


「……!」


「ただし。私が動けば――ううん、私が『灰』を動かせば。必ずしもその限りじゃあないけどね」


「ちっ、結局脅しじゃねえか。そもそも『灰の手』が俺らを潰そうとすんのだって、お前が淘汰を起こすつもりでいるからだろうがよ。ローネンは淘汰後の新世界でも政府長になりたがってる。いや、それ以上の統一者になりたがってるんだ」


「そうみたいだね。優等交配で出来上がった為政者としての血が濃すぎたかな? 貴方のお友達のレンヤくんが率いる闇ギルド連合もうまい具合に乗せられちゃってるみたいだし……きっとローネンくんとしては大掃除のつもりなんだろうね。年越しならぬ淘汰越しに備えて、いらないものを一斉処分したいんだ。自分が抜けた統一政府セントラルも社会の暗部たる闇ギルドの所属員も。ローネンくんが夢見る新世界には必要のないものだろうからねえ……あはは、彼もそこだけはアリアちゃんと気が合ったと思うよ」


「呑気に笑ってくれやがって……この事態もお前にとっちゃそんなもんか」


「まあね。だってそこは私のシナリオ通りだし。決まってるのは大まかな流れだけで細かいところは来訪者任せ協力者任せにして、その都度の調整は『灰』に考えてもらってるんだけど。私から見ても今回は存外、スムーズだと言えるかな。魔皇軍もなくなって、淘汰のために『灰の手』もまとまって。政府がまだ残ってたり、多くの組織が結託してたり、『灰の陣営』――つまり『神からの干渉』を多くの人間が認識してしまったりと結構な手落ちも多いけれども。ま、細かいミスがあるのはいつも通りって感じだし。総合的には順調だと評していい」


「はん、それもそうか。そもそも今度の淘汰で大勢を殺そうってのがお前の決定だもんなぁ……その前段階でどこの誰がどんだけ死のうがどうでもいい。どころか、いい死にっぷりだと喜んで当然ってこったな」


「いやいやまさか、それを喜んだりはしないけどね? 何度も言ってるけど私は人間が大好きだしさ。でもわかってほしいのは、私が見ているのは人間という種族であって個人じゃないこと。っていうか、個人を大切にしてちゃ世界の管理なんてできないもん。シミュレーションゲームをしているみたいなものだよ。どんなに小さく区切ったって、単位は数百人が最小。それより小さな数はとても面倒を見切れないから……そこをどうにかしたくて『灰の手』がいるんだけどね」


「面倒は見切れてねえけど、見限ったりもしてねえってか?」


「まあ。数万数億って数も、結局は一個の積み重ねで到達するものだからさ。蔑ろにはできないし、したくないよね。と言ってもミクロを大事にし過ぎてマクロを疎かにしちゃ本末転倒だ。淘汰は停滞の淀みを発散させるためのもの。どうしても避けられないものだけれど、淘汰と淘汰の間の時代はもっとより良くできると思うんだ。貴方がいれば、ね。だからこれは、貴方がその決断をしやすいように後押ししてるようなものなんだよ」


「……そこがわからねえな。この不自由な二択がなんで俺の後押しになる?」


「天秤にかけられているものの種類が違いすぎて不自由ではあるかもね――でも有情でしょう? 選択権はそっちにあるんだから。貴方は『拒否権がない』と言ったけれど、そうさせているのは貴方自身だよ。道徳や恩義の偏見を捨てて、どこまでもフラットに視界を均せば、躊躇なく選べるはずだよ? こんな死と戦いばかりの世界なんて捨てて、元の世界で普通の人生を謳歌すればいい。自分だけのためなら即決でそうすべきだ。元々はそれが貴方の目標だったはず。なのに天秤を傾けずに悩むのは……それがもう貴方にとって魅力的な選択ではなくなっているから。そうだよね?」


「……、」


「『残る理由がある』。なら、迷う必要だってない。それでも頷きたがらないのはやっぱり、先輩来訪者たちの結末が大抵ろくでもないものだからかな? 特にマリアちゃんやアリアちゃんの末路を間近で見たからには警戒もするだろうね――そしてだからこそ来訪者を飛び越えて御許こちらへ来いと言っている」


「来訪者を、飛び越える……」


「うん。ゼンタくんが真の特異点となるのかどうか、決まるのはここ。ここが岐路だ。そこに至って一来訪者としての末路を辿るなんてことはさせられないんだよ。貴方が応じればクラスメートは帰還できる。仲間も犠牲にならない。その代わり、貴方には『灰の手』ならぬ『神の手』になってもらう。さあ、是か否か。考える時間はあげるから、今この場で答えを出して――」


いいぜ・・・


「!」


「決めた、俺はお前の道具になる。――なってやろうじゃねえか」


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