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324.大乱戦

 ボチは疾風の如くに駆け、あっという間に俺を中庭まで運んでくれたぜ。


 見えてきたのは大乱戦。地上も、そして空でもだ。


 そこでは合戦って表現がぴったしな具合に大勢の人間ともっと大勢のゴーレムとが敵味方入り乱れての混戦を繰り広げていたが、ボチは一切スピードを緩めることなく突っ込んで戦っている連中の隙間を抜けていった。


「!」


 そんな高速移動の最中でも【明鏡止水】のおかげで周囲の人間の顔触れくらいは確認できる。

 だから中庭の真ん中あたりで多くのゴーレムを相手取っているアップルの姿も見つけられた。


 向こうも俺に気が付いたようだ――横を通り過ぎるのは一瞬だったが、アップルはそんな短い間にも親指でくいっと本館のほうを指した。そのジェスチャーだけで言いたいことは十分に伝わった。


 あまりにもゴーレムがたくさんい過ぎるもんで俺もこっちに加わったほうがいいかとも思ったんだが、その迷いがなくなった。

 アップルはさっきと同じく「ここは任せろ」と言ってくれてるんだからな――つっても、この様を見て何もしねえわけにはいかねえが。


「キョロ、お前はここで皆の助けになってやってくれ!」


「クゥエ!」


「よし――【武装】発動、『不浄の大鎌』! こいつをお前に貸すぜ、『搭載』だ!」


 キョロを残していくことには決めたが、ドゥームヴァルチャーの一番の特性である『搭載』は燃料源である俺と離れてちゃすぐに枯渇しちまう。


 だからここで込めるのは俺が傍にいなきゃ込め直しのできねえ【黒雷】や【呪火】じゃあなく、大鎌が常に放っている不浄こそが相応しいだろう。


 スキルLVが上がって貸し出しが可能になったからこそできる芸当だ。


「落っことすなよ? そいつはお前の体から離れすぎると勝手に消えちまうからな」


「クゥエクエ!」


 心得ている、とばかりに背中に大鎌を引っ付けたキョロは鳴いた。


 そんでもってばっと身を翻し、鋼鉄の翼でゴーレムの数体を撥ね飛ばしながら射撃を始めた。思った通り死属性ほどじゃなくても不浄属性も割と効いてるな。これならキョロも活躍できるだろう。


 しかしこうして見るとマジで戦闘機だな、あいつ……にょっきり鎌を覗かせている出で立ちもちと怖い。


 ゴーレムに攻撃を仕掛けているから他の連中も味方だとわかったようだが、そうじゃなきゃ魔皇軍の兵器だと勘違いされそうな見た目をしてるぜ。

 いやまあ、んなこと言ったらボチやモルグも外見だけなら完璧に悪モンのほうの使い魔なんだがな。


「バウル!」


 っとと、キョロの戦いぶりを確かめようと後ろばかり見ちまってたぜ。ボチに促されて前を向けば、もう目の前は本館の入り口前。そしてそこには……サラが立っていた。


 キキィ! と疾走状態から急停止しながらほぼ慣性が働かない驚異的なブレーキ力をボチが発揮する。巻き起こった風に顔を覆ったサラが目を開け、少し青くなりながら――苦手なケルベロスが猛スピードで接近してきたことで怖がってるんだろう――口を開いた。


「ゼンタさん、ボチちゃん! よかった、無事だったんですね!」


「あたぼうよ。あっちのほうでインガに捕まってたんだが、きっちり引導を渡してきたぜ」


「彼女に勝ったんですか、さすがはゼンタさんです! さすゼン! ……でもなんで上半身裸なんですか? それと、ゼンタさんを連れ去ったドレッダはどこに?」


「革ジャンはインガのパンチで一欠けらも残らずなくなっちまった」


「ええ!?」


「ドレッダはドラッゾが倒した。そんで二人とも成仏しちまった」


「え、ええー!? ちょっと待ってください、よく意味がわかりませんが!」


 サラがやってるせいでなんかオーバーな感じになってるが、このリアクションはもっともだ。


 これまでどんなクエストでどんな敵と戦おうと俺の服……装備品が傷付くことはなかったんだ。ずっと一緒にいたサラやメモリはそれをよく知ってるだけに、余計衝撃を受けるはずだ。


 毎日のように着ていて毎日のように戦闘をしていて、それでも新調の必要が一切なかった一張羅が消し飛んだってのはちょっと想像がし辛いかもしれんな。


 そして衝撃の度合いで言えばこっちのが上だろうが――見てない間にドラッゾが逝っちまったという事実。


 死体だったドラッゾとの出会いにはサラも大きく関わっている。思えば奇妙な縁が続いていたもんだ。ゾンビ化させて使役していた俺が言えた義理じゃあねえが、これが本来のあるべき形ってやつじゃねえかな。


 収まるべきところに収まった、ってところか。


「そうですか、ドラッゾちゃんはついに願いを叶えたと……」


「ああ。嫁さんの奪還をその手でやり遂げたんだ。尻に敷かれてる感じだったけどな」


「ふふっ、ドラッゾちゃんらしいですね」


 しんみりとはしちゃいるが、サラもドラッゾとドレッダの旅立ちを祝う気持ちでいるようだ。仇であるインガももうこの世にはいねえし、あいつらを取り巻く因縁ってもんは全部清算されてるからな。


 おかげで俺たちゃちょいと寂しい思いをさせられちまうが……ま、いいさ。一足先にゴールしたあいつらに笑われないだけの生き様を見せてやろうじゃねえか。


「ところで、メモリや委員長はこん中なのか?」


「はい、お二人は特級のメイルさんと一緒に入っていきました。アップルちゃんとハナさんはたぶんまだ中庭だと思います」


「ん、そういやハナは見つけられなかったな……」


 アップルとは離れて戦ってたのか? あんだけ人でごった返してたらそれも当然か。少し気にはなるが、わざわざあいつを探しにもっかいあそこへ入り込んでく意味も時間もねえな。


「あ、そうです! さっきまでここにカルラさんとお仲間の皆さんがいたんですよ!」


「カルラたちが……! へっ、やっぱりな。あいつがそう簡単にくたばるなんざあり得ねえ」


 空で魔皇軍の艦隊を相手に飛び回っている見覚えのある船――ブラック・ハインド号とその分船を見たときからほぼ確信していたが、ここにカルラがいたってんならそれはもう間違いねえこったな。


「そうですね、ガレルさんもテミーネさんも無事だったんです。カルラさんの提案で身を隠し、慎重に他のギルドへ接触して回っていたようですよ」


「はーん、なるほどな。どこから集まったメンバーかと思えばそこもカルラの手回しかよ」


 ゴーレムと戦ってる面子の中にはサラと同じ衣装を身に纏っている、教会本部から応援で来たシスターと思しき女性連中もいるが――特にハンマーを振り回してるのがやべーぐらいに強い――頭数はそれほどじゃねえ。

 この新しいギルド連合がいなけりゃ相当追い込まれていただろうな。


「サラ。お前まだ戦えるか?」


「十分に休憩できましたし、また打って出るつもりですよ!」


 ふんすと意気込みを見せるサラに俺は頷いた。


「よし、ならボチを置いてくから協力してくれ。俺ぁメモリたちを追うからよ」


 俺とサラがいるのは半球状の障壁の中だ。誰がやってんのかは知らねえが、とにかくこいつでゴーレムを建物に近づけねえようにしてるらしい。


 この守りが機能してる内に――サラたちシスターや新ギルド連合がゴーレムを塞き止めてくれている間に、政府長ローネンや他のお偉さん方を救い出してやんねーとな。


 まだメモリたちが出てこねえってことはたぶん、中にもいるってことだよな。


 魔皇軍の残りの幹部がよ……!


「はい! ここは私たちにお任せあれ! ね、ボチちゃん!」


「バウル!」


 サラのやつめ、苦手なくせしてボチに触れながら笑顔を見せてやがる。前まではボチベロスになってると吠えただけで極端に身を震わせていたくせに、今はそれも強引に抑えているのがわかる。


 俺を気持ちよく送り出してやろうってことなんだろう。ったく、今更だろうによ。だが強がりだろうとなんだろうとサラのこういうとこは嫌いじゃねえ。


「ああ、任せたぜお前たち。死ぬなよ!」


「そのときは美少女ゾンビとして使役でもしてください。ですから、ゼンタさんこそ死なないでくださいよ!」


 強がるにしてもあんまりなその物言いに、俺は思わず笑っちまったよ。


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