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415.フラれちまった

「くっくっく」


 ギラギラした双眸でレンヤは俺を――だけじゃなく、俺の仲間たちのことも睥睨する。


「そうか、これが『葬儀屋アンダーテイカー』。お前の手下たちかよゼンタ。なかなか面白そうなのが揃ってんな……いいじゃねえか! お前を物にすればこいつらもついてくるってわけだろ? ますます物欲が疼くぜ……!」


 どうやらあの目に光ってるもんは欲望らしい。ったく、どこまでもわかりやすい男だなこいつは。


 呆れながらも俺がサラの前に出れば、レンヤもそれに合わせて一歩近づいてくる。彼我の距離は五メートルってところか……俺もやつも瞬時に詰められる間合いだ。


「主人の危機にいじらしく駆けつけてくるとは泣けるぜ。助けたつもりかもしれねえが、こいつは俺様にとっても格好の機会。獲物が増えたってだけのこと! ヒャハハ、てめえらまとめて【隷属】で俺のもんにしてやるよ」


「あくまで戦る気だってんだな? こっちはギルド挙げての戦闘だぜ」


「それがどうした!? 俺様が臆する理由にゃあなりゃしねえんだ、この世の何事だってなぁ!」


「待ちなさいよ、レンヤ」

「!」


 猛るレンヤが仕掛けよう、とした直前でカスカが涼やかな声で止めた。今度は言葉だけじゃなく、レンヤの足元に羽根の弾丸を撃ち込むおまけ付きだ。


 これにはさすがのレンヤも無視はできず、ぎろりとカスカを睨めつけた。


「なんのつもりだ、てめえ」


「それはこっちの台詞。流石に引き時でしょ」


「引き時ぃ? それを何故てめえが決める」


「これが私たちの独断だってこと、忘れてないでしょうね。勝手についてきておいてまだ大事にしようっていうなら私も容赦しないわよ」


「へぇ! 容赦しねえってのはなんだろうなぁ。具体的にどうしてくださるって?」


「馬鹿ね。今『灰の手』内で立場を悪くしていいのかと言っているのよ。このままいけば『灰』の覚えも悪い意味で良くなるわよ。あんたでも常に目を付けられていたら、先々どうしようもないんじゃない?」


「……あァ、確かになぁ。ここでゼンタを手に入れときてえではあるが、そのために『灰』から顰蹙買うのは本末転倒だわな」


 納得を見せた。かに思えたレンヤはしかし、目付きの剣呑さはまだそのままだった。


「だが気に食わねえな、白羽。てめえなんぞの指図を受けるのはよぉ」


「あら、同じ負け犬同士なのにまだ自分が上のつもり?」


「あぁ? 俺様が負け犬だと……!?」


「だってそうでしょう、あんたも結局はゼンタの勧誘に失敗している。単に宣戦布告に来ただけの私たちよりも手酷いミスだと言えるわ」


「てめえの目は節穴か!? あと一歩のところまで追い詰めてただろうが! こいつらが現れなかったら今頃ゼンタは俺の部下だったぜ! この悪運の強ささえなけりゃ――」


「本当にそう?」


「!」


「仮にギルドメンバーが来なかったとしても、ゼンタが屈服していたとは私には思えない……あんたはどうなの? 本当に【隷属】は発動できていたと思う?」


「……、」


 レンヤは答えなかった。そりゃつまり、自信満々な態度とは裏腹にそういう予感は言うほどしてなかったってこと。


 そしてそれは大正解だ。

 どんだけ痛めつけられたところで俺がレンヤに屈服するなんてこたぁ、絶対になかったからな。


 あのままだったらレンヤは殴り損、俺は殴られ損でお互いくたびれ儲けになるところだった。その不毛さを思うと窮地に気付いてくれたヤチには感謝してもしきれねえ。こうしてわざわざギルドの全員で助けにきてくれたわけだからな……ん、全員?


 カスカとレンヤがバチバチと火花を散らし合ってるとこ悪いが、ちょいと気になったんで後ろのヤチに訊ねてみる。


「おい、ヨウカとシズクはどうした? あいつらだけ姿が見えないが」


「えっと……眠くて起きられないから、みんなに任せるって言ってたよ」


「そーかそーか。あいつらはそういうやつだよな」


 起きられないじゃなくて起きたくないが本音だよな、絶対に。


 戦闘員じゃねえユマとかガンズまで揃ってきてくれてるってのに、薄情なこったぜ入野姉妹。朝一番で中央に送り返してやろうかな。物品扱いで。


「――チッ!」


 大きい舌打ち。

 それはレンヤの口から飛び出したもんだ。


 コートを翻して背を向けたってことは、カスカの説得に応じたと見ていいだろう。そうでもなきゃあいつが『獲物』と評した存在に背中を晒すなんてことはしねえだろうからな。


 と言ってもありありと浮かぶ不満のオーラからお察しの通り、不承不承の撤退だってのは丸わかりだが。


 説得に応じたってよりも、辛うじて保身が物欲を上回ったってところか。もし逆ならカスカに何を言われようと「知ったことか」の一言で切り捨て、事情などお構いなしに戦闘をおっ始めていたはず。レンヤってのはそういう男だ。


 だが、そんな激しい男でも今はまだ保身を第一にしなきゃならねえくらい……『灰の者たち』を強敵だと見做してるってことだよな。


 引いてくれるのは嬉しいが、その判断理由はちっとも嬉しくねえぜ。


「おい、レンヤ!」


 去ろうとする背中に声をかけると、一応は止まってくれた。無視して行っちまうかと思ってただけにラッキーだ、今のうちに言いたいことを言っちまおう。


「いずれ『灰』より上に立とうと企んでんなら、そんときだけは俺もお前と一緒に戦えるだろ。利害の一致ってやつだ。部下になるつもりはねえが、お前のやり方次第じゃ肩を並べることだってできるかもだぜ」


「ヒャハ! 肩を並べての共闘か、それもそれで面白そうだ……だが、そういう事態にならねえことをお前は願ってる。そうじゃねえのか?」


「あたぼうよ」


「けっ! だったら話にもならねえな。俺様は俺様の道を行く! お前の指図だって受けやしねえよ。それにさっきみてーに一方的な戦いはつまらねえしなぁ……いずれつける決着ではもっと熱くなれることを期待してるぜぇ? ゼンタよ」


 ――そう言い残し、レンヤは消えた。


 ソラナキの感覚を以てしてもいきなり消失したようにしか見えなかったぞ……やっぱあいつとまともにやり合うとなると、こっちも相当な覚悟が要りそうだな。


「おい、お前たちも」


「!」


 レンヤに続いて撤退の雰囲気を見せ、一つ所に固まったカスカたちにも言っておく。


「レンヤとだけじゃあないぜ。お前たちとだって、必ずしも敵対するこたぁねえと俺は考えてる」


「……まさかでしょ。管理者に歯向かう気でいるレンヤも大概だけど、上位者を倒そうだなんて本気で考えてるあんたはもっと異常よ。そのふたつに逆らわないことでこの世界への定住を希望している私たちが、あんたなんかと手を組むと思う?」


「思わんな。でも、組んでほしいとは思ってる」


「レンヤと同じ返事をさせてもらうわ。『話にならない』」


 それだけ言って会話を打ち切ろうとするカスカに構わず、俺は続けた。


「それによ、言っただろ? カスカもヨルもまだうちのメンバーだって」


「……!」


「なんだったらハヤテもカナデもうちに来いよ。そんで協力してくれ。帰りたい組も残りたい組も犠牲にならねえような、皆が満足いく結果ってのを掴み取るために……俺たちは助け合うべきだろ」


「…………、」


 黙ったカスカを、ハヤテとカナデはちらちらと見ている。俺のほうにも視線を寄越すからには、少しは心を動かされてると思っていいんだろうか。


 そしてこの感じからすると、この四人組のリーダーは間違いなくカスカっぽいな。そう思ったからこそカスカを中心に引き留めようとしてるわけだが、どうか。


「――行くわよ。ヨル、お願い」

「……うむ」


「あ、おいこらっ、」


 なんて止める間もなく、今度こそカスカたちは行っちまった。血でできた縄みたいなので四人がまとめて縛られたかと思えば、どこかに引っ張られるようにしてすげー勢いで上空へ消えていったんだ。


 今のも血属性の魔法か? それとも単に血は一塊になるためだけで、移動自体は誰かのスキルによるものか……考えたってわからんな。


 わかるのは、レンヤにもカスカたちにもフラれちまった。それだけだ。


「ゼンタさん」


「ああ……大丈夫だ」


 ちょいと気落ちしたのがバレちまったらしい。気遣わしげに触れてくるサラの手を、俺はなんてことねえよと握り返してやった。


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