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451.どっちみち正気じゃねえな

「時止め中に他の時間魔法は使えない。ってぇわけかよ?」


 もう一度HPのバーを確かめてみるが、減った量は微々たるもんだ。【金剛】さえ発動してりゃヴィオのダガーは怖くない……つまり魔術師としては超一流でも、戦士としちゃあいつはその程度の腕前しかないってことだ。


 なのに、時が止まってる絶好の機会でヴィオは魔法じゃなくダガーでの攻撃を選んだ。それは酔狂でそうしたんじゃなく、そうする他になかったからだと考えるのが妥当な線だ。


 即ち、いくらヴィオでも『タイムストップ』の持続中は魔法の重ね掛けができねえ。それが結論。


「お見事、大正解だ。これが無敵にも思える時間停止の欠点、そのひとつ目だ。他にも時間停止時間・・・・・・の短さや、仲間を対象外にすることもできないという融通の利かなさ等々……不便な点は多々あってね。正直、魔力消費量と見合っているとはとても言い難いかな」


「はー……」


 肩をすくめながら『タイムストップ』の弱点を明かすヴィオ。それを聞いてため息を零したのはエイミィだ。


「戻ってこい」


 ヴィオが時を止めて移動したことで行き場をなくしたまま宙に浮いていた二本の山刀が、エイミィの下へ帰還。それも自らで腰のホルダーに収まるという器用っぷりだ。


 さらに両手に持ってるうちの一本も皮鞘に仕舞いながら、エイミィはこう言った。


「どんな欠点があろうとインチキには変わりないっす。まともにやり合ってらんないっすね」


「まともにやり合ってひとたまりもないのはこちらのほうだからね。まあ、僕と同じように時間魔法を使えないことには対抗するのが難しい、というのは認めるところだけど……それにしてもどうしたんだいエイミィ? 風魔法を駆使した変則四刀流が君の持ち味だろうに、何故マチェットを仕舞ってしまうんだ?」


「それは自惚れっすよキッドマン先輩。長いこと同僚やってるからってうちの全部を知ってるとは思わないことっす」


「まさか、そんな風には思っていないよ。四刀流だって見ているのと実際に襲われるのとではまったく印象が異なったしね。だけどその口振りからすると、お得意のマチェット乱舞を上回るような奥の手を持ってるってことかな?」


 面白そうに小首を傾げるヴィオに、エイミィは口角を上げながら「そーっすよ」と肯定を返した。


「本気を超えた超本気のとき、うちは一刀流になるんす。こんな風に……!」


 ぐっと身を低くして、空いた片手を地面について。ちょいと変わったクラウチングのポーズみてーな恰好になってエイミィは剣気を迸らせる。


 前へ。ただそれだけを目指す構え。

 体を覆っていた風の鎧すら解いて、両脚だけに風魔法の補助を集中させているのもその裏付けになる。


 何より早く動き、何より速く駆け、何よりはやく斬る。

 殺傷本能を全面に押し出した人よりも獣に近い体勢だ。


「守りを捨てた攻めの一手、か。それが通じる相手ならいいけど、一か八かでは褒められたものじゃあない。そんなのが君の奥の手だって言うなら少しがっかりだよ」


 姿勢だけでヒリつくほどの獰猛さすら感じさせるエイミィに対し、その剣気を一身に受けながらもヴィオは冷静で冷淡だった。挑発的だが、呆れているのは嘘じゃないだろう。そこに関しちゃ俺も同意見だ。


 ここまでさんざっぱらヴィオの魔法を唱える度を超えた素早さにゃあしてやられてんだ。どんだけエイミィが速く走れようと、今の位置からじゃ先手を取れるとは思えん。


 ヴィオ自身もそれだけの余裕が作れる間合いを意識して時止めを解除したんだろうしな。


「がっかりするかはやってみてのお楽しみっすよ」


 殺気を放ちながらもそう飄々と返したエイミィは、ちらりと俺のほうを見た。自分に続けってことだろう。


 もちろん一人で特攻させるつもりはねえ。エイミィがやるなら俺もやるさ。


 だがよお、ホントに勝算あってのもんなんだろうな……!? ただの玉砕ってんならご免だぜ!


 いや、ここはエイミィを信じてみよう。まだ戦い始めたばかりだが、こいつが見習いとはいえ特級構成員エンタシス入りしてた理由はよくわかった。


 エイミィ・プリセットは強い。破壊力はともかく、身のこなしではあのメイルにだって劣ってねえ。攻めっ気の強さはあいつ以上かもしれん。とにかく、どこかおちゃらけた雰囲気はあってもエイミィは一角の戦士であり剣士だ。


 そんなやつがただ無謀なだけの特攻なんてするはずがねえ。

 ヴィオだってそう思ってるからこそ、呆れつつも警戒心だけは絶やさずにエイミィを注視してるんだ。


「よぅい――……、ドンッッ!!」


「「!」」


 速い――! 想像以上の爆発的な勢い! 掛け声に合わせて俺も『ブラックターボ』でスタートを切ったが、とても追いつけねえ!


 瞬きも終わらねえうちにヴィオへ肉迫したエイミィは――。


「がっハぁ……!」


 まるでコマ飛びした映像みたいに、いつの間にか血を撒き散らしていた。時を止められてダガーで滅多切りにされた、と俺が理解したとき。


「なっ!?」


 派手に吐血するエイミィ。だがいくらなんでも大口を開きすぎじゃねえかと思ったら、そこからは血以外のもんも吐き出されていた。


 それは風だ。エイミィの身体の中・・・・から旋風が吹き荒れ、目の前にいるヴィオを襲ったんだ!


「ぐ、してやられたね……!」


 鎌鼬に全身を撫でられてズタズタにされたヴィオは痛みに呻いている。だがヴィオよりも余程に傷を負っているのがそれをやったエイミィ本人だ。


 あんなのを体内に仕込んでいたせいで、おそらく内側もズタボロになってるに違いねえ。


「へっ、やりやがる!」


 エイミィは最初から時間魔法より先んじようなんて考えてなかったんだ。どんな魔法をかけられて攻撃を止められようと、時を止められて反撃を受けようと――その直後に飛び出すように体内に鎌鼬を暴れさせていた。


 自分を使った時限爆弾。それをつついたヴィオはまんまと爆風を浴びたってわけだ。


 一か八かの突撃と思わせてこんな奇想天外な罠を用意してたなんざ……どっちみち正気じゃねえな!


 あちこち切り傷ができてると言ってもそう深くなく、ヴィオは致命傷に程遠い。対するエイミィは風魔法の防御を捨てたせいでダガーで斬られてるし、何より自傷で血みどろ。


 受けたぶんと与えたぶんのダメージがまったく釣り合っていない。骨を断たせて肉を切った、って感じだ。


 だがそりゃあ、俺っつー二の矢が控えていなけりゃの話。


「ゼンタ……!」


「応ともよ、ヴィオ!」


 鎌鼬に切り刻まれて動きの止まったこの一瞬。ヴィオの明確な隙。そこをぶっ叩くのが俺の仕事だ。


 全力全開でいくぜ……!!


「【技巧】発動! 『燐光』――三連『極死拳』!!」


 一打ごとに瞬く青紫の光。【技巧】を使っても『極死』は今の俺にゃ瞬間三撃が限界。けど一発でも絶大な威力のこいつが三発も入りゃあ成果は上々だ。


「うぐっ――がッはぁ!!」


「手応えあり! ……だがイマイチか!」


 エイミィみたいに血を吐かせることはできたが、完璧な入りじゃなかった。拳が何かに止められた。それは今までに味わったことのない感触だ。


「時間魔法で何かやりやがったな?」


「く、う……ああ、それも大正解。だけど止め切れなかった……驚いたよ、こんなことは初めてだ」


 そうだ。拳自体は止められたが、拳に乗った属性はヴィオに到達した。闇属性と雷属性、それから俺自慢の死属性! 物理的な破壊力は伴わなかったが『極死拳』のメインはこっち。それが届きゃあ十分だ。


先代魔皇ソラナキの技のおかげだな。『絶死』のままじゃあ俺の攻撃はきっと完全に止められちまったてただろうよ」


「先代魔皇……! なるほど、闇の秘儀か。遅延魔法程度じゃ手に負えないわけだね……」


 遅延魔法。特定の条件で自動的に発動するよう設定しておく高度な技術のことだ。


 それのせいで俺ぁヴィオを仕留め損なったのか……さすがに『ストレングス』メンバー、何かにつけ用意のいい奴だぜ。


「いやー、とんでもないっすね本気のキッドマンは……ゼンタさんもっすけど」


「お前が一番とんでもねえわ。普通に動けるんかい」


 自分の血でびっちゃびちゃになりながらしれっと隣に立ったエイミィに、俺はついそう突っ込んじまった。


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