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279.全戦力

「へっ。飛び入りにゃ驚かされたが、倒してみりゃなんてこたぁなかったな」


 委員長によってなます切りにされたピースゴーレム改(?)の残骸。床に散らばったそれらを見ながら、委員長はスキルで出した剣を仕舞わずに首を振った。


「いや、三人がかりでも片羽を奪うのに精一杯だったんだ。ここにいたのが僕たちだけならもっと苦戦していただろう。君の拳があったから被害なく倒せたに過ぎない……そしてマズいことに」


 と、委員長の意見を代弁するようにどこかから激しい物音や叫ぶ声が聞こえてくる。これは戦闘音に違いねえ。しかも一箇所じゃねえぞ、あちらこちらからしやがるぜ。


「やっぱりか、一体だけで特攻かますなんてあり得ねえとは思ったが……本格的に軍勢で攻め込んできたってわけかよ!」


「どうやらそのようだね。僕の同僚たちももう出払ってるみたいだけど……ところで、これはガロッサの大迷宮で君たちを襲ったというゴーレムなのか?」


「ああ、多少見てくれは変わっちゃいるが同型だろうぜ」


「だとしたらガロッサのとき以上に数を揃えているかもしれないね。急ごう、ローネン政府長や御老公方が狙われているかもしれない」


「……!」


 政府長のローネン・イリオスティアと、王様でこそねえが古い王家の血を引く者たちとして丁重に扱われている数人の爺さんたち。政府における最高責任者とご意見番ってところか。


 確かに魔皇軍がいの一番に潰すとしたらここだろうな……アーバンパレスと違って政府内の役職に強さは必要ない。


 ローネンが戦えるやつだって話も聞かねえし、おそらく全員まとめてゴーレム一体にやられちまうぜ。


 ただでさえ政府は裏切り者探しでごたついてんだ。

 そんな中で指針を決める連中を失ったら大変なことになる。

 魔皇軍にも対抗のしようがなくなっちまう――それこそがこの襲撃の狙い!


「委員長くんの推測は的中だ、本庁舎のほうにたくさんの黒い影が見える。同じ形のゴーレムがうようよと……む、それ以外にも妙なのがいるな。これは本当に急いだほうがいいね。向こうには君たちという戦力が必要だよ」


 いくつかの建物と広い中庭を挟んだ先が本庁舎だ。ゴーレムの開けた穴があってもここからは見えないはずだが、鼠少女には向こうの様子がはっきりと見えているようだ。これがさっき言っていたなんでも見える両目とやらの力だろうか?


 便利だが、襲撃自体には気付けなかった辺り見ようとしねえと見えねえってのもマジみてーだな。


 俺が持つ【先見予知】は身に降りかかる危険にしか反応しねえが、その代わり自覚がなくても前もって知らせてくれる。

 どっちのが優れてるかはともかくとして、俺には【先見予知】のが合ってるな。


「ぼくは戦闘能力がない。ここで別れさせてもらうよ」


 壁に新しくできた出入り口から全員で外へ降り立てば、鼠少女はすぐにそんなことを言って俺たちに背を向けた。


「おい、どこに行くつもりだ?」


「いつも通り身を隠すだけさ。魔皇軍に見つかることは『灰の者たち』に発見されることに繋がりかねない。そうなればぼくのような雑魚には一溜まりもないからね。大人しくこそこそしておくよ」


「まだ聞きてーことがいくつか残ってんだが」


「戦闘中にのんびりお話でもするかい? 心配しなくていい、またこちらからコンタクトを取るよ」


 俺らのほうからもコンタクトを取れるようにしといてくれよ、なんて希望を言う間もなく鼠少女は景観のために植えられた草木の茂みへサッと消え、直後気配すらも完全に途絶えた。


 ……今の身のこなしで戦闘能力がないだと? 

 とてもそうは思えねえが、まあ隠密特化だとしたらおかしくないのか……いややっぱ吹かし入ってる気がすんな。


「行っちまったもんはしゃーねえ。俺らも本庁舎へ向かおうぜ」


 ってことで鼠少女のことは一旦忘れて四人だけで行動を開始したんだが、中庭に到着したところで俺たちはギョッとして足を止めちまった。


「な、なんですかこの大群は……!?」


 サラの唖然としたその言葉の通りだ。


 普段ローネンの詰めている本庁舎と、その横にある俺も以前に入った会議室やらが収まっている建物には、数え切れないだけのゴーレムたちがわさわさと群がっている。


 動物の死骸に蟻がたかっているような光景だ。いや飛び回っている黒い姿からすると蠅のほうが適切か? って、んなこたぁどうでもいい。


「鼠っ子は離れて正解だな、こんなもんを見ちゃそうする以外にはねえぜ……!」


「僕らの所に来たのが一体のみだったことで楽観的に考えすぎていたようだ。敵戦力は思いの外膨大……けれど柴くん、悲観的になり過ぎてもいけない。あれだけの数が寄ってたかっている様はまさに絶望的だが、裏を返せばあれだけの数が未だに建物内に侵入できていないということでもある。それは政府側があの大群にも対抗できている証だ」


 むむ、言われてみればそうか。


 ここからじゃ羽を動かすゴーレムの悪魔めいた姿ばかりに目がいくが、よくよく見りゃあそいつらを牽制している味方もいるじゃねえか。


「あれは、メイル・ストーンの魔法」


「! あの石の槍は間違いなくあの女だな。前んときは不在だったみてーだが今日はこっちにいたか」


「あのときはローネン政府長直々の依頼で任務に出ていたと聞いているよ。おそらく残る二名の特級構成員エンタシスも揃っているはずだ」


 頼もしそうに言う委員長に俺も同意する。


 メイルの顔を見るとどうしても反射的にうげっとなっちまうが、この状況だとすげー心強い。あいつの強さは身を以って体感してるからな。


 残る二名に関しちゃ俺はまだ会ったことがねーんでわからねえが、そうか。メイル含めてもエンタシスはもう三名しかいないのか。内一人は確か特級へ上がり立ての見習いだったはずだし、なかなか厳しい状況としか言えねえな……。


「マクシミリオンさんはどこだ? エンタシス超えだっていうあの人こそが最高戦力のはずだが……」


「建物内かもしれない。だとしたら僕たちも合流を目指したほうがいいだろう」


「おっとすまん、今ちょうど反応が返ってきた。少し時間をくれ」


 反応? と本庁舎のほうを睨んでいた目を俺のほうへ向けて不思議そうにする委員長。だが説明してる間が惜しい。


「よしっ、送っていいぞ」


 ポウン、と例のどことなくメルヘンな煙が俺の前で上がる。

 これはヤチの【従順】による転移のエフェクトだ。


 魔皇軍の侵攻開始ともなれば四の五のは言ってられねえんで、さっきからうちのギルドへ助っ人を呼んでたんだ。


 できりゃあマクシミリオン以上の戦力になるマリアに来てほしくて頭ん中でヤチへスキル発動を促したんだが、やってきたのは少々意外な顔ぶれだった。


「アップル!? それに――ハナだと!?」


 マリアの件も含めて留守中の責任者として頼んだはずのアップル。そして怪しい匂いをぷんぷんさせてる目下最大の要注意人物、砂川ハナ。


 どっちもまさか送られてくるとは思ってもなかった人選なんで俺ぁ心底たまげたぜ。


 状況はちゃんとヤチから聞かされてるらしく、周囲の確認もそこそこにアップルは素早く切り出した。


「ごめんゼンタ。聖女がいなくなった。たぶん、魔皇と戦りに行ったんだと思う」


「はぁ!?」


「こっちは大変なことになってるみたいだけどポレロは平和そのものだよ。だからいっそのこと全員で打って出ようってことになった。私とハナはその先駆けだと思っといて」


「ぜ、全員でだぁ?」


「そ。ヤチが今その準備してる」


 いやいや、そんな一気に言われても。


 全員で乗り込んでくるってのはまあ、いかにもうちの連中らしいし、少しでも味方が欲しい今はありがてえことだが……そっちよりもマリアだ。


 あの人は何を考えてんだ? 魔皇の誘いに乗る前に一言残すって約束はどうなったんだよ。


 ……まさかこの大々的な襲撃はマリアが魔皇のとこへ行っちまったことと関係してんのか? 


 タイミング的にゃそうとしか思えねえが、けどマリアの相手をしながら侵攻作戦まで始めるのはさすがに無茶じゃあないか?


 いや、だからこそあえてって線もあるな。マリアの居所が掴めてるうえに侵攻の邪魔をされねえってのは、魔皇軍にとっても絶好のチャンスでもあるもんな。


 それが理由だとすりゃあ、最悪の場合。

 魔皇軍における魔皇本人以外の全戦力がこの場に差し向けられているとも考えられる。

 そりゃつまり、あのちっこい鬼少女も近くにいるってことだ。


 ――こいつぁいよいよ、奴との決着をつけるときがきたか……!?


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