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376.魂の削り合い

「おぉっ! 『ブラックターボ』ォ!」


「!」


 姿勢が定まらないユーキを庇うために俺が前に出る。と言っても返しの刃を加速させただけだがな。だがそれでユーキを狙ってた拳を叩き落とすことができた。


 バックステップで距離を取るユーキ。それに合わせて俺はターボを吹かせて連続で斬り込んだ。迫る戦斧を見据えて魔皇も両腕を上げ直す。


「「………………っ!!」」


 火花、閃光、焦げ付く匂い。刃と鎖が激しく何度も衝突することで硝煙のようなもんが立ち昇る。陽炎のごとくに互いをぼやけさせるその煙を切り裂くべく、ギミック攻撃を仕掛ける。


「『ハイパワースラッシュ』!」


「ふんっ!」


「!」


 なんと、真正面。甲部分やナックルパートで弾いて逸らすんじゃなく、真っ向からの打突で俺の強化モリモリのギミック攻撃に立ち向かってきやがった。


 舐めんな、とそのまま拳ごとぶった切ってやる勢いで戦斧を振り下ろしたんだが――結果は五分。

 推し負けることはなかったが押し切ることもできず、俺と魔皇は互いに後退を余儀なくされた。


「【合いの刃】発動――【山吹焔剣】!」


「……!」


 ユーキも俺と同じ選択をしたらしい。速度重視。っつーより、攻撃と攻撃の繋ぎ目をなくして隙を消すことを優先した攻め方だ。


 光と炎を放つ刃は神々しく、それが連続で振るわれることで零れる煌めきは満天の星々を思わせる美しさだった。ユーキの技量がそうさせているんだ。間断のない光刃を、魔皇は星のない夜空よりも真っ黒な鎖で受け止めていく。


 俺の連撃よりかは対処に苦労してそうだが、まだ余裕があるな。


 それを崩させてやる!


「もういっちょ『ブラックターボ』だ!」


「っ、」


 ユーキの連続斬りに混ざって俺も戦斧を振る。斬る、ユーキが斬る。俺が斬る。ユーキが斬る、俺が斬る。ユーキが斬る、俺が斬る、ユーキが斬る。俺がユーキが――斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る!!


「「おぉおぉぉぉぉおぉおおおおおおおっ!!!」」


「く――ッ!!」


 魔皇の防御はパーフェクト。

 一撃たりとも通さない鉄壁の連打で対応していた――途中まではな。


 斬りながら俺もユーキももっと速くなった。もっともっと加速した。それでも魔皇も食い下がったが、腕二本と武器二本とはいえこっちは二人、あっちは一人。速度を上げ続けていく俺たちにとうとう手が追いつかなくなった。


「せェいッ!」

「うッらぁ!」


 今だ、というタイミングでの俺たちの斬り込みは見事に重なったぜ。袈裟懸けと袈裟懸けの軌道。戦斧と刀がクロスして魔皇を斬り付けた。かなりの手応えだ。


「ガぁッ……、っくくく!」


「「!」」


「たまさかの息の合いよう、だが無駄だな。俺のHPはもはやこれ以上減り様がない! どれだけ工夫しようが成長しようが、貴様らの努力は全て塵芥に同じこと――がフッ?!」


「平気だってんなら黙ってやられてな!」


 くっちゃべってるとこを戦斧でぶっ叩いた。顔面を斬り付けられて魔皇は痛そうだ――システムのおかげで傷付かねえとはいえ痛いもんは痛いもんな。

 そんで、この感じからすると【不退転】が守ってくれるのはあくまでもHPだけみてーだな。


 だったら十分だ。

 俺たちにも十分に、十二分に勝機があるぜ。


 ちらりとユーキに視線を送れば、頷きを返してくる。ユーキもわかってる。俺たちの目指すべきもんが何か。


 それはHPをゼロにするよりもまず、魔皇の心をへし折ってやることだ。


 スキルの維持には精神力が不可欠。

 いくつも同時に発動させたり強力なもんをずっと使ってると頭の奥が疼き出し、終いにゃ棘だらけの球が脳みそだけじゃなく体のあちこちでぐるぐる回ってるような、我慢ならねえ激痛に変わる。


 負担がどれほどのもんかってのは知りようがねえが、【不退転】が特別重たい・・・スキルだってことは確かなはずだ。その継続発動のために魔皇が支払う対価は高額だろう。

 

 一瞬でいい、一度でいい。心が、精神がぽっきりと折れちまえばスキルは切れる。


 それは【不退転】に限らずほとんどの能動発動アクティブ型のスキルがそうだし、来訪者に共通する悩みなんだが、そんなもんが魔皇を下す唯一の手段になるってのは……なかなか燃えるぜ。


 魔皇の意思と闘志を砕く。あるいはしこたまに痛めつけて気絶させる。システムの都合上後者は難しいかもしれねーが――俺が来訪者になって気絶したのはガチで死にかけたときだけだし、今の魔皇は既に死にかけなうえにそれが続く状態だ――チャンスは、ある。やりようはあるってことだ。


 スキルで死なないっつっても、魔皇が本当に不死身になったわけじゃあないんだからな。


「まだそんな顔ができるか……まだそこまで意気込めるか。どうしても勝利以外は目に入らんと、そう言いたいのだな。そうだろうとも、貴様らはそうなのだろう。ならばやはりこれは――命ではなく、魂の削り合い」


「魂か……けっ。それがわかってんのならよぉ」


「……!」


「魔皇ッ! てめえも遮二無二来い! んな気取ってねえで死ぬ気で来やがれ、そんで潔くくたばれ!」


「――くははははっ! 言うこと為すことどこまでも無茶苦茶な男だ。いいだろう、貴様らを見習ってやる。俺も我武者羅に足掻かせてもらうぞ……!」


 魔皇の踏み込み。速え。咄嗟に戦斧を盾にしたがそれをすり抜けるように拳が俺を打った。三打、いや四打か。瞬間的にそんだけ貰った俺はもんどり打って倒れちまったが、そんな俺の無様をカバーするようにその上を刃が走っていった。


「【石火桜突】!」


「ちぃ!」


 紫電の突き、を魔皇は払いのける。そしてその腕で直接ユーキに打ち込んだ。刀を引き戻しながら曲げた肘で殴打を受けたユーキだが、それで受け切れるほど今の魔皇の一打は軽くねえ。


「くぅッ!」


 顔をしかめたユーキの体が浮く。そこに魔皇の回し蹴りが入った。こりゃ素直に起き上がってちゃ間に合わん……!


「『ブラックターボ』!」


「っ!」


 仕方ねえんで闇の噴射で倒れたまんま俺も宙に浮いた。ぶっ飛ばされるユーキを片手で掴み、その腕を持ったまま一回転。それから魔皇の上へとぶん投げた。何を期待しているかは言わずとも伝わるだろう。


「『ハイパワースラッシュ』!」


 投げたら俺はすかさずギミック攻撃で攻める。長柄のしなりっぷりを最大限に活かして広範囲を薙いだ。


 つって、いくら広い範囲を覆ったところでこれは見え見えの攻撃だ。命中なんてしねえとわかってる。そしてやはり、魔皇の反応は素早かった。


 てっきりまた足を止めて弾くかと思ったが、今度の魔皇は飛び退って戦斧の横断を躱した――それはきっと頭上を取ってるユーキを警戒してのことなんだろうが、どっちみちのことだ。


「【天来五月雨突き】!」


「……っ!」


 神速でユーキが落ちてきた……否、落ちてきたのは閃光と化した刃だ。


 真上から降り注ぐ突きの雨は、魔皇が多用し始めたパンチングでの防御がこの上なく難しい厄介な攻撃だ。それが読めてたからこその策だが、思った以上に効果的だったな。


 攻撃的な防御から漏れた幾つもの刺突を浴びて、魔皇に隙ができた……!


「ぉおおお!」


 ターボも使って一気に距離を詰める。今ならいける、じゃねえ、今しかない!


「【武装】再発動――!」


 連続突きが終わった。だがユーキは魔皇の背後に着地しながらもう次の攻撃の動作へと入っている。


「【首狩桜竜】!」


「っぐ……!」


 己の真後ろにいる人間を斬る。それも、刃を当てずにだ。

 そんな絶技をやられちまったら、さしもの魔皇も硬直を免れない。


 すげえよ。お前こそパーフェクトだぜユーキ。

 こうも完璧すぎる相棒を持てて俺はとびきりの幸せもんだ――珍しく悪運の絡まないこの幸運っぷりにゃ、ちゃんと応えてやらなくっちゃあな。


「【武装】再発動」


 『非業の戦斧』を消して、俺は別の武器を手に取る。選んだのは最悪にピーキー、だが最強のあの武器。


 誰かの背骨を引っこ抜いたようにしか見えない、刃のついてねえ不気味な剣……!


「よお、今こそお前の出番だぜ……『恨み骨髄』!!」


 握りしめたその剣からは、間違いなく過去一番の恨みのパワーが溢れていた。


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