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263.僕のことを見てくれている

 いくらだだっ広い中央だろうと、ポレロからずーっとドラッゾに運んでもらえるんだったら移動にもそこまで時間はかからなかった。……つっても六時間くらいは空の旅だったんだけどな。


 運ばれてるだけの身でこう言うのもなんだが、吹き曝しで風を受け続けるのはけっこう疲れるもんだ。最初のうちはともかく五時間を越えたあたりからはマジで耐久レースみてーになってたぜ。


 だがまあそのおかげもあって前回よりも断然早くについたんだから、このガチガチになっちまった全身も甘んじて受け入れるとすっか。


 ギルド近くの広場発統一政府セントラル本部着。中央民の人目につくとどうなるかわかったもんじゃねえんで、着陸は本部の中庭にさせてもらった。もち、ちゃんとその許可は取ってるぞ。トードがな。


 それがあったからこそ前はできなかった、最初から最後までドラッゾに乗って移動することも許されたってわけだ。中央ご自慢の列車を一切使わねーダイナミックな移動だ。その反面、セントラルシティ入りは実にそそくさとしたもんになったがな。


 ドラゴンゾンビで都市上の大空を翔けといてそそくさもクソもねーとは思うが、そこは気分の問題だ。


 何はともあれ俺たちはアクシデントもなく、余計なトラブルに巻き込まれることもなく、珍しく予定通りに動くことができ、約束の時刻である昼過ぎにはちゃんとそこにいた。


 本部内の敷地、その一角にある庁舎。

 厳密には宿舎として扱われる政府の手足たる『市衛騎団ロイヤルガード』の詰め所、内のとある一部屋。


 つまりは委員長の自室だ。


「――再会の挨拶も済んだところで、本題に入ろうか。柴くんにとってもそのほうがいいだろう?」


「まあな。ちっとくれぇ大丈夫だとは思うが、あんましギルドを空けときたくねーんだ」


「破綻した魔皇軍対策の刷新が行われれば、どのみちまたここに呼ばれるとは思うけどね。それがどういった策になるかにもよるけれど、そうなれば君たちも短くない期間この都市に滞在することになるはずだ。策定にはもうしばらく時間がかかりそうだけど……」


 うーん、そりゃ仕方ねえ。戦力の補填に潜入者の発見。火急かつ手間のかかるそれらで今は最高にごたついてるだろうからな、政府もアーバンパレスも。


 外部組の俺たちには内部なかがどんなことになってんのか知りようがねーが、それでも良し悪しを問わず事態が動くようなら組合を通じて耳に入るし、なんだったらその応援要請を待ってもいたんだ。


 だが今んとこそういうのはねえ。ってこたぁ、現状は合同クエスト失敗の直後から大して変わってねえってことなんだろう。


 魔皇は着々と計画を進めているっぽいのに、その対応以前の段階でここまで躓いてちゃヤベーよな……それはわかってんだがしかし、かと言って不穏分子を放っておくわけにもいかねーしな。


「あ、私たちが戻るぶんには一瞬なんでそこは問題ないんです」


「うん? そうなのか……柴くんが移動系のスキルでも得たのかい?」


「俺じゃなくてヤチだけどな。『家政婦ハウスキーパー』は戦わなくても家事で経験値が入ってくるみてーでよ、あいつも地味にレベル上がってんだ。ヤチのほうが俺んとこに転移してくるスキルは前から持ってたんだが、その逆用のも習得したわけだ。それもつい一昨日のレベルアップでな」


「へえ、それはとても便利でいいね」


「だろ? ユマもそうだが、やっぱ非戦闘職のスキルは面白いもんが多いぜ」


 ギルドロボの作成にはユマのセンスとスキルも大いに関わってるからな。

 というかギルドを動く要塞にするという発想からロボに繋げたのがそもそもユマだった。造形に関してもだからあいつの好みが大胆に反映されたもんになってる。


 女子にしては珍しい趣味とは思うが、それがユマとなればそこまで意外でもねーかな。


「だけどスキルは絶対であって絶対じゃない。それで痛い目を見た僕だからこそ言わせてもらうけれど、あまり過信しすぎないほうがいいよ」


「お前の剣がもろスキル殺しだしな。俺だってそこら辺はわかってるつもりだぜ? だからちゃっちゃと話を進めときてえのさ」


 特に今のギルド『アンダーテイカー』には大事なもんが揃ってるからな……正確には魔皇にとって価値のありそうなものが、だ。


 魔皇と実力でも関係性でも唯一対等と思われる聖女マリア。

 彼女の娘にして現代の勇者ユーキ。

 それからその体内にある紅蓮魔鉱石とギルドの紅蓮魔鉱石。


 こんだけありゃあ魔皇の食指が動きまくるだろうってのは予想の範疇だわな。


 ガロッサに跡を残すことで魔皇は明らかにマリアがやってくるのを待ち構えてる。

 なもんで、ここで自分のほうから意気揚々と襲いに飛んでくるたぁ思えんが、万が一ってこともあるからな。端から絶対にねえと高を括ることだけはしないようにしてる。


「なるほど、聖女マリアは君たちのギルドに……それは心強くもあり不安でもあり、といったところだね」


「わかってもらえて何よりだ。つーわけで、まずはあの人から教えてもらったことも含めて俺が知ってることをざっと話すぞ」


「聞かせてもらおう」


 魔皇の正体が来訪者、しかもマリアの元仲間だってことから始まり、ユーキのこと、ハナたち仮メンのこと、マクシミリオンから言われたあれこれ、そして合同クエストで何があったのかを俺の視点から語った。


 最近知ったことから順に時系列を遡っていくわかりにくい説明になっちまったが、地頭のいい委員長は特に困ることもなく理解できてるようで、いいところで質問を挟んで俺の説明不足を補ってくれまでした……これ聞く側ができるってすげーな、どんだけだよ。


 そんでまあ、クエスト前のこと。そのときから見られたカルラの不自然な態度についてまで辿り着いた。


「な、変だろ? 俺だけじゃなくヨウカとシズクも感じてたことだ。それにハナは確実になんかを隠してる。俺自身の根拠としちゃ薄っすらとしたもんでしかねえが、確かにそう思える。あいつがハナと併せて何かを警戒してたのはたぶん本当だ」


「そこが主題か。つまり柴くんは僕に心当たりを訊ねているわけだね? 三毒院さんが何をそこまで警戒し、探っていたのかを」


 その通りなんで肯定すれば、委員長は少しだけ沈黙を挟んでからこう言った。


「柴くん、参考までに聞きたい。どうしてそれを僕に訊ねようと思ったのかを」


「どうしてだぁ?」


「うん。確かに僕と三毒院さんは、所属こそ違えど数少ないセントラルシティ住まいのクラスメートではある。でも僕たちを結ぶ線はたったそれだけなんだ。なのに君はまるで僕が答えを持っていると確信しているかのように、こうしてわざわざ会いにきた。その理由を知りたくてね」


「理由も何もな……だってお前、三毒院と顔合わせはしてるだろ?」


「ああ、勿論。会える場所にいるクラスメートの安否を確かめないはずがない。だけど会えたのは一度きりだよ」


「そらーお互い忙しい身分だろうしな。だけどよ、その一回で情報交換は済ませてるだろ?」


「…………」


「対策会議のあと、別れ際に委員長はやることがあるっつってたよな。そのために魔皇軍のことは任せたいってな。あんときゃローネンさんが言ってたみてーに魔皇軍以外の危機の芽……闇ギルドの結託だとかそういうのを捜査するために手が空かねーんだとばかり考えてたが、今にして思えばそうじゃねえとはっきりわかるぜ。そもそもお前はレヴィたちについていく時点で明らかになんかしようとしてた。政府入りする前の時点で、だ。ってこたぁ、そのなんかってのは政府内かアーバンパレス内か……少なくともここセントラルシティでなきゃできないことに決まってる。そしてそりゃきっと、ここに居を構えたカルラと同じ目的だっんじゃねえか?」


 そこまで一息に言い切ると、無表情で俺のことを見つめていた委員長はふわりと微笑み。


「何も言ってないのにそこまで気付かれてしまうか。――ふふ。柴くんは思ったよりもしっかりと僕のことを見てくれているんだね。嬉しいよ」


「いやあの、聞きてーのはそういうこっちゃなくてな?」


 マジで嬉しそうに胸に手を当てながらそんな乙女チックなことを言われてもよ……。


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