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41.死者しか眠っていないはずの

誤字報告ありがとうございます

「失踪事件の調査を、村長はやる気がなかったってことっすか?」


「ああ。たぶんだが、村長は冒険者組合を利用したことがないものだから、冒険者の力量というものを信用していないんだろう」


 その点ミルスは仕事の都合で街にも頻繁に繰り出すため、冒険者の活躍を目にも耳にもする機会が多くある。

 それで住民たちの意見も汲み上げて村長へ伝えて、組合への依頼を強く推したんだとか。


「ただでさえ村長には心労もあるからね。余所者に村の相談をしたくないと思われるのも無理はない……ああ、俺は村の内だろうと外だろうと解決してくれるなら気にしないよ。だけど……」


 と、そこでミルスは言いよどんだ。

 それからすまなそうな顔をして「失礼だが」と続けた。


「君たちを疑うわけじゃないんだが、私の要望はちゃんと通っているのだろうか? ネクロマンサーを含む実力者のパーティを、とお願いしたんだが」


「問題はない」


 そこで真っ先に質問に答えたのはメモリだった。

 動かしたのは口だけじゃなく、ローブの内から手を出してそっとミルスへと向けた。


 それにミルスが不思議そうにした瞬間。


「なぁっ……!」


 彼の顔を舐めようとするかのような超至近距離に、青白い骸骨がいた。それはメモリの体から出てきたものだ。


「わたしはネクロマンサー……そこに嘘はない。そして彼もまた、わたし以上のネクロマンサー。わたしたちはあなたの要望に適う、ポレロ唯一のパーティ。信頼して」


 そんなメモリのセリフは、笑うようにカタカタと歯を鳴らしている髑髏が喋っているかのようだった。それに視界を埋め尽くされているミルスには余計にそう思えたはずだ。


 骸骨の色が移ったみてーに顔を青くさせたミルスは、無言で激しく首を上下に動かした。ちと手段は乱暴だったが、どうやら認めてもらえたっぽいぞ。


 脅しただけに見えなくなくなくもないが……うん、初クエストの進捗は順調だな! そういうことにしておこうぜ。


「メモリ、もういい。十分だぜ」

「……」


 俺がそう言うと、メモリは無言で骸骨を引っ込めた。出し入れ自在か。召喚術とはまた違う系統の術っぽいが……やってること普通に俺のスキル並み、つーかそれ以上じゃね?


「メ、メモリちゃんがごめんなさい、ミルスさん。……でもこれで、ネクロマンサーの要請が通ったことは納得していただけましたよね?」


「あ、ああ。疑ってすまなかったね……」


 場を取りなすように言ったサラに、ミルスは律義に謝罪を口にした。

 顔はまだ若干青いままだが、眼前の髑髏が消えたことで落ち着きは取り戻せたみたいだ。


「これで確信を持てたよ。依頼は君たちに託そう……そうと決めたからには、ついてきてくれるかな。ちょうどお茶も飲み終わったようだし、ここからは詳しく、村で何が起こっているのかをご説明したい」


 そう告げて立ち上がったミルスに、俺たちも倣って家を出た。後ろをついて村の中を歩く最中、すれ違う村人たちと彼は親しげに挨拶を交わしていた。


 村とはいえ住んでいる人間は多そうなもんなのに、皆と顔見知りかつ仲も悪くなさそうだ。それって地味にすげえよな。


 ぞろぞろとミルスの背中に続く俺たちに向けられる奇異の視線を感じつつ、歩きながらミルスの話を聞いた。


「事の起こりは三ヵ月ほど前。把握している限りではそれが最初だ。ゲンという一人暮らしの男が、ある朝を境に急に姿を消した。それ以来この村では、十日前後の間隔で似たような失踪が後を絶たないんだ」


「一応お訊ねしますけど、家出ということはないんですか?」


 連続してる失踪者の全員が単なる家出、ってのは考えにくい。が、失踪の理由がわからないんじゃその可能性だってないとは言えない。


 特に家族がいるならともかく、最初の失踪者だというゲンなんて男の一人暮らしだってんなら、身軽なもんだ。ふと新天地を求めて旅に出ることだってあるかもしれない。


「勿論、君たちへ依頼するくらいだ。これがただの家出じゃないという根拠はある。それも、ふたつもね。そのうちのひとつを今からお見せしよう」


 一軒の家の前に立ち止まったミルスは、そこの玄関扉を注目するように言った。正確には、その一部分をな。


「なんだ、こりゃ……?」


 扉の一部には、べっとりと何かが塗られていた。

 見た目にはなんかの灰が粘り気を帯びているような感じ。

 なんだかわからんが、ちょい気持ち悪いぞ。


「ここが、最初の失踪者であるゲンの住居だ。今は空き家だが……実は、同じく失踪者だと見られる者の住んでいた家には、必ずこれと同じ物が塗られているんだ」


 他の家は失踪者の家族がいるため、何かの害があってはいけないとすぐに汚れを落としたそうだ。しかし村では珍しく単身住まいのゲンの家は、家主がいなくなればもう住民はいない。そのため、証拠を残すためにここだけは手つかずのままにしていたという。


 うーむ。ミルスは賢いっつーか、如才ねえな。

 なんでこの人が村長じゃないんだろうか。


「ふたつ目の根拠が、アレだよ。ここからも見えるだろう?」


 ゲンの家の裏手に移動した俺たちは、村外れの更に遠くにあるもんを目にした。


「あれは、墓地かなんかっすか……?」


「そう、村全体の共同墓所だ」


「墓所が根拠とはどういうことでしょう」


 言いながらサラは少しだけ不安そうにしていた。


 ミルスがネクロマンサーを所望していることと繋げて考えれば、誰だって嫌な予感くらい覚えるだろう。俺も墓場を見させられて、察しはつかずともなんとなく流れは読めたところだしな。


「ゲンは行方知れずになる前日、あの墓所へ向かっている。これは確かだ。夕刻、一人で村を出るゲンを他の者が見ているからね。……あの汚れがついた家の失踪者の中には、何人かゲンと同じように、墓所へ向かったらしい場面を目撃された者がいるんだよ」


「汚れと、墓所。失踪者を繋ぐふたつの点ってわけか」


 こりゃ確かに、ただの家出っぽくはねえなぁ。

 事件の匂いがぷんぷんするぜ?

 とは言っても何が原因なのか、全容はまだちっとも見えてこねえがな。


「俺たちにも原因はさっぱりだ。だが、あの墓所で何かが起きていることは確実なように思う。アンデッドの類いがミカケ村の住民を攫っているというのが住民間での有力な説だ。家の汚れは、その時についたアンデッドの痕跡なのではないかとね」


 ミルスの言葉はもっともなもんに聞こえたが、サラは首を捻っていた。


「おかしいですね。墓所とは死した命の眠る場所です。きちんと弔えば不浄は溜らず、アンデッドも発生しない……というより、発生させないための弔いですから。縁が深いように思えて、実はアンデッドと一番縁遠いのが人の管理下にある墓所なんです」


 ほーん……この世界じゃそういう感じなのか。俺たちの世界じゃ死体の山を雑に扱っても蛆と病気が蔓延るだけだが、こっちではアンデッドというモンスターが発生すると。ゾンビ映画みたいなことが現実で起こり得るわけだ……そりゃ怖ぇな。


 ミルスも当然、その知識は持っていたようで。


「死者の弔いはその都度きちんと行っている。だから何故こんなことになっているのか、まったくわからないんだ。墓所で問題が起きた前例もない。けれど、行方不明の住民があの墓所へ消えたらしいことは疑いようもない。死者しか眠っていないはずのあそこに、生者を呼び寄せる何者かがいるのだとしたら……ネクロマンサーにその荒ぶる魂を鎮めてもらうほかはない。俺たちはそう考えたんだよ」


 なるほど、な。


 こんな事件が起きたのも、墓所に原因があるらしいってのも、なんもかんも異例続きってことだな。


 ミルスの言う通り、こいつは住民だけでどうこうできるもんじゃなさそうだ。組合へ依頼を出したのは英断だろうぜ。


「………………」


 俺たちが話す間も一人じっと墓所のほうを見ていたメモリが、ふとローブから手を出した。その動きにミルスはぎょっとしたが、さっきのように自分に向けられなかったことで見るからに安堵している。


「おい、どうしたんだ?」

「あそこ」

「あそこって……あ」

 

 メモリの指差した先には、ふらふらと歩く人影があった。しかもそいつは明らかに墓所のほうを目指しているじゃねえか。それを確かめて、ミルスが叫んだ。


「あれは、リームス村長だ!」


「なんだって? まさか村長さんも墓所に呼ばれてやがるのか!?」


「なんてことだ……! そろそろ次の失踪者が出る頃だとは思っていたが、クソ!」


 ミルスは一目散に駆けていく。もち、俺たちもその背中を追った。


 やべえなこれ、かなりのシリアスが始まっちまってんぞ……!?


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