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419.誰が誰をつれてくるのか

 皆の視線が、通話機に向く。せっかく導入したってのにうちのはあまり鳴らねえからな。


 誰かからかかってきたと思ってもほぼ組合からの依頼指名だし……それすらも少ないのは、俺たちが割と頻繁に組合のほうに顔を出してるからでもある。直接会って話してるなら通話の必要はないってことだ。


 最近は中央にかかりきりになってるんで、パーティとしての『アンダーテイカー』がポレロの組合に出向く回数は目に見えて減った。だけど昨日も一応はトードに一連の報告をしに行ったんだよな……話があるならそんときに済ませるだろうし、じゃあこの通話はどこからのもんだろう。


 他に考えられるとすれば中央で何かあった、とかか。ただそれにしたって組合を中継して連絡がきそうなもんだ。というか実際、ギルド同盟の招集のときにはそうだった。


「はいもしもし、こちら冒険者ギルド『アンダーテイカー』です――あれ、ビートさん?」


 とてとてと小走りで移動したヤチが通話に出ると、すぐに相手が誰か判明した。なんだ、ビートかよ。俺だけじゃなく全員がそう思ったのが空気で伝わってくる。


 ビートとファンクはまさに今、組合へと顔を出しに行ってるところだ。


 次に中央へ行けばいつ帰ってくるかは未定だからな。俺たち同様に世話になったトードや、一緒にクエストを受けてた他のパーティに軽く恩返しをしてから長期休養のていで一旦、正式に活動を停止する。俺が起きたときにはもう出発の準備を終えていた二人からそういう説明があった。


 いつギルドハウスが全ての機能を――具体的にはギルドロボへの変形機能だが――取り戻せるかは不明だが、ガンズやユマの話じゃそう時間はかからないそうだ。なもんで、明日にも中央へ出ることになってもいいようにとビートたちも大急ぎで身の回りの整理をしてるってわけだ。


 人付き合いが多くなればそれだけしがらみも増える……とはいえ、それを蔑ろにすんのだけはナシだ。


 ポレロの中心的市場であるマーケット。その顔役の一人のはずのテッカはなんの連絡もなく中央に残っちまったわけだが……まあ、テッカはテッカだからな。


 マーケットの誰も特にそのことを気にしている様子がないと言えば、普段からあの人がどんだけ自由でしがらみなんぞとは無縁かがわかる。そもそも現時点ではマーケットに店を持ててねえからな、何が顔役だって感じだ。


 営業停止処分は向こう一年だって言ってたから、まだしばらく復帰は遠いな。テッカの弟子でもあるビートとファンクがこういう私生活での奔放さを見習わなかったこたぁ、もっと褒めてやるべきかもしれんぜ。


「うん、ここにいるよ。サラちゃんとメモリちゃん、それにアップルちゃんも一緒。……えっ、トードさんが?」


 なんてことをつらつらと考えてたのは、大した用件じゃねえだろうと高をくくってたからだ。何か忘れもんでも届けてほしいのか、もしくは知り合いとどっかに出かけてくるっていう一報か。それくらいのもんだろうってな。


 だがヤチの様子じゃちょっと雰囲気が違う。通話口の向こうじゃけっこうな真剣さで話してるようだ……何故かトードの名前まで出てるしな。俺はそこで席を立った。


「うん、うん――嘘、まさか。あっ、ごめんなさい。疑ったわけじゃなくて、タイミングがあまりにも……だったから。うん、そう。じゃあ代わるね」


 振り向いて俺を呼ぼうとしたんだろうが、その必要はねえ。そうくると思って傍で待ってたところだ。


 ヤチが何かを言う前に手を差し出せば、すぐに受話器を渡してくれた。そのまま耳に当てる。


「おう、俺だ。どうしたよビート? そっちでなんかあったのか」


『兄貴すいやせん! 道中ややこしくなるから俺たちは来るなと止められちまって……トードさんが責任もってそっちに送ると! けどその前に知らせだけでも入れておこうと思って――』


「待ておい、よく意味がわかんねえぞ。トードさんが何を送るって?」


『リオンドです! そう名乗ってました、なんでも例のギルドのリーダーだとかなんとか……!』


「何……!?」


 リオンド――リオンド・アントギクス? 『最強団ストレングス』リーダーの男が、ここポレロにいるって? 


「確かなのか?」


『トードさんがそう言ってたんで間違いはないかと。リオンドはうちに……いや、兄貴に用があってやってきたようなんです。今、トードさんの案内でそっちに向かってるはずです!』


「おいおい……」


 マジか。来んのかよ、リオンドが。たった今そいつの話題で盛り上がって――否、盛り下がってたとこだってのに。こういうのを噂をすれば影、っていうのか? 


 なんにせよヤチが驚いていたわけがわかったぜ。確かにこりゃあすごいタイミングだ。まるで誰かが図ったかのような。


 つって、リオンドの話題になったのは昨夜のカスカたちとのバトルあってのこと。カスカたちもリオンドも同じ『灰の手』所属なんだから、動き方が似通るのも当然と言えば当然だ。


 こんなにも早く『最強団ストレングス』のメンバーと接触すんのはさすがに想定外だが、契機としちゃごく自然なことでもあるよな。


「ん? なんか後ろが騒がしいが、組合からかけてんだよな?」


『うす! あのアーバンパレスに唯一並ぶギルドのトップが現れたとあって、みんなザワついちまってまだ落ち着いてないんすよ』


 そう語るビートのほうは、少し落ち着きを取り戻したようだ。声の大きさや鼻息の荒さが静まってきた。トードとリオンドの到着前に知らせようと必死になってたんだろうが、いくらなんでも慌て過ぎだぜ。


 ひょっとすると一大事になるかもしれねえと思えばその気持ちもわからんでもないがよ。


「安心しとけ。トードさんが一緒なら滅多なことにはならねえだろうよ。俺もドンパチするつもりはねえ。ファンクにもそう伝えてくれ」


『自分も聞いていますよ、兄貴!』


 おっと、この声はファンクか。ノータイムで返事がきたってこたぁ、どうやら二人とも受話器に顔を引っ付けているらしい。それって傍から見ると相当……いやなんでもねえ。


「トードさんの言う通り、お前たちは自分の用を済ませときゃいいからな」


『ですが兄貴、万が一ってこともあるんじゃないっすか。必要とあらば俺たちも今すぐ戻りますが、どうします』


「……、」


 まあ。いくら俺にそのつもりがなくても、トードが抑えさせるつもりであっても、結局はリオンドがどういうつもりか。うちを訪ねて何をしようとしてんのか次第ってところはあるわな。


 万が一にも戦いを仕掛けてこねえとは断言できんし、その保証はどこにもない。だから戦力を固めようっつービートの案は正しいと俺も思うんだが……。


「もう一度言うぜお前ら。安心しておけよ。リオンドがどんなつもりだろうが、俺がぜってー騒ぎにゃさせねえからよ」


『……!』


 通話機の奥で息を呑む気配が伝わってきた。これはいつものだな……やたら俺の言動に感銘を受けがちなこいつらの妙なクセが、また出ちまったようだ。

 今は好都合なんで別にいいけど、普段からこの調子なんで疲れはするぜ。


「切るぞ。うちのこと気にして挨拶回りを疎かにはしてくれるなよ」


『もちろんです兄貴! そちらのことはお任せしましたっ!』


「ああ、任せときな」


 高いもんなんでそっと受話器を置く。形としては、同年代でも知らねえやつのほうが多かろう昔懐かしの黒電話に近い。施設ではまだ現役だったんで俺にとっちゃ馴染み深いけどな。今でもまだ使われてるかは知らんが。


 とにかくそうやって通話を切ってから、俺はヤチ以外の三人に自分の口で教えてやった。


 これからこのギルドに、誰が誰をつれてくるのか。それを聞いてサラだけじゃなくメモリも意外そうに目を丸くさせ、念のために戦闘の心構えだけはしておこうと話し合ったところで――。


 これまた随分とタイミングよく、ギルドのチャイムがやけにしっとりと鳴り響いた。


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