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52.超巨大ムカデ

 俺たちの隊列は「魚鱗」という陣形らしい。上から見て三角形で組まれた陣で、後ろほど人が多くて前は少ない。突撃をかけるのにいい形なんだそうだ。


 説明されてもよくわからんかったが、とにかく俺は前方の配置を希望した。そのほうが動きやすそうだったんでな。


 カスカがどこから敵が来るのか、大まかな方角を知っていたんでこうやって全員でばっちし開戦に向けて備えられたが……しかし、肝心の敵がまだ現れねえ。


 おかしいな。わざわざキョロを偵察に出したのに、なんにも見つけられずに戻ってきたぞ。カスカはさっきもうすぐだと言っていたし、敵が本当に超巨大な化け物だってんなら、そろそろ遠目にも見えてくるはずなんだが。


 キョロを回収しつつ、平野の向こうへ目を凝らしながらも段々と焦れてきた、そのときだ。


「! 待って、何か聞こえる」


 俺と一緒の前方配置組の一人の女冒険者が、他の連中を黙らせて集中し始めた。


 彼女はテッカと同じく獣人らしく、全身丸まる猫っぽいあの人とは違って耳だけが狐っぽくなっている。その大きな耳をぴくぴくと動かして音を聞く彼女は、段々と頭を下げて、最後には膝をつく姿勢で地面に狐耳を向けた。


「……! 下よ! 敵は地面の下を移動してきている! すぐそこにまで来ているわ!」


 狐耳の女性がそう叫んで知らせるのと、地響きはほとんど同時だった。咄嗟に身構える俺たちの前で、地面が盛り上がった。いきなりそこに山が出現した――のではなく、何か巨大なものが土砂を巻き上げながら地下から出てきたのだ。


「む、……ムカデだ!!」

「グレーターセンチピードかぁ!? それにしたってこいつはデカすぎるぞ!」


 そう、地面から生えてきたのはムカデだった。


 それもビルが何棟も連結しているのかってくらいの桁外れのサイズ感をしている、超巨大ムカデだ。


 その姿に覚えがあるらしい冒険者もちらほらといるようだが、大きさは彼らの知っているモンスターとはだいぶ異なっているようだ。でなきゃこんなに驚くはずもねえ……ってか、こんなバケモンがそうそういてたまるか!


「キィイイイイイィィィイイイイイッ!」


 甲高い声を上げて身をくねらせ、ムカデは俺たちを見た。

 こっちが野郎を敵と見做しているのと同じく、向こうも俺らを敵として認識したようだ。


「とにかくやるんだお前たち! こんなのを街に入れたらどこもかしこも更地になっちまうぞ!」


 みんながトードの号令に「おぉ!」と応えるものの、さっきより声に勢いがねえ。どうしてもムカデのバカげた大きさに呑まれちまってるんだ。


 ――ここはいっちょ景気づけに、華々しく先陣を切ってやるか!


「【契約召喚】! 来い、『ドラゴンゾンビ』!」


「グロォアアアアアアアァアッッ!!」


 俺の気持ちが伝わっているのか、勇ましい雄叫びを上げながらドラッゾが出てきてくれた。


「頼めるか、ドラッゾ!」

「グラウ!」

 

ムカデを一目見て、眼窩の赤い光を強めたドラッゾ。するとその背中にある翼がぐわりと広がった。


「うぉおお、こっちもでけえ……」

「ドラゴンゾンビを召喚できるってのはマジだったのかよ!」

「こ、これならいけるんじゃないか!?」


 そういやこれまで、屋根のある場所でしかドラッゾを呼び出してこなかったな。

 今回が初めての空の下。

 そしてここなら、なんの制限もない。


 これまでずっと畳んだままにしていた翼を広げたドラッゾの姿は力を感じさせるもので、一回り大きくなったようにも見えた。それを目にして他の連中は呆気に取られつつも戦意を回復させているみてーだ。


 ムカデは幅も長さもドラッゾを優に上回っているが、それでもサイズで迫れるくらいの奴が味方にいれば、そりゃあ頼もしいってもんだろう。


「グラォウ!」

「キィィイイ!」


 浮き上がって、急発進。巨体に見合わぬ速度で突っ込んだドラッゾを、鎌首をもたげてムカデが迎え撃った。


「グラッ……!」


 やはり大きさに勝るムカデの一撃は重く、ドラッゾの突進は弾かれてしまった。


 が、それで終わるドラッゾじゃない。


 姿勢を崩しながらも前脚を伸ばし、ムカデの口から生えるデカい牙(?)の一本を掴む。そして身を捻り、地面にムカデの頭を叩き付けた。ついでとばかりに腐食のブレスも吐き出しながらだ!


 ズドォオオオオオオン! と地鳴りが響く。


「ドラゴンゾンビが一発かましたぞ!」

「ムカデが倒れた! これなら……」

「いや待て、あのムカデ……!」


「キィィイィイッ!!」


 盛り上がりに冷や水を浴びせるように鳴きながら、ぐわりとムカデの頭が持ち上がった。

 その勢いでドラッゾは再度弾かれ、しかも噛み付きを受けて前脚の一本が食いちぎられてしまった。


 んだよこのムカデ野郎め、腐食の効果が出てるようには見えねえな!?


「ドラッゾ!」

「グロゥ、」


 体勢を立て直せず地面に落ちるドラッゾ。そこへ容赦なく追撃を加えようと、ムカデがしゃかしゃかといくつもの脚を気色悪く動かして接近し――。


「【翼撃】発動」


 そこに、輝く翼が割って入った。


 カスカだ!


「『エンジェルスマッシュ』!」


 バッッゴン!


 空中で優雅に回転したカスカが輝く翼をムカデにぶつけた。すると、ドラッゾの突進を真っ向から抑えたあのムカデが、もんどりうって倒れたじゃねえか! 


 なんつー威力だ……! あいつ、それなりどころかとんでもなく強ぇじゃねえかよ!


「おぉおお! 天使がやった!」

「やっぱ来訪者って凄いんだ!」


「呑気に喜んでる場合じゃないでしょ!? 畳みかけて!」


「その通りネ!」


 上空から叱りつけるカスカに賛同したのはテッカだ。太ったボディからは想像もつかないほど機敏な動きで集団から抜けた彼は、そこで「むん!」と拳法の構えみたいなポーズを取った。


「旨味の神髄は炎のエッセンス――『プロミネンスバースト』ォ!」


 肉球から飛び出したいくつもの火球がムカデに命中し、大爆発。「ギキィイイイッ」と苦しみの声が聞こえてきた。これもまたすげえ威力だな!


「むうっ! 焼けきれないとは、不覚!」


 ダメージはあっても燃えてはいないムカデを見て、テッカは悔しそうにする。

 本気で丸焦げにするつもりだったんだろうし、実際そうなってもおかしくないだけの火力はあったはずだ。

 だがそうならなかったってのはつまり、あのムカデがサイズ以外でも特殊な個体だってことの証なのかもしれねえな。


「キィィツ!」


「! ドラッゾ!」

「グラァッ!」


 爆発にも負けじとこちらへ向かってこようとするムカデを、上からドラッゾが踏みつけて止める。カスカとテッカが攻めている間に指示して、上を取らせておいたんだ。おかげでムカデの動きは遅くなったが、完全に止まってはいない。あれだけ大きいんだ、ドラッゾだけじゃ奴を停止させるのは不可能だ。


「【武装】発動――『不浄の大鎌』!」


「ネクロマンサーの兄ちゃん!?」


 手に入れたての新武器を担いで走り出すと、背中から困惑したような声がかかった。俺はそれに対し、わざと生意気に言ってやった。


「何をグズグズしてんだ? 止めるんだろ、俺たちで! 糞ったれムカデなんてぶっ飛ばしてやろうぜ!」


「……! 新入りに置いてかれちゃ情けないな……行くぜ、お前らぁ!」

「私たちも行くわよ!」

「とにかく野郎に攻撃を叩き込めぇ!」


 触発された連中が、二の足を踏むのをやめて俺の後ろからついてきた。

 いいぞ、やる気がなくっちゃ勝負は始まらねえからな!


「【清き行い】発動! 『ヘビーフェザー』!」


 ムカデの上から羽根を振らせるカスカ。キラキラと光るそれが舞うと、ドラッゾに乗られて速度が落ちているムカデの動きがますます鈍重になった。


 どういうスキルかは知らねえが、カスカの羽根がそうさせているみてえだな。


「グレーターセンチピードが急に鈍くなったぞ!?」

「天使の力だ! これなら近づいて攻撃を仕掛けられる!」


 勢いづいた俺たちは、ムカデの足元につくやいなや一斉に斬りかかった。いくつもの脚をいっぺんにやられてムカデは声を上げたが、それすらもノロマなように聞こえるぜ。


「おらどいたどいたぁ! 俺のハンマーに巻き込まれんなよ!」


 どすどすと走ってきたパインがドでかいハンマーを持ち上げて叫ぶ。それを見た周りの連中が慌てて離れると。


「――ふぅうん!!」


 ものすごいスイングで振るわれた鉄槌が、ムカデの外骨格をベッコリと凹ませた。とんでもねえパワーをしてんなあの人! 一人で数十人分のダメージソースになってるじゃねえか。


 とまあ、突出した幾名と、それ以外でも優秀な連中が揃っているもんで、割と順調に超巨大ムカデにも対応できている。サラたちのいる辺りから飛んでくる矢や魔法での援護もいい感じだ。


 これなら問題なくやっつけられそうだな。


 大勢に混ざって不浄の大鎌でチクチクやって、何本かの脚を使い物にならなくさせたところで安心し始めた俺だったが――それにはまだ早すぎた。


「キィイイイイイィィィィィイィィィィィイイイッッッ!!」


 耳をつんざく金切り声を上げたムカデが、赤黒いオーラを纏って上のドラッゾを弾き飛ばしたことで、俺たちは戦局が一変したことを悟った。


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