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426.バグってる

「いいか! お前たちに力の限り暴れられちゃ堪ったもんじゃねえ! 両者ともに自制の精神はあるようだが、どうしたって熱くなっちまうのが男ってもんだし決闘ってもんだ――戦ってるうちについってこともあらぁな! そうならねえように俺の独断でルールを設けさせてもらう!」


 決闘を始めさせる前にトードはそんなことを言い出した。


 対面ではリオンドが「ルール?」と興味深そうにしている……俺もそれがどんなもんか気になりはするが、意識は目の前にあるステータス画面のほうに九割がた持っていかれていてそれどころじゃあなかった。


「なんだこりゃあ……いったい!?」



『シバ・ゼンタ LV■■

 ネクロマンサー

 HP:■■(■■)

 SP:■■(■■)

 Str:■■

 Agi:■■

 Dex:■■

 Int:■ 

 Vit:■■

 Arm:■■

 Res:■■


 スキル

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 クラススキル

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 【■■】

 【■■】』



「バ……バグってるー!?」


 真っっっ黒じゃねえか! ステータスがひとつも読めねえ、スキルもだ! まるで検閲された文章みてーに塗り潰されててなんもわからんぞ!


 ちゃんと書かれてるのは名前と、ネクロマンサーって職業クラスだけ……っておい舐めてんのか。こんな情報量じゃステータス画面を見られる意味ねえじゃんかよ。


 あと地味に腹立つのがIntの項目だけ明らかに短いってところだ。黒塗りでも1なのがわかるんですけど。自己主張こいつだけ半端じゃねえんすけど!


 ともかく参ったな、こりゃあ。何が原因かは知らねえが、今んとこ俺は自分のステータスもスキルも確認できなくなっちまってるらしい。

 確かめてみると装備欄でも同様の現象が見られ、もうお手上げだと悟ったぜ。


 インガ戦のあとからもレベルアップしてるし、できりゃあちゃんと知っておきたかったんだがな。


「――おい。おい、ゼンタ。聞いてんのか?!」


「っと、悪ぃトードさん! なんでもねえから続けてくれ!」


 一人で騒いで怒って落胆して、とやってる俺はさぞ奇妙に映ったことだろう。だがトードも来訪者の奇行には慣れっこだとばかりに鼻を鳴らし、あまり気にすることなくルールの説明を続行してくれた。


「一度しか言わねえからよく聞けよ。ヒット三回! それが勝利条件だ! 相手へ三発攻撃を当てた時点でそいつの勝ち。効いてる効いてねえは考慮しねえし、命中かどうかの判定は俺が下す!」


 ――俺個人の問題か、それとも全体の問題か? 来訪者のシステムにかかるトラブルだってんなら、まあ……いやそれはそれで心配ではあるが、上位者かみの杜撰さにもはや疑うところはねえ。そういうミスもあり得そうだ。


 そんで、ミスしがちな奴ならそのリカバーにも精通するだろう。来訪者全員の問題ならなおさら解決を急ぐはず。と、思いてえ。


 ネックなのは俺一人だけおかしくなってる場合だな。

 それだと上位者が不備に気付かねーかもしれんし、最悪気付いたところで大して支障なしと直してくれねえかもしれねえ。


 それもまた十分あり得るこったぜ、このなんちゃって神さまならよぉ。


 他の来訪者がいればすぐわかることなんだが、この場には見事に俺だけだからな……ヤチを家ん中に置いてきたのは失敗だったか。


「カス当たりくれえじゃ命中とは認めない! クリーンヒット一回につき一点、俺が先に三点を与えた側の勝利となる! 判定に不平不満は一切受け付けねえ! このルールに従えるってんなら決闘を始めるがそうじゃなけりゃお開きだ、どうする!」


「俺は構わない。本音を言えば『参った』が出るまでやり合いたかったが、それだと確かにやり過ぎる不安もある。トードの懸念は立会人として尤もだ、従うことに否やはないとも」


 それに、とリオンドは続ける。


「特殊なルールでの決闘もそれはそれで面白そうだ。ゼンタはどうだ? 三点先取ではあっさり終わる可能性もある。つまらないと思うなら降りてくれてもいいが」


「いや、俺も従うぜ。裏庭を荒らさずに済むならこっちとしても助かる」


 ステータス画面のバグ表示に関しちゃ俺の力じゃどうしようもねえんで、ひとまず頭から追い出しておく。


 ちゃんと話は聞いてたぜ、三発当てりゃ勝ちの変則ルールだろ? リオンドの言う通りこれじゃあっさり終わっちまいそうだし、そうなりゃ物足りねえ気分にもなりそうだが、そんくらいでちょうどいいのかもしれねえ。


 そう判断して同意を返せば、リオンドは勝負の開始位置を離れて林のほうへと歩いていく。何をしてんだとその姿を見てると、選んだ一本の木に手をやってリオンドは訊ねてきた。


「ゼンタ。この木の一部を貰ってもいいかな」


「あ? ……それは別にいいけどよ。何するつもりだ?」


「見ていればわかる――『クリエイト』」


「!」


 リオンドは木から何かを引き抜いた。それは木刀、じゃなく木剣か。木にはへっこみができている……いかにも木剣の質量が持っていかれたみてーに。


「木からそいつを作ったのか」


「その通り。全ての構築魔法の根幹である無属性の『クリエイト』だ。こいつにできることはこれくらいが精々だが、割と便利な魔法だよ」


 ひゅんひゅんと具合を確かめるように軽く剣を振るリオンド。たったそれだけの動作でもこいつが並外れてることはわかる。


 そうか、冒険者の頂点。そう呼ばれる男のメインウェポンは剣か。


 丸腰でうちに来たのは交戦意思がないことを訴えてるか、そう見せかけて襲ってくるつもりかと邪推してたんだが、どっちも違ったな。


「どうして急に武器を持つ気になった?」


「試し方を変えようと思ってな。トードのルールならリーチのあるほうが遥かに有利だ」


「はーん……」


 射程の広いほうが有利ってのはどんな戦いでも一緒ではあるが、ダメージを重視しないポイント制ならそら尚のことだ。剣を持つことで伸びた間合いは確実にリオンドを手強くさせるだろう。


「さて。やるか」


 リオンドが半身になって構えた。剣は片手で所持し、体を隠すように前へ。俺が狙える部分はほぼない。


 ひしひしとプレッシャーが伝わってくる……どうやら最初からエンジンをふかしてきやがるな? 


 試し方を変える、ってのは腰を据えてじっくりとやり合うんじゃあなく、勝負を終わらせるつもりで挑む自分を俺がどう捌くか。それを見るって意味だ。特殊ルールならそちらのほうがより楽しめるとリオンドは考えたんだろうよ。


 侮られている――とは思わん。

 そうじゃねえってことはこの剣気からして明らかだからな。


 覚醒状態のユーキのそれにも似たこの鋭い殺気。殺す意思はない、だがリオンドは確実にるつもりで剣を向けてきている。


 刃のない剣で、しかし俺を斬ることだけを考えている――。


「【超活性】・【死活】……【武装】発動、『非業の戦斧』」


 その意気に応じて俺も武器を持ち、構える。数瞬の間。


「決闘開始ィ!」


 訓練場じゃなくギルドの庭でやってることを考慮してか、以前のより控え目な開始宣言がトードの口から出た。その途端にリオンドは動く。滑るように、ほとんど脚を動かさない足取り。なのに速い!


「うぉっ、」


 異様なまでに伸びてきた突き。あっという間に距離を侵略してきたその剣先を戦斧の柄で逸らす。それに成功したと思えば既に剣は引かれ、瞬きの間もなく二段斬りが俺を襲った。


「ちぃっ!」


 戦斧のデカさを活かして盾代わりに受けるが、俺に余裕はない。リオンドの平坦な目付きは観察者のそれだ。すぐに対応が追い付かねえ攻め方をしてくるだろう――ってのが【先見予知】に頼らなくてもわかる。


 防ぎながら大きく弾き、距離を取る。

 つもりで後ろに下がったんだが、リオンドは変わらずすぐそこにいる。

 そして機先を制すように低い蹴りで足払いをして、同時に下から剣で突いてくる。


 一連のそれは当てるというよりも俺の体勢を思い通りに動かすための手順。その果てに。


「クリーンヒット、リオンド! 一点先取だ!」


「まずは一本……どうしたゼンタ? これでは本当にあっさりと終わってしまうぞ」


「っ……!」


 ムカつくまでに綺麗な横一文字で胴体斬りを決められた俺は、思わず笑みを浮かべていた。


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