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346.なんも悪かねえ

「【縮地斬り】!」


「「!」」


 眼前の魔皇が仕掛けてくるよりも早く、俺と魔皇の間に剣閃が走った。ユーキだ。俺たちがくっちゃべってる間にも攻撃の準備を終えていたらしい。


 あと一歩、いや半歩でクリーンヒットしていたはずが魔皇は行動をキャンセルし刃をやり過ごした。ユーキもこいつも大した反応だ――俺も後れを取るわけにゃいかねえ。


「『絶死拳』!」


 魔皇が止まったところを殴りつける。闇も死も通らねえとはいえ効き目がまったくのゼロってことはねえ。ほんのちょっとでも効果が期待できるならやるにこしたことはない、が。


「ネクロマンサー同士、か。随分とやり辛そうだな小僧」


「!」


「むべなるかな。俺も直接対決は初めてだよ」


 百年以上来訪者やってるこいつでもネクロマンサーと拳を交えるのはこれが初だってのか――って、んなことはどうでもいい。がっしりと拳を掴まれちまってるのをどうにかしねーと……!


「【真閃】・【突破】――」


「む」


「【桜突】!」


 ガッキィイン!! と目にも留まらぬ速さで突き込まれた刀が、魔皇の手の平に止められて鳴いた。


 っ、これは来訪者だから刺さってねえってだけじゃねえぞ、完全に勢いを殺されちまっている。俺が同じように防いだってこんなやり方じゃ大ダメージは必至だろう……それをこの野郎、こともなげにやってみせやがって。


「玉鋼、雑味のない良い刀だ。これもマリアが用意したものか? それとも自前か……どちらにせよ」


「っく……!」


 止めた刀身を握り込み、ぐっと力を込める。魔皇は刀を折ろうとしている。その力があまりに強すぎてユーキは魔皇の手から刀を引き剥がすことができないようだ――だったら。


「っしゃおらぁ!」


「っ!」


「【技巧】発動!」


 俺がやるっきゃねえ。片手を掴まれたままだが超至近戦はこれが初めてじゃあない。足を振り上げて魔皇の顎を下から打ち抜いた。


 それだけじゃ終わらねえ、そのまま跳ぶ。握られている腕を支点に回転、そして真横の軌道で踵蹴りを頭にぶち込んでやった。


「っぐ、小僧……!」


 ぃよしっ、手が開いた! 俺の腕もユーキの刀もこれで自由だ。魔皇め、甘く見過ぎだぜ。


「やりにくいって? そりゃ誤解だな、大して支障もねーよ。俺ぁ元からこういう戦い方しかしてきてねーもんでな!」


「……そうか、それは何よりだ――【闇伝い】を発動」


「げっ」


 俺の強がりを見抜いてるのかどうか、酷薄に笑った魔皇はスキルを発動させた。


 野郎の足元から凸凹になってる地面の合間を伝うように闇が広がっていく――速ぇ。これはさっきも見たからなんとなくわかるぜ、【闇伝い】ってのは言わば攻撃範囲を広げるための補助スキル。


 つまり次の瞬間どうなるかも、もうわかってる。


「頼むユーキ!」


「はい! 【領域】発動――【桜舞】!」


 範囲攻撃には範囲攻撃。特定範囲内なら攻撃箇所を好きに設定できる【領域】で、魔皇が攻撃に移る前に広げた闇をかき消す。


 これができるユーキは魔皇にとっちゃ鬱陶しい存在だろう。だから今の【闇伝い】も明らかにユーキのほうへ大量に闇を送っていたに違いねえ。先に始末しようって魂胆が丸見えだ。


 優先順位は確かに間違っちゃいねえよ。だがな!


「【死活】・【技巧】……!」


「【闇纏い】を発動」


 ユーキが闇を消すと同時に俺は魔皇に飛びかかっている。それに反応して防御系のスキルを切った魔皇はまた一段と闇属性が効きにくそうな見た目になった。


 だが構わねえ、どんだけ弱まろうと俺はとにかく全力で殴るだけ。その最大値を引き上げることだけに集中するんだ……!


 その色濃い闇のオーラごとぶっ飛ばす!


「十連『絶死拳』!!」


 一瞬の連撃、十の死の打撃。

 スキルの三重強化と合わせてまさに絶対なる死を敵にくれてやる必殺の拳。それを食らった魔皇は、一歩だけ後退して。


「青い。まんまと乗ってくるものだから逆に驚いたぞ」


「!?」


 それでもほぼ効いちゃいない、ってのは予想通り。だが俺の腕にジャラジャラと巻き付いてる鎖は予想外だ。い、いつの間にこんなもんが!?


「『無窮の鎖』……俺が持つ唯一にして至高の武器だ。こいつは闇属性との親和性に優れていてな、俺の闇と同化させることができる。【闇纏い】と組み合わせればこういった芸当も可能だ」


「……っ!」


 俺が殴ってたのはオーラだけじゃなく、それに紛れていた鎖でもあったのか。それに気付けずこうして腕を縛り上げられちまった――その拘束力はハナの糸の比じゃねえ、【併呑】を使ってるってのにビクともしねえぞ、この鎖!


「ひと思いに殺してやる、と言ったろう? 俺は嘘だけはつかん男だ。【傲慢】と【収束】を発動」


「……!」


 魔皇が狙ってたのはユーキじゃねえ。そう見せかけることで飛び込んできた俺から潰そうっていう算段だったんだ。誘い込まれちまったんだとようやく理解したぜ。だが、ちと遅すぎた。


 鎖で腕どころか全身まで縛られちゃもうどうしようもねえ!


「オレゼンタさん! 【手打ち】・【足切り】!」


 魔皇の手に並々ならねえ力が集ってくのを感じる。何をしようとしてんのかはわからねえ、だがとにかくそれを阻止しようとユーキが行動阻害付きの攻撃スキルを連続で放つが、食らっても魔皇は意にも介さねえ。


 くそっ、こりゃあ完全に【闇纏い】で防いじまってるか、あるいはステータスの暴力でゴリ押してやがるな。


「手向けの一撃だ。これは耐久が売りの『無窮の鎖』でも耐えられん。当然、お前は問答無用に死ぬ」


「ち、っくしょ……!」


「そう嘆くな小僧。新米にしては立派だったとも。この俺に葬られるのだから誇ってもいいことだ」


「は、誰がんなことで――」


「【純破壊】」


 俺の返事もろくに聞きやがらねえで魔皇がスキルを発動させた。


 その瞬間、俺はなんにも考えられなくなった。視界が真っ白に染まって――浮遊感。ガチガチに縛られていたはずなのにどうして、なんて思う間もなく激しい振動。視界に色が戻る。だが暗い。そして重てえ。


 吹っ飛んだんだとなんとなくわかった。あの硬ぇ鎖が粉々になるほどの威力でぶん殴られた。そして一瞬で後方にあった瓦礫の山。本館の正面が崩落してできたそれに頭から突っ込んだらしい。


 と、コマ送りめいた自分の軌跡を想像した途端に激痛がきた。システム越しでも悶絶を免れねえ大変な痛みが体の――もうどこがどう痛んでるのかもわからねえくらいにとにかく痛い。なのに指先一本、ぴくりともしちゃくれない。【純破壊】とは言ってたか……なんてこったよ、マジで全身の何もかもが破壊されちまったみてーじゃねえか。


 だが、痛いってことは。

 動けない自分を認識できてるってことは。


 まだ殺されちゃいないってことだ。


 ゲームオーバーには、なっちゃいない。


 魔皇は確実にこの一発で俺を仕留めるつもりだったはず。それが叶わなかった。その原因が何にあるかは知らねえが、とにかく俺は助かった。


 そしてこんだけのでけえ一撃を食らえば。



『レベルアップしました』

『レベルアップしました』

『レベルアップしました』

『レベルアップしました』

『レベルアップしました』



 ほらな、これがくるんだよ。


 へっ……こいつは嬉しい計算違いだぜ。


 80レベルも超えたとなりゃもう連続レベルアップができるほど大量の経験値なんて貰えねえと思ってた。が、そいつは誤りだった。いるじゃねえか、ここにそんだけ経験値をくれる相手が。


 魔皇っつー俺やユーキもよりも遥かにレベル帯が上の、カンスト来訪者様がな……!


 5レベルも上がった。それはそんだけ魔皇が格上だって事実を強調するもんでもある。だがそれは同時に、即死さえしなければ俺たちが強くなる絶好のチャンスでもあるってことだ。


 疲れも痛みもどこかへ行った。HPもSPも全快した。レベルも90の一歩手前まできた。


 いいじゃねえか、なんも悪かねえ。マリアと対を為すもう一人の最強に挑むにゃあ最高のコンディションだぜ。


「――おぉおおおおぉおっっ!!」


 体の上に積もってる瓦礫をぶっ飛ばし、俺は勢いよく立ち上がった。


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