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262.噂の質

「やーやーお待たせしちゃってすいませんね。さっ、全員揃ったところで行きましょうか!」

「……、」


 と、支度に時間のかかってたサラとメモリがとてもそうとは思えねえ態度でやってきた。


 俺が待たされてたのはサラの着替えのためだ。統一政府セントラルを訪ねるからには、冒険者だけじゃなく教会員でもあるサラの場合、所属を表すためにもちゃんとシスター服を着てたほうがいいだろうってことになったんだ。


 同行する俺とメモリが普段着なんでちょいと浮いてる気がしないでもねーが、マリアもそういう配慮はしたほうがいいと言ってたんでな。


「あれ? 大切なお話でもされてました? なんだか雰囲気が……」


「や、別に。準備できたなら出発しようぜ」


 興味深いっつーよりも引っかかる話を聞かされたもんで、もう少し詳しく訊ねたいところではあったが、考えてみると何を確かめたいのか自分でもよくわからねえ。


 純血の獣人が消えちまった理由とか、生き残った魔族が何を思って人間の魔皇に従ってるのかとか、んなこと聞かれたってマリアがわかるわけねーもんな。


 や、この人のことだからひょっとすりゃあそんなことまでご存知なのかもしれんが、今は話し込んでる時間がない。


 あんまし出るのが遅れっとまた遅刻することになるからな。学校では遅刻どころか喧嘩やサボりで停学まで食らったこともある俺だが(そんときゃ姉貴にバレてボコられた)、ローネンの顔を立てるためにも今回ばかりはそれもNGだ。


「行ってらっしゃーい!」


「おーう!」


 前回セントラルシティへ出向いたときもそうだったが、見えなくなるまできっちりと見送ってくれるなぁヤチのやつ。


 それなりの遠出だとはいえなんだか大仰すぎる気もするが……まあ、気持ちはわからんでもない。こうやって出発した前回、まさにその出先で俺たちは死にかけてきたわけだからな。


 俺はスオウに負けたし、サラたちはインガに勝てなかった。


 生殺与奪の権を完全に握られてた。


 どういう気まぐれかあの二人が見逃す気にならなかったらあのまま戦死者リストに加わってたんだ……それを思えばヤチが残される自分たちよりも俺らのことを不安視するのも当然ってもんだろう。


 つっても今日はクエストに出向くんじゃあねえからな。ただ委員長に会いにいくってだけだ。


 クラスメートと顔を合わせるんだからヤチやユマ、それに双子やハナたちも同行するに相応しいメンバーと言えばそうなんだが、ギルドにいる数を減らし過ぎるのもちょっと怖いだろ? 


 いくらマリアやユーキもいると言っても、頭数ってのはそのまま戦力を意味する。特にヤチはスキルもあって防衛線の要でもあるんで、おいそれと街の外には連れ出せなくなってる。少なくともこのご時世のうちは無理っぽいかね。


「【契約召喚・改】。来いドラッゾ!」


 いつもの広場でドラッゾを呼び出す。「グラウッ」と強敵との戦い続きだったからかやる気満々で出てきたとこ悪ぃが、ただ乗せてほしいだけなんだ。


 そう説明するとドラッゾは大人しく伏せの姿勢になった。これは乗車ならぬ乗竜待機のポーズだ。すっかり板についちまって、まあ。


 ドラッゾの足代わり、モルグの盾代わり、キョロの囮代わり。

 考えてみっと俺ってけっこう酷な役目を強いちまってんな。


 最近じゃとうとうボチまで陸地の移動要員に使っちまったし……うん、今度改めて全員の労いをしてやったほうがよさそうだ。


 そんなことを思いながらドラッゾの背に登り、まずはメモリを、次にサラの手を引いてやると。


「それにしても本当に騒がれませんよねぇ」


「ああ、ドラッゾのことか。もうみんな慣れっこって感じだが、改めて思うとすげーことだよな」


 前にも言ったがここをエアポートとして使い出してからもう長い。なもんで、ここらに住む連中はドラゴンゾンビの急な出現に誰も驚かなくなっている。


 前まではそれでも興味深くドラッゾを眺めるのも多かったんだが、いつの間にかそういうリアクションすらなくなり、もはや完璧に日常の風景になっちまってる。


 思えばギルドロボもそうだな。ヤチとガンズは完成に向けて何度かロボに変形させてるんだが、意外とご近所さんからはなんも言われねーんだ。


 変形のたびにガッシンガッシャンと小さくねえ音がしてるし、単純に見た目だけでもすげー目立ってもいるはずなんだが……それをまるっとスルーされるってこたぁ、『アンダーテイカー』ってギルドはそういうもんだと周囲から納得されてるってことだよな。


 なーんか複雑な気分だぜ。


「悪評じゃないならむしろウェルカムですよ! 怖がられるよりは断然いいじゃないですか」


「まーな。お前までネクロマンサーだと思われてたのが遠い昔みてーだ」


「あ、確かに最近は間違われなくなりましたね。そういう噂も聞きませんし」


 俺たちに関して正しい認知が進んでるっぽいんだよな。それはこのポレロに限ったことじゃない。


 ここでの顔見知りが増えたことや、住民たちに馴染んだことも無関係じゃあねーんだろうが、街を越え地方を越え語られていく噂話の内容がこうも変化したのはやっぱ、あの合同クエストに選ばれたことがきっかけだろう。


 もっと言えば選ばれるための資格を有したとき。

 つまりAランクへ昇級しギルドを持てるようになったのがでけぇな。


 そこから名だたる有名ギルドとともに政府の要請で大きなクエストに挑む一員となったことで、ようやく『葬儀屋アンダーテイカー』っていう名が悪名じゃねえと認められた感がある。


 これもトードのおかげと言うべきか。

 打算もあったとはいえ色々と便宜を図ってくれて、何かと俺たちは助けてもらってきたもんな。


 今回も組合長の立場を使ってローネンまで繋げてくれたし、ボチたち以上に改めて今度礼をしとくべきかもしれねえな。


「『アンダーテイカー』の名は、悪名ではなくなった。けれどネクロマンサーに対する偏見はそのまま。……そして噂の質も情勢と共にそろそろ変わり始める頃。注意したほうがいい」


「……ああ、そうだな」


 ガロッサの大迷宮の完全攻略と息巻いて実施された合同クエスト。ダンジョンの封鎖もあって中央都市セントラルシティ住みには知れ渡っていたそのクエストの結果は単なる失敗ってだけじゃあなく、多くの死者まで出した大失敗だということも有名な話になってきている。


 中央限定ではなく、ここポレロでもな。


 クエスト参加者かつ数少ない生き残りが俺たちであることを知った連中も多いだろうに、嬉しいことにこちらを慮ってか根掘り葉掘り聞き出そうとしてくるような輩はこの街にゃいなかった。


 代わりに冒険者組合には他の街や地方から通話が増えちまったらしいが……。うーむ、申し訳ないぜ。


 とにかく、噂ってのは思った以上に力を持ってる。


 そして今回のは根も葉もねーもんじゃなく、限りなくその中身も正確だ。


 魔皇に対抗するための作戦に失敗した挙句、貴重な高ランク冒険者を何人も失い、Aランクの中でも最高位のギルドがいくつも機能不全に陥ったことを人々は知る。


 ユニフェア教団事件のせいで、魔族の暗躍を知っていた少数も知らなかった大多数も、大いに不安を煽られた直後でのこれだ。


 ポレロじゃまだ表には出てねーが、おそらく中央。それもクエスト失敗の現場であるセントラルシティはまさに情報が出回る中心地でもあるからして、遠く離れた田舎街とはまるで違うはずだ。


 ――重く鬱屈した空気が漂い始めてるだろうってのは想像に難くねえ。


 参加者のほとんどが死ぬか消えちまったクエストの、貴重な生還者。そんな俺たちへ向ける目には果たしてどんな色が浮かぶのか。


 死地より戻り辛うじて結果を全滅とはさせなかった希望の象徴と見るか、あるいは仲間をほぼ救えもせずにおめおめと逃げ帰ってきた期待外れへの冷めた眼差しか。


「……どっちにしろ碌なもんじゃねー」


 だがこれからはそういう目で見られるんだ。あの結果じゃしょうがねえ。


 逃げてきたのも誰も救えなかったのもその通り。

 肝心のクエストでだってなんもできちゃいねえ。

 そんな俺らをフラットな目で見てくれるのなんて、それこそ付き合いの長いポレロ住民くらいのもんだ。


 要するに今回のセントラルシティ行きは……あまり楽しい旅にはならねえだろうってこった。


「前みてーにぷらぷら出歩いたり買い食いとかは無理だぞ。我慢できるかサラ」


「もう、そんなの我慢できるに決まってるじゃないですか。ゼンタさんは私をなんだと思ってるんです?」


「子供」


「シンプル!」


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