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393.帰途と残留

「レンヤはああいう男だからな。まだわからねえでもねえ。俺と同じで誰ともつるんだりはしてなかったが、根っこの考え方だとあいつも支配する側の人間だろ。世界が変わって本当の意味での実力主義になったからには、世界を支配するなんて目標をぶち上げそうではある。えらく調子に乗ったもんだとは思うけどよ、それもまたあいつらしいっちゃらしい」


「あいつ『も』、というのはわたくしにかかっているのかしら」


「ああ。らしいとは言ったが、俺の印象からすっと逆なんだよ。お前ら二人のやってることは」


 どっちかっつーと体制側に潜り込んで自分が支配者になろうと目論みそうなのはカルラのほうだし、俺たちと共闘するかはともかくとして、反体制側にいそうなのはレンヤのほうだ。


 俺の印象、とは言ったがクラスの連中なら皆そう思うだろうぜ。

 それぐらいこの二人のキャラ立ちや考え方ってのは昔からハッキリしてたし、相容れないものでもあった。


 カスカの言い分から察するに、他の連中から見ればそこに俺も加わっての三つ巴だったんだろうが……つっても俺はあくまで中庸だからな。


 この二人ほど明確な主義主張があったわけじゃねえ。喧嘩漬けではあったが、実は自分から騒ぎを起こしたことは少ないんだぜ。


「俺はお前たちのどっちとも関りがあったが、お前とレンヤの間にはほとんどそういうのはなかったよな。二年も同じクラスで問題児やっときながらよ……それはそんだけお前たちの立ち位置が両極端だったからだ。なんでも使えるもんは使って、部下も大勢いたのが支配者のお前で。やることは暴力一辺倒で、仲間なんて一人もいねえのがアンチ支配者のレンヤだった。……その構図がこっちの世界じゃ逆転してんのはどういうわけだ?」


 カルラはこっちでもギルドを作ってそのトップとして君臨しちゃいるが、所詮はクラスメート数名だけで構成された小規模な集団の長でしかない。こいつはそれだけで満足して甘んじるようなやつじゃあ、断じてない。


 印象云々以前に、これはただの事実だ。カルラ姫なんて冗談抜きで呼ばれてたこいつの支配欲は伊達じゃあねえってこった。


 なら何故お前はレンヤのような真似をしないのか。


 その疑問をぶつければ、カルラは心底下らないという調子で傲然と鼻を鳴らした。


「わたくしが、階戸辺レンヤと同じ真似をするですって? ちゃんちゃらおかしいですわね」


「そうか? なんでも支配したがるお前にゃ似つかわしいことだと思うが」


「どうも支配と被支配についてわたくしたちの理解には大きな隔たりがあるようですわね……いいかしら、ゼンタ。わたくしが目指すのは支配の先にある『発展』! この手で何もかもを豊かとするのがわたくしの使命であり、それが三毒院家の後継ぎとして生まれた者としての義務であり、つまりはノブレスオブリージュ! 無論、わたくしに頭を垂れた者たちの幸福と安寧も約束いたしますわ。それこそが支配者の務めですもの」


 寝巻ながらに堂々と、夜の中庭でもスポットライトでも浴びてるのかってくらいに自身を目立たせながらカルラは朗々と語る。


「支配など発展のための前段階、手段に過ぎないのです。支配そのものを目的とする階戸辺レンヤは結局のところそこで思考が止まってしまう、下剋上でしか成り上がれない下層も下層の民ということ。生まれや育ちの話ではありませんわよ? 性根に染み付いた根性のことを言っているのですわ。あの男は骨の髄までけだもの・・・・。そこに高貴な者としての誇りなんて一切ない。故に、何かのきっかけで徒党の頭になったとしてもそれが限界。小さな群れを率いる程度が関の山で、よくお似合いといったところでしょう」


 ああ……こりゃ確かに全然違う。


 自分が支配することは権利。自分に支配されることは義務。そう考えてるであろうレンヤに対して、カルラは支配することが自分に課せられた義務であり、支配されることが下々に与えられた権利だと考えている。


 これじゃ相容れるわけもねえし、カルラが『灰』のほうにつかねえのも納得だ。


 管理者の支配には先がない。発展がない。どころか人間を減らして、発展を後退させようとまでしているんだから、そらカルラにとっちゃ到底許容できるもんじゃあねえんだろうよ。


「だから『灰』と敵対するのか」


「それのみが理由ではありませんけれどね。だって、わたくしはわたくしに従属したあの子たちを無事に元の世界へ帰さなくてはなりませんもの。新たな義務ですわ」


 あの子たち……マチコ、マリヨ、ルナ、アケミ。

 カルラんとこのギルド『天道姫騎士団プリンセスナイツ』(何度聞いてもすげー名前だ)に身を寄せているクラスメートの女子たちのことだ。

 ここにヨウカとシズク、そしてハナも加わるとフルメンバーになる。ま、ハナはもうこの一員には数えられないだろうが……。


 とにかくカルラはどんな腹積りか、この面子を俺たちが元々いた世界へとどうしても帰してやりたいらしい。


「わたくしが鍛え、スキルで調整して、なんとか冒険者として戦えるようにはなりはしたものの……それでも戦いに向いている子たちではないもの。この世界で生きるのに根本から向いていないのですわ、どうしようもなく。あの子たちだけでなく、女子にしろ男子にしろ同じようなクラスメートは他にもいることでしょう。あなたが『灰』との対立を選んだのもそれが理由なのでしょう、ゼンタ?」


 わかっているんだぞ、という表情のカルラに俺は素直に頷いた。まったくその通りだったからだ。


 カスカと話したときもそうだが、やっぱ決定的なのはヤチとの再会だな。

 あいつもマチコらと同じく、戦闘向きとは言えねえタイプだ。いざとなると度胸もありはするものの、本来なら命懸けの切った張ったなんてもんからは縁遠いやつなんだ。


 ユマだって、のほほんとしてるようだが双子だって、レンヤがつれてた男子たちだって。

 みんな元々は喧嘩のけの字も知らねえようなやつらだった。

 知ってる何もかもが――命の価値までもがガラッと変わったこの異世界に、順応できるほうがおかしい。


 カスカや委員長、カルラにレンヤ。それから元の世界よりも活き活きしてるようだったハナとかがはっきり異常なんであって、普通はそうじゃねえわな。


 そういう普通のクラスメートたちを元の世界へ戻してやるためには、どうしても『灰』との対立は避けられない、と。俺もそう思ってるわけだ。


「魔皇のように管理者という立場から引きずり下ろすことは必ずしも必須とは考えない。けれど、管理者として唯一上位者と直接のやり取りが許されているというのであれば、わたくしたちの誰かがその席を奪うことは必要条件ですわね……所謂『今期の来訪者』が、この世界という密閉された箱庭から解放されるためには」


「そういうこったな」


 立場の簒奪なんてこたぁ考えてねえけど、結果的にはそうなるというか、それを目指さねえといけねえのかもしれん。


 何事もなく席に座らせてもらえるならいいが、『灰』の姿勢から思うに、とてもそんなことをさせちゃくれなさそうだしな。


 一度は力尽くでどけなきゃならないんだとしたら、結局のところそれは戦争だ。ユーキの言った通りの俺ら対『灰』陣営の全面対決になる。


「お前はどうなんだ、カルラ。お前も元の世界へ帰りたいと思ってるのか?」


 クラスメートにはそれを望まないやつもいる。こっちで天使様として生きていくことを決めちまってるカスカがその筆頭だ。


 あいつも帰りたがってるクラスメートのために俺や委員長に協力してくれることにはなったが、自分も一緒に帰るって気は欠片もないようだった。なもんで、カルラはどっちなのかと確かめてみれば。


「愚問ねゼンタ。当然帰るに決まっていますでしょう? 繰り返しますがわたくしは三毒院家の正統にして唯一の後継者。更に富み、更に増やし、更に偉大に! 家と隷属者たちを発展させることこそが使命なのよ? この世界にわたくしの使命はございません。おわかりかしら?」


「なるほどね……」


 あくまで三毒院としての支配、その令嬢としての自分でないといけないわけか。


 レンヤとも、そしてカスカとも逆だな。


 あいつらは元の世界の自分ってもんに大した価値を見つけられてない。カスカに至っては元の自分の生き方を思い出すだけでも苦痛そうにしてたくらいだ。


 ……じゃあひょっとすると、そこなのか?


 同じクラスの仲間のはずが、『灰』につくか否か。その違いが出てんのは、もしかしたら――。


「それで、あなたはどうなのかしら」


「あ?」


「柴ゼンタは帰途と残留、どちらを欲しているのか。そう訊ねているのですわ」


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