表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
493/557

493.次期聖女となるのは

「よく来た。クララやモニカとは顔合わせが済んでるんだろう? ……誰って、ほら。そこのサラの師匠がクララで、サラの姉弟子にあたるのがモニカだよ。襲撃事件で一緒に戦ってたんじゃあないのか……? ああそう、ならまあいいや。とにかく二人は大シスターで、私も同じくだ。エレナ・キャンバー……聖女マリアの代理・・を当面、務めることになった者だよ。以後よろしく」


「お、おう。こちらこそよろしく……」


 差し出された手を握り返す俺の顔には、困惑ってもんが浮かんでたと思う。


 シスターとしてはいっそ気安過ぎるくらいのフランクな態度とは裏腹に、俺が何かしたのかってくらいにすんげえ仏頂面をしてるのもそうだが……それ以上にエレナの見た目がな。


「失礼っすけど、おいくつで……?」

「十五」


 わ、若え! こっちの世界によくある歳がいってても外見だけ若いとかいうアレじゃなくて、マジで若いのかよ!


 聞けば同じ大シスターでもクララは六十代、モニカは三十代だというんで、十五でその二人と肩を並べてるエレナはたぶん破格だ。


 見習いとはいえ特級構成員エンタシス入りできてたエイミィも大したやつだと思ったが、エレナの場合はそれ以上かもな。あいつより年下なのに、たった三人だけの大シスターの一角を担ってるわけだから……まあ役割がてんで違うんで単純な比較はできねーんだけど。


「へえ。驚きはしても疑問には思わないんだな? いくら大シスターだと言っても十五のガキが責任者になるのはどうしてだ、ってさ。それならクララやモニカに任せたほうがいいんじゃないか――とか言われるだろうと予想してたんだけど」


「まさか、教会の一員でもねえ俺が人事にいちゃもんつけたしりねえよ。それにマリアさんの作った組織だ、そう決まったってことはちゃんと理由あってのことなんだろうしな」


 マリアが不在でも教会の構造が歪むとは思えねえ。そもそも大まかな指針やスタンスを決めはしても、運営自体はシスターたちに任せてたようだからな、あの人は。


 それはきっと自分がいなくなったとしても教会が続いていくように――つまりは世代交代を見据えてのことだったんだろう。


 マジもんの不老不死になってたっぽいからその気になりゃいつまでも自分の手で教会を守っていけたはずだが、けれど宿敵たる魔皇との決着を見据えていたからにはやって当然の配慮でもある。


「聖女様のことをよくわかっているみたいだね。流石、ご息女ユーキの騎士に選ばれただけのことはある」


「……マリアさんは魔皇んとこに行く直前、うちのギルドにいたんだ。あの人を止められなかったこと、改めて謝罪させてもらうぜ」


「よしてよ、バカらしい。あれは聖女様がお決めになられたことなんだ……あー、ゼンタと呼んでも?」


「いいっすよ」


「ありがとう。とにかく、ゼンタが謝る筋合いはない。止められなかったというのなら私たちだって同じだし、そもそも止められるはずもない。だって聖女様のすることなんだから」


「……、」


 そう言い切りつつも苦々しい顔をするエレナに、俺は何を言っていいやらわからなかった。付き添いのサラも(こんな時に限って)気まずそうに黙ってるだけだし、なんとも重たい沈黙が場を支配する。


「お待たせして申し訳ありません」


 と、静かになった『聖痕の間』に救世主が現われた。


「ユーキ! なんだお前、今日はこっちにいたのか」


「オレゼンタさんこそ、どうしてここに?」


 昨日と同じく本来の姿ではなく覚醒した状態で入ってきて、不思議そうにするユーキ。もしかしてこっちのほうを素にしようとしてんのか? と疑問に思ったが、それを確かめる前にエレナが口を開いた。


「ゼンタを呼んだのは私だ」

「エレナ様が?」

「……だから、聖女代理になったからって様付けはやめなって。いつも通りエレナと呼べよ」

「ふふ、わかりましたよ、エレナ」

「それでいい」


 ユーキに戦闘やらなにゃらの手解きをしてたのは母親である聖女マリアその人だが、他のシスターたちとの訓練も行われていたようで、特に大シスターの三人は機会がくるたびに熱心にユーキを鍛えていたそうだ。


 つまり、ユーキとの仲はかなり親密だってことだ。エレナに向けるユーキの柔らかな笑みがそれを証明している。


 おかげでエレナの雰囲気も幾分か柔らかくなってくれた。あくまでさっきよりは、ってだけでしかめっ面なのは変わってねーんだが。


「ゼンタ。それにサラも、よく聞いてほしい。これから私が言うことは聖女代理としての言葉だ」


「は、はい」

「うす」


 若干緊張した様子で畏まるサラに倣って、俺もなるべく真剣に返事をする。するとエレナはユーキの腕を引っ張って自分の横に立たせた。

 ちなみに二人の身長は……五歳児であるはずのユーキのほうがずっと上だった。エレナは十五歳としてもかなり小柄で、成長前のメモリと同じくらいしかない。


「改めて言うまでもないことだが、次期聖女となるのはこのユーキだ」


「「……!」」


「だから私は代理を名乗ってる。……ま、それは聖女様がお隠れになられたことを公にはできないっていう事情も込みでの処置だが」


 聖女の死が隠蔽されていることは、俺も知ってる。なんせ世間にまったく広まってねーからな。


 一世紀半を生きる『救世の英雄』が亡くなったと一人にでも知られりゃ、明日には全地方に拡散されてる。未だに恐怖の象徴として語られる魔族戦争を終結に導いた立役者の死亡ってのは、それくらいのショッキングさがあるぜ。


「被害著しい統一政府セントラルの件もあるからね。そこに聖女様のご逝去まで重なったら立て直しがいっそう難しくなる。だから教会内でも、本部勤めと各支部の代表者までにしか知らせていない」


「! シスターですら全員は知らねえのか……」


「人の口に戸は立てられない。いくつもの厳格な審査を合格してシスターとなった中に、そんな馬鹿なお喋りはいないと願いたいところだが……」


 と、そこでエレナはサラを注視する。


 大シスターにすらも「そういうやつ」として認識されてんのかこいつは、と俺は呆れたが、本人にとってこれは不服な扱いのようで、やにわに頬を赤らめて怒りだした。


「ちょっとエレナさん、あんまりじゃないですか! いくら私でも言っていいことと悪いことくらいの区別はつきますよ!?」


「区別がつくのにやっちまうのがあんたの厄介なとこでしょうが……門外シスターなんていう前例のない役職を設けたのだってあんたが散々ごねたからだ。実力が伴ってるぶん余計にタチが悪い」


「その節はどうも、大変お世話になりまして」


 急に丁寧な礼をするサラに鼻を鳴らしてから、エレナは話を戻した。


「サラはともかくとして、各支部には見習いたちもいる。万が一を思えば内部でも情報は制限しておくにこしたことはない。……とはいえ、ユーキが聖女マリアの後を継ぐのにどんなに早くても十年程度は時間がかかる。その間ずっと隠し通せるものではないし、いつまでも責任者を代理で済ませとくのにも限界はある。そして何より、この子を差し置いて聖女様の地位を与ることに、私自身がそう長く耐えられそうにない」


 自虐的に口の端を吊り上げてそう言ったエレナに、隣のユーキが悲しそうな顔を見せる。


「エレナ……私は、あなたになら新しい聖女を名乗ってもらっても構わないと思っています。ここにおられればきっと母上も同じことを仰るでしょう」


「ありがたいことだが、私は私の本分を忘れないためにも代理の肩書きを外すつもりはないよ」


 悪いね、ユーキ。と小さく謝るエレナに、ユーキも「いえ」と控えめに答えた。

 ……なんだか口を挟みにくい雰囲気だが、ちょいも気になったんで聞いてみよう。


「エレナさんの本分ってのは?」


「エレナでいいよ、ゼンタ――それは勿論、正当にして正統たる聖女候補のユーキを支えることさ。そしてゼンタ。ユーキと同じように、あんたのことも教会全体を挙げてサポートするつもりだよ」


「は……!?」


 あまりにも予想外なその言葉に、俺はまともに言葉を返すこともできなかった。サラなんかはもっとわかりやすく絶句してるぜ。


「教会が総出で、ゼンタさんを……!? この世の終わりですか!?」


 どういう意味だこいつ? 殴っていいかな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ