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359.破れるものなら破ってみろ

 魔皇が撃ち放ったのは【闇撃】。距離の開きや爆破の方向からしてそれがダメージを狙ってのものではなく、ただの目眩ましでしかないことを二人は瞬時に悟った。


 飛び退りながら構え、魔皇が自分たちのどちらを目標とするかを見極める。


「!」


 闇の熱風と一体となるように襲い掛かってきた魔皇。その矛先が己に向いていると判明した瞬間にユーキは刀を振るっていた。紫電が弾ける。トップスピードで刃が激突したのは魔皇の腕。そこに防具の如く巻かれた鎖だった。


 上に弾かれた刀を振り下ろす、よりも早く受け手とは反対の腕で魔皇に殴られた。単純な殴打だが魔皇の膂力、そしてそちらにも巻き付けられている鎖の硬さと重みも合わさって威力は途方もない。


 倒れそうになる体を咄嗟に足を広げて支え、次いでやってきた二打目を受け太刀する。


「なっ――」


 受け太刀、と言ってもユーキが殴打を受けたのは柄の頭部分だ。そこに衝撃を集中させることで飛び退き、魔皇の射程から逃れる一助にしようとした。


 実際その思惑は成功していた。

 それ自体に殺戮衝動でも備わっているかのような動き方をした鎖が、己の手元と魔皇とをキツく結び付けなければ。


 ガシッ、と宙に浮いた状態でユーキが止まってしまう。すると鎖は今度は恐ろしい勢いで縮み、彼我の距離を無にせんとする。強制的な接近、そこに待っているのは思惑も露わに腕を引き絞った魔皇の姿――。


「っらぁ!」


「「!」」


 その前にゼンタが間に合った。横合いから突っ込んでくる彼が自分を真っ直ぐに見据えていたことで、魔皇は咄嗟にユーキを殴りつけようとしていたその腕で防御を固める。


 が、ゼンタが繰り出した拳は魔皇本体ではなく、ユーキへと伸びた鎖を打った。


 鈍い音を立てて鎖が引き千切れる。この状況の変化に魔皇もユーキも素早く行動した。


「っはぁ!」

「どぉら!」


「ふん――」


 宙に浮いたまま体勢を立て直し、袈裟斬り。それをサポートしようとゼンタが足払いを仕掛ける。

 息の合った連携攻撃――を、この二人なら当然するだろう。魔皇もそう思っていたところだ。


 軽く跳び、回る。身のスレスレで足払いも袈裟斬りもやり過ごして返礼の一打。


 左拳でゼンタを、右足でユーキを同時に打ち据える。どちらも顔面、急所である。しかしゼンタもユーキも痛みに呻きながらもまったく怯まず。


「ふぅっ――!」

「おぉっ――!」


「ちィッ」


 お返しとばかりにすかさずの返撃。こうも耐えてくるかと魔皇は舌打ちをひとつ。足が地面につくよりも先に届いた両者の攻撃をガードする。ずんっ、と身に籠る打撃と斬撃の重みは魔皇を空中で大きく後退させた。


 しかし開いた距離をゼンタたちは即座に詰めてきた。逃げるのは許さない、とでも言うかのように。


 攻めるときにはとことん攻める。そういった気質が一致しているのもこのコンビの強味であり厄介なところだ。そう分析しながら魔皇は地に足をつけて構えを取った――端から逃げるつもりなど彼にはない。


「「……!」」


 次の瞬間、三者が牙を立て合う殺陣が形成された。ゼンタとユーキによる凄まじい密度の連携攻撃で嵐となったその場所で、魔皇は単身でそれに対抗する。


 拳をいなし、当てるだけの反撃。その腕で刃を防ぎ、蹴って射程外へ押しやる。そしてしゃがみ込んで回し蹴りを躱す。足元へ鎖を伸ばして薙ぐ。バランスを崩させたが追撃はせず身を捻る。飛来した斬撃をそうやって回避したところに直の刃。反対にはまた拳――それらを魔皇は片手で掴み。


「ふぅんッ!!」


「「ッが……っ!」」


 思い切りぶつけ合わせる。互いに強く激突したユーキとゼンタは、マリアとの特訓時の出来事が脳裏をよぎった。まだあの時と同じような力の差があるのか――? 


 いいや、そうじゃない。少々勝手が変わったように感じるのは魔皇が戦い方を変えたからだ。


 互いの体を押し合って姿勢を正す。二人をまとめて狙った魔皇の鉄槌打ちをそうやって逃れた二人は起き上がりと攻撃を同時に行った。魔皇はユーキの水平斬りを躱し、ゼンタの拳に自分も拳を返すことで防ぐ。


 やはり、と二人は思う。魔皇はスキルを使わない。目眩ましとして使った【闇撃】を最後に、一向に攻撃用のスキルに頼ろうとしない。


 戦法が変わった――その目的はおおよそ察せられる。あれだけばかすかと利用していた闇の爆発を控えるようになったのは、自身に生じる隙をなるべく消すため。魔皇は大技の連発からコンパクトで堅実な格闘戦へと切り替えたのだ。


 【闇撃】は発生にタメなどないが、ただの打突と比較すれば攻撃開始から終了までにかかる時間は多くなる。


 格下を相手にしているつもりだった当初ならばともかく同格である――と認めているかは別として、少なくとも自分と打ち合えるだけの――強者との二対一。この場合において無暗に派手な攻撃を多用するのは愚策だと魔皇は考えている。


 よって、まずは確実に切り崩す。然る後に大技でトドメを刺す。

 侮蔑を捨てた魔皇に満ちる殺意が、混じりっ気なしの純然たるそれに変質したことをゼンタとユーキは肌で感じ取る。


 上等だ。脳の容量の百パーセントを魔皇との肉弾戦に費やしながら、思考なき思考で二人は奮起する。できるものならやってみろ? それは俺(私)たちのセリフだ。


 救世の英雄、聖女マリアからも太鼓判を押されたこのコンビネーション。


 破れるものなら破ってみろ――!!


「おぉおおあああっ!」

「はぁあああああっ!」


「っ……!」


 ただでさえ凄まじかった攻撃の密度が、更に増した。


 もはや蟻んこ一匹が無事に通り抜けられる隙間もない。打斬入り乱れる暴撃の波に魔皇は身ひとつで対応する。ただ凌ぐだけでは意味がない、自分の身を守りつつこの連携の隙間を縫ってどちらでもいいから削っていかねば。


「ぬっぅうう!」


「うっしゃぉあ!」


 同じ数の打撃で防御しながらゼンタと立ち位置を入れ替え、あえて二人に挟まれる。さっきまでならこの位置で【闇撃】の自爆を選んでいただろうが、今はそうしない。


 魔皇はあえて一撃、ゼンタの拳を胴体に貰った。


「!?」


「っくく――」


 避けられることを前提にしていたはずだ。ゼンタだけでなく、ユーキも避けた先に刃を置こうとしていたはず。


 無駄のなさすぎる連携が故に魔皇は背後を確かめるまでもなくそれがわかっていた。

 なので本人たちも意図しないところでクリーンヒットを食らってやれば、簡単に呼吸を乱すことができる。


 ゼンタの殴打によって押され、ユーキと肉迫する。その接近が予定外だったユーキと狙い通りである魔皇。動き出しが早かったのは当然魔皇のほうだ。


 流れるような肘打ち。を刀で受けるが、頭をがっしりと掴まれたことでユーキはその肘がただの囮に過ぎなかったことを理解した。


 もう遅い。そう魔皇が笑っている――。


「潰れろ!」


「ぶッ……、」


 魔皇はユーキの頭を引き寄せながら、膝蹴りをその顔面に叩き込んた。


 一連の動作は全て振り向きざまに行ったものであり、万全の体勢での攻撃には程遠い。が、それでも威力は十分。ユーキの足から力が抜けかけるのを見て魔皇はここが畳み掛ける好機であると知る。


「とは、言ってもなぁ!」


「っヂ……!」


 しかし魔皇はユーキにではなく、俊敏に半身となって背後へと横蹴りを繰り出す。この一瞬ですぐ後ろにまで迫ってきていたゼンタの腹へ足刀を入れようとしたが、彼はそこに片手を差し込むことでガードしていた。


 見越していた、のではなく咄嗟の反応だろう。いい反射神経だ。攻撃に集中しているところを逆に攻められてこんなことができる奴はそうそういない――【先見予知】を知らない魔皇はゼンタの対応力をそう素直に評価した。が、これで再び距離は空いた。


 もう一度詰め直すまでのほんの一瞬。

 それだけあれば今のユーキに致命的なダメージを負わせることは難しくない。


 念には念を。ユーキのふらつきが虚偽ではないことをゼンタに視線をやりながらも視界の端で確かめていた魔皇。

 その懸念が杞憂であることもこの一打の間に確認できた――ならばここで一人は脱落となる。


「っし――、」


 もう一発急所を叩き、そしてゼロ距離での【闇撃】を食らわせる。

 絶対に決まるはずだったそのトドメのプランは。


「っ――【唯斬り】!」


「何ィッ、っぐぁ……?!」


 鳩尾に拳を受けながらも怯まず放たれたユーキの斬撃スキルによって、あえなく相打ちに終わった。


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