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4.クソデカい蟹

「ボチ様様だぜ、まったくよぉ」


 あれから。


 ボチのおかげで確保できた食料(角兎五匹)の足を制服の袖で縛って担いだまま移動し、川やら湖やらがないかと探してみた。

 こんなとこを動き回ることに不安がないわけじゃあなかったが、食料以上に水は重要だからな。


 現に腹はまだ減ってねーけど喉がカラカラだし……と考えていると運のいいことに川に遭遇。

 そこで水分補給をさせてもらった。


「ぷはぁ! ひゃー生き返った。ほら、ボチも飲んどけよ」

「わぉ」

「ん? 喉乾いてねーの? やっぱ水とか飲まなくても平気なのか。便利だなゾンビってのは」


 いっそ俺も今だけゾンビになりてー。

 なったら最後、人間にゃ二度と戻れなさそうだが。

 とそんなことより、水の次はメシだ。


 現金なもんで喉の渇きが潤った途端に腹の空き具合が急激に気になってきた。

 せっかくボチが取ってくれた兎もあるんだから、こいつを調理してランチといきたいところだが……問題は俺にゃ動物を捌く技術も火をおこす技術もねえってこったな。


 いや解体くらいは、ナイフもあるし、最低限食えそうな部分を切り分けるくらいのことはできそうな気もするが。


 だけど火は無理だ。

 俺の頭に浮かぶのは、アレ。

 木の板の木の枝をぐりぐり擦り付けて燃やすやつ。


 でもあんなんフィクションでしかできっこねーだろ? つかまず木の板なんてそこらに落ちてねえ。

 一応、ここまでずっと都合よく火おこしセット的なもんがねーかと探してたからそれは断言できる。


「俺の職業クラスってのがなー。ネクロマンサーなんつー変化球的なのじゃなくて、魔法使いとかならよかったのにな」


 そうすりゃ、火の魔法とか最初らへんに覚えられそうじゃね? なんとなくさ。

 弱くてもいいからそれが使えたら最高に便利だったろうによ。


「レベルアップしたはいいが……これだもんな」



『シバ・ゼンタ LV3

 ネクロマンサー

 HP:29(MAX) 

 SP:9(MAX)

 Str:21 

 Agi:13 

 Dex:7 

 Int:1 

 Vit:17 

 Arm:10 

 Res:5』



 やっぱビミョーにしか上がってねえんだよなどれも。Intってのはピクリとも上がる気配すら見せやがらねえし。


 まー重要なのは、っぱHPとSPっしょ。

 どっちも増えれば増えるだけありがてえ。

 んで、スキルのほうはどうかと言えば。


「これだもんなパート2」


 俺の手に握られる骨のナイフ。

 ……が、二本。


 そう、【武装】が――【肉切骨】が進化したっぽくて。

 片手にだけじゃなく、両手にナイフが出せるようになりました。


「いる? これ」


 いや、いらん。

 ナイフ両手持ちとか活かせるようならもうプロだろ。殺しのプロ。

 一本でも持て余す俺が倍の数持ったってしょーもないわな。

 しかもこれ、SP消費がちゃっかり増えてっしな。


 たぶんこいつも、ボチを呼ぶのと同じで使うと5は減ってる。

 最大でもSPは9ポイントしかねーから、結局同時使用はできないわけだ。

 まさか狙ってそういう調整なのか? だとしたら腹立つな。


「一本だけなら据え置きなのは助かったって言うべきか……」


 両手持ちしなけりゃボチと合わせても消費は8ポイントで収まる。はずだ。

 SPバーの減り具合の表示が間違ってなけりゃの話な。


「スキルのことばっか憂いても始まらん。とにかくたらふく水飲んで腹満たしとくか――ん?」


 何か聞こえた気がして耳を澄ましてみる。……なんか、向こうのほうからやけにばしゃばしゃと水の音が響いてくんな。


 川は深そうだが、流れはそんな激しくない。

 大きな魚でも跳ねてるのかとそっちへ首を伸ばして確かめると――。


「んおっ!? か、蟹ぃ!!」


 俺と同じくらい身長のあるクソデカい蟹が、水辺をすげえ勢いでやってくる!

 水音はこいつの足音だったのか。てか脚を高速でわさわささせてんのキメぇな!


「わん!」

「お、おう逃げるぞ――って、なんか追っかけてんのかあいつ!」


 てっきり俺らのことを縄張りから追い出そうとしてんのかと思いきや、奴にとっての獲物は別にいたらしい。

 蟹の得体ぶりに目を奪われて見逃しちまったが、よく見りゃ蟹から逃げるように猫っぽいオレンジ色の毛並みをした動物がこっちへ走ってきていた。


 牙がやけに長いし、しかも変な形をしていることを除けば、追いかけられてんのは確かに猫だ。角兎といいこの森に普通の動物はいねえのかって感じだが、クソ。


 よりにもよって猫かよ……!


 動物愛護家を気取るつもりはねえ。

 兎だって食料確保のために死んでもらったんだ、こんなところで善人ぶろうなんて馬鹿げたことだってのはわかってんだ――わかってるけどよ!


「猫だきゃあよ! 俺の目の前じゃあ絶対に殺させねぇーぜ!」


 走る。

 今度は相手に背を向けずに、進路は真っ直ぐだ。

 策を練る猶予はねえ、なんせもう猫が追いつかれそうになってるからな。


 デカ蟹の気を引くために俺はこれ見よがしにナイフを振り回した。

 傍から見りゃ狂人の走りだな。

 公道だと一発お縄だぜ。


「オラオラぁ! こっちを見やがれサワガニぃ!」

「?」


 まさに、? って感じだった。

 なんだこいつって雰囲気で飛び出た目ん玉で俺を見たデカ蟹は、一旦猫を追いかけるのをやめた。

 やったぜ、と思ったのもつかの間。


「ぐげぇ!」


 雑に振るわれた蟹の爪で俺は吹っ飛ばされた。

 またこんなんかよ! 

 だがそう来ると思ってたんで今度は防御できたぜ……! 

 クロスさせたナイフで受け止めてやった!


「ってえ……! ぜ、ぜんぜん受け止めきれてはねーな」


 肉切骨は思ったよりも頑丈らしく、今の一撃を受けても壊れてない。でも俺のほうは壊れそうだ。直撃はしてねえのにHPバーが半減してるしよ。


 立ち上がるよりも先に、俺のほうへ蟹が近づいてきやがる。

 やべえ、これ死ぬ。

 と思ったら。


「わうんっ!」


 そこでボチが、なんとあの短い脚で跳び上がった!


 ジャンプして蟹の目玉をがぶりと一噛み。「ギィィイッ」っていうドアの軋みみたいな声がした。蟹が鳴いたらしい。蟹って鳴くんだ……いやそんなことはどうでもいい!


「よくやったボチ! 離れろ!」

「わうっ」


 ボチが目玉からどいた途端、そこを蟹の爪が通過していった。

 あ、危ねえ。指示がもうちょい遅かったらボチ死んでたじゃねえか!


 この隙に、俺はもうナイフなんて捨てて全力で走った。

 逃げりゃあいいのにこっちを見てる猫を抱えて、あと置いてあった兎五匹も拾って――重いけど、走れる。

 ここまでパワーあったっけな俺、と疑問に感じつつもこれなら逃げられるだろうとホッとして。


 そんな俺の甘い想定を蹴散らすように、ずととと! みてえな足音で蟹が猛スピードで追走してきやがった。


 ちくしょう、こいつさっきの速度がマックスじゃなかったのか!


 隣を走ってるボチが「やべえ」って顔をしてるが俺も「マジやべえ」って顔をしてるぞ絶対。

 いやホントどーすんだこれ、兎を放り捨てても余裕で追いつかれちまうぞ。

 じゃあ逃げずに戦うか――? 

 いやいやいや絶対無理! 勝てっこねえわこんなお化け蟹!


 逃げても戦っても死ぬ。

 万事休す。

 一巻の終わり。

 ぶっちゃけどうしようもねえ。


 だが諦めたくはないと、息を荒げてボチと一緒に走る俺の頭上を、何かの影が通り越していった。


「……っ?」


 なんだ、と思った瞬間には背後で蟹が吹っ飛ばされていた。

 俺があいつにやられた以上に派手に。

 それをしたのは、これまたバカデカい体格の猫だ。


 腕の中の子猫が嬉しそうな鳴き声を上げている。

 そんな子猫と同じオレンジ色の毛並みに、口から飛び出た変な形の牙。

 ってことはこいつは、


「――親猫ぉ!?」

「ガァアアウッ!!」


 俺がたまげるのと同時に、親猫の迫力満点の咆哮が轟いた。


「わう……」


 あ、蟹じゃなくてボチのほうが委縮した。


『シバ・ゼンタ LV2+1

 ネクロマンサー

 HP:26+3

 SP:7+2

 Str:19+2

 Agi:10+3

 Dex:6+1

 Int:1+0

 Vit:15+2

 Arm:9+1

 Res:5+0』


下の3つ以外のステータスはレベル、本人の素質、クラス、経験値の入手法、そして運で上昇値が決まります

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