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407.かったるいったらありゃしねえ

 いることは最初からわかってた。【先見予知】だって警報はくれてたんだ。


 なのに反応できなかったのは、ヨルが巧かったからだ。俺の意識が攻めに集中してる瞬間、それも今度こそカスカが躱せねえっていうときに、想像以上の速度で突っ込んできた。


 思いのほか強烈な一発に吹っ飛ばされながら舌を打った俺は、自分がもたれていたもんでもカスカが立っていたもんでもない、屋根から伸びた三本あるうちの最後の煙突に手をかけて急停止する。


 そんでそこに足をつけ、蹴りつけて跳ぶ。

 進路はやってきたのと正反対、つまりはヨルのいる方向……!


「【死活】・【同刻】発動……【呪火】・【黒雷】!」


「血性変化……硬質外装」


 拳にスキルを乗せながら接近する俺を、ヨルは真っ直ぐに見つめる。その手にはどろりと血が集っていく……真っ向から迎え撃とうってか? 上等だぜコラ!


「『絶死拳』!」


「血爪の一撃!」


 血が固まって巨大な鉤爪になったかと思えば、ヨルはそれをこっちの殴打に合わせて叩きつけてきた。


 っ、硬い――だけじゃねえ、【呪火】も【黒雷】もいまいち通りが悪い。血には死属性の効き目がほとんどねえみてえだな。こりゃ面倒なこったぜ!


「よぉ、ヨル。聞いてるぜ、カーマインってやつの下についてんだろ」


「……!」


「王女様でもご先祖様にゃあ頭が上がらねえらしいな!?」


「その通り、妾にとって始祖様は絶対だ!」


「!」


 ガキン、と爪と拳で弾き合う。が、その瞬間にヨルは危うく見失いかけるほどの俊敏さで背後へと回りこんでいた。


 速ぇ。メイルとの戦いでヨルの敏捷性は知っていたつもりだったが、ここまでかよ!


 夜っていう時間帯は何も俺にばかり味方するわけじゃねえ。吸血鬼であるヨルにとっても夜半はベストの時刻だ。月明かりに照らされる吸血鬼の王女様は禍々しくも美しい。


 そのせいか、と思いつつとりあえず真後ろを蹴ってみるが、そんな当てずっぽうを食らうヨルじゃあなかった。


「血槍蹴り!」


「ッが……!」


 するりと抜けられ、逆に蹴りつけられた。やはり強烈。技名通りの突き出された槍のような前蹴りが俺をまた吹っ飛ばし、今度は最初にもたれてたほうの煙突へとぶつかる。


 その衝撃で煙突は半ばから折れちまった。


 降り注ぐ瓦礫と共に屋根に降り立った俺は、音がほぼ鳴ってないことに気付く。これは……バトル開始と同時にカスカが使った『エリアサイレンス』とやらの効果か。どんだけ激しいことをしても騒音とは無縁の空間になってるようだ。たぶん、叫び声を上げても今じゃ誰も気付かない。


 それをしたのはもちろん、俺が助けを呼べないように――じゃ、ねえな。

 俺が一人で屋根の上で待ち構えてた時点で、おそらくカスカにだってわかってたはずだ。


 俺には仲間を呼ぶつもりなんてさらさらねえってことがよ。


 だからこれは、単に近隣住民から警団ガードに通報がいくことを防ぐ意味合いでのもんなんだろう。音を消す以外に効果があるようでもねーしな。


「強いじゃねえか、ヨル。さすがにエンタシスとやり合えるだけのことはあんな」


「当然。お前からも何やら妾に近しいものを感じるようにはなったが、夜の一族としてまだまだ後れは取らんさ。それにあのときと違って今は腹も満タンなことだしな」


「……なるほど」


 通常よりも大きくなってる羽に、異様な眼光を放つ鮮血の色をした瞳。この見た目はサラの血を口にして滾ってたときと同じだ。


 ここに来る前にどこぞで処女の血でもいただいてきたってわけか……だったらこんだけの気合の入りっぷりにも頷ける。要するに今のヨルは絶好調の状態ってことだもんな。


美味しい・・・・食事・・は『灰の手』に加わった恩恵か?」


「それが目当てではないが、思わぬ副産物だったのは確かか。自力での血の調達など生まれてこのかた未経験なものでな」


 サラのものほど美味ではないのが難点だが、と笑うヨルにカスカが「贅沢言わないの」と窘めつつ、横に並んだ。二人して宙に浮いて、俺を見下ろしている。


 さて、参ったな。制空権は敵にありだ。しかも『ヘブンリーフェザー』で体が重くなってんのは俺だけみてーだ。術者のカスカはともかく明らかにヨルも影響を受けてねえからな……範囲効果っぽいのに対象まで選べるとは、つくづく便利なスキルなこったな。


 こんな状況で二人がかりで自在に空を飛ばれて攻められちゃ、不利ってもんじゃあない。

 それに俺にはまだ警戒しなくちゃならねえもんもある。

 ヨルからの不意打ちを食らったのと同じ轍を踏みたくないなら、常にそっちにも意識を割いとかなきゃならんと……。


 ハッキリ言わせてもらうぜ。

 かったるいったらありゃしねえっての。


 ……しゃあない。ユーキがいないんじゃ【聖魔合一】は使えない。【聖魔合一】が使えないんじゃ、対魔皇戦で使えた【超越活性】や【金剛体不壊】のような強力なスキルも使えない。


 それだけじゃなく、一度に何個もスキルを発動させることでかかる負担も軽減できなくなる。


 つーことでわざわざ自滅のリスクを背負うこともねえと思ってんだが、カスカとヨルのコンビはそんな甘い考えでどうにかできるほど甘いやつらじゃなかった。


 だってんなら、やるっきゃねえよなぁ?


「【同刻】・【金剛】・【併呑】を発動――『常夜技法』!」


「「!」」


「行くぜ、『ブラックターボ』だ!!」


 跳躍。と同時に足から闇を噴出させる。俺のこの超加速にも二人は反応を見せたが、一瞬こっちのが早い。【金剛】で固めた肉体でヨルに体当たりをぶちかましつつ、その反動に乗ってカスカにも蹴りを見舞った。


「ぐぅ……ッちィ!」


「ヅっ――【武装】発動、『イコンの剣:LV4』!」


 一発貰ったくれえじゃどっちもへこたれやしねえか。即座に反撃してきた両方を見比べつつ、まずはヨルの手刀を『絶死拳』で捌く。やっぱ動きはヨルのが速い。とはいえカスカも鈍いわけじゃねえ、ヨルの一撃を凌いだときにはもうやつの剣が俺の首を薙ぐ直前だった。


「『ブラックターボ』!」


 そこから再加速。空中での機動力を手にした俺を、カスカは捉えきれなかった。剣とヨルから逃れつつカスカの後ろを取った。完璧だ、けれども。


「【翼の加護】発動!」


「っとぉ!」


 やっぱりな! 見失いはしても死角から攻撃がくることくらいはわかる。だったらカスカなら対応してくるだろう……そう思ってこっちも用心してたんで、このいかにも『死霊術師ネクロマンサー』に特効を持ってそうな光を食らわずに済んだ。


 ヨルも迷惑そうにしてるがカスカはそれに構わず、くるりと反転して見つけた俺にもういっちょ剣を振るってきた。


 確かこいつは切れ味が半端ねえんだったな。どんだけ鋭い剣だろうが来訪者の身体が切れることはねえが、ダメージボーナスは確実にあるだろう。食らっちまうわけにゃいかんな。


「【黒雷】蹴り!」


「っ、」


 剣の腹を払うように蹴って軌道を変える。俺がこんな器用な手法を取るとは意外だったか、カスカが驚いた顔を見せる。僅かなりとも硬直したならそれに付け入らねえ手はない。すぐに俺は反対の脚も振り上げた。


「『絶死』蹴りィ!」


「【鋼翼】――っきゃあ!」


「カスカ!」


 『ブラックターボ』で加速しつつ『絶死』のオーラを乗せた足で、カスカをその防御スキルごとぶち抜いてやった。


 闇のジェット噴射は手のほうが調整が効きやすいんでどうしても蹴り主体になっちまうが、そんな一辺倒な戦い方でもやられる相手にとっちゃ脅威のようだ。


 【聖魔合一】の補助なしでも魔皇なんかが相手じゃなけりゃ十分に通じる。それが証明できたな――まあ、三重バフや【金剛】との併用で全身がピキピキとヤな感じの音を立ててるんだが、そこはしばらく無視だ無視。


「血性変化……粘性絡血」


「うぉ……?!」


 そう手応えを感じてた俺に、いきなり粘っこい血液が絡みついてきた。手足を取られる。しまった、これはハナの糸の拘束とは違ってパワーだけじゃ解けねえタイプ……!


「突血打!」


「――『常夜技法』、全開だぁ!」


「なにっ……!?」


 血を纏ったヨルの拳、を俺は全身から闇の噴出を起こすことで無理矢理に防いだ。


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