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44.後ろには一体も通さない

 俺の頭の中ではボス戦っぽいBGMが流れている。

 墓所に浮かび上がる巨大な幽霊が、腕を広げながら大絶叫しているんだからな。


 ――戦いの始まりだ。


「ミェル……ミェル!」

「くっ、村長! 暴れずに大人しくしていてください……!」


 ドレスを着込んだ女の幽霊は、見るからに邪悪そのものって見た目をしている。


 これが本当に村長の娘なのか? 


 怪しいもんだが、村長はそう信じて疑っていないようだ。興奮しているんだろう、年寄りとは思えない暴れっぷりでミルスの拘束から抜け出そうとしている。


「えい!」

「うぇあ!」

「な、何を!?」


 そこでサラが躊躇なく村長の首の後ろあたりにチョップを入れた。ガクッと気を失う村長。ミルスは突然の暴力に驚いたようだったが、サラはそのことには触れずに問いかけた。


「ミルスさん。あのホロウは本当にミェルさんなんですか?」


「……ひどい形相だが、確かにどこか、生前のミェルの面影はあるように見える。だけど……!」


「――オォオロロロロロロロロロロロロッロ」


 金切り声の叫びで悪意と共に俺たちを威嚇する幽霊の姿を見て、ミルスは眉尻を下げた。


「あんな子じゃない……! こんなことをするような子じゃないんだ!」


 俺たちの視線を集めながら、巨大幽霊は小型の幽霊を何体も生み出していた。とにかく仲間を呼び寄せている……数を揃えて俺たちを一網打尽にしようって魂胆なんだろう。


「ゼンタさん! ホロウは邪に魅入られた魂の成れの果てだと言われています! 村長さんが目覚めさせたのはその上位種であるレガレストホロウと言って、ホロウを操る力を持っているモンスターです!」


「……村長の娘は、おそらく触媒になっただけ。主贄だから見かけが似ていても、アレは本人じゃない……ただのモンスター。村長は村人を犠牲に、モンスターを育てていた」


 ……事実ってのは残酷なもんだな。死んだ娘のためと非道な行いに手を染めたんだろうに、実際は娘が生き返るどころか、その肉体をモンスターが誕生するための道具として捧げちまったことになる。


「娘とは完全に別人だってんなら、遠慮もねえな。ここで確実にこいつを倒そうぜ」


 俺がそう言うと、メモリもこくりと頷いた。

 レガレストホロウも手下を生み出し終えたらしく、何体もの幽霊が虚ろな瞳で俺たちを見下ろしていた。


 へん、向こうも戦争の準備はOKってか。


「ミルスさん! 引き摺ってでもいいから村長と一緒に下がってろ! サラもそっちにつけ!」

「は、はい! そうしますけど――」

「心配しなくていい。……後ろには一体も通さない」


 ズァッ、とメモリの体から黒いオーラが出る。俺の恨みパワーにそっくりだ。これはあれか、ネクロマンサー用の共通エフェクトかなんかなのか?


「【召喚】、『ゾンビドッグ』――からの変態、『ゾンビウルフ』!」

「わう! わうわうわう……バウル!」


 ボチを召喚し、犬から狼へと進化させる。


 試してわかったことだが、最初からウルフモードで呼び出したいときもまずはドッグモードで召喚してから変態を挟む必要があり、その行為のどっちにも5ポイントくらいSPを消費する。


 つまりただ呼び出すだけの二倍も経費がかかっちまうわけだな……けど、強さからするとそれ以上の恩恵があるんで構いやしない。

 どうせそんくらいなら【SP常時回復】ですぐに戻ってくるしな。


「『耳を塞いでも無駄だ。聞こえるだろう、あのいくつもの足音が。あれはお前を連れに来たのだ』」


 おどろおどろしいオーラと呪文。髪をざわめかせながらメモリは腕を振り上げた。


「――来たれ『死の軍勢』」


 ミルスに自分がネクロマンサーだと証明するために見せた、例の骸骨。


 それが数えきれないだけの人数、メモリの体からブワッと溢れ出した。


 実体があるのかないのかよくわからん青白い骸骨たちの群れが一斉にカタカタと歯を打ち鳴らすと、それに触発されたかのように、ホロウの群れもこちらへと押し寄せてきた!


「んだこりゃ、妖怪大戦争かよ!」

「バウ」


 レガレストホロウとメモリが互いの指揮する部隊同士をぶつけ合っている中で、俺とボチは駆ける。なんか俺たちだけ場違い感がハンパねーが、この際気にしねえ! とにかく親玉のレガレストホロウをぶっ倒しゃそれで終わりだ!


「行け、ボチ! 俺を踏み台にしろ!」

「バウル!」


 けっこう高い位置に浮いているレガレストホロウに牙を届かせるには、そのぶん高く跳ぶしかない。だがここは墓所。足場になるのは木の墓標くらいしかねーが、それを蹴っ飛ばしちゃそこに眠ってる奴に悪い。


 だから俺がボチに蹴られる役をやるしかねえってこった。


「ぐぉっ!」


 跳躍力の割には思ったよりも痛みがなかった。

 まったくのノーダメージってわけじゃなく、軽くどつかれたくらいの衝撃はあったが、まぁいいさ。

 おかげでボチがレガレストホロウの高さまで跳ねられたんだからな!


 一発で決めちまえ、ボチ!


「バウバウッ!」

「オォーロロロロ」


 ウラナール山のハングリースコルピオの甲殻を一撃で叩き割った、牙一閃攻撃。それがレガレストホロウの首あたりを切り裂いた――が、少し仰け反った程度で持ち堪えられてしまった。


 どういうこった、ちゃんとクリーンヒットしたはずだろ?!


「ゼンタさーん! ホロウ系統に物理攻撃は効きづらいですよー! 霊体用の武器や魔法があるなら別ですが、そうでないとかなり対処に困る相手ですー!」


「それを先に言ってほしかった……! ってうわ、なんだ!?」


 足の止まった俺を狙い目だと思ったのか、ホロウが何体か迫って来た。

 だがこいつら、攻撃するというよりも、その手で俺に触れようとしてきている感じだ。


 こりゃ何を狙って……?


「ホロウに触られるのには気を付けてくださーい! 精神に干渉して恐怖状態に陥らせてくるそうですからぁー!」


「だからもうちょい早く言えや! 囲まれてからどうしろってんだ! ボチ! ボチヘールプ!」


 くそ、あっちじゃものすげえ数のホロウをメモリが一人で相手取ってるってのに、こっちはたった数体に苦戦かよ。と考える間にとうとう俺を包囲したホロウたちが、一斉に腕を伸ばしてきた……! 避けきれねぇ!


 ……なんともない。

 確かにひんやりした感触でぺたぺたとタッチされているってのに、俺はまったく平気だ。


 霊に撫で回されることへの薄気味悪さはあるが、別に特別な恐怖なんて感じちゃいないぞ?


「……?」

「「「……?」」」

「バウッ!」


 ホロウと一緒になって首を傾げていると、ボチが救援に駆け付けてくれた。吠えられてホロウは蜘蛛の子を散らすように逃げてった。「わー」って感じで。


「サンキュー、ボチ! しかし今のはなんだったんだ……はっ!」


 そうか、ホロウの攻撃方法になーんか覚えがあるなと思ったんだが……俺のスキルにある【接触】とクリソツじゃねーか! 


 あれも直接触れた相手限定で、怖がらせるっぽい効果がある。


 俺は幽霊じゃあねーが、こんだけ似てる力を別もんだと考えるほうが無理がある。


 【接触】はクラススキルのほうに書かれてる。つまりネクロマンサーの力に由来してるか、ならではっていう能力のはずなんだ。そしてホロウはアンデッド……ドラゴンゾンビとかと同じで、きっとネクロマンサーとは縁の深いモンスターだろう。


「俺はスキルでホロウの技を習得している……だから耐性がついてるってことか!?」


 おいおい、だったら無敵だろうが! これでもうホロウは俺になんもできねーぞ!


「わははは! イージーゲームじゃねえか! よしボチ、俺が先陣を切るぞ。お前のほうが後ろからついてこい!」


「バウ!」


 意気揚々と走り出した俺。

 もちろん、もう一回レガレストホロウにボチのジャンプ攻撃を仕掛ける算段だ。

 効きづらかろうがこれくらいしか有効そうな攻撃法がないんでな。


「おっ? また来やがったなホロウども。親玉を守ろうってか? だが俺に対しててめえらは無力だぜ――ぶえ! いた、いたっ! いたたたた!」


 またしても体に纏わりついてきて恐怖を与えようとしたホロウたちだったが、それが意味なしと見るや……普通に手でぶっ叩いてきた。ひょろい見た目通りにそんなに力は強くなかったが、べしべしと袋叩きにされたらさすがにたまらん。


「ボチ! ボチヘールプ!」


「……バウッ!」


 またホロウは逃げてった。「わー」って感じで。

 なんか腹立ってきたな。


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