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536.そう悪い神様じゃない

「まず打ち明けておくと。私は純粋な種じゃありません」


「純粋な種?」


 初めて耳にするワードに首を傾げれば、上位者はそれを見越していたように頷いた。


「神々。人がそう呼ぶ存在の、純粋種」


「うん……?」


「解りやすく言えば『最初からヤベー奴』だね。私が作った『灰』みたいに、なんの努力も過程もなく強くて危ない奴。それも『灰』より更に人の常識では計り知れない規模を持った存在――というのが、神。世界をひとつ上の視点から見てる連中のこと」


「……まるで他人事じゃねえか。お前だってその一員だろ?」


「んー、どうだろう。初めからそうなのと後からそうなったのとではやっぱりこう、物の考え方っていうか、感じ方っていうか。そこら辺が全然違うから。私みたいに元々人間の生まれだった側からすると純粋種の神はとっつきにくいよね」


「――人間の生まれ、だって? お前が?」


「あ、そこに疑問を持つんだ……まあそうか。『神たる神』と同じくらい『人から神に』っていうのも理解はしにくいよねぇ。と言っても、こういう例はけっこうあるんだけど」


「そうなのか……」


「うん。段階はあるけど実際、人が神に等しい力と格を手に入れることはそう難しくないんだ。難易度で言えばベリーハードのもっと上だけどね。けれど決して不可能じゃない……貴方がこうして私の前に座っていることと同じくらい、起こり得る可能性のひとつだよ」


「お前はその可能性を掴んだ側だってのか?」


「掴むというか掴まされたというか――そこは話すと長くなるし貴方が聞きたいこととは関係もないから、流すとして。色々あって人の身を超えて、神っぽい存在になっちゃった私は、元の世界にいられなくなってしまいました。だからそこそこ近い位置にあった別の『糸』。つまりこの世界にやってきたのでした」


「ここは避難場所かよ」


「そうなるかなー。緊急避難。世界の狭間は神にとっても安らげるような場所じゃあないからね……私みたいなぽっと出の新入りともなれば尚更、どこかに居場所を見つけないといけなかった。そのために一旦――そう、そのときは一時だけのつもりでここにお邪魔させてもらったんだけど」


「けど、先客がいたんだろ」


「そりゃいるよねぇ。私が元いた世界もね、神が消えて久しいって言われてたんだけど、それでも探せばいるにはいたんだよ。どこの糸にだってそこ由来なのかはともかくとして、支配者ってのは必ずいるものだからさ。本当はそういうのを『世界の管理者』と呼称するんだけど……」


「なるほどな。管理者っつー『灰』本来の呼び名はそこから来てるってわけか」


「そーそー。だからここの創造主に成り代わったのは私というより、『灰』なんだよね。言うなれば私はあの子のバックアップをしてるだけに過ぎないから」


「あいつはあいつでお前のシナリオ通りにやってるだけだと言いそうだがな……。なんか、よくねえな。責任の所在が曖昧なのは感心しねえぜ。組織の腐敗ってのはそういうとこから始まるんだと古い警察小説で読んだ――なんつっても、お前と『灰』たった二人だけのチームにゃ腐敗もクソもねえか」


「あはは。でも言い分としては間違っていないかな。私や『灰』は昔から何も変わっていないけど、『灰の手』はそこそこ長く使ってきたことでちょっとガタが来てるみたいだし。そこの是正も含めての大淘汰の予定だったんだけどね。思いがけず貴方はそれに――あっと、ごめん。脱線しちゃったね。まずは私がこの世界の支配権を得たこと。その何故とどうやってを話すべきだった」


「ああ、そこは是非聞きてえな」


「居候させてもらうつもりの家を乗っ取るような真似は、私だってしない。人間だった頃の私ならともかく今の私はね。だけどもこの世界の原神はなんとも惨い奴だったものだから、そうも言っていられなくなったんだよ」


「惨い奴だぁ?」


「うん。だってあの子、ずっとずーっと延々と永遠と。世界中を殺し合わせていたからさ」


「…………」


「飽きもせず命を創っては壊して、ある意味じゃ純粋種に相応しい幼稚性と狂気性だけどさ。まー非純粋種な上に過去のことを反省しきりだった当時の私としては、それは到底看過できるものじゃあなかったんだよ」


「…………」


「勿論、当時から人はいたよ? 不思議と大体の糸に『人間』はいるからさ――『神』と同じく、ほぼ確実にね。そしてここの人間たちは白の陣営だった」


「白の、陣営?」


「うん。殺すことしか頭にない生き物ばかりの邪悪な黒の陣営と、その脅威に怯え抗うか弱い・・・白の陣営。趨勢は常に黒が圧倒していたけれど、理性と結束力の差で白がなんとか持ちこたえている。そういう構図だったし、そういう遊びだったんだよ。原神はそれを見て楽しんでいた。世界が人形劇の箱庭だっていうのは、なかなか正確な表現だと思う。だって成り立ちそのものがそうだったんだから」


「…………」


「これでも相当苦労したんだよー? しっちゃめっちゃかだった世界を整えて、人を増やしていくのは。私は人間が大好きだからさ。その途中でどうしても大幅な修正とか、継ぎ足しを求められてね。結果としていくつも種族は消えたけど、どうにか人間だけは守ってきたし、これからもできる限り守っていくつもりでいる。原神が支配してた頃は一番弱くて、ぽんぽん増えてぽんぽん死んでくことだけが人の存在理由だったんだから……そのぶんちょっとくらいは、良い思いを味わわせてあげたいじゃない?」


「良い思いってぇのは?」


「神だの『灰』だのと知らない人たちは、自分たち人間こそが世界の支配者だと思っているはずだよ。それが『繁栄』。人口が減ったり増えたり、文明が進んだり戻ったり。そういうことは起こるけど、それらに苦しめられた事実さえも人は誇りにできるでしょう? 苦難を乗り越えた人類の英知を信奉するでしょう。神なんかよりも、余程に。――そんな世界にしたいよね」


「わざわざ戦争を淘汰の手段に使ったりするのもそれが目的だってことか……あえて試練を与えて、乗り越えさせる。いや、乗り越えた気にさせることで、自分たちの力を過信するように? 本当は何もかもがお前のシナリオだってことは夢にも思わせねえように……」


「過信でも自信は自信。そこに上位者わたしが関わってるなんて、ちらりとでも思わせるべきじゃないよ。そんなことに意味はない。古いタイプの純粋種みたいに、何も信仰者に崇め奉られたいわけじゃあないからね」


「じゃあそこにも意味があるってのか? 他の種族を犠牲にしてまで、時には人類の大半も犠牲にしてまで。そうまでしてこの世界を糸引くことに、何かちゃんとした意味ってもんがよ」


「あるよ。だって世界は修正主義だもん。私がじゃないよ、この世界がそうなの。核石はいつだってあの時代の、黒と白の暗黒時代の再来を望んでいる。こうして私が抑えていないとすぐにも世界はあの頃へ逆戻りだよ。そうなるともう大変。今で言うところの幻想種っていうのはあの頃から存在してる種族のことだけど、それが格段に数を増やした上に原種に戻っちゃう。私がかけたセーフティーも外れて邪悪で凶暴な殺戮生物にね」


「……、」


「それだけでも人類の存亡は危ういけれど、もっとマズいのまで戻ってくる。この世界にいたらどうあってもバランスを保てないと判断して別のテクスチャ――人の術師が言う『異界』送りにした連中までもがこぞって帰ってきて、こっちの世界で好き放題に暴れ出す。……ときたま勝手に小さな扉を開いて呼び戻しちゃうのもいるけどさ。まあそこは制限付きだし多目に見てるよ」


「なに……!? そんじゃ異界ってのは、お前が作った収容所みてーなもんだってのか――そしてそこの住人は元々黒の陣営にいたヤベー生き物たちだって?」


「そう、死んでもすぐに復活して他の命を殺し回る生物としての破綻者たち。原神の実験と悪趣味で生まれたあれは、私で言うところの『灰』みたいな神の創作物でね。他の、しかも格上の神のシステムで稼働しているからには私でも別世界に封印するのがやっとだったんだ。そんなものがまた出てき

てハッスルしたらもうお手上げ。手間暇かけて再封印する前に今度こそ人類が絶滅しちゃうよ。そんなことにはさせたくない――だからこうして、核石と人類とその他と。それらの均衡を保ちながらこの世界を守り続けている。……あは。自分で言うのもなんだけど、こんなにも人間のために苦心しているんだ。私はそう悪い神様じゃないと自認しているよ?」


 そう締めくくった上位者に、俺は返す言葉を持たなかった。


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