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425.肩慣らしだよ

「おい、リオンド」


「いいじゃないか? 冒険者同士の決闘は公正かつ法的にも認められたものだ。騒ぎには当たらないし、咎められるべきでもない。それはトード、お前もよく存じているはずだろう」


「……立会人のいねえ決闘はご法度だがな。まさかお前、このために『アンダーテイカー』に足を運んだのか? 俺を連れ出す目的で?」


 ふ、と微笑むリオンド。それが答えだった。


 最初から必ず決闘をしようと意気込んでいたわけではないんだろう。ただ、それも見据えてはいたってわけだ。


 俺という人間を見て、知る。それが問答だけで足りることならいいが、もしそうでなければそのときは――そういう考えのもとにリオンドはトードを組合から引っ張ってきたんだ。


 組合の訓練場で決闘を行なえば、どうしても居合わせた冒険者たちがこぞって見学についてきちまうからな。ジョニーと戦ったときもカスカと戦ったときもそうだったんだから、今回だってぜってーそうなるぜ。


 おそらくリオンドはそれを避けたかった。俺との勝負を他所の者たちに見られたくなかったんだ。


 自分は組合で腰を落ち着けて待って、俺たちのほうを出向かせる。『最強団ストレングス』のネームバリューを思えばそっちのが自然なくらいだ。


 なのにそうしなかったのは、こいつが会いたい相手を呼びつける不躾な真似を嫌ったってんじゃなく、この展開へ持っていけるようにしたのが真相。……つって、決闘は一方の意思だけで成立するもんじゃあねえ。


「どうする? 君次第だぞゼンタ。決闘の申し付けに強制力というものはない、断られればそこまでの話だ。その時は俺も食い下がることはせず、大人しく君の前から去ろう」


 と、リオンドは問いかけてくる。


 それは挑発的でもなければ、かと言って熱のない発言でもなかった。こいつにしては珍しく「りたい」っていう感情がダイレクトに伝わってくる物言い。

 だが、俺が拒否するのは当然の権利だと認めているし、そうなればそれを受け入れるつもりでもいると。


 ……ぶっちゃけ応じる意味はねえ。

 意味っつーかメリットか。


 ここで決闘をして俺が得るものは何か――リオンドの実力を肌で感じること。それ以外にゃ特にねえんだから。


 仮面女たちを従える男の強さ。それを直に知れることは決して悪いもんじゃあねえだろうが、その反面、こっちの強さだってもろに知られちまうってことを忘れちゃならねえぜ。


 トード、パイン、マクシミリオン……知人である彼らからリオンドが冒険者の頂点に立つ男だって情報は既にもらっている。べらぼうにつえー奴だってこたぁもう知ってんだ。耳で聞くのと実際に戦うのでは天と地ほどに差はあるが、そこの確認のために決闘をするってのはどうなんだろうな。


 ってのが、本音の側面。だけど気持ちのもう半分にゃあ、それとはまったく逆の思いがある。


 そして俺ぁもう、その残り半分にこそ従うつもりでいた。


「――受けてやるぜ、その決闘」


「そうこなくては」


 メリットは薄い。

 だがデメリットも言うほど大したことねえと判断した。


「あー、やっぱり」

「ま、仕方ないね。ゼンタだし」


 俺の決定にサラやアップルはやれやれといった顔をしている。けどやめさせようって気はないようだ。言っても無駄だしな、って感じか? ……一応は俺なりに考えた末での承諾なんだけどな。


 もしかすっと売られた喧嘩をただ買っただけだと思われてんのかもしれん。


 実際それはそうなんで、否定はできねえけどよ。


「うちは裏庭が広い。木に囲まれてて人目にもつかない。やるならそこでどうだ?」


「いいね」

 

 リオンドはふたつ返事だった。



◇◇◇



 と、いうことで皆そろって庭のほうに出た。昨晩開いた大穴をまだ埋めてなかったことを思い出して俺はあちゃあと思ったが、すぐに穴が増えるかもだし、二度手間にならなくてよかったってところかね。邪魔ではあるが。


「ゼンタ。一応聞くが、本当にいいのか? 別にあいつの我儘に付き合う必要はねえんだぞ」


 準備運動をしてる傍にトードが来て、そう声をかけてきた。この人は『灰』関連のことを知ってるし、俺たちが今後どうしていくのかも把握してる。いいのか、っつーのはさっき俺が考えてたことに近い意味での懸念を言ってるんだろう。


 だから俺は大丈夫だと答えた。


「肩慣らしだよトードさん。お互いにな」


「お互い?」


「向こうも本気じゃやらねえさ。そんで俺が本気を出すとも思ってねえ。こいつはちょっとした遊びみてーなもんだ」


「ふん。そりゃこんな街中でてめえらに本気になられちゃ困るぜ。……軽はずみに受けたわけじゃねえってのはわかってるが、それだけに熱くなりすぎるなよ」


「りょーかい。トードさんに迷惑はかけねえよ」


「ならいい。リオンドのほうにも釘を刺しとくか……」


 そう言ってトードは俺同様に軽くストレッチをしてるリオンドのほうへ足を向けた。俺たちはどっちも開始位置に立ってる。トードが離れて、そして勝負開始の宣言をすれば決闘の始まりだ。


「ゼンタさーん、思い切りぶっ倒しちゃってくださーい!」

「……それは推奨しない。でも、負けないで」

「なんでもいいけど、ほどほどにねー」


「おーう、まかせとけー」


 三人それぞれの応援めいたもんに俺も拳を上げとく。


 ちな、ヤチだけはギルドハウスに残ってもらってる。なんせあいつ決闘って言葉だけでも怖がってたからな。


 いざとなれば度胸のあるやつだが、いざとならなければやっぱすげー臆病だ。本人は怯えつつも俺の戦ってるとこを見届けたい、と言ってたんだが……別にそんな大層な戦いをするわけでもねーからな。


 無理しねーで、まだ朝食を取ってないユマやガンズの飯でも用意しといてくれと頼んでおいた。


 そうそう、あの二人の頑張りもあって今朝のうちにヤチは屋根の煙突を修理済みだ。それもハウスモードでの耐久性を大幅アップさせたうえでな。


 元々ギルドロボ・フューネラルに変形した状態と比べると、家のままでは頑丈さで大きく劣っていたからな。今回、大修繕のついでにそういう目に付いたとこも改善してるんだ。仕事熱心な三人で助かるぜ。


 裏庭もギルドハウスの一部だと紅蓮魔鉱石に認識させればスコップなんか使わなくても自動で穴が埋まったりしねえだろうか……? フューネラルになるとここから離れちまうからそれは難しいかな。


 一応は俺が主人だってのに、そこらへんよくわかんねえ。あとでヤチに聞いてみよう。


 お、トードがリオンドに背を向けた。そして、俺たちを眺められる位置へと移動する……いよいよ始まりのときだ。


「日も高くなってきた。お誂え向きだよな」


「ん? ……ああ、天気もいいことだし決闘日和だ」


 同意するリオンドだが、俺の真意はわかってねえ。こっちはこの日光自体に用があった。


 夜では絶好調だったが、この先、日が落ちてからしか戦わないなんてことができるはずもない。すぐにでも今の体質に慣れる必要がある……そう考えたとき、胃の一番にやらなくちゃならねえのはやはり日光を克服することだ。


 体調は、悪くない。昨日みてーなふらつきはない。多少光が鬱陶しいぐらいのもんだ。

 調子がいいとは言えねーがこれなら十分戦えはする。


 ちょうどいい。こんぐらいのコンディションで、相手は人類最強。厳しい勝負になることは目に見えてるが、だからこそ俺は決闘に乗っかったんだ。肩慣らしってのもそういう意味。


 こんな贅沢なトレーニングはやりたくてもそうそうできるもんじゃあねえからな……!


「おっと、その前にちょいと見ておくか」


 トードが決闘開始の宣言をしちまう前にちろっとステータスを確かめておこうと思った。


 振り返ってみるとインガを倒したあとの確認からこっち、一度もステータス画面を開いてねえってことに気付いたんだ。


 あれから怒涛なまでに色々とあってそれどころじゃなかったからな……だが今の自分がどれくらいのもんか、リオンドと戦うに当たってちゃんと把握しとくべきだろう。


「っ?!」


 そう考えてのことだったんだがな。ざっと目を通すに留めるつもりだった俺は、思わずおもっきし目を奪われちまった。


 開かれた画面。そこに書かれていたのは――。


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