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268.神のシナリオ

また会話オンリー回です

「管理者である『灰の者たち』の更に上に、彼らを作り配置した存在がいる。上位者とでも呼ぶべきかな。あるいは単純に……『神』とでも」


「そいつが、俺ら来訪者を呼び込んだ奴だって?」


「そうだね。呼ばれた、というよりも君たちの認識では攫われたようなものだろうけど、勿論神は悪びれない。必要な駒を用意しただけのことだ。そしてあくまで神はサイコロを振らない。流れを仕向けはしても実行は来訪者と管理者に任せて、自分は手を出さないし下さない。真実、この世界を遥か高みから眺めているだけだと言える。そして天上から見ていて飽きない人間という生物は神にとってのお気に入りなのかもね。それはこれまで幾度もあっただろう不自然淘汰の度に人類が生存競争に打ち勝ってきた、勝たされてきた点からも推察できる。加護という名の贔屓がある、その何よりの証明として」


「じゃあ、聖女様の勇者という肩書き。それにかつての魔皇を倒したことも……?」


「全て神のシナリオ通り、と言いうべきかな。少なくとも当時の『灰の者たち』はそうなるよう仕向けたはずだ。ついに侵攻を始めた魔族たちを人類が苦心の末に撃退し、逆転し、勝利する。そういう痛快な物語さ。シナリオを覆すことは不可能ではないだろうが、神の望むることだ。多くの者は管理者なんてものがいるとは夢にも思わない。誘導されているとも知らずに筋道をなぞるばかり……必然、世界はたったひとつの結末に収束していく。『勇者ブレイバー』なんて職業クラスはまさにその体現でもある」


「確かに勇者という言葉はとても日本的だ。職業クラスには一風変わったものも多々あるようだけど、神が何を参考にしたのかはある程度察しがつくね」


「強さで以って魔族の頂点に君臨し続けていた一族が『魔皇』と呼ばれるようになったのはいったいいつからか……その切っ掛けはきっと神が魔族の淘汰を決めたことだ。如何にも勇者によって討たれるべき悪逆として魔族を変えていった。この世界から勇者を選出しなかったのは気紛れか、そうせざるを得ない事情があったのか。ともかく神は物語の登場人物として来訪者を置いた。裏方には管理者、そして観客は自分だけ。世界とは彼の箱庭であり、オーダー通りの題を掲げる劇場でもあるわけだ」


「……勇者がその主役だと言うのなら、あなたは何故聖女マリアにコンタクトを取ろうとしない? 敵役を倒した彼女も、その娘であるユーキも勇者。神のシナリオが存在することを知っているなら何よりもまず彼女たちに協力すべき」


「そうもいかなかったんだよ。統一政府セントラルには『灰の者たち』の手がべったりだ。アーバンパレスと同じく教会もそんな政府と密接な関係にあるだろう? おいそれとは近寄れないし……そしてこれは言い訳になってしまうけれど、ぼくの瞳も万能じゃあない。なんでも見えはするが見ようとしなければ何も見えない。そこは君たちの目と同じさ。つまり、知らなかった。思いもよらなかったんだよ。もう役目を終えたものと思っていた元勇者役の下に、まさか新しい勇者役がやってきていただなんて。一ノ瀬マリアの隠し方も上手かった。一ノ瀬ユーキの存在をぼくが知ったのは、本当にごく最近のことなんだよ」


「うん? じゃあまさかお前、さっき言ってた『勇者の役』ってのは……」


「ご明察、今回大量に運ばれてきた来訪者たち。その中に必ず勇者を担う者がいるはずだと踏んだ。久方ぶりにこの目を全力で使ったよ。そして一番それらしい者の場所へぼくは導かれた――即ち『聖騎士パラディン』の職業クラスを持つ委員長くん。新条ナキリくんの下にね」


「残念ながらと言うべきかどうか、僕は役者不足だったようだけどね」


「神の采配に気を揉む必要もなければ気に病む必要もないさ。だって神は気紛れで考えなしだ。既に勇者の才ある者を呼び込んでいたうえに先代勇者に育てさせる優遇ぶり。君たちを攫ったのは仲間を揃えるためかな。いつにもまして行き当たりばったりに思えるのはそれだけ今代の魔皇が神のシナリオにない行動を取っているせいだ。先代魔皇軍との戦争を生き抜き、その全てを間近で見てきた魔皇には神の打つ手が予測できているのかもしれないね。だからこそ神にも、そして一ノ瀬マリアにも猶予を与えなかった」


「神様も聖女様と同じように、ユーキちゃんが育ち切るのを待っていたと? そしてゼンタさんたちはその仲間になるために宛がわれた追加の来訪者、ということですか?」


「これまでにない数を呼び寄せていることからしてもそうとしか思えないね。過去、シナリオを動かすために攫われてくる来訪者はどんなに多くても六名! それが最大だった。二番目に多くが死んだ不自然淘汰である、先代魔皇軍との争いが起きる前に呼ばれた一ノ瀬マリアの一党がそれに当てはまる」


「……何故そこまで過去に詳しい? 正確な死傷者など戦争の当事者でも把握しきれるものではないはず」


「世界の傷痕さ。歴史の転換点と言ってもいい。ぼくの瞳はそれを見た。だからこそ阻止したいと思った。未然に防げはしないが、起こるべくして起こるのならせめて被害を最小限度に納めようとね。……不自然淘汰で消える種は必ずしもひとつじゃあない。前々回にあたる百年前の先代魔皇軍との戦争で魔族の数が激減した裏で、獣人がついに消滅したように。前回にあたる三十年前の魔物の大移動騒動が結果として多くの動植物を消したように。この両目ですらも看取ることのできない死に溢れる。それが神の起こす不自然淘汰リセットゲーム。死にゆく命をひとつでも多く減らすには早々にシナリオを終着させる必要があった」


「そのために委員長へ真っ先に接触して、色々と吹き込んだってことか」


「吹き込む、か。その通りだね。ぼくもまた駒を動かすような感覚でいたのかもしれない。直接何かをするわけにはいかないぼくは、どうしても誰かに頼らなければならない。果たしてそこに感謝の気持ちがあったかどうか。なまじなんでも見えてしまうがために神になったようなつもりでいたことを否定はしきれないかな。……だけど。傍観者としての領分を越えはせずとも、近づくことすら躊躇われるその線に足をかけてでも救いたいと願ったことは確かだ。遥か昔、この世界にはもっと多様な命が息づいていた。それが今では見る影もない。それをこの目で視てしまったからには、ぼくにはそうする以外の選択肢はなかった」


「言い方が悪かったのは認めるが、別に責めてるわけじゃねーよ。ユーキと勘違いしてたってのはあれだが、うちのクラスん中から委員長を頼ったのはある意味慧眼でもあったろうぜ。……んで、それを踏まえて聞きてーのは委員長に続いてなんで俺にまで声をかけたかってことだ。自分で言いたかねえが俺だったら俺なんて選ばねーぜ? 委員長と違って素行不良で、職業クラスだって勇者と被りもしねー『死霊術師ネクロマンサー』だ。そんなのを選んだからには、何かしら理由があんだろ?」


「それを教える前に、ぼくからも確かめておきたい。魔皇は神のシナリオを覆そうとしているし、『灰の者たち』はそうはさせじとシナリオ完遂のために動くだろう。ところがぼくたちはそのどちらでもない。魔皇にも『灰の者たち』にも旨味を与えるつもりはない。与えてはいけないんだ。引き続き魔皇軍との対決は避けられず、それだけじゃなくここからは『灰の者たち』とその傘下である『灰の手』との激突も必至になるだろう。神が手を下すことはないとはいえ、彼らとの敵対は控えめに言っても苦難の道だ。いっそ地獄への片道切符と称すのが適切かもしれない。君はそこに足を踏み出すつもりがあるか?」


「だったら俺も、その問いに答える前に確かめてえな。『灰の手』ってのは人間側の協力者ってんだからともかく、『灰の者たち』のほうについてだ。――そいつらは強いのか?」


「……ぼくは戦った経験があるわけでもないし、なんなら対面したことすらもない。だけど先代魔皇を討伐後、一ノ瀬マリアは『灰の者たち』に膝を折ることを選んだ。それを拒否した魔皇も計画の準備に約一世紀を捧げた。来訪者と対になるのが管理者だ。システムによる加護の形態は異なるとはいえ、この世界における異質の強さが互いにあると見るのは当然だ。そして付け加えるなら劇の裏方として調整を働かせるのが彼らの役目であるからして……表舞台に立つ君たちよりも、よりシステムの恩恵を受ける立場にあるだろうということも予測される」


「なるほどなぁ。つまりなんでもありの来訪者よりももっとなんでもありかもしれねえってことか。そりゃあ、強敵間違いなしだな――」


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