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345.真価・出涸らし・ご満悦

「ったく、ままならねえな」


 一応、俺にとってもいいことだってありはするんだぜ。


 そもそもさっきの攻撃、あのデケー牙のことだが。あれの噛み付き方は尋常じゃあなかったが、それでもその威力は幾分か弱まっていたはずだ。


 魔皇の弱体化とは別に俺自身が持つ闇への適応力。

 ネクロマンサーとしての適性が、魔皇の闇属性の通りを悪くさせる。

 攻撃力の実数値を減退させることができるんだ。


 これは闇属性のみに一方的な有利を取れるという特性を持つ光属性。を、属性の中ではメインとするユーキにも当てはまることだ。

 だから俺たちはあれだけガッチリと牙に捕食されながらも揃って抜け出すことができた。


 仮に俺が火だとか、ユーキが水なんかを主武器としていたら抜群にヤバかっただろう――負うダメージも抜け出すために消費するSPももっとバカ高くなってたはずだ。


 そういう意味での「いいこと」が、あるにはある。既にその恩恵にあずかったわけだからな、そこは認めよう。


 しかし部分的な面ではともかくとして、全体的な視点で見るならこのことは必ずしも俺を救いはしない。


 防御面だけでなく攻撃面でも有利を取れる――少なくとも光属性を押し付ける戦法さえ実行できればだが――ユーキとは違って、俺の場合はそうもいかんからだ。


 闇への適性があるのは俺も魔皇も一緒。

 つまりこっちの攻撃も向こうに通らない。

 いざとなれば光属性を使わない戦い方だってできるフレキシブルなユーキに対して、俺は闇属性(とその派生の死属性)一辺倒でしか攻められない。


 つまり別の攻撃手段で解決、なんてこともできやしねえってことだ。


 もっと言えば俺の強さは即ち闇と死の属性の強さ。だが同じ来訪者で、同じネクロマンサーで、年季に関しちゃ雲泥の差。こうなるとあまりに辛いぜ。俺の強味ってもんが何ひとつ活かせねー相手、それがこの魔皇ってことになる。


 基本奴のほうが高レベル・高ステータスということもあって、闇への適性だって俺よりも高いだろう。攻撃が効きづらいのは互いに同じでも威力減衰の幅は向こうのが上。そのうえでほぼ確実にスキルの種類や育ち具合でも負けてるってんなら、いよいよもって不利なんてもんじゃあねえ。


 泥仕合を演じた挙句に、終わってみればボロ負けだった。そういう展開が目に浮かぶようじゃねえか?


 不浄も絶死も武器にならねえ敵に俺ができるのは単純に殴ること、ただそれだけだ。

 ネクロマンサーだってんなら魔皇のほうも俺と同じく大体の攻撃手段が闇属性に依存してるんだろうが、言った通りステータスの差によって殴り合いでもやはり軍配は奴に上がるだろう。


 それはなんの因果か、インガとの戦いでもやったことの再現だ。


 スキルっつー飛び道具に頼らない地に足付けてのインファイト。それに競り勝ったのはこちらで、インガを下した事実は俺の中でけっこうな自信にもなってる。

 だが魔皇はそんなインガですら手も足も出ないという本物の化け物だ。またしても素手喧嘩ステゴロを挑むにしたって今度という今度は相手が悪すぎるとしか言いようがない。ぶっちゃけ、状況からすると俺は詰みもいいとこだ。


 【超活性】だけでなく【遺産】も【併呑】もフル活用しながら殴ったってのに大して効き目がなかったこと。それだけでも証明は済まされてるようなもんだしな。


 まだしも戦術に選択肢があるユーキと違ってこれ以上の上げ幅がねえ俺は、下手すりゃ足手纏いになりかねない。


 そういう苦境に立っている自分を正しく認識して――なのに俺はちっとも後ろ向きな気分にはならなかった。


 苦境にこそ燃えるインガの因子がその原因ではあるだろうが、それ以外にも理由があることはわかってる。

 それこそ【併呑】や【遺産】。使っても魔皇には効いてないなんて言ったが、手に入れたばかりのこれらのスキルを俺はまだ使いこなせちゃいないってことに、気付いてるせいでもある。


 出せるもん全部を出し切っての全力を、惜しまずぶつけはしたけれど。


 けれどだからってここで打ち止めじゃねえ。やれることは他にもうなくたって、だけど俺にはもっと上がある。


 あとはそれをどんだけ引き出せるかが勝負の分かれ目ってところか。


「【併呑】、と確かに聞こえた。それにその姿」


「……!」


 反撃がくると見越して身構えていた俺とユーキだが、魔皇はすぐには動かず俺をじっくりと観察してきた。


 手とか首元の鱗を見てるのかと思いきや、その視線が特に俺の額あたりに留まったんで不思議に思ってそこへちょっと触れてみたら……な、なんだこりゃ。左側の生え際から髪とは別のもんがにょっきりと飛び出してるじゃねえか。


 これはあれか――鬼の角! インガの額にもこんな感じでちっこくて黒い角が生えていたよな。【併呑】を発動してもさっきはこんな風にゃなってなかったと思うが……馴染んできている、ってことか? だとすれば考えの裏付けになるか。


 まだ奈落の底には落ち切っちゃいない。

 もっと深くまで落ちて落ちて落ち切って、そして真の力を解放させること。


 格上のネクロマンサーを相手にするならやっぱりそれ以外に手はなさそうだぜ。


「よもや小僧、お前が俺と同じスキルを持つとは。そこな小娘と同じくマリアに目を付けられただけのことはある――インガを殺し、力を奪ったな」


「まーな」


「ふん……奴め、死の際まで根っからの自由人か」


 小馬鹿にするような口調だが、魔皇はどこか愉快そうでもあった。おそらく部下の中でもインガとは特に長い付き合いで、密接な間柄だったはず。そういうとこでこいつにもちょっとした情みてーなもんはあるのか、と思ったんだが。


「お前もよく奴に勝てたものだ。称賛も含めて、処分する手間を省いてくれたことに一応は礼を言っておくか。この作戦が終わっても生きているなら俺がこの手で殺す必要があったからな」


「なに……?」


「何を意外そうにすることがある。【併呑】がなんのためのスキルであるかは、お前とて承知しているはずだろう?」


「そりゃあ、な。人様の力を貰うスキル、それが【併呑】だろ」


「ふ、その通り。あくまで合意を結ばんことには力の譲渡は成されない……逆に言えば合意さえ得られたなら何をどうしようと確実に力は移る、ということでもあるが」


「……!」


「そう、手っ取り早く欲しければさっさと殺すが吉だ。お前がそうやってインガの力を得たようにな」


「けっ。統一政府セントラルを潰した次は『灰の者たち』と対決する。それに勝つためにはインガの偽界の能力が必要不可欠……っていう段取りだったってわけかよ」


「よくわかっているじゃあないか。それもまた然り。インガにもその覚悟はあった。奴だけでなく、シガラやエニシもな。お前のせいで時期はズレたが計画に狂いはない……奴らの使命は死によって完結した。あとのことは、全て俺が引き継ぐ。元よりそういう約束だ」


「何が約束だよ。生い立ちに付け込んで利用してるようにしか見えねーぜ。そもそも【併呑】の条件を飲まないやつは部下にもしなかったんだろうがよ」


「まあ、間違ってはいないな。俺の欲する力を持ち、それを献上することに不満を抱かないこと。まずそこをクリアしないことには逢魔四天の地位を与えるわけにはいかなかった。……思い返せば俺以外の者に同じことをするなとは言っていなかったな。故にインガのやったことは裏切りに値しない。だが、わかっているのか?」


「何がだ」


「奴の真価はお前も言った通り偽界にこそあった。体力だの腕力だのといった部分はそれからすれば至極どうでもいいものだ。スキル殺し――否、システム殺し。その極めて特異にして強力な能力を簒奪したのは、この俺だ。オニの膂力を得てご満悦のようだが、所詮そんなものはインガの出涸らしに過ぎんのだぞ」


「だからどうした、おもちゃを自慢する子供かてめーは。ぼくのもらったやつのほうがこんなにすごいもん! ってか?」


「…………、」


「いらねーよ、あいつの偽界なんて。使いこなせる気もしねーしな。俺にはこれくらい単純なほうがちょうどいいぜ」


「――面白い小僧だ。インガが気に入るわけだな」


 ひと思いに殺してやる。

 そう言った魔皇が、気付けば俺のすぐ目の前にいた。


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