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260.副団長になった覚えはないけど

「信用ねぇ……その心は?」


「あっと、信用って言い方だとちょっとあれか? まあともかく、ギルドメンバーの中で話しとくならお前が一番だと思ったんだよ」


「わからないね。そりゃ宿屋の娘を疑ってちゃキリがないとは思うけど、あのアーバンパレスの団長から言われたんだろ? 出会い方は関係ない、誰も簡単に信じるなってさ。その忠告を素直に聞くなら私にだって大事なことは打ち明けるべきじゃなかったろ」


「まず前提としてだが、俺はギルメンを疑ってねえぞ。情報を探るために潜り込んだスパイがうちにいるかも、なんてことはもう考えねえことにしてる」


 きっぱりとそう言い切る。これはマリアから色々と聞かされたあとに出した俺なりの結論ってやつだ。つまりは嘘や誤魔化しなんざ一切ない本心。そのことはアップルにも伝わってるだろうが、だから余計に怪訝な表情をさせちまった。


「それは全員を同じように信用してるってことだよね? だったらなおさらわからないな、なんで私なのかが。強さで言えばテッカもいる。忠実さで言えばビートやファンクが。紅蓮魔鉱石絡みを重視するならヤチにガンズだっている……そこらをすっ飛ばしてこっちに白羽の矢が立つってのはどうにも妙に思えるよ」


「俺が言った信用ってのはまさにそこだぜ、アップル」


「……? どういう意味?」


「仲間に裏切り者なんていないと信じてる。だが、確かにいるだろう裏切り者の手が誰にも伸びてねーとは、到底信じられんってことだ」


「――そっか、そういうこと」


 言いたいことをわかってくれたようだ。

 アップルの得心いった様子を見て俺も頷いて肯定を示す。


 そうだ、どこにスパイが潜んでるかはわかんねえんだからな。うちにいなくたってこの街全体となれば俺だって信じ切ることはできねえ。


 そういう意味じゃ、本人に疑う余地は皆無でも危ういやつってのは多い。

 今アップルが名を挙げた連中は確かに一度は諸々の事情を言っとくのもいいかと思えた面子だが、冷静に考えてみるとちょいと不適切だったんだよな。


 テッカはギルメンってだけじゃなくポレロが誇る繁華街、通称マーケットの顔役の一人でもある。

 営業停止処分を食らってるうえに今はうちにコックとして加入してるんで向こうに顔を出す頻度はぐんと落ちてるが、それでも他所の店との付き合いは多い。


 舎弟コンビは自分たちだけの冒険者ランクをわざわざ査定してもらって、修行も兼ねてそれをじっくりと上げていってるところだ。

 ぽんぽんランクが上がった俺たち以上に色んなパーティと交流を持ってるんで、駆け出しながらに既に顔が広くなってきてる……と俺も最近知った。


 ヤチとガンズは外との交流はそれほどないが、代わりに内での役割が大きい。ギルドハウスの管理を二人で担ってるからな。ここに住んでて何かあれば真っ先に頼られるポジションにいるんだ。

 それは仮メンたちに関しても同様で、中でもガンズが双子姉妹と仲が良く、ヤチはハナと前よりも親しくなってる。


「カルラが変だったってこたぁ言ったな? 何か秘密があったんだ。そしてあいつはそれを抱えたまんまどっかへ消えちまった。……はなさたちにゃ悪いが、そのカルラのギルドから移ってきたやつらを警戒しないわけにゃいかねえ。特にマクシミリオンさんらが裏切り者を炙り出そうとしてることや、マリアさんが敵の挑戦に応じるつもりでいること。ここらを先に魔皇に知られちゃ大変なことになるからな」


「近づいてきたスパイにうっかり口を滑らせることがないように、そもそも教えない。そういう手を取るってことだね」


「そーいうこった。立場を抜きにしてもテッカさんを初め、みんな人がいいしノリもいいからな。本人が気を付けててもうまーく聞き出されとあっさりゲロっちまいそうでもあるんだよな……その点アップルは安心だろ? 『リンゴの木』でも普段からパインさん意外とは滅多に口も利かねーし、常に落ち着いて物を考てる」


 実際『アンダーテイカー』じゃメモリに並んで思慮深いのがこのアップルだと思う。

 他は全員どこかお調子者な部分があっからな。


 その最たる例が最年長のガンズで、次いで年上のテッカだってんだから頭が痛い。基本的に年少のほうが大人びてるってどんなギルドだよ。


「ってことで、これがお前をこの場に呼んだ理由だ」


「……思ったよりしっかり考えてて驚いたよ。そして納得もした。サラたち以外にも共有者を増やしとく。そしてその相手に一番リスクの低いのを選ぶ。うん、真っ当だ。客観的に見るなら私を指名したのも悪くないと思える」


 だからこれもさっさと聞かせてもらうけど、とアップルは言った。


「やりたいことがあるって言ったね。それがいったいどんなことで、私には何をさせたいのか。そいつもついでに今教えてもらおうかな」


 ……やーっぱクレバーだよなぁ、アップルはよぉ。ただ情報を共有したってだけじゃあなく、このタイミングで話したからには何か頼み事があるに違いないと察してくれてるぜ。


 ユーキも五歳児にしては異様に賢いが、アップルだって十歳そこらとは思えねえほどの知力があるよな……ちょっとでいいからそのIntを俺にも分けてほしいもんだ。


「アップルには留守を任せたいんだ。俺たちが不在んとき、うちで誰もマリアさんたちや政府側の事情を知らねーってのはさすがにマズいだろ? だからお前が気を配っててくれねえかな」


「ふーん。責任重大だね」


「大変だとは思うが、ひとつ頼むぜ副団長」


「いや副団長になった覚えはないけど……ま、それはいいとして。ゼンタたちはどこかへ出張るつもりってこと?」


「ちと中央都市セントラルシティまで行ってこようと思ってな。サラもメモリも、ついてきれくれるな?」


「はい、それはもちろん」

「……あなたが行くのなら、当然」


 二人は迷いなく返してくれたが、少し考えあぐねているようでもあった。それは俺が何を目的にセントラルシティへ行くのかが読めてねえからに違いねえ。


「まだ政府からもアーバンパレスからも呼び出しはかかってないはずだよね。ってことは、カスカとヨルでも探しに?」


「……いや、そっちも気にはなるが当てがねえからな。あそこの冒険者ギルドで消息を絶ったってだけじゃ今どこにいるのかなんて探しようがねえ。なもんでそっちは一旦後回しにして、まずは委員長だ」


「「委員長(さん)……?」」

「……、」


 お、三人の疑問が綺麗に重なった。

 メモリは声にこそ出しちゃいねえが雰囲気でわかるぜ。


「聞きてーことがあんのさ。ここらでじっくりあいつの考えを知っとく必要がある」


「その人って、確かあれでしょ。ユニフェア教団のときにもいた来訪者。今は統一政府セントラルの精鋭『市衛騎団ロイヤルガード』の一員になってるっていう」


 俺が「そうだ」と答えればアップルは腕を組み、ふむと考えて。


「気にはなるかな。教団事件の供述のために中央へ行って、そのまま居つくどころか政府の中枢の一端に加わるなんて普通じゃあないからね。なんの裏もないならそういうこともあるか、ぐらいの話だが、裏切り者の兼と合わせると一気にキナ臭くなる」


「えっと、じゃあまさかゼンタさんは、委員長さんが裏切り者の一人だと考えてるんですか?」


「まさかだろ、んなはずがねえって。委員長は骨の髄まで善人だからな。気になってるってのは確かだがそれはカルラと同じく、あいつが何を知ってるのかってところだ」


 ユニフェア教団の信徒となってエニシの部下をやってたときのように、委員長には何かしらの思惑があっての行動だってこたぁほぼ確実なんだ。

 だったら俺はそれを知るべきだし、今一度あいつと腰を据えて話す機会を設けるべきとも思ったんだ。


 マリアさんを送り出すのも魔皇軍と戦うのも、それを済ませてからのほうがいいってな。


「ありがてえことに中央からの帰り際、ローネンさんからは『また何かあれば頼ってくれ』って伝言をもらえたからな。教会へのアポやらダンジョンでのサポートやらでもう十分頼っちまったあとだが、そう言ってくれてんだから遠慮なくまた頼る。トードさんとこから一報入れて委員長と会うためのセッティングをしてもらうとするぜ」


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