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524.たとえ【聖魔合一】を使っても

 背中の翼から闇を噴かせて飛び蹴り。我ながら恐ろしいまでの鋭さで放ったそれを、『灰』は容易く逸らしてみせた。


 なもんで俺も『ターボジェット』の向きを変えて半回転。別角度からもう一発蹴ってやったが、そっちはがっしりとガードされちまった。やってくれる、なんて感心してる暇はねえ。『灰』は蹴りを止めるどころか防御したまま体を押し込んできやがった。


 闇のジェット噴射による推進力が殺され、俺は宙ぶらりんにも等しい半端な状態になる。


「ふんっ――」

「ちィっ!」


 そこにすかさずの打突が入った。至近距離ではあるが『灰』の体格からするとそこまで支障はねえだろう。コンパクト、だが伸びも威力もある拳が俺の股間(!)を打とうとしてくる。


 食らっちゃヤバすぎるその一撃を、腕を差し込むことで受け止める。相殺されてた推進力がそれで完全に負けて押しやられちまう――だがしばらくいったところで俺の体は止まった。


 さすがにもう軽々と遠くまで吹っ飛ばされたりはしねえぜ。【聖魔合一】の発動中は扱いの難しい『ブラックウイング』も借りてきた猫みてーに大人しい。するっと思うがままだ。こりゃあたぶん、ソラナキの闇を操る力も増幅してるからなんだろうな。


 SPの回復速度だけでなく、スキルとは関係ねえHPの回復速度が格段に上がってるのもその証拠。ステータスだとかスキルの効力だけじゃあなく、俺の得ている力の全部が、それがどんな種類だろうと例外なく引き上げられているんだ。


 初めて使った魔皇戦では死に物狂いだったこともあってここまで冷静に自分の状態を見られなかった……今だって必死こいてることに変わりねえけども。何せ今度の相手はあの魔皇すら敵わないほどの馬鹿げた強敵なんだからよ。


 だが、不思議と俺の心は今までにねえほど落ち着いている。体も心も打倒魔皇に燃えまくっていたあんときとは違って、ヒートアップしてる闘志とは裏腹に精神は奇妙なまでに凪いでいる――無風だ。俺はまるで第三者のようにこの戦いを眺めることができている。


 ……その賜物、なんだろうな。これまで避けも守れもしなかった『灰』からの攻撃を当然のように防げているのは。

 見えなかった奴の挙動が、見える。視える。この目と六感できちんと追えている。だからあんなタイミングでの股間狙いにも危なげなく対処できた。


 つっても、それに関しては男としての防衛本能ってのに大いに助けられた結果ではあるんだが。


「ハッ、おうコラ。えげつねえんじゃねえか? いくら真剣勝負で、お前にわかりようのねえ痛みだからってそのパワーでここ・・を狙うのは。危うく男として死ぬところだ。システムの保護があってもちょっと耐えられねえだろうしな」


「いや? 実体験はないが知識としての理解ならあるぜ。なんせ俺のオリジナルは、こんなナリでも性自認は男だからな」


「……マジか? ちょっと中性的ではあるが、どうみても性別は女にしか見えねえぞお前」


「大マジだ。そもそも俺は神の道具しもべ、雌雄の区別なんてもんはない。なんでオリジナルまでそうだったのかは知らないが、まあ。そこも尊重した創造主様は俺をこういう風に造ったってわけさ」


「よくわからんが……自称男だってんならなおのこと気軽に手を出すなや」


「固いこと言うなよゼンタ。テストではあるがお前も言った通り、こいつは真剣勝負なんだぜ。俺にとっちゃ希少過ぎる時間。そこに暗黙だタブーだと幅を狭めるもん持ち込まれるのはご免だな……!」


「!」


 『灰』がまた消えた――いや、もう見失わねえ。消えたと錯覚するほど踏み込みの一歩目。初速がべらぼうに速いんだ。


 俺が『ブラックウイング』を全開にしてやってることをあいつはその身体能力だけで当たり前にできちまうってことだ。


 まったくつくづく馬鹿げてやがる。そりゃ何度回り込まれても影すら追えねえはずだぜ。『ブラックウイング』の最高速じゃまず目だけじゃなく俺の思考が追いつかねえんだから、それと同等か上回る速度で駆ける『灰』を見つけられるわけねえわな。


 だが、今は。残像よりもはっきりとその姿が視認できる……! 体もその反応についてきてくれるぜ!


「おォっらァ!」


「っ!」


 背後へ回ろうとする最中、俺の横を通り抜け様に突っ込む。そしてその頬に一発入れてやる。


 驚いた顔のままそれを食らって倒れかけた『灰』だがすんでのところで持ち直す――では済まさず、ノータイムで飛び込んでくる。そんで肉薄しての肘打。体の小ささを活かしたインファイトの技で俺に防御の間も与えずに反撃を差し込んできた。


「ぐゥっ……!」


 ちっ、【金剛体不壊】すらあっさりと貫通しやがって。いってぇじゃねえかこの野郎!


「お返しだッ!」


「ガっ、」


 胴体まで貫通してんじゃねえかと思うような苦痛を堪え、こちらも負けじと肘を落とす。


 唐竹のように脳天に真っ直ぐそれを食らった『灰』は舌を噛んだか、単に痛みで顔をしかめたのか。……言うまでもなくこれを一般人が受けたらそんな表情はできねえ。まず間違いなく頭がぶっ潰れて顔自体がなくなるからだ。どころか、全身がぺしゃんこになるかもしれん。


 それぐらいの力は込めたつもりだ。なのにこの程度のリアクションで済むってのはおかしいんだが――ま、こんなのは今更のことだな。


 たとえ【聖魔合一】を使ってもそれで楽に勝てるような相手じゃあねえ。んなことはわかってたさ。だから俺に勝ちの確信なんてもんはねえ。あるのはただひとつ……絶対に勝ってやるっていう気概だけだぜ。


 しかめっ面の『灰』に、俺は笑う。


「もっとその顔を盛大に歪めさせてやっからよぉ、せいぜい喜べよな……!」


「おぉ、いいね。やれるものならやってみせてくれよ」


「言ったなこいつ。だったらお望み通り――三十連・・・!!」


「……!」


「ぐぅっ……!」


 さ、さすがにキツいか……この状態でもまだ三十連は早かったか! 


 まあ当然だ、さっきの二十連が最高峰。【聖魔合一】のチートパワーを全面的に活用しての限界一杯だったんだ。


 そこからいきなり三十連に飛ぶのはそりゃやりすぎってもんで、こんだけ腕がギチギチ鳴るのも納得しかねえ。骨ごと内側から爆散しそうな気配がある。もちろん感覚の話であって本当にそうなりはしないだろが……いや、どうだろうな。システムの保護で肉体が保たれなければマジで爆発してるかもしれん。


 そう思えちまうくらいには、俺の右腕にかかる力はとんでもねえ。


 自分のパワーで自滅なんざ笑えもしねえ。

 だが、そんぐらいの途方もなさのほうがこいつ相手にはちょうどいいだろうよ。


「食らって笑えよ寂しがり――『極死拳』!!」


「…………ッッッ!!」


 通常の『極死拳』の、体感一万倍! 数字としては全然正しくないんだろうが俺の意気込みと打った感触的にはその表現が妥当だ。


 その拳を真正面から食らった『灰』は、たたらを踏んで後退した。初めて。初めて奴を一歩、下がらせた。俺が押し勝った。


 こいつぁお祝いしてもいいぜ。胸ん中にえもいわれぬほどの充足感が満ちるが――残念ながらそれをじっくり味わってる場合じゃあねえ。この好機に容赦なく畳みかける!


「『極死』蹴り! ――ッ!?」


「……、」


 側頭部を狙う軌道で放った横蹴り。が、止められた。俯いたままでまったくの無防備に見えた『灰』の腕が素早く動き俺の蹴り足を掴んだんだ。テスト開始当初を思わせるこの絵面――だがあのときとは俺もこいつも、力の入れ方が違う。


「っ……!」


 ひ、引き剥がせねえ。どんだけ力を入れても『灰』の指が足を放しちゃくれねえ。


 馬鹿な、今の俺が全力で足掻いてもまだ――? と、そこで異変に気付く。


「…………」


「お、前……ッ! これはまさか!」


 『灰』の全身から立ち昇る白いオーラが、その量と輝きを増している。しかも現在進行形で、どんどんと。今や傍にいる俺すらも吞み込まんとするほどに。

 この現象、そしてこの現状はつまり。


 ――こいつにはまだまだがある……!? 


 その信じ難い事実に俺は直面した。


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