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334.今までに感じたこともない

「メモリ! 安心したぜ、お前も無事だったか」


「……うん」


 いつもの通りに静かな声で肯定が返ってきた。俺の革ジャンと同じくいつでも着てる例の真っ黒なローブはどっかに置いてきたらしいが、そのおかげで怪我らしい怪我もないってのが一目でわかる。


「ラハクウってのは魔下三将の一人なのか?」


「そう」


 お、当たってた。三将と名の付くくらいなんだから当然三人はいるだろうと思ってたぜ。シュルストーとドレッダは確認済みだったが残る一人がどんな奴かはちっともわからなかったんだが、メモリがそいつを倒してくれたと。


 ドラッゾが『破戒』のドレッダを。

 委員長が『堕落』のシュルストーを。

 そしてメモリが『瞑目』のラハクウを仕留めた。


 これで魔下三将は全員倒されたことになるわけだ――てことは魔皇軍の幹部もいよいよ後がないな? 


 残すは一人、逢魔四天『与楽斜陽』のスオウのみ。……ま、四天や三将とわざわざ数字をつけておきながらそれ以上の人数がいる可能性もゼロじゃあねえんで、あんまり鵜呑みにはしないでおくがよ。


 ともかくまあ、これで見えてる敵はだいたいやっつけたってわけだ。

 それはいいんだが……。


「にしてもメモリお前、その恰好はどうした。なんだって前の姿に戻ってるんだ?」


 そう、メモリはちょっと前に俺の身長を追い越しちまいやがったんだ。


 俺に来訪者らしい戦い方ってのを指導した仮面女と同じく、現在は活動していないものの未だにその筋では有名な伝説的冒険者ギルド『最強団ストレングス』に所属するあの人物。


 広く知られた通り名を持つ世界唯一のネクロマンサー、グリモア・グリアエールとの謎の修行によってメモリは一足飛びの成長を果たし、最年少だったはずが見た目だけならチーム『アンダーテイカー』の最年長へと躍り出た。


 その育ちっぷりにガンズやヤチがおったまげてたのもまだ記憶に新しい……ってのに、今のメモリは成長前そのまんまの姿に舞い戻ってる。ローブと一緒に体まで脱ぎ捨ててきたかのように。


「正しい。あの体は術のために使った。……『瞑目』に勝利するためには、そうする必要があった」


「おいおい、てめーの体を使う術ってなんだそりゃ。本場のネクロマンサーが使う魔法はよくわからねーが、また無茶なことをしたんじゃねーだろうな。だとしたら怒るぞ」


「……特に問題はない。たくさん食べれば、またあの姿に戻れる」


 マジかよ。食えば解決なのか。そりゃあ食事が体作りの基本ってのはその通りなんだろうが、それとはちょいと意味合いが違わねぇか? 


 こんなぽんぽん伸びたり縮んだりするって、常識的に考えてかなりヤバいだろ。本当にそんな体になってるんだとしたらメモリもとんだびっくり人間になったもんだ……。


「小さくなった以外に被害はないみてーだが、パワーダウンはしてんだろ?」


「いくつか使えない術があるだけ。……まだ戦える」


 ……無理をしてる、ってことでもなさそうだ。体力も魔力もまだ残ってるっぽい。魔下三将と戦り合っていながら大したやつだぜ。


 これなら任せてもよさそうだな。


「そんじゃあ、委員長のこと頼んでいいか」


「! 柴くん――」


「いーや聞き入れねえぞ。お前はHPとSPを取り戻すのが先決だ。メイルのことは俺とユーキで追いかける。そん代わり、お前にもやってほしいことがあんだ」


 委員長は少し悩まし気に顔を曇らせたが、やがて諦めも付いたか「ふぅ」とため息をついた。


「わかったよ、大人しく君の帰りを待とう。それで、その間に僕は何をしたらいい?」


「どっか飛んでっちまったナガミンをよ……まあ、俺がやったわけだが。見つけてお前の手でちゃんと弔ってやってくんねーか?」


「……!」


「なんつーか、敵にはなっちまったが。それでも俺らにとっちゃあの人はシュルストーじゃなくてナガミンだろ? ……んなことしてる場合じゃねえってのはわかってんだがよ」


 だけどこのままにしとくのはあまりにも忍びねえっていうかさ。こんなことは言いたくねーんだが……ナガミンがなんか、可哀想すぎる気がしてな。


 どうにも落ち着かねえんだよ。


「いや……その気持ちは、よくわかるよ。きっと君は僕以上に心を痛めるだろうともわかっていた。――承ったよ。長嶺先生の遺体は丁重に葬ろう。それが彼を殺した僕の義務でもあるし、君の心にしこりを残したままにはしておけない」


「そっか。なら頼むぜ、委員長。メモリも委員長を守ってやってくれ」


 二人が頷く。合流したばかりでまた別れることになっちまうが、これが一番いいだろう。奥に進み、おそらくはスオウあたりと戦ってるだろうメイルの援護をするのは俺とユーキだ。


「協力してくれるか?」


「勿論です。申し上げた通り、オレゼンタさんと共に戦うことは私にとっての使命ですから」


「あー、そうだったな。マリアさんが言ってたことを守ってんのな。だから俺んとこへ駆けつけてくれたのか――、ッ!?」


 喋ってる最中にぐわん、と視界が揺れた。いきなり空気が何十倍にも重みを増したように感じたんだ。


 異変を察知したのは俺だけじゃないようで、メモリも委員長もユーキも。みんなが顔面を蒼白にさせている。きっと俺も同じような顔色になってんだろう……そんだけこれは強烈だ。


 この今までに感じたこともない、物理的な重量まで伴うような威圧感はな……!


「まさか、こいつは――!?」


「そのまさか、なんだろうね。くそ、長嶺先生の言っていたことが実現してしまったか」


「この、気配。この圧倒的な、力の鼓動が……」


「――魔皇っ……!!」


 ギリィ、と強く歯を噛み締めるユーキ。それも当然だ。魔皇がここに来ちまったってことは、その相手をしてたはずのマリアが――負けた。そういうことになっちまうからだ。


 一人娘であるユーキとしちゃ母親の敗北なんて信じたくねーだろう。そこは俺だって同じだ。あのマリアが負けるなんざ到底信じられっこねえ。


 だがどっかじゃ、やはりこうなっちまったかと納得する気持ちもあった。インガから聞き出した話によれば、魔皇は想像した以上に対マリア用の策を練り上げて大勝負に挑んでいた。


 勝つつもりでいたのはどちらも同じだろうが……来たるべき日に備えて次世代を育てていたマリアに対し、魔皇はひたすらに自分の力を高め決戦の日を早めたうえで、しかもマリアを倒すためだけに専用の心象偽界まで編み出していた始末。


 準備にかける熱量がそもそも違ったんだ。

 これはマリアが侮り過ぎていたというより、魔皇が異常と言うべきだろうがな。


 執拗なまでにマリア打倒に拘っていた――それは恐怖の表れでもあり、ある意味じゃ誰よりもマリアを評価してるのが魔皇だったってことでもある。そして最も恐ろしい敵をやり込めたからには、もう奴に怖いもんなんてねえ。


 魔皇の野望を阻むものはない。少なくとも新世界創造のための第一歩はこれで間違いなく踏み出せると、そう確信しているこったろう。


 だが、しかし。


「……行き先変更だ、ユーキ。メイルにゃ悪いが、応援に向かってる場合じゃなくなっちまった」


「……! それじゃあ、オレゼンタさん」


 委員長の回復待ちも兼ねてここでナガミンの供養をしてもらうことに変わりはねーが、俺とユーキは奥に進むんじゃなくその逆。来た道を戻ることになった。


 マリアが負けちまうような相手に何ができるかはわからねえが、万が一を託されたのはユーキだけじゃなく俺もなんだ。


 だったら行かねーわけにゃいかねえよな――魔皇の下へ!


「「「「……ッ!」」」」


 大震動。これはさっきの眩暈とは違って本当に揺れている。それも空が、大地が震えるようななんとも名状しがたい――この世の全てが怯えているかのような震え方だった。


 早速何かをしやがったな、魔皇の野郎め……!


「急がねえとな……だがその前に!」


 俺は自分の腰に巻いてある、一定以下の大きさのもんならなんだって無限に収納できる超便利アイテム『次元格納ポーチ』を開いて。


 その中からずっと仕舞いっぱなしだった『とある物』を取り出した。


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