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357.二人でひとつ

たくさん誤字報告していただいて助かります

誤字脱字が多くて申し訳なす

「――ふんっ!!」


「「!」」


「【憤激】を発動!」


 魔皇が勢いよく両腕を広げ、二人を遠ざける。そしてスキルを用いて反撃。両者をひとまとめに襲える軌道で闇の塊を振り回した。


 一見してただの個体のようなそれに内包されたエネルギーがどれだけのものかは、ここまでの戦いでよく味わって知っている。なのでゼンタもユーキも回避に余念はなく、上空へ飛び上がることである程度の余裕をもって【憤激】から逃れた。


「猪口才だろうが、ガキ共……! 【破砕】・【暗転】を発動!」


「っ、うぉ――っ?」


「オレゼンタさん!」


 先ほどから見せるようになった過敏すぎる反応。魔皇も【憤激】が当たらないことはわかっていた。だからこそ攻撃した。そうすればその良すぎる反応で二人は確実に躱す。その瞬間こそが最大の狙い目となるとも知らずにだ。


 破壊を促す【破砕】のスキルは本来、他の攻撃スキルと併せることでそれをパワーアップさせるごく単純なもの。しかし威力向上のためではなくスキルそのものを対象に発動させた場合は、挙動に変化が生じる。


 魔皇はその特性を利用して【憤激】で作り出した闇を【破砕】によって自ら粉砕させた。結果、【深淵】で広げるよりも余程素早く空間に闇を充満させることに成功。


 範囲や濃度は【深淵】に及ばず、また一度見せてしまったからには二度目はそう簡単には使えないだろう。


 しかし一回限りでもいいのだ――虚を突くことはできた。【暗転】によってゼンタの背後を取ると同時にその首を掴んだ魔皇は獰猛に笑った。


 ユーキとの距離はそう離れていない。

 しかしここからなら奴が何をしようとも、自分のほうが早い。


「【収束】・【深淵】――」


「なろっ、てめえ放せコラ……!」


 藻掻くゼンタ。抵抗の力は凄まじいものだったが魔皇もまた力尽くでそれを抑え、スキルを発動。たっぷりと生み出した闇を今は広げず逆に【収束】で纏め上げる。


 それがなんのためかは、言わずもがな。


「――【闇撃】を発動!!」


「っぐっがああッ!」


 大爆発。一個の星でも誕生させようかという闇の激動、その渦中で魔皇は再度【収束】を発動。弾けた闇の爆炎を左手に集わせる。


「【憤激】を発動……!」


「ッぎ――っ、」


 力の全てを、余すところなく少年のまだ育ち切っていない体へとぶつける。


 確殺の二連撃。【深淵】で強化された【闇撃】と【憤激】を立て続けに食らって生き残る手段はない。スキル発動の余地もなくHPをゼロまで持っていける。


 それは【聖魔合一】によって守られているゼンタもまた例外ではない。そう確信できるだけの手応えが魔皇にはあった。


 確かめるまでもなく、絶対に。

 完璧に攻撃は決まったのだ。

 ならばこの手に掴むは哀れな来訪者の骸であるはず――だというのに。


「貴様、何故生きている……?!」


「死んでねーからだよ、ダボが……!」


 当然と言えば当然の返しをしたゼンタは、何度目かもわからぬ予想外によって魔皇に生じた僅かな隙を逃さず首の拘束を外した。


「ちぇいっ!」


 そして蹴る。真後ろへ放たれたそれは、魔皇の腹へと命中。


「ぬぐっ……!」


 防御が間に合わなかった。普段なら十分にガードできたはず――だがそのこと以上に魔皇の胸中を乱すのは。


「【接閃】発動」


「!」


「【大岩斬り】!」


 ダメージを振り払うように宙へ留まったところへ、刃。振り下ろされるそれに魔皇は目敏く反応し避けた、はずだった。


「からの、【兜割り】!」


「ぐぅっ!?」


 なのに頭部に何かが当たったことで魔皇はたじろぐ。


 刀身には触れていないはずが、この痛みは確かに斬撃のそれだ。先ほども見た飛ぶ斬撃の類似スキルか。いやあれは文字通りに見えた・・・。不可視のこれはまた別種のものに違いない――!


「【手打ち】・【足切り】!」


「!」


 分析が終わらないうちにユーキが畳み掛けてくる。そこで魔皇は気が付いた。


 このスキルは既に一度食らっていること。そしてそのときには【闇纏い】が持つ耐性によって完全に防げていた、ということに。


 【兜割り】というのもおそらくこれらの系統。

 そして自分はもう、スキル任せではこのスキルに対処できない……!


「ぐぅ……!」


 手首と膝に衝撃が来た。痛みと、強張り。ただ当てることだけに特化したものではなく、一瞬の硬直こそがこのスキルの売りだと魔皇は悟る。故にこそ、拘束への耐性を有す【闇纏い】で無力化できていたのだろう。


 マズい、と魔皇が思った瞬間にはもう。


 ユーキが持つ【接閃】によるスキル接続、その締めの攻撃が行われていた。


「【果斬り】!!」


「カぁッ……!」


 天翔る銀閃に斬られ、吹き飛ばされる。木の葉のように宙を舞った彼に迫るは――。


「おっらァああああぁ!!」


「がふぁっ、」


 鉄拳。飛ばされた先で既に待ち構えていたゼンタによる渾身の殴打が魔皇の顔面に突き刺さった。


 思考の乱れと、墜落。地面に激突する直前で魔皇はなんとか身を起こし、辛うじて両足で着地をしたものの。


「うっ――ぐ、」


 立っていられず、彼は思わず膝をついた。


 ダメージがある。普段であればいざ知らず、先のマリア戦で寿命を殆ど使い果たしてしまっている今の彼にとってHP残量は気にかかるものだ。


(残り半分を切っている、だと)


 それほどに効いた、ということだ。


 二連撃でゼンタを沈めるはずが叶わず、やり返されまでした。あるいはダメージ以上にその反撃されたという事実こそが彼に膝をつかせているのかもしれない。


(あり得ない。奴らにもダメージはある。俺がこれだけ減っているのなら奴らのHPなどとうに尽きていなければおかしいだろう――なのに、)


「なのに何故だ、何故その気配がないッ? 一向に貴様らが死なないのはどういうわけだ……! 特に貴様だ、小僧! これだけ攻撃を浴びせてやって、何故まだ死んでいないんだ!?」


 自分を追って地上へ降り立った少年と少女に魔皇は噛み付くように叫んだ。手負いの獣が吠えている。まさしくそういった状況で、油断は許されない。追い詰められた生き物ほど危険なものはないからだ。


 それがわかっていながら、しかしゼンタは腰に手を当てて堂々と、なんの警戒もしていないかのような態度で応じた。


「だから言ったろ、魔皇。おたくの【聖魔混合】と俺らの【聖魔合一】は、似ちゃいるが別モンだってな」


「それがどうした、類型のスキルなど珍しくもない。俺とマリア以外で聖魔を持つ者はこれまでいなかったが、貴様らとの共通点からすればそれも然程の疑問にはならん」


「本当に俺たちと過去のあんたたちが共通してるってんなら……俺らにもそれこそ【聖魔混合】が出てたはずじゃねえか?」


「……!」


「そうならなかったのはたぶん、マリアさんのおかげだ。『一緒に戦う』ってことの意味をあの人が丁寧に、そんで厳しく教えてくれた。だから俺たちのスキルは【聖魔合一】になった」


「まさか、人を育てる【指導者】のスキルか。アレは来訪者相手にも効果があったのか……!?」


「心当たりがあんのか。さてな、詳しいことはなんも知らねーがよ。とにかく力を合わせるってことに重点を置いたマリアさんの訓練は、ちゃんと実を結んだってわけだ」


「力を合わせて戦ったのは俺とマリアも同じこと。そこになんの違いがあるというんだ」


「あるだろうがよ。【聖魔混合】は闇と光を同時に操るスキル。光属性を持つやつがいればそれが敵でも味方でも発動できる。マリアさんがいなくてもあんたはその状態になれるわけだ……だが俺たちはそうじゃねえ」


「なに……?」


「【聖魔合一】は読んで字のごとく光と闇をひとつにするスキルなんだよ。発動のためには俺にはユーキが必要だし、ユーキには俺が必要だ。合一ってのはそういう意味でもある。俺たちは今、正真正銘二人でひとつ・・・・・・。どっちが欠けてもダメなんだ」


「二人でひとつのスキル――だと」


 くっきりと。光と闇が別たれた状態で身に纏わせている己と。


 混然一体。光とも闇とも取れない、区別のできない輝きを身に纏っているゼンタとユーキを。


 しかと見比べて魔皇は、二人と対峙して初めて――あの日の幻想。いつまでも拭いきれなかった面影が、自身の視界から霞のように消え去っていくのを感じた。


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