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471.化け物もいいところだ

 負担はますます増えるが、嗅覚でも位置が掴めないんじゃしゃあない。なんども勘だけで攻撃を防げるとも思えねえ――とくればここは俺のほうから果敢に攻めるに限る。


「ふん……」


「!」


 俺の意気を察知してかカーマインは姿を消した。だぁから当たり前に心を読むなっての。けどいつ消えようが消えまいが俺は作戦を変えるつもりはない。


 というより、これ以外の策がねえって言ったほうが正しいか。


「はぁあああっ! 『ブラックバースト』!!」


 気勢とともに両手両足を広げて、左右前後の区別なしに闇を噴射させる。気分はドラゴンなボールを集める人気漫画の登場人物だ。と言っても規模はあれには全然及ばねえ、全力でやっても精々が半径十メートルに届くかってところだ。


 これ以上やると見学してる鼠少女やユーキにも迷惑がかかりそうなんでセーブしちまった部分はあるが、威力自体に加減はない。消えた立ち位置からするとカーマインは絶対に食らってるはずだが。


 ――なのに手応えがない。

 そりゃ俺の狙い通りってことだ。


「上に飛んだな!?」


 見えはしないがこの夜空のどこかにいる。だったら俺も飛ぶだけだ。


「『ブラックターボ』……!」


 俺も飛行は心得てる。カーマインほど自在にとはいかねえが足場を必要とせずにずっと浮いたまま戦うことはできる――闇の制御に神経を割きはするが、それでも今は空を戦場にしたほうがメリットがある。


「なるほどな」


「っ、らぁ!」


 至近距離から声。一瞬それもアイソレーションで別方向から聞かせてるんじゃねえかと疑ったが、関係ねえ。どこもかしこも殴っちまえばいい!


 振り抜いた裏拳。を、カーマインは血装術を解いて受け止めた。


「私の羽を封じるためか」


「おうよ。飛ぶために動かしてりゃ攻撃や防御にゃ使えねえだろ」


 使えるとしてもその場面は地上戦よりぐっと減ることは確かだ。実質の四本腕が厄介ならこうして二本腕に戻しちまえばいい。これで殴り合いが楽になるぜ。


「またしてもお前の望み通りに誘い込まれたというわけだな。――しかし甘すぎる」


「うっ……?!」


 組み合ったまま回転。そして手と羽を別方向から同時に出してきた。どちらも掠ったもののどうにか躱したが――こいつの身のこなし! 小さい体、そして攻防一体の回るという技術。このふたつの要素で至近戦でもカーマインの殴打には抜群の破壊力が籠ってる!


「だが羽を使ったってこたぁ隙を見せ――なにっ!」


 空中での移動の要である羽を攻撃に用いたからには、そのぶん次へ移るのに遅れる。地上でドロップキックをした後にどうしても隙ができるのと一緒だ。当たればまだいいが完璧に防がれたり避けられたりすると自分のほうが不利になりかねない。


 足技と同じく空中での羽技にはそういうリスクがある……はずだったが。


「血天の法」


 血で、足場を……!?


「っぐあ!」


 想定外の事態に俺の反応は遅れたが、きちんと動けてたとしても凌げたかは怪しいぜ。


 宙に薄く血を固めたカーマインはそれを蹴って跳び、その先にまた血の足場を作って蹴り、跳ぶ。足場は一回限りの利用で割れ砕けて消えちまうが、血が欠片となって舞い散ることで目晦ましにもなってる――月明かりの下の血の舞い。


 その光景に惑わされた俺の腹に、カーマインの足裏が刺さった。


「くそったれ……!」


 『ブラックターボ』を吹かして落下を防ぎ、持ち直す。そんな俺をカーマインは血の足場に逆さまで立って、見上げる視線で見下ろしている。


 まさに蝙蝠って感じの佇まいだが、俺の頭に思い浮かんでるのは動物ではなくかつての敵。テンマという種族を名乗った逢魔四天が一人、スオウの戦い方だった。


 奴の必殺技である『ピンボール』。今カーマインがやったのはあれにそっくりだ。速度自慢のスオウには最高速で一歩及ばない印象はあるが、だが迫れるくらいのもんはある。だからこそ似たような戦法を編み出してんだろうが……こりゃ参ったな。


 インガに近いパワーに、スオウに近いスピード。

 どっちも持ってるなんざ化け物もいいところだ。


 そもそも俺ぁスオウに勝ててねえし、インガだって魔皇を除けば最も苦戦させられた敵だ。そんな二人を合体させたような相手だとすりゃあ、そら一筋縄じゃあいかねえわな。


「わかったか、小僧っ子。元より吸血鬼わたしは飛翔に重きを置いていない。空中には空中の格闘技法があるということだ……お前に看破されるような弱点など私にはない」


「……!」


 確かにな。ちょっと立ち会っただけで明らかになるような弱点があったんじゃ、とてもSランク冒険者にゃなれっこねえ。


 しかもこいつの場合は年齢けいけんが人とはダンチだ。夜だったり血を吸ってねえと本領を発揮できないっていう種族上の欠点はそのままだとしても、それ以外の直せるとこは既に直し切ってるだろう。


「これでも五百年の間には色々とあった。甘き日々も苦々しい日々も。弱点なんぞ残したくても残しておけん――そんなものはとっくのとうに摩耗して消えていった。そうでなければ私は死んでいただろう」


「へっ……やっぱご愁傷さまとは言えねーな。たとえ今のお前に残されてるのが、ヨル一人だけだったとしても。俺は俺の決めたことを曲げるつもりはねえ」


「ふふ……だろうな」


 逆さまのまま、カーマインは両腕を広げる。それはまるで夜を抱きしめようとしているかのようだった。


「今日は良き日だ。久しぶりに気骨ある若者と出会えて私は大いに満足している。お前のやろうとしていることは実に無謀で、長く生きたこの身からすれば酷く業腹でもあるが、しかし。人の言葉で委縮するような者であれば私は落胆していただろう。我が枯れた心に多少なりとも潤いを与えてくれた礼はしないとな――しからば」


 敗北をくれてやる、とカーマインは足場を消した。


 上下を逆にしたまま落ちる。その姿がふっと消失。


 血装術! 見えねえ攻撃に備えて咄嗟に身を翻した俺の真下を、姿を現したカーマインが爪を振るいながら通り過ぎていく。すれ違う瞬間に目が合った――ニヤリと彩度を増した血色の瞳が細められて、また消える。


「『ブラックバースト』ぉ!」


 一も二もなく闇の爆発を起こす。今度は前後左右に加えて上下斜めも網羅する。どこへ誘導しようなんぞしゃらくさいことはもう言ってられんし考えてられん。


 カーマインがエンジンを全開にしたからにゃあ、俺もとにかく全力で応じるしかねえ!


「ちっ、面倒な技だな……」


「どの口が言いやがる!」


 闇の中から出てきたカーマインに詰め寄り、『極死』を乗せた蹴りを放つ。しかし見越してたような回転で躱された――次の瞬間にはカーマインの反撃が来るんだろうが、そいつは俺だって織り込み済みだぜ。


「っしゃおらぁ!」

「!」


 空振った蹴りの勢いを殺さず、俺も回る。そして互いに回転した俺たちはまったく同時に攻撃を行なった。


 俺の拳打とカーマインの掌打が衝突する。『ブラックターボ』を技に乗せる『燐光』の加速込みでなんとか追いつけるってぐれえか……だが打ち合った感触からして威力は俺のほうが上! だったらこのまま――、


「させん!」


 押せる、と思った瞬間。それを察知したカーマインの行動は迅速だった。掌打に羽を合わせてきたんだ。三撃を一撃に集約させることで自身の腕を守った……!


「ッづぅ……!」

「ぐおっ……!」


 互いに弾かれる。俺の拳は……痛みはねえ。だがカーマインは打ち合いで少し左手にダメージを負ったようだ。


 羽が最初から使われてりゃそうはならなかったはずだが、とにかく一発同士なら『極死』のぶん俺に分があると知れたぜ。


「してやられた。まさか敵の技に手を出すほど手癖が悪いとは」


「模倣と言え。しょせん猿真似だがよ、けどこんだけできりゃあ十分だろ?」


 常時発動型である【明鏡止水】による集中力アップの効果が早くも出たな。そうでないと猿真似すらできやしねえぜ。俺にもっと技術力があれば相打ちじゃなく一方を取れてた気もするが、たぶんそこはDexだけでなくIntも関わってくるだろうからな。


 知っての通りIntが永遠の1である俺にはこれが限界ってところか。だが――。


「これでお前の格闘術に翻弄されずに済むってわけだ」


「自分を騙すのはよせ。一度模倣で虚を突いた程度で優位に立てたなどと、まさか心の底からは思っていまい?」


「そんなんで上になったとは思わねーさ。……なんたって俺ぁ最初からお前の上にいるつもりなんでね」


「くっく、ならば……その豪語が口だけでないと証明してみせろ!」


「言われなくてもなぁ!」


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