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427.詰め将棋みてーな

 今のは命中判定でもしょうがねえ。流して斬るような感じだったんでダメージって意味では然程の攻撃だが、何しろ巧かった。これが実戦で、俺が来訪者じゃなけりゃあ、上半身と下半身が泣き別れになってるところだ。


 まさしくこの特殊ルールに則った最適の一撃。模範のようなそれを、俺は早々に決められちまった。


「マクシミリオンに剣術のイロハを教えてやったのは俺なんだ。奴は教え甲斐のない生徒ですぐに巣立っていってしまったが、しかし戦士として。俺が奴に劣る部分はないと断言させてもらうよ」


「……そうかい」


 長いことマクシミリオンとは顔を合わせてねーだろうに、この物言い。マクシミリオンがどれだけ強くなっていようと自分のほうが上だ、という絶対的な自負がなきゃこんなことは言えやしないよな。


 不遜なまでの己が力量に対する自信――だがそれに見合う実力をこいつは持ってる。と、開幕の打ち合いで証明された。


 言うまでもねえが、【先見予知】はちゃんと働いている。スタートと同時に攻めてくるってのもその数秒前からわかってたことだ。なのに対応が遅れた……いや、遅れたってのは正確じゃない。正しくは対応を外された、だ。


 あの滑るような一歩と起こりの見えねえ突き方は、距離感や打ち込みのタイミングを予測よりも狂わせてきやがる。小手先と言えば小手先だが、スキルによる先読みっつーズルをしてる俺ですらも翻弄されるレベルの技術。


 絶技だ。涼しい顔で軽くやっちゃいるが、同じ真似ができるやつは果たして他にどれほどいるのか。


 そうぽんぽんといられちゃ困るぜ、ってのが素直な感想だがな。


 主導権を握ってからの詰め将棋みてーな崩し方も含めて、リオンドが剣士として最高峰の高みにいるってことは間違いない。


「このまま二点目をいただこうかな」


「させるかってんだ!」


 しかし小手先は小手先。繊細な技術じゃどうしようもねえもんだってこの世にはある……!


 たとえば圧倒的な力技とかなぁ!


「【併呑】発動、『常夜技法』!」


「!」


 使うスキルは厳選する。【ドラッゾの遺産】や【金剛】は身体を硬くするためのもんでもある。この勝負に防御力は必要ねーんで、今回は使わない。【金剛】はともかく【ドラッゾの遺産】はパワーも上がるんだが、やはり何個もスキルを使うのはキツイからな。


 そんでもうひとつ、【併呑】で得た『悪鬼羅刹』もナシでいく。気が昂りすぎるのはリオンド相手によろしくねえだろうってのと、あんまし手の内を晒しすぎるのもどうかってのがその理由。


 だがスキルを選ぶ代わり、やれる範囲のことは思いっきりやらせてもらうぜ!


「【同刻】発動、【呪火】・【黒雷】……『絶死』のオーラ! さらに【技巧】も発動ぉ!」


 戦斧に攻撃スキルを纏わせ、それを『常夜技法』の闇で強化&加速させる。引き出せる限界いっぱいの速度を超えた瞬間に刃は、太陽の下でもはっきりと輝く青紫の粒子を放った。


「これは……!」


「『燐光』――『極死』のオーラ! 『マキシマムパワースラッシュ』!」


 長柄をしならせ、とびきりのスピードを得た戦斧を振り抜く。遥か彼方の空まで切り裂くような横薙ぎの一撃。捉えた。リオンドは俺の最強を食らった――が、しかし。


「なんて重さなんだ。肘から先がなくなるかと思ったよ」


「……っ!?」


 食らったんじゃねえ、こいつ――逸らしやがった! 今の一発を、たかが木剣で! 下から掬い上げ、横斬りの軌道を跳ねさせて凌いだ! 


 真に驚くべきはそれを可能にしたってだけじゃなく、それでなお木剣が折れてねえってこと。

 戦斧を逸らすために少なくともリオンドの腕と得物には相当な衝撃が加わったはずだが……それさえも巧みに逃がしてみせたってわけだ。


 どんな技量があればんなことができるのか想像もつかねえが、おそらく自分の体を通して木剣にかかる圧を和らげたんだ。


 その証拠に、横に振り抜く形だったってのにリオンドの足元の地面は大きく抉れてる。まるでそこに一瞬だけ超重力がかかったようにな。あれが逸らし切れなかった威力の一部。本来ならどんな剣士でも、こんな防ぎ方じゃ余波と言えるもんを食らっちまうはずなんだがな。


 リオンドは違う。パーフェクトに俺の『マキシマムパワースラッシュ』を受け切った。当たってもいなけりゃあ、微かなダメージすらも負っちゃいない。


「とんでもねえな、あんた」


「お飾りのようなものだが、そうであっても『最強団ストレングス』のリーダーという肩書きは安くないということだ。ゼンタ」


「だったら俺もそうさ、『葬儀屋アンダーテイカー』だって安いギルドじゃねえ。依頼料はリーズナブルで通してもらってるがな!」


 『ブラックターボ』でスライド移動。そして石突で突く。明らかに自分を真似たとわかるこの攻撃に、リオンドは小さく笑った。


 ああ可笑しいだろうさ、こんな猿真似にもなってねえやり方じゃあな。似てるのは表面だけで、中身はまるで別もん。ぜんぜん意表も突けてねえ。


 だが俺ぁ何もあんたの歩法を丸コピしたかったわけじゃあない! 同じことをしてきた、と一瞬だけでも誤解させんのが狙いだ!


「おぉおっ!」


「!」


 突きをリオンドが躱し、たかどうかってところで闇の噴射の方向を変更。体勢を入れ替えつつ蹴りに移行する。そして戦斧から手を放す――だが刃は止まりはしない。そっちも闇の噴射でリオンドを狙うように仕向けてある。


 一人挟撃! 推進力を得られる『ブラックターボ』あっての攻撃法だ。思い付きではあったが思いの外うまいこと決まった。


 戦斧と俺の蹴りがそれぞれ反対からリオンドを襲う……!


「ヅげっ?!」


「君は面白いな、ゼンタ」


 喉を突かれて、蹴りを止められた。そして戦斧はその前に明後日の方向へぶっ飛んじまっている。全力の一撃を逸らされるってんなら数で攻めたほうがいい。そう考えての策だったわけだが、どうも逆効果だったみてーだ。


 考えてみりゃ最強の一撃でもあんだけ完璧に対処できる奴なんだ、いくら挟み撃ちしたって軽い攻撃なんぞ屁のかっぱでもねえだろう。くそったれ。


「クリーンヒット! リオンドが二点目を獲得! マッチポイントだ!」


「くっ……、」


「だが、面白いだけではな。そろそろ君の強さを見せてほしいところだ。もう後がないぞ?」


 トードのカウントと喉の痛みに顔を歪める俺とは対照的に、リオンドはイケメンスマイルを浮かべている。おうおう、爽やかに挑発してくれるじゃねえか。


「大道芸見せてるつもりはねえんだがな……」


「ふむ……どうやら君の経験は偏っている、とお見受けする」


「あ?」


「おそらくだが、これまで実力の勝る相手とばかり戦ってきたんじゃあないか? 互角の勝負というものをあまり経験してきていない。君のがむしゃらさはそういう戦い方に見える」


「……、」


 明らかな格下を除けば、まあそうだ。立ち塞がってきた敵はいつも格上だった。


 命懸けの場面では毎回と言っていいほど、俺は死に物狂いで勝機を手繰り寄せてどうにかこうにか勝ってきた――命を拾ってきた。


 その経験は俺を確実に強くさせたが、しかし。


「確かに飛躍的に強くなれる。地道に修練を重ねるよりも余程にな。しかし、それではどうしても取りこぼしも出る。地道な修練でこそ得られ、後の実践によって結実する細やかな技、そして精神性。そういった強さもある、と俺は君に教えなければならないようだ」


「そりゃありがてえこって」


 地力で劣るのは、いつも俺だった。その最たる例が対マリア戦、そして先日の対魔皇戦だが。


 今日ばかりは違う。レベルもステータスも――今は数値を見られないが――カンストが近づき普通の人間じゃ太刀打ちできないようになってる俺は、素の力だけで言えばリオンドを遥かに上回っている。


 パワーも、スピードも。俺のほうがずっと勝ってんだ。


 なのに攻めきれねえ、どころか逆に攻められ放題なのは……リオンドの言うところの「取りこぼし」のせいであり、出力ばかりを欲してきたせいでアンバランスな強さを身に付けちまった俺のいびつさにあるんだろうよ。


 それはなるほどと胸に落ちてくる理屈で、納得できはする。実際にリオンドの技量を目の当たりにしてんだから余計にな。けれど。


「あと一点。それで終わりだな」


「いいや、あと三点だ。俺が一気に掻っ攫うんでな」


 だからって俺がリオンドに負ける理屈にはならねえ。それをこっちが教えてやるぜ……!


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