34.君に決闘を申し込む
「来訪者にゃあ、俺たちにねえ特殊な力がある。そりゃ確かにただの冒険者とは言えねえな」
「ですよね! 実際、ゼンタさんがインガの気を引いてくれたからこそあの場から逃れられたんです」
「へえ……ビギナーがどうやってインガから逃げおおせたのか気になっていたけど、そういうことだったのね」
お、なんだか悪くない流れだ。
トードだけでなくレヴィも感心したような顔をしている。
が、ここで異議を申し立てたのがやっぱりジョニーの野郎だ。
「待ちたまえ!」
「今度はなんですかっ」
サラはもう完全にジョニーを敵対視しているようで、がるると威嚇するみてーに応じた。
犬が苦手って言いながら今やってることはめちゃ犬っぽいんだが、本人にその自覚はなさそうだな。
「来訪者がスキルという特殊な力を持っていることは、俺も知っている。だが! スキルとは強力なものもあればそうでないものもある、言わばピンキリのはず! そもそもまったく戦闘向きでないスキルもあると聞いているぞ? とすれば、一口に来訪者と言っても実力は定かではない。それを特別扱いはどうかと思うが」
「何が言いたいんですか! はっきりしてください!」
「もう言い切っているだろう!? 来訪者だからといって、それだけで強さの証明にはならないと言っているんだよ!」
「そんなこと! 至極ごもっともですね!」
「否定するような語調だが認めているんだな!? そうだよな!?」
自分のほうがおかしいのかと不安になっているジョニーが助けを求めるようにそう聞いてきたので、俺は「おう」と頷いてやった。
「お前は正しいさ。来訪者だからって強さの自慢になりゃしねえだろうよ。……有名ギルドの所属だからって、それが実力の証明にはならんのと同じでな」
「――なんだと?」
「へっ。別に誰のこととは言わねえけど」
「どこまでもふざけた男だな……! アーバンパレスは所属も昇級も完全実力主義! 我らが頂点の団長がその訓示を徹底されている! そして、だからこそ! アーバンパレスの一員になることはそれだけで得難き栄光でもあるんだ!」
興奮して喋るジョニーに、俺はわざと冷ややかに肩をすくめてやった。
「さーて、どうだかな。そっちの内情なんて知らねえから、お前の言うことが実は嘘っぱちで、コネが横行して腐った人事が罷り通ってようと俺らにはわからん」
「それは侮辱のつもりか!」
「そんなにカッカするってぇのは、まさか図星なのか?」
「っ……! もう我慢の限界だ! 敬意を見せず、あまつさえ口汚く罵りまでするその在り様は看過できない! 故に! ――俺は君に決闘を申し込む!」
「け、決闘ですか!?」
「おいおい」
俺に指を付けつけて決闘宣言をしたジョニーにサラは仰天しているし、トードは呆れている。
「ちょっとジョニー、あんた……」
「止めてくれるなレヴィ! これは俺の名誉の戦いなんだ」
「あっそう……じゃあ、好きになさい」
仲間から一応の承諾を得たジョニーは、次いでトードへと言った。
「ここの訓練場をお貸し願おう!」
「本気で決闘なんざしようってのか」
「無論、俺はいつだって本気だ。あなたも当人同士に決めさせると言った。だがこうしてお互いに引く気がないのなら、あとは誇りを賭けて矛を交える以外に道はない。ゼンタ君!」
「なんだよ」
「君は来訪者として、そして冒険者としての確かな実力を! 俺はアーバンパレスの構成員としての高い実力を! 戦って示し、勝ったほうこそが正しいと! そうやって明快に決着を付けようではないか!」
「あー……今までに経験がねえんで、戸惑いはしてるが。要は丁寧に喧嘩を売られてるってことでいいんだよな。だったら俺ぁ言い値で買うぜ」
売られた喧嘩は買う。男として当然のことだ。
ま、買ったら絶対に死ぬって場面じゃとんずらこくがね。
だがこいつを相手に逃げるなんてのは、俺のプライドが許さねえ。
「了承ってことでいいのか?」
トードにそう聞かれたんではっきり頷く。するとトードは「仕方ねえな」と膝に手を着きながら立ち上がった。
「そんじゃ、俺が見届け人になろう。場所を提供する手前、最後まで付き合わせてもらうぜ」
この言葉で気付いたが、ジョニーたちに約束したのが『話し合いの場を設ける』ってだけなら、ここにトードが同席することは必須じゃない。本人同士に決めさせるんならむしろいないほうが自然でもある。
……つまり、俺たちを助けるつもりでいてくれたんだろうな。
俺の隣に座ってたのもたぶんそのつもりだったんだ。
あまり口を挟まなくても、自分たち側の人間が傍にいるってだけでも心持ちはだいぶ変わるからな。
「あざっす、組合長」
「礼なんざいらねえから、自分の怪我を心配しな。決闘に事故は付き物なんだからな」
俺だけじゃなくジョニーにも向けた忠告っぽいことを言って、「準備してくるぜ。三十分後に呼ぶ」と言い残してトードは部屋を出ていった。
……え、こいつらと三十分、ここで待つの?
この雰囲気のままで?
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
なんだか気まずさに口を開いたら負けのような空気になって、俺たち四人は押し黙ったまま静寂の三十分間を過ごした。
◇◇◇
『シバ・ゼンタ LV13
ネクロマンサー
HP:76(MAX)
SP:45(MAX)
Str:60
Agi:44
Dex:26
Int:1
Vit:42
Arm:38
Res:13
スキル
【悪運】
【血の簒奪】
【補填】
【SP常時回復】
【隠密:LV2】
【活性:LV1】
【心血】
クラススキル
【武装:LV3】
【召喚:LV3】
【接触:LV1】
【契約召喚】』
「いやー、息の詰まる時間でしたね」
「途中から眠りこけてたくせによく言うぜ」
準備が完了したと呼び出された訓練所の隅で、サラが俺に話しかけてきた。
「もう決闘が始まりますけど、大丈夫ですか?」
昨日のクエストでの疲労のことか、あるいは俺が黙っていたから心配になったのかもしれない。調子を窺ってくるサラに、不調はないと伝えた。
「ただステータスとスキルを確認してただけだぜ」
「自分の能力が文字と数字でいつでも見られるなんて、やっぱり来訪者さんは狡いですね」
「いや、俺の場合見ても何がなんだかわからねーんだけどな。ただスキルの一覧は助かるな」
昨日だけで二回もレベルアップして、新スキルが手に入ったし、【召喚】のLVも上がった。着実に強くはなっているはずだが……。
「はてさて、一流ギルドの冒険者相手にどこまでやれっかね。まずはキョロにかく乱してもらうか……いや、成長したボチと一気に攻め立てるほうがいいか?」
「あ、それなんですけどゼンタさん」
「ん?」
何やら作戦があると言うので、サラの言葉に耳を貸す。
「いえまあ、作戦と言いますか。確認ですけど、ドラゴンゾンビさんって今も呼べますか?」
「ああ。ボチと一緒でインガにやられた後はクールタイムに入ってたけど、今はどっちも呼べるぜ。ただしドラゴンゾンビのほうはSPの不足ぶんをHPで補わねーといけねーけどな」
ただそれ以上に気になるのが、ドラゴンゾンビとの意思疎通だよな。
昨日は共通の敵であるインガを前にしていたから心も通じ合ったが、それ以外でコミュニケーション取ってねえからな。
呼べたとしても、言うことを聞いてくれっかはまだわからんってのが正直なところだ。
「呼べはするんですね?」
「ああ、それは間違いない」
「じゃあ、あとはどうにかお願いして、ブレスを吐いてもらいましょう。それできっと勝てると思います」
「なにぃ?」
てっきりドラゴンゾンビの巨体で圧倒するのかと思えば、ブレスだって?
そりゃインガに効き目のなかった、あの黒い霧みてーなやつのことだよな?
「腐食のブレスは、少量でも吸い込むと酩酊にも似た症状を引き起こしてまともに立っていられなくなります。インガに効かなかったのは、それだけ彼女が異常だったという証であって、腐食のブレスが弱いということではありませんよ」
「そうなのか」
「そうなんです。更に言いますと、生物相手にも効果を発揮しますが、腐食のブレスの恐ろしいところは非生物への効果のほうです。物を、腐らせるんですよ。特に金属製の物には反応が激しく、少し浴びただけでも立ちどころに溶けて使い物にならなくなると言われています」
「げっ、あれにはそんな効力があったのかよ」
そりゃなんつーか、戦士殺しって感じのブレスだな。
インガに関しちゃぼろ布を巻いてるだけって風体だったが、そっちにも体のほうと同じくブレスの影響はなさそうに見えたけど……あれもたぶん、何かしら特別な装備だったんだろうな。オニを名乗る奴の着るもんがただの服なわけねーだろうし。
「ここで、これからゼンタさんが戦う相手を見てみましょう」
サラに言われて振り向くと、反対側から訓練場の中心へと勇ましい顔付きで進み出てくるジョニーの姿が目に入った。
……その恰好は、さっきも言った通りに金属製の防具を身に纏い、両手にはこれまた金属製の盾と剣を持っている。
「どうです?」
「いけそうな気がしてきた」
俺とサラはたぶん、悪役みたいな笑顔をしていたことだろう。
ゼンタとサラには人を怒らせる特技があります。加えてサラには怒る気すらなくさせる特技もあります。
最強やね
『シバ・ゼンタ LV11+2
ネクロマンサー
HP:66+10
SP:38+7
Str:51+9
Agi:37+7
Dex:20+6
Int:1+0
Vit:36+6
Arm:30+8
Res:11+2
スキル
【悪運】
【血の簒奪】
【補填】
【SP常時回復】
【隠密:LV2】
【活性:LV1】
【心血】New!
クラススキル
【武装:LV3】
【召喚:LV2】+1
【死体採集:1】Lost
【接触:LV1】
【契約召喚】New!』