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439.美しく、そして強い

 確証なんてもんはねえが、リオンドの言ってるこたぁ心証に当てはまる。これまで見聞きしてきた上位者や管理者の行動とその理由――それらから感じる鬱陶しさとじれったさってやつに、説明がつく。


 最初はわけもなくそんなことをしているんだろうと特に考えることもしていなかったが、確かに。そこにそうしなけりゃならねえわけがあるんだとすりゃあ、俺たち来訪者を救いもすりゃ縛りもするシステムというルール……それと同じように管理者も上位者のルールに縛られていて、さらには上位者もまた己の敷いたルールの上からはみ出さないよう遵守している。と見做すとめちゃくちゃしっくりくる。


 遊びのためだ。直接手を下す面白みのなさを嫌って上位者かみさまは制限を設けている。要は子供のごっこ遊びを、世界を遊び道具にしてやってるようなもんだ。


 神さまは神さまごっこをしてる――ってことはやっぱり、そうなんじゃねえか?


 上位者は神なんかじゃねえ。


 神なんてどこにもいない。俺のその考えを補強する根拠が、またひとつ見つかった。


「上位者が真実神と呼べる存在かどうか――は、ともかくとして」


 仮面女が口を開く。こいつは神肯定派のリオンドとも、否定派の俺とも意見を合わせる気もなけりゃぶつけ合わせる気もないらしい。


 だが、言いたいことがないってわけでもないようで。


「この世界を管理して存続させてきたのは上位者だ。おそらく人類史が始まるより遥か前からな……あたしたち人間が神という言葉に抱くほどの崇高さを持ち合わせているかは別にしても、神らしい力は持ってる。そこだけは確かなことだろ」


「どうだかな。存続っつっても歴史から消えた種族は多いじゃねえか。そりゃ管理ができてねえって証だ。杜撰だから無理が出て、不自然淘汰なんてもんに頼らなくちゃならなくなるわけだろ? 本当に世界っていう箱庭を作った野郎だってんなら、あまりに手際が悪ぃ。お気に入りの人間やくしゃで劇を楽しむ前にやることがあんだろうが……管理者を裏方にするんじゃなくもっと前面に出して活躍させるだけで、遊びをなくすだけで死なずに済む命は多かったはずだぜ」


 どの時代でも、な。人類史の起点以前以後に関わらず、上位者の手慰みの犠牲になった連中は心底救われねえ。まさしくただの犠牲でしかないからだ。


 死んだ意味はない。一切ない。その事実すら消え去ったことにも、何も価値はない。上位者からすると間違いなくそうだろう。


「だから趣味が悪いってんだよ。そんな奴を神と崇めてどうする? 仮に淘汰で人間の歴史をやり直すにしても、百年か二百年もすりゃまた同じことをすんぞ。国が滅びて統一政府セントラルができてからまだそんくらいだろ? それなのにもう限界が来てる」


「「…………、」」


 リオンドも仮面女も何も言わない。が、考えているのはわかる。消えた歴史――いや消された歴史は数多い。だが直近の転換点である王国の滅亡についてはさすがに、知らねえやつはいないだろう。


 たぶん、イリオスティア家と統一政府セントラルの威光を万全なものにするための処置。人の記憶から消さないようにそこはあえて強調させたんだとは思うが、けれど世界の真実を知る者にとってその知識。そしてミスを恥ずかしげもなく利用できちまう上位者の姿勢ってのは、最大の警告として捉えるべきだ。


「何度やり直してたって無駄としか思ねえ。上位者かみが神でいる限り、この下らねえ遊びをやめねえ限り、そう遠くないうちに本気で人類は消え去る。魔皇が危惧してた通りの未来がやってくる……そうとしか思えねえんだ、俺にゃあよ」


「では、どうすればそれを回避できる? まさか君だって本気で打倒上位者を掲げているわけではないだろう?」


「一発ぐれえはぶん殴りてえけどな。しかしまあ、そこは本題じゃねえから我慢が必要だったら我慢してもいい。どうしても通してぇ上位者への要求はふたつ。この世界で遊ぶな。それから、帰りたい来訪者をすぐに帰してやれ。そんだけだな」


「んなの聞き入れると思うか? 上位者がお前の考え通りの奴なら、ますます絶望的だろうに」


「確かにな。そこんとこのプランが真っ白なんでどう交渉したもんか悩ましいではあるが……けどありがてえことにリオンドさんは手を貸してくれる。どうにか芽は出てるってとこかね。この調子で上位者もどうにかしてえな」


「反吐が出るほど楽観的だな」


 本当に唾でも吐いてきそうな口調で仮面女は言った。仮面で顔が覆われてなかったらマジで飛ばしてきてたかもしれん。


「その悪運だけでどこまでやれたものか見物だね。どえらく失敗して無様に死にでもすりゃあ、酒の肴くらいにゃなりそうだ」


「まあまあ、少し落ち着け。君はゼンタに入れ込み過ぎだぞ」


「ふん、誰が!」


 噛み付くような勢いでリオンドにそう言った仮面女は荒んだ足取りで俺たちから離れて、また当初の位置で壁にもたれた。むっつりとしたその雰囲気からはもう会話には参加しないという意思表明が伝わってくる。


 怒らせてしまったね、とリオンドは苦笑する。

 仮面女にしこたま打ちのめされた経験のある俺からすると苦笑だけで済みやしないんだが、大丈夫だとリオンドは小声で続けた。


「あれは本気で怒っているんじゃないよ。もしそうなら、問答無用で手が出てるところだ」


「それはそうだと思う。心の底から」


「だろう? ちょっと拗ねているだけさ」


 拗ねるってのもそれはそれでイマイチわからんが……なんにせよキレてねえんなら重畳だ。俺はほっと胸を撫で下ろす。


「ところでゼンタくん。期待を持たせるようなことを言っておいて悪いんだが、あまり俺の手を当てにしてはくれるなよ。俺にできるのは君が望む上位者への謁見、のためになるかもしれない管理者への橋渡し。それも不確実性のものだ。一助にはなれるだろうと思っているが、それも仮面女・・・に言わせればひどく楽観が過ぎるんだろう。頼りにされ過ぎても少々重たい」


「あー、そこは大丈夫っす。管理者を引っ張り出せたらめっけもんくらいにしか考えてねーから」


 リオンドの嘆願書が無慈悲に破り捨てられたとしても、それで何か不都合が出るわけでもない。元の木阿弥ってだけだ。当てにはしているが、そればかりに頼るつもりは毛頭ねえ。


「俺のプランは依然として不自然淘汰の阻止が根っこだ。上位者のシナリオを邪魔して邪魔して邪魔しまくりゃあ、そのうち『灰の手』じゃ埒が明かねえとしびれを切らして『灰』が出てくるだろ。直々にな。そこがチャンスっつーか、唯一の狙い目だろうぜ」


「ふむ。俺の要望が通れば穏健に、そうでなければ当初の予定通り過激に。いずれにしろ『灰』との対面は君の最終目標への必須条件でもあるわけだ……俺が念を押すまでもなかったな」


「や、忠告は助かるぜ。『灰の手』の一員であるあんたの知見は俺としても欲しかったもんだ。んで、だ。こんな機会を逃したくねーんで聞かせてもらうがよ」


「なんだい」


 質問を待つリオンドに、俺はちょいと深く息を吸い込んで、意を決して訊ねる。


「『灰』は――来訪者と対になる、上位者かみの手下。管理者ってのはいったい、どんな奴らなんだ」


「…………」


 リオンドは口元から笑みを消して、少し間を空けて。それから無表情のままに言葉を紡いだ。


「とても美しい」


「なに……?」


「第一印象が、それだった。『灰』は人間離れして美しく、そして強い」


「美しくて、強い……」


「そうだ。君たちのように異世界からやってきた来訪者と違って、管理者は人ではない。だから当然と言えば当然なのかもしれないが、その在り方は人知を超えている。逆らう気も起きないほどにね」


「……人ではない、か。んじゃ『灰』はなんだってんだ?」


「さてな。あるいは、『灰』こそが上位者かみにとって理想の人間であるのかもしれない」


「へん、そんじゃ俺たちは駄作だってか……? 上等じゃねえか」


 何も知らずに踊らされる来訪者おれたちとは違う、まさに神の道具である管理者。近いうちに必ずその面を拝ませてもらうぜ。


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