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441.お熱い視線っすねぇ

「エイミィ・プリセット……! 裏切り者の見習い特級構成員エンタシスか!」


 こいつがメイルの相方を殺し、ローネンを逃がしたっていう……若い女だとは聞いていたが、こうして実際に対面してみると思っていた以上に若え。メイルやレヴィよりも俺に近いぐらい――ひょっとすると同年代、つまりは十五、六くらいか。


 上背があるんでパッと見はそう感じねーかもだが、こいつのこの表情。バトンみてーにくるくると山刀を遊ばせてる姿は、どうにも子供っぽいもんがある。


「やはー、知っててくれたっすか。光栄っすね!」


「光栄だぁ? 俺に知られれてなんでそう思うよ」


 つーか政府襲撃を生き残った中でエイミィのことを知らないやつがいるわきゃねーんだが、まあ、こいつが言いたいのはそういうこっちゃねえんだろうってのはわかる。


「ローネンさんにも警戒っていう形で一目置かれてるゼンタ・シバさんっすから、そりゃうちも一目置きますよー。それに……もう自己紹介に時間を割く必要もなさそうっすからね」


「…………」


 喋りながらもエイミィは山刀を放り投げてはキャッチするのをやめない。剥き身の刃物を扱ってるとは思えねえ雑さ。雑なんだが、なのに怪我をしそうには感じない。まるで山刀がこいつの身体の一部にでもなってるみてーな安定感がある。


 こういう奴は、強い。俺も喧嘩じゃ周りにあるもんをなんでも使ってきたし、こっちの世界に来てからは【武装】でモノホンの武器にも触れるようになった。


 だがそういうんじゃねえんだよな。武器を武器にするってのはたぶん、こいつみてーなあり方を言うんだろう。


「んっふふ~、お熱い視線っすねぇ。そんなにこれが気になるっすか?」


「そりゃあ、な。そいつぁよく切れそうだ」


「おっ、わかるっすか!」


 放るのをやめて山刀の柄をしっかり握ったエイミィは、その刃を見せつけるようにして顔の高さに掲げた。


「いい仕上がりっしょー? 銘はないんすけど、名刀っすよ。仰る通りに切れ味も抜群! ……でもね、ゼンタさん。山刀の一番いいところが何かわかるっすか?」


 さて、なんだろう。使ったことがねーんで思いつくものもない。無言で続きを促せば、エイミィは刃越しににんまりと笑った。


「最大の長所は切れ味でもなければ携帯性でもなく――斬った獲物の感触がダイレクトに伝わることにあるっす! それだからうちはこいつが大好きなんすよ」


「ほほー、そうかいそうかい……だとしたら残念だったな。どんな刃物だろうと来訪者の肉は切れやしねえんだぜ」


 斬った感触。単にそれを味わうのが好きっていうサイコな趣味の奴なのか、それとも手応えで敵のダメージがいかほどかを確かめる冒険者らしい思考なのか。人対人なら一刀で決着もつくが、モンスター相手だとまずそれはないからな。


 しかしどっちにしたって、インガや魔皇がやった神のシステム封じっていう裏技中の裏技でも使われない限り来訪者である俺の体は傷付かない。斬り付けられたって減るのはHPだけで血の一滴だって流れやしねえんだ。


 『灰』ならまだしも……そっちだって十分にあり得ねえが、ましてや『灰の手』がそんな手段を持ち合わせているとはまず考えられない。


「俺を切り刻みにきたってんなら当てが外れてやしねえか? 切り裂き魔リッパーのエイミィさんよ」


「あっ、その呼び方……さてはレヴィっすね?」


「よくわかったな」


「わざわざそんなダサくて古い二つ名を持ち出してくるのはあいつくらいのもんっす。うちへの嫌がらせっすよ」


「……お前らって仲が悪ぃのか?」


「ほどほどに悪いっすね」


 ほどほどにってなんだよ。ガチ喧嘩はしねーくらい、ってところか?


 俺とレンヤなんかはガチ喧嘩を何度もしてるが(なんだったら今もしてる真っ最中だ)、仲が悪いかって言われるとそうでもねえ。だがそれを一般に当てはめちゃいかんだろうな。こいつやレヴィも一般人じゃあねえけどさ。


「そうそう、レヴィと言えば……あいつ拷問とかされてるんすか?」


「いいや? その手を使うのはまだ踏み止まってるみてーだが」


「そんじゃローネンさんの言ってた通りっすね。アーバンパレスは正道のギルド。それも仲間同士での結束も厚い。いくら裏切り者だって言っても惨たらしい処置はなかなかできないっすよねー……まだ・・


 そう、まだだ。だがいずれはどうか。このまま進展がないならいつかはそういうことをしなくちゃならねえだろう。そしてそのいつかってのは、『灰の手』の脅威が本格化する、その手前あたりのこった。


 わかってんのかどうか、こうして姿を見せたエイミィ。

 これ自体が既にレヴィを惨たらしく責めるかどうかの分水嶺になってる。

 俺がマクシミリオンへこのことを知らせれば、間違いなくその判断の後押しにはなるんだからな。


「ゼンタさんはレヴィが何を喋ったか定期的に教えてもらってるんすね?」


「まあな」


 つって、言った通り進展もねーんで一回通話しただけだが。


「アーバンパレスとアンダーテイカーはすっかり仲良しギルドっすね! まあ、当然っす。一緒に危機を乗り越えること。これぞ結束を生む最良最速のやり方だ……ってのもローネンさんが言ってたことなんすけどね。更に間を置かず新たな共通の敵が現われればなお良し、とも言ってたっすねー」


 急ごしらえの結束じゃあ敵がいなくなればあっさり壊れちまうかもしれねえ。そうさせないためにはまた新しい共通の敵と戦えばいい。


 まさにそういう状況になってるのが新政府に教会にギルドという、今の俺たちだってことをローネンは仲間に言って聞かせて用心を促してるんだろうよ。


 リオンドが話してくれた内容とも重ね合わせりゃ、ローネンはその御旗っつーか、指揮官になれそうな人物を特に警戒してるっぽいか……? ま、それはともかく。


「つまりローネンの指示ってわけか。俺をこうして待ち伏せてたのは」


 ポレロに伝令役でも置いて、俺の出発を聞きつけて道中先回り。最短距離を来たからこうしてエイミィにぶつかったが、他の行路を選んでても誰かしらがいたんだろうな。


 するってぇと……こいつ一人だけじゃあねえよな。絶対に俺とこいつが見える範囲で他にも『灰の手』がいるはずだ。面倒なのは、その気配がまったく感じ取れねえってことだな。


 苦手な昼間っつってもソラナキの感覚は鋭敏だ。そんな俺が「いる」と仮定して探っても探しきれねえとなると、仮面女と同レベルの姿消しの技の使い手ってことになる……まさかハナか? あいつも【先見予知】が作動するまではまったく見えなくなっちまう妙なスキルを持ってるからな。


 元エンタシスとハナのコンビが相手となるといよいよ持って厄介この上ねー。


 が、逃げるだけならいつでも逃げ切れる。


 ヤチの【従順】は自分んとこに俺を呼び出すこともできるようになってるからな。その逃走保証があるからこそ俺はこうして、単身での出発をサラやメモリから許されてるんだ。


 俺が念じればすぐにヤチはスキルを使う。それに頼らなくたってボチを本気で走らせりゃいくらエイミィでも追いつけやしねえ。さっきの反応の良さからして走り出しを攻撃される可能性はあるが、そこは俺が防いでやりゃいい。


 あとは中央までひとっ走りですむ話だぜ。

 つって、潜伏者がどの位置に隠れてるかでも変わってはくるがな。


 最大の安全策であるポレロへの出戻りか、リスク込みの強行突破か、あるいは――最大リスク最大リターンが望める戦闘バトルか。


 さて俺ぁどれを選ぶべきかね。


「やだなぁ、怖い顔しちゃって。とんだ戦闘狂っすねゼンタさん! うちはただちょーっと呼び止めただけじゃないっすかー」


「あぁ? 思いっきし人の首を刈る軌道で刃ぁ振るっといて何言ってんだ? てめー」


「ゼンタさんなら余裕で対処すると思ったからっすよ。信じてたんすよ、うち」


「…………」


「だからそっちもちょーっとだけ、うちのことを信じてください。……うちはね、ゼンタさんに悪くない話を持ってきたんすよ?」


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