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458.よし皆、仕事だぜ

 レヴィも生かされてるからなんとかなるとは思うけどなー……けどもしかしたらマジで問答無用で殺られるかもしれん。

 そうなったらもう俺の口添えも意味がないんで、エイミィには六割くらい死を覚悟しておいてもらおう。


 と思ってたんだが、引き渡しは想像してたよりずっと穏便に済んだ。最初こそ騒ぎになりかけたが、まあ、話せばわかってくれた。すぐにマクシミリオンやってきてそのまんま教会まで護送(?)したのは用心の表れだとは思うが、危篤(という風に見せている)エイミィを『恒久宮殿アーバンパレス』の元仲間としてまったく心配してなかった、ってこともねえだろう。


 その善良さに全力で付け込んでるみたいで……みたいっつーか完全に付け込んでるんだが、ちょいとバツが悪い。悪いがしかし、政府の今後を思えばこれで良いはずなんだ。


 エイミィを始末しちまうよりも助けて情報を引き出すほうが得られるものはずっと多いんだから、いわゆる嘘も方便ってやつだぜ。


 担架で運ばれていくエイミィになんとはなしに手を振ってから、俺は中庭を借りてヤチに合図を送った。いつものように「もういいぞ」と頭ん中で念じると、向こうからも「今行きます」って感じのレスポンスがきた。


 明確に言葉が聞こえてるわけじゃないんで説明が難しいんだが、とにかくぼんやりとヤチを思うとあいつの思考が伝わってくるんだ。おそらくあっちもそんな感じで俺からの命令を受信してるんだろう。


 ぶっちゃけ『家政婦ハウスキーパー』の領分を超えてると思うんだがな、これ。


「おっ」


 ぼわっ、と見慣れた煙が目の前に立つ。今回はギルドロボ・フューネラルごとの移動なんでやたらモクモクしてたが、晴れるのはいつも通りの早さだった。


『わははは! 正義の味方フューネラル!! ここに再び見参だ!!!』


「うっさ!」


 大音量の機械音声が俺の耳をつんざいた。当然、ちらほらといる職員たちもなんだなんだとこっちを見てくる。ただでさえ目立つってのにやめーや、無駄に注目集めんの。


 中に乗ってるであろうロボの製作者三人組に注意しようとしたが、その前にブツッとフューネラルの声が途切れる。まだ何か言おうとしてたっぽいが、もううんともすんとも言わねえ……どうやら注意する前に騒音の迷惑さに気付いてくれたようだな。


 いやそもそもなんのために喋れるようにしてんだ?

 以前に聞いたら三人して「なんかノリでこうなった」みたいなこと言ってたが、俺ぁまだ納得してねーからな。


「思ったよりも到着が遅かったですね、ゼンタさん。ひょっとして道中なにかありました?」


 いの一番にフューネラルの足から――そう、足だ――メモリと一緒に出てきたサラがそう訊ねてきた。さすがにわかるわな、と俺は頷く。


「ちと拾いもんをしてな」


「拾い物ですか?」


 首を傾げるサラの後ろではフューネラルがハウスモードへと戻り、そこからぞろぞろと皆が出てきた。これで元からこっちにいるテッカ以外は勢揃いだ。


 ちょうどいいんで何があったかをまとめて話しておくとすっか。


 てなわけで、エイミィ・プリセットという特級構成員エンタシスだった裏切り者が今度は古巣のほうを裏切ってこっちについたこと。

 彼女と同じくアーバンパレスの裏切り者であるキッドマンの正体が実は、『時の魔術師』ヴィオ・アンダントだったこと。

 話の流れで軽く戦り合ったが二人がかりでも逃げるので精一杯だったこと。


 以上の三点を要約しつつもなるべく端折らずに教えてやった。するとまーリアクションの大きいこと大きいこと。あれやこれやと質問攻めにあっちまったぜ。


 だが気持ちはわかるぜ。『最強団ストレングス』のリーダーとは決闘したてほやほやだってのに、またしてもそこのメンバーであるヴィオと一悶着があった……それもあの謎多き少年キッドマンがそいつの変装だったと知って驚くなってほうが無理がある。


 そのうえヴィオと戦ったのは仲間殺しの凶悪犯エイミィを自陣に引き込むためだ、なんて言ったらそりゃあ俺の正気を疑うのも当然の話……いややっぱ失礼だろ。何が「お気は確かですか?」だ。熱でも測るみてーに俺の額に手を当てまでしやがって。病気じゃねーわ。


 もちろんこれを言ったのもやったのもサラだ。


「一応言っとくが、ちゃんと考えたうえでの行動だからな。ヴィオと戦ったのだってそうだ。結局は尻尾を巻いて逃げてきたわけだが、奴の実力を知れたって意味じゃデカい収穫だろ?」


「次なら勝てそうですか?」


「いや、びみょー」


「えー」


「だってあいつの魔法マジでせこいんだもんよ。解説聞いても意味わからんし」


 一応、ヴィオが時間魔法でどんなことをしたのか口下手な俺なりに可能な限り詳しく話してみたが、やっぱ全員よくわかってなかった。


 辛うじて一定の理解を得られたのは、メンバーの中でも特に地頭のいいメモリとアップルだけだったぜ。


「死後の肉体と魂の研究の一環で、時間という概念を学術的に学んだことがある。それによると本来時間と空間は切っても切れない関係にある、らしい……そういう意味ではヴィオ・アンダントの時間魔法は、空間魔法を習得することで真の完成に至ったと言えるのかもしれない……」


「初めての実践だってのを信じるなら、時空魔法が本当に完成するのはこれからなんだろうけどね。そうなると、次に戦るときはもっと面倒なことになってる可能性は大だよ。私としちゃあそもそも戦わないのが吉かなってところだね」


「俺だってそう思うぜ。ヴィオのうまい攻略法がちょっと思い浮かばねえもんでな……それに、リオンドさんにもなるべく『最強団ストレングス』とは切った張ったしたくねえと言ったばかりだ」


 だけど今回みてーにどうしようもない場合もあるわな。戦いを避けられない状況ってのがよ。


 そういうときが来ないことを祈りつつも、来ちまっても割り切って受け入れられるだけの気構えは持っとくべきだろう。


 ついでに勝てる算段もつけられりゃ文句なしなんだが、それは今はまだ厳しそうだぜ。


「んなことないっすよ、兄貴ならストレングスのやつらにだって負けませんって!」

「兄弟子の言う通りです! 実際、リオンドにもヴィオにも兄貴はやられてはいないじゃないですか」


「引き分けとトンズラを『やられてない』って言うか? そりゃ負けてこそいねえかもだが……」


 だがまあ、根拠はなくとも弟子組からの信頼はパワーにゃなる。

 信じてくれるこいつらのためにも情けないとこは見せらんねえって意地が出てくるからな。


 喧嘩に限らず勝負強さってのは意地の強さでもある。俺はそう思ってるんで、またヴィオの時空魔法を相手取ることになっちまったとしてもそんときゃあそんとき。


 今までそうしてきたみてーに、また意地を貫き通すだけだぜ。


「ですです。それにゼンタさんは元から、勝てる算段のある戦いなんて滅多にしてきてないじゃないですか」


「言われてみりゃそうだ。格上相手に死にかけるなんざいつものことだったわ、はっはっは――って笑えねえっての」


 閑話休題だ。道中での出来事の説明はこれくらいにして、俺たちもそろそろ中央こっちに来た理由を果たそう。


「よし皆、仕事だぜ。調理場で働いてるテッカさん見習って、それぞれやれる範囲で政府の業務ってのを手伝ってやってくれ。ちゃんと給金も出るからしっかり頼むぞ」


 そう指示すると、全員が応と返事をする。全員どこで働くかはもう決めてるみてーだな。


「ゼンタさん」


「うん?」


「私、メモリちゃんと一緒に教会本部に顔を出しとこうと思うんです。ファンクさんのポイションも届けがてら。ですので、良かったらゼンタさんも来ませんか? ユーキちゃんも会いたがってると思いますし」


「あー、悪いな。俺もついて行きてえところだけどよ、まず鼠少女んとこ行くわ。ガンズさんらを送るって約束してるんでな」


「あ、そういえばそうでしたね。わかりました、それじゃまた後で」


「おう」


 背を向けたサラはよいしょ、とポイション入りと思しき木箱を持ち上げた。

 その横でメモリももう少し小さめの箱を持ってるが、よく見るとその側面にはリル(こっちの世界の金だ)のマークが描かれてる。

 それを見て俺はハッとしたね。


 届けると言いつつ、教会相手に新薬を売りつける気だこいつら……! そして財布どころか箱いっぱいに大金を稼ぐ気だ!


「さ、行きましょうかメモリちゃん」

「うん」


「…………」


 商魂たくましい二人の背中を俺は無言で見送った。


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