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512.もっと先

「同じ『死霊術師ネクロマンサー』でもアリアよりゼンタ、お前のがよっぽど器用だな。性格からすると逆になりそうなもんなのに」


「……さっきからそのアリアってのは誰なんだ? マリアさんなら知ってるが」


「おっとそうか、お前は知らないのか。二宮にのみや亞里亞アリア。元の世界では一ノ瀬いちのせ真理愛マリアとクラスメートだった――魔皇の本名だよ」


「!」


 二宮アリア。それが魔皇の本当の名前――人間としての名前か。


 マリアと魔皇がクラスメートだったってのは初耳だが、二人の互いを語る口振りからすると意外でもなんでもねえな。


 その当時仲が良かったのかどうかは知らねえが、少なくとも。こっちの世界に来てからは二人は相棒として命を預け合っていて、なのにその百年後には殺し合いをした。要素だけをざっと見るならとんでもねえことだぜ。


 つって、ひとつのクラス内で帰還派と定住派で真っ二つになってる俺が言えた義理じゃあねえけどよ。


「魔皇もそんなこと言ってたな。あいつと俺とじゃかなりタイプが違うらしい。けどまあ、言うほど大した差じゃねえさ。戦法に多少の差異があったとしても、結局んとこ俺もあいつも体が資本のファイターだってのは同じだ。なもんで、よく味わってくれよ。俺なりのネクロマンサーとしての戦い方ってやつを……!」


 俺の合図でキョロが飛び立つ。すげえ速度で上空を取り、そのまま背後へ回っていくキョロを『灰』は感情のない瞳で見送って、正面へ視線を戻した。


 そこには既に俺がいる。


「最大『燐光』――『マキシマムハイパワースラッシュ』!」


 斜め下方からの掬い上げる一撃。『灰』の目線の移動からの見え辛さを意識したその軌道は、けれども余裕で見切られた。


「あらよ」


「ッ!」


 パチン、と手で挟み込む。虫も殺せねえようなおてて・・・でサンドされた戦斧はちっとも動かせなくなった。


 なんっつーパワー! 来訪者と管理者とでこんなにスペックの差があるとは思わなかったぜ、どんなステータスをしてやがるんだ!?


 けどまあいいぜ、期待しちゃいたが攻撃が通ると信じてたわけじゃねえからな。


 本命はこっちじゃねえ、あっちだ!


「俺ごとやれぇ!」

「なに――わっと!?」


 【呪火】と【黒雷】を身に纏ったままソラナキの闇で加速し、『極死』にまで至ったキョロが、その巨体で突っ込んで来た。


 頭上からの隕石のようなその一撃で俺も『灰』もぶっ飛ばされる。『灰』の体と戦斧がまだしもクッションになった俺とは違って奴自身は直に今のを食らった――が、するりと『灰』は足から着地。


「あーびっくりした。これ見よがしな砲塔から何か撃ってくるかと思いきや、やることは体当たりかよ」


「ちっ……!」


 下手すりゃ俺のがダメージ受けてねえか、これ。しかも転んじまってるし。にゃろう、これだけの一撃を受けてピンピンしてるとかマジでインチキにもほどがあんぞ。


「ならお望み通りハチの巣にしてやれ、キョロ!」


「グゥルエッ!」


 翼と口部から砲撃を放つ。『アビス』モードでは発射される弾丸もデカくなってるようだ。『極死』の弾が数えきれないだけの雨霰となって『灰』に降り注ぐ――それはまるで、青紫の花火でけったいな花畑が出来上がってるみてーな光景だった。


「おぉっ、こいつは強烈だな――ガっ!」


 撃ち続けながら近づき、キョロはもう一度その体を『灰』にぶつけた。筋肉の膜で肥大化した鋼の翼がメキメキと『灰』の矮躯を潰し、撥ね飛ばす。


 やんちゃな子供が放り投げたちっぽけな人形みてーに宙を舞ったそこを目掛けて、俺も強く地を蹴って跳躍。思い切り戦斧を振り被って――そして思い切り振り下ろす。


「今度こそ食らいやがりな! 『マキシマムハイパワースラッシュ』!」


 ブォン、と我ながらゾッとするような風切り音を発して戦斧の刃が『灰』に叩きつけられた。


 がっしりとした手応え。少女というよりは大地を斬り付けたような感触だ。しかも腕に跳ね返ってくる反動が痛い――それに顔をしかめつつも俺は最後まで振り抜き、『灰』を地上へと墜とした。


「キョロ! ……キョロ!?」


 自由落下を待つか、『ジェットターボ』で空中制御を行うか。どっちも選ばずにキョロの背中に乗せてもらおうと思ったのは、そのほうが手っ取り早く確実に『灰』への追撃ができると判断したからだ。


 だが、俺の呼びかけへのレスポンスが遅い。いつもならキョロは――ボチもモルグもそうだが――当意即妙の返事をくれるっていうのにだ。


 何かあったな。思考するまでもなくそう悟った俺の考えは正しかった。


 ――キョロの翼が片方、えれえぐらいにひしゃげている。不安定な恰好でそれでもキョロは飛行しているが、その速度はさっきまでのスピードが見る影もない。そりゃそうだ。あれじゃ実質片翼で飛んでるようなもの。落ちないまでも機動力が損なわれるのは自明の理ってやつだ。


 あんなことになった原因は……なんて、それこそ考えるまでもねえ。『灰』しかねえだろ! クソが、さっきのメキメキって音は『灰』の体から鳴ってたんじゃあなくて――体当たりを受けながらも奴が翼をへし折ってた音だったのかよ!


「悪いな。あんまりいい攻撃をするもんだから、ちょいと加減を誤った。あそこまでするつもりはなかったんだが」


「!」


 墜落したはずの『灰』がいつの間にか俺の傍にまで戻ってきていた。俺たちの連撃を受けても平気の平左で跳び上がってきたのか。そっちにも腹立つが、それ以上にその口振りこそが最大級に気に障る。


 そらーもう盛大にベッタベタと触られたって感じだぜ。


「馬鹿なことを謝ってんじゃあねえぞこのタコが! 『ターボジェット』ォ!」


「お?」


「大回転! 『マキシマムハイパワース――」


「いや、それはもういい」


「なぁッ……!?」


 闇の噴射で『灰』の真正面から移り、回転する勢いのままに技を放とうとしたが……それをあっさりと掴まえられちまった。


 しかもさっきのような白刃取りでもなく、刃を手で鷲掴みにされた。当然その手の平には斬撃の重みがそのまんま圧し掛かってるはずだが、『灰』が痛がる様子はちびっともねえ。


 そして俺は見ちまった。

 薄紅だった『灰』の瞳が、僅かにだがその色を濃くさせているのを。


 色だけじゃない――そこに宿る途轍もない、途方もない何か。俺では計り知れねえこいつの持つ力までもが、より濃密なものに変わっていっている……!


「もうちょっと見せてくれよ。お前さんの可能性の、もっと先ってものをさ」


「――、」


 やっぱり、音はなかった。そして見えもしねえ。『先見予知』がなけりゃまったく意味不明だったろうが、とにかく俺の戦斧は叩き折られた。


 長柄はぽっきり、刃は粉々。

 そりゃもう悲惨な壊れ方だ。


 ヤチに強化してもらってからはこんな飴細工みてーに砕かれることはなかったんだがな……なんて愚痴ったところで意味はねえ。


 そんな暇はねえ、と言ったほうが正しいか。


「ガッはぁ……!!」


 ぶっ壊された戦斧に続いてぶたれたのは俺だ。まだ【武装】の解除も始まらねえうちから次の一撃を食らって、さっきのお返しとばかりに地上へ向けて落とされる。


 やべえ、この勢いで硬え『神域』の地面に激突すんのは【金剛】があっても死ねる――となんとか落下を免れようとした俺だが、そこにキョロの助けが入った。


「グルゥエッ!」

「ぬおっ……、」


 真下に飛び込んで、落ちる俺の体をそのボディで受け止めてくれた。おかげで俺のHPは減り切ってねえ……が、運悪くひしゃげてるほうの翼にも当たっちまってキョロはますますダメージを負った。


 やっちまったぜ、これじゃボチはもう飛ぶことすらままならねえ。


 制空権を取れれば有利になるかと思ったが『灰』はそんな甘い敵じゃあなかったな……とくれば、これ以上重体のキョロに無理をさせるよりも。


「――ありがとよキョロ。一旦休んでてくれるか」

「グルゥエ……」

「ああ、任せろ。ぜってー負けやしねえ」


 キョロの背中から見上げれば、高みからこちらを見下ろす『灰』の目と視線がかち合った。


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