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543.役回りは求めない

 ――しばし上位者の発言、その意味を考える。俺なりの結論はそう時間をかけずに出すことができた。


「俺を待っていた、ってのはよ。俺個人を待ってたわけじゃあねえんだな?」


「あは。うん、そうだね。貴方を待っていたんじゃなくて、貴方のような人を待っていた。真に来訪者の枠組みを越えられる――超えられるような人を」


 枠組み。またそれか。

 こいつが言ってんのはバグのことだけじゃない。俺が選んできた選択のことだけでもない。あらゆるもんをひっくるめてある、今の俺を指して言ってんだ。


 俺はもう来訪者とは言えない、ってな。


「勿論その大半は、マリアちゃんやアリアちゃんがそうだったように既存のシステムじゃちょっと追いつかない育ち方をしちゃったせいで、つまりは私の不手際がそうさせたようなものだけれど。でもそれを抜きにしてもゼンタくんの心がもう余所者ではない・・・・・・・ってことも大いに関係はあるよね。最近じゃ余計に、じゃない? 貴方は長らく帰還を希望していたよね。だけど、元の世界に帰っちゃいけない理由ができた。というより、この世界に残るべき理由が増えた。そうでしょう? あの可愛いお仲間たち。サラちゃんにメモリちゃんを放ってさよならバイバイなんて、今のゼンタくんにはできっこないもんね」


 確信を感じさせる物言いとけったいな上目遣いで俺の反応を待つ上位者。こいつがから見てるってのはなんとなくわかっちゃいたが、ここまで詳しく近況を知られてるとはな。正直言って気持ちが悪いぜ。


 だが、常に覗き見されてるって以上に最悪な可能性もあって、俺にはそっちのほうが気がかりだった。


「まさかお前。それすらもてめえのシナリオだと言うんじゃあねえだろうな……?」


 教会の騎士になるにしろ、新生『屍の村』の村長一家になるにしろ。ここ数日で急に増えた進路先を宛がったのはひょっとしたら、上位者なんじゃないか。『灰』のお膳立てがあっての結果なんじゃないか――あるいは、あいつらとの出会いすらもそうだったのか。


 俺からすればそう疑うのは当然のことで、それがわかってたからきっと上位者は膝を叩いて笑ってやがるんだ。


「あはは! ごめんごめん、言い方が悪かった。不安を煽るようなことを言っちゃったね、反省反省。大丈夫、そこは私が誘導した部分じゃない。私があの二人の思考や行動を操っている、ということはない」


「…………」


「わぁ、まるで信用のない目ー。けれど本当だ、神たる私自身に誓っていい。貴方が心配しているのは彼女たちの人生が全て、来訪者のお膳立てのために費やされてきたものなんじゃないか。ってことでしょ? まあ近年の淘汰の影響をどちらも受けてはいるから、そういう点からすると私が何もかもの発端とも言えるかも、なんだけど。けれど少なくとも、あの日あの時あの場所で。貴方とサラちゃんの出会いにシナリオによる演出は一切ないよ。それは確かに保証する」


「保証な……」


 こいつと俺とで『操っている』の定義にズレがあるんじゃないかとも思ったが、どうも問題はそこじゃねえな。


 今こいつが言ったように、そもそも淘汰やら何やらで常に世界に干渉しているからには、世界の全てがこいつの影響下にあるってこと。つまり何人たりとも『操られていない』とは言いようがねえっていう、これこそが最大の問題だ。


 どこまでを偶然とするか、はたまた必然とするか。それは『灰』との戦闘中にもあった自問だ。

 淘汰があっての現在のサラとメモリではあるが、そんなこと言ったら世界中の誰もがそうなんだから、それを全て上位者のシナリオだと断定してしまうと寒々しいもんがある。


 逆に言えば、淘汰に値する事件のまさに当事者として、主役中の主役。そしてその敵役に選ばれさえしなければ、どの時代においても本当の意味で上位者の操り人形になっているとは言い難いのかもしれない。


 サラもメモリも上位者の駒ではない――だがそいつは同時に、俺と出会ったことで今じゃあ立派な駒の一部になっちまったってことでもあるのか? 


 だとすりゃどっちみち胸糞悪ぃじゃねえかよ。


「けっ。なんにせよ教会からの打診もメモリの夢もお前の演出じゃねえってんなら多少は安心だな……。んで、それはともかく。そこを押してくるってこたぁお前からすると、俺に帰られちゃ困るとまではいなかくても何かしら不都合があるってことでいいのか?」


「うーん、不都合か。そっちよりはまだ困るって言ったほうが正しいのかな。ゼンタくんが帰ったとしてもそれが原因で何かが起こるってわけじゃないし。でも、残ってくれた場合にやってもらいたいことを思えば、直接的ではなくてもそれは世界に影響を及ぼす選択ではあるね。貴方が知らず知らず左右してきた流れを、これまた大きく変えるものだよ」


「……! 帰ったとしても、っつったな。つまり帰る手段はあるんだな?」


「あ、そこ? そこに着目しちゃうんだ? そういえばそうか。貴方の第一目標は自分よりもまずクラスメートを帰してあげることだったんだもんね――うん、帰還ならできるよ。一方通行なんじゃないかって心配もしていたみたいだけど、そんなことはない。ちょーっと手間ではあるけど私なら確実に送り返せる。スキルやステータスなんかは没収させてもらうけどね。でもそのほうがいいでしょ? 貴方たちの世界で過ごすなら私のシステムはないほうがいいはずだもん」


「だったら頼む、せめて帰りたがってるやつらだけでも――」


「うん、いいよ。帰してあげる」


「――、」


 あっさりと。

 なんの引っかかりもなく、本当にごく軽く上位者は頷いた。


 帰還はできるのかって確認。できしたとしても帰還させてもらえるかの交渉。確かに第一目標として掲げていたそれらが、こんなにも簡単に、いきなり叶っちまった。


 せめてなんとしてもこれだけはやり遂げてやる、と。もしも交渉が決裂するようなら――たとえ一切手も足も出なかったとしても――戦うしかねえと。そういう風に覚悟を決めてきただけに肩透かしの感が大きくて、どうにも喜びや達成感とは程遠かった。だが。


「思い付いちゃったから、ゼンタくんには悪いけど。条件をつけさせてもらおうかな」


「条件、だと?」


 やにわに雲行きが怪しくなってきやがった。いいよと言ったこいつにはなんの含みもなかったってのに、急に駆け引きをするつもりになったらしい。振り回されて腹も立つが、俺はそれを聞かねえわけにはいかねえ。


 大人しく言葉の続きを待てば、「いやちょっと違うか」と上位者は首を振った。


「条件じゃないな。言うなればこれは『後押し』だね。貴方の迷いを払拭するための、小さなシナリオだ。残ってもいいんじゃないか、ではなくて。是非とも残らなくちゃいけないと、そう決断させてあげるためのもの」


「まどろっこしい。こっちは気が急いて仕方がねえんだ、はっきりと言ってくんねえか。俺が何をすればお前は動いてくれるんだ?」


「それは簡単。センタくんは帰らない、これだけでいい」


「……」


「あ、ごめん。これも違うや。ここに残って、私に『全面的に協力する』。これが貴方のすべきこと」


「全面的に協力――? 今までも十分お前のシナリオに貢献してきたつもりなんだがな。まださせてえ役回りが残ってるってわけか」


 魔皇軍の打倒に、その先の大きな淘汰。これらで使う・・ために呼び寄せられたのがユーキと俺たちのクラスっていう今世代の来訪者組だ。


 とはいえ、魔皇は倒したものの予定されていた大淘汰がまだ控えている。そこでも俺たちに何かさせるつもりでの条件なのか、と思えば。


「ううん、その反対。もうゼンタくんに役回りは求めない」


「何……? そんじゃあまさか」


「そう、舞台に立つんじゃなくて裏方に回ってほしい――『灰』と同じ立場になってほしい。何が言いたいかっていうと」


 上位者の瞳。無機質なそれが、微笑みに歪む。何も偽っていないはずなのにまったく本心ってもんを覗かせないこの神は、神らしくもない仕草で両手を伸ばしてきた。


「貴方を私にちょーだい?」


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