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333.それならそれでいい

誤字報告に心より感謝

「マジに言ってんだな? あのナガミンは死体で……殺したのはお前だってのはよ、委員長」


「ああ」


 即答だった。俺の目を真っ直ぐ見返しながら委員長が頷く。その態度からは強い意思が感じられた――全てを受け入れる意思。


 事故なんかじゃない、とわかった。

 委員長は殺すべくして。自らの意思でナガミンを手にかけたんだと。

 そしてそれをあえて隠そうとはしていないことも。


「そうか……そうか」


 俺も頷いて、返したのはそれだけだ。

 委員長は意外そうな顔を見せた。


 どんな言葉を覚悟していたのかは知らねーが、その場にいなかった俺がごちゃごちゃと言えることなんざ何もねえ。故意の殺害だったにせよ、委員長だって殺したくて殺したんじゃねえってことくらいはわかってんだ。


 そもそもナガミンのほうは俺たちを殺そうとするのになんの躊躇もなかった。その時点で決着がこういう形になることは目に見えていた――俺はそこから目を逸らしちまってたのかもしれねえ。


 反対に委員長は、しっかりと直視していた。

 いざとなればナガミンの命を奪うことも厭わないと、そう決めていたからこそのこの決然とした態度。


 いかにも委員長らしい。堅物のクソ真面目。なんでも自分で背負い込もうとする、そして本当になんでもできちまう我らがクラスのリーダー。


 うちは放任主義だったナガミンよりも実質的にこの委員長が取り仕切っていたくらいだ。そうじゃなけりゃあ、ただでさえ変わり種だらけのうえにカルラやレンヤっつー格段に扱いにくい生徒までいるこのクラスは、とっくの昔に取り返しのつかねー学級崩壊を起こしていたことだろう。


 それを二年以上も。色々なトラブルがあったとはいえ一応はその全てを収めてきた立役者がこいつ、新条ナキリだ。


 一見は細っこく、面も含めて女生徒と見紛うばかりの、誰かに守られているのがお似合いとしか思えないやつだが。だがいつだって誰かを守っている、守ろうとするために身を削っている。そういう他の誰よりも骨のある、一本の芯が通った男なんだ。


 俺ぁそれをよく知っている。

 一度はガチ喧嘩だってした仲なんだからな。


 だから、何も言わねえ。責めも褒めもしねえ。委員長がやらなけりゃたぶん俺がやってたことでもある。その結末もきっと同じだったろう。


 あの日ナガミンと再開した時点で……いや、魔下三将のシュルストーと出会った時点でこうなることは、半ば決定づけられてたんだ。


 俺たちと、シュルストーと。どちらかの死によってしか決着とはならねえんだとな。


「手間ぁかけさせたな、ナキリ」


「柴くん……」


「本当なら俺も一発ぶん殴ってやりたかったところだけどよ」


 そしてできりゃあ正気を取り戻させて、エニシの行いに加担したこと。スレンティティヌスの片腕を奪ったことの償いをさせたかった。……だがそりゃどっちみち叶わなかっただろうな。


 こういう結果になったってこたぁ、委員長に殺されるその瞬間までシュルストーはシュルストーだったってことだ。


 俺の知るナガミンには、戻ってくれなかった。そういうことなんだ。


 これもまた収まるべきところに収まった――終わるべくして終わったことなんだろう。


 それならそれでいいさ。


「お前が代わりにやってくれたんなら、それでいい……だが許せねえのはハナだ。いくら生徒より魔皇軍を取ったひでー担任だとはいえ、その死体を操り人形にしまうことはねえだろう。元から人形同然のゴーレムを操作するのとはわけが違うぜ!? しかもそれを自分が逃げるための捨て駒にしやがるたぁとんでもなく恐ろしい奴だ」


「そうだね。砂川さんにとっては自力で動くことのない、つまり抵抗されることもなく操れる死体というのは、まさに絶好のスキルの的だ。だがまさかそんなことしないだろうと、するはずもないことだと元から考慮に入れていなかった……いや、思いつきすらもしなかったんだ。そのせいで彼女を逃がすことになってしまった」


「ナキリさんが悔やむことではないかと。ハナさんの行動はどれも常人の域にはない。こちらへ来て一年足らずとはとても思えません。まるで初めから――そちらの世界にいたときから既に備わっていたかのようではないですか」


「備わっていたって?」


「戦いに身を置く心。殺意を向けられることも向けることも当然とする、冷えた心構えの話です」


「「…………、」」


 そんなもんを、あいつが? 

 そういうのは戦うことを生業にすると決めた連中が訓練や実戦を通して少しずつ身に着けていくもんだろう。


 俺で言えば初っ端の森でのサバイバル。委員長で言えばユニフェア教団への潜入か。過酷な経験によって否応なく培われていったが――確かにハナはそんな俺たちよりもさらに上をいっている。ユーキの言う通りに奴のそれは常人のもんじゃあないように思える。


 こっちの世界に飛ばされる前からあいつは普通じゃなかったのか?

 うちのクラスにゃ珍しい、どこを切り取っても特徴らしい特徴のないザ・平凡って感じの女子としか思ってなかったが。

 しかしこの異世界においてもその平凡さを崩さないっていうのは、ちょっとおかしいよな。


 普通じゃない環境で普通を保てるっていうのは、ちっとも普通じゃないぜ。


 そして化けの皮が剥がれてみれば、これだ。俺ら三人を前に易々と逃げ延びた。こんだけ色んなもんをぶっ壊してくオマケ付きでな。


 おかげで俺ももう死んでる相手を殴るなんていう気持ちのよくねえことをさせられちまった……いやこれはネクロマンサーの俺が文句を言えたこっちゃねえな?


 とにかくだ。


 ハッキリ言えるのは、砂川ハナはやっぱし異常だってこと。よりによってと言うべきかだからこそと言うべきか、そんなあいつが『灰』に目を付けられたのは俺らにとっちゃとんだ厄介事だと言っていいだろうよ。


「気紛れなようにも思えたけれど、彼女なりに『灰』への従属性は持ち合わせているらしい。最初は長嶺先生を始末するつもりでここへ来たようだったからね」


「はん、モロに舵取りのためって感じだな。今のうちに少しでも魔皇軍をパワーダウンさせて後々を楽にしてえと『灰』は考えてやがると」


「加えて言うなら今期の来訪者。つまりオレゼンタさんたちに、自分たちの存在をその意思と共に見せつけることも目的だったのかもしれません。でなければ目標人物が既に倒された後でナキリさんに姿を見せる必要はなかったはずですから」


 けっ、それも後のことを考えた布石ってことかよ。気に入らねえな。つくづく気に入らねえよ。


 魔皇もそうだが、こんだけのことが起こってるってえのにだ。俺らはこの大規模襲撃を迎え撃つのに四苦八苦させられてるってのに、魔皇も『灰』もまるでこれを前座扱い……ひょっとすりゃもっと酷いか。


 今まさに血と汗を流して色んなやつらが必死こいて戦ってて、そして少なくねえ犠牲者が出ちまってるはず。


 それをなんだ、魔皇様も管理者様もどうでもいいことみてーに。決まった筋書をなぞってる最中みてーな気分だってのか? さすが神様のシナリオをよくご理解なさってる方々は違ぇな。


 不愉快極まりねえ。


「委員長、メモリは一緒じゃねえのか? あと特級のメイル・ストーンもどこ行った。同じタイミングで突入したんだろ」


「僕らはメイルさんを先へ行かせるために道中の敵を引き受けたんだ。おそらくメモリさんは今も交戦中だろう、早く助けに向かったほうがいい」


 やっぱそうか。まさか理由もなしにはぐれたり別れたりもしねえだろうから予想はついてたが、メモリのほうも魔皇軍の誰かと戦ってるところらしい。


「ちらりとしか確認できなかったが、彼女の敵は巨大な背丈を持つ不気味な男で――」


「『瞑目』のラハクウ……は、既に撃破済み」


「「「!」」」


 瓦礫の積もった通路の向こうから聞こえてきた声。俺たちが一斉にそちらを向けば、しっかりとした足取りで瓦礫の山を踏み越えてくるメモリがいた。


 そんで何故かその姿は、急成長する前のちっこい外見に戻っていた。


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