表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
327/557

327.チェックメイト、かな?

「なに……!?」


 馬鹿な。俺ぁハナから目を逸らしてねえ。戦闘中だってのにんな真似するわきゃねえ――だってのにどうして奴を見失っちまってんだ!?


 どこだ、いったいどこへ消えやが、


「っ……!」


 ビリリとした警告。それに従ってとにかく『肉切骨』を構えた。顔を向ける暇もなかったんでマジで感覚頼りのガードにはなっちまったが、運よくドンピシャの位置とタイミングでナイフを置いとくことができた。


 後方から首を狙ってきてたハナの掌打。人を操り人形にできるらしい【糸繰掌】を、受け止めることができた。


 あ――っぶねえ! 【先見予知】がなけりゃ今ので終わってたかもしれん。マジで怖ぇ奴だな、砂川ハナ!


「びっくりした。今のを防げるんだ」


「こっちのセリフだ……! てめえどうやって俺の視界から消えやがった?」


「そこはまあ、お互い企業秘密ってことで」


 けっ。こらまたそりゃそうだとしか返せねえな。


 今のを防げるんだ。そう言ったな、こいつ。はん、委員長がどうやってやられちまったのかなんとなくだが見えてきたじゃねえか。


 たとえ来訪者が相手でも、確実に決まる。少なくとも高確率で決まる攻撃だっていう自信がハナにはあったわけだ。


 もしかすると【先見予知】が進化せず【察知】のままでいたら防げなかったかもな……インガの怒涛の猛攻も逐一読み切れたこいつの性能は伊達じゃねえ。不意は突かれたがどうにか首の皮一枚繋がったってところか。


 だがそもそも不意を突かれるってこと自体があっちゃいけねえだろう。俺の目は【明鏡止水】によって色んな意味で研ぎ澄まされている。視覚以外の残りの五感や、第六感だってそうだ。それらだって【先見予知】の助けになってんだから間違いはねえ。


 こっちも【集中】から進化した上位スキル。戦闘における便利さで言えば攻撃の先読みにだって負けず劣らずの優れた代物だ。


 それを持っていながら、しかも一対一で他に神経を割くような敵もいないっていう状況で、なのにハナの動きを追えなかった……いやそうじゃねえな。追う追わないじゃないんだ、あいつは動き出す前にもう消えていた。


 巧みに俺の目から逃げおおせた。

 と、言うべきなんだろうな。


 なんらかのスキルの能力によって……!


「……、」

「ちっ……!」


 完全に受け用に持ったナイフを体の前に置きつつ間を寄せると、ハナはまたゆらゆらと揺れ始めた。【柳葉】とやらを再発動させたな。


 こいつが近接戦をやろうってときにゃこれが切り札にして、戦術の基本か。実際戦っててめちゃくちゃ厄介だとは思うんで重用すんのも当然だが……しかし待てよ。今こいつ、そんな大事なスキルを一旦とはいえ切ってたのか。


 SP消費が激しいタイプなのか? だが効果からして持続消費だとは思うものの――節約が効きやすいってことだ――俺の【超活性】なんかと同じで、急速にSPを持っていくもんには見えねえが。


 いくら使わねえときは切っとくのがいいっつっても、戦闘中なんだぜ。俺が常に気ぃ張って【超活性】を切らさねえように、ハナだってそう頻繁にスイッチをオンオフ切り替えたりはしねえだろう。


 勝負ってのは何が起こるかわからねえ。

 オフったその瞬間に俺から致命的な一撃を貰っちまうかもしれねえんだからな。


 ハナのことだ、【柳葉】を切ってたのには節約以上の意味があるはず……例えばそう、スキル併用の問題で切らざるを得なかったとかな。


 【同刻】を得たおかげで忘れがちだが本来スキルとスキルってのは併用が効かねえもんが多い。俺はできちまうが、普通はやりたくてもできない。だからこそそれが叶うスキル同士でのコンボってのは重宝されるんだ。


 ハナだっていくら敵の視界から消えてる最中っつっても【柳葉】ほど便利なスキルを棚に上げときたくはねーだろう。よって結論だ。


 【柳葉】と【糸繰掌】。そして姿消しと【糸繰掌】の両立はできても、姿消しと【柳葉】の組み合わせじゃ両立できねえ! おそらくはそれが答え!


 見えねえ俺もだが、守れねえこいつも無防備。互いに急所を晒してる状態ってことだ――言い換えるならそりゃ俺にとってのチャンスを意味している。


 ならやることはシンプルでいい……!


「おぉお!」


「!」


 露骨にカウンターの素振りを見せていたハナだが、構わず俺が突っ込んだんで一旦回避に専念することにしたようだ。格闘と姿消しのどちらを選ぶか俺に悩ませて攻撃の手を鈍らせたかったんだろうが、その考えが匂っちまったからには付き合ってやらねえよ。


 たとえ当たらなくたっていい、とにかく攻める。【柳葉】は面倒だが姿消しのほうとは違って【明鏡止水】で対応できる。完全攻略にゃもう少し時間がかかるだろうが、今でも既にさっきよりはハナの動きを読めるようになってるからな。


 その変化はハナだって感じている。とくりゃあ、【柳葉】の信頼性が薄れちまう前に仕掛けてくるだろう。


 今度こそ不意打ちを成功させて勝負を終わらせるべくまた姿を消す……! そこが狙い目だ。


 【先見予知】からの知らせがきたなら、今度は守るんじゃなくこちらも攻める! 後の先を取って【糸繰掌】より先に絶死のオーラをぶち込んでやるぜ。


 さあやってこい、もう一度消えてみろ――!


「……【操糸】発動、【巣造】」


「な!?」


 俺の狙いは間違っちゃいなかった。明らかにハナは消えるタイミングを窺っていたんだ。だが急にそれを取り止めて、引き始めた。反撃狙いの回避から本当に回避だけに徹するようになり――。


 気が付きゃ俺はこいつの糸でできた網に捕らわれていた。


「ふー、よかった。これには引っかかってくれたね」


「っぐ、てめえ……!」


 直接的な攻撃じゃねえんで【先見予知】の反応は確かに若干鈍かったが、それでも知らせ自体はあった。なのに俺が前のめりになり過ぎててそれを活かせなかった。


 捕まっちまったのは言い訳のしようもねえミスだ……だがそれにしても。


 ハナめ、なんて周到な奴なんだ! 不意打ちを防がれたことで次はひょっとすると迎撃までされるかもしれない。そう危惧して攻め手を変えやがったな。


 俺を網の下に誘導して、捕らえる。雀捕りみてーに単純すぎるトラップだが誘いの餌がハナ本人だってんだから俺も誘われねえわけにゃいかねえ。


 この網を――たぶん天井にだろうが――設置したのは姿を消してた間に違いねえ。俺の後ろに回り込みつつ手早く罠まで用意してたとはよ。


 戦いに慣れてる。そうは思ったが思った以上に慣れっぷりが半端じゃねえ。スキルも強いがそれ以上にハナが強い。この抜け目のなさと、糸を繋がずともまんまと人を操る手腕。


 人形が傍にいねえ人形遣いなんざ恐れるに足りねえ……かと思いきや、糸遣いの称号でも十分にやっていけそうだなこいつ。


「チェックメイト、かな?」


 俺が動けねえのを確かめてハナが言った。いつも通りに平坦だが、勝ちをほぼ確信してるってのがわかる。


「ちぃ……っ」


 網は頑丈で、力を込めても破れそうにねえ。

 力一杯ナイフを振るえりゃどうにかできそうでもあるんだが……こんだけ体中をキツく締め付けられてちゃそんなこと不可能だ。


 しかもこの網、粘着性までありやがるんで余計に脱出困難だ。【巣造】ね……まさに蜘蛛の巣めいた仕上がりになってるってわけか。


 こりゃ確かに、よほど特殊なスキルでも持ってねえ限りは詰みだわな。ハナが勝利を確信しきらないのもそれを疑っているから。だから不用意に近づいてはこねえんだ。


 そういうとこにもこいつの如才なさが表れてるが、ああそうさ。その警戒は正しいぜハナ。


 身体強化を施していても破れねえ網。

 それを破っちまう手段が、今の俺にはあるんだからな。


「またお前の力を使わせてもらうぜ――【ドラッゾの遺産】発動!」


「……?!」


 突然の俺の変化にゃあ、さすがのハナも目を丸くさせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ