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258.それが勇者という職なのです

「……なるほどな」


 マリアの言いたいことはすぐにわかった。


 ――魔皇だ。マリアさんが見据えてんのはやはりひたすらに魔皇討伐だけ。


 同じくカンスト来訪者である魔皇が、この百年の間にどれだけの力を積み重ねているかはマリアでもさすがに予測が難しい。ある程度の見通しは立ってもそこはやはり、実際にぶつかってみるまでブラックボックスもいいところだ。


 だが仮に魔皇の得たボーナスレベルがマリアを超え、ステータスでも大きく突き放していたとしても、それでマリアが不利になることはない。


 そんな差は【天賦】によってすっかりなくせちまうんだからな。


 一対一で決着をつけることに拘るマリアの思惑がそこにある。【天賦】魔皇に追いつけるのは自分のみ。もしもその効果が発揮されるとなれば、そりゃつまりこんな出鱈目なステータスを持つマリアよりも、さらに魔皇のほうが出鱈目であった場合なんだ。


 そしてそんな両者の戦いについていけるやつなんて他には誰もいねえだろう。やっぱマリアもそこを気にしている……瀬戸際の戦いになるなら他に仲間がいても足手纏いにしかならない、と。


 優しいマリアは直接そう口に出しこそしなかったが、懸念は結局それに尽きるはず。


 今見せられたマリアのスキル欄には俺が見てねえもんもあった。むしろそっちのが多かったぐらいだ。


 八割の力を解放して以降に使ったスキルはどれもべらぼうに強力なもんばかりだったが、他のを見てみるにまだまだ強そうな……それこそ【神槍】だとか【渙発】といった、俺たちが死ぬほど苦しめられたスキルすらも超えてそうなもんだっていくつもある。


 ステータスで負けねえってんならスキル勝負になるのが必定。そしてこんなヤバいスキルがばんばん飛び交う中でマリアに手を貸せるかって言われたら……首を横に振るしかねえ。


 俺にはまず無理だ。今はまだ、な。


 カンストして、ボーナスレベルを溜め始めてようやくその足元に迫れるかってところだが、魔皇は世界の支配のために本腰を入れて動き出そうとしてる。それを阻止したいマリアにはもう、俺たちが自分に並ぶまで育つのを待ってる時間はねえ。


 だからこれを最後の修行とし、ユーキをアンダーテイカーに預け単身で魔皇の下へ向かおうとしている――。


「あの……オレゼンタさんのスキルの数、ちょっと変じゃないですか。クラススキルが多いような」


 マリアのステータスは前々から知ってただろうユーキ。なもんで彼女は母親のそれには目もくれず、引き続き俺のステータス画面をじっくりと眺めてたんだが、不意にそんなことを呟いた。


 これには俺も首を傾げたね。言ってる意味がよくわからなかったからだ。


「多いって、何言ってんだユーキ……てんで逆だろ? 少なすぎだっての。マリアさんの半分もねーんだぞ」


「そーじゃなくって、えっと……母上」


 なんと説明すればいいか、ってな具合に頭を悩ませるユーキは母の助け船を求め、マリアはその期待に微笑んで応えた。


「柴様の所持スキルが思いのほか少ない、という意見には私も同意いたしますが」


「やっぱ少ねーんすね」


「ユーキが言っているのは割合の話でしょう。確かに柴様のクラススキルの数は、些か多すぎる」


「……そーなんすか?」


「はい。どの職業クラスであっても基本、一般スキルとクラススキルの割合は2:1程度に落ち着くはずなのです。私もそれは例外ではありませんでしょう?」


「まあ、そうみたいっすね」


 もっぺんマリアのスキル一覧を見てみて、確かにおおよそ2:1になってるってのがわかった。


 クラススキルが一個増える間に一般スキルは二個増えてるって具合か。しかし俺はその例に当てはまらねえと……そういやヤチなんかはもっと極端で一般スキルが驚異の0個だったよな。


 ってぇことは職業クラスによっての差と見るのが自然か……だがなんでこんな違いがあるんだろうな?


「そもそもクラススキルとは特定の職業クラスにのみ存在するか、あるいは職業クラスごとに効力が変化するという特殊なスキルのことを指します。ならば一般的な、誰にでも入手できてその効果にも差のないようなスキルとは入手頻度に差があって当然でしょう。一般スキルであっても職業クラスによって入手難度が変動するものもありますが、クラススキルにはそもそも入手が不可能なものも多いので」


 そこで改めてマリアは俺のステータス画面を矯めつ眇めつ確認し、頷く。


「レベルと比しての全体的なスキル数の少なさ。その割にはクラススキルが飛び抜けて多いこと。これは柴様の特異性とも言えますね。ですが割合というのはあくまで基本の例、柴様の仰る通り職業クラス次第ということでしょう。……かつての私の仲間にも偏っている者はいましたから」


「へー……」


 やっぱり俺自身の素質や素養云々じゃあなく、ネクロマンサーってクラスがそうさせてるってわけか。


 まあなんつーか、一般スキルよりもクラススキルのほうに力が入っててもおかしくねー気はするよな、ネクロマンサーって。ハウスキーパーも同じく。


「そうですね。私たちが持つ職業クラスというのはそれだけ千差万別であり……たとえ同じ職業クラスであっても必ずしも同一とはなり得ません。それはユーキのステータスを見ればよくおわかりいただけるでしょう」


 そう言って促す母の言う通りに、ユーキは特に躊躇う様子もなく自分のステータス画面を出した。


「はいどうぞっ、オレゼンタさん」


「俺が見ちまっていいのか?」


「もちろんです!」


 マリアにもそうしたんで一応ユーキにも念を入れて聞いてみたが、返事は思った通りに屈託のないもの。だったら存分に見せてもらうとしよう。



『イチノセ・ユーキ LV85

 ブレイバー

 HP:5500(MAX)

 SP:3200(MAX)

 Str:990

 Agi:920

 Dex:880

 Int:600

 Vit:750

 Arm:700

 Res:770


 スキル

 【勇気】

 【継承】

 【収納】

 【破断:LV6】

 【直感:LV5】

 【全状態異常無効】

 【即応果断】

 【大岩斬り】

 【烈風斬り】

 【剛体】

 【活性剣】

 【心霊剣】

 【山吹剣】

 【早熟】

 【手打ち】

 【足切り】

 【五月雨突き】

 【鎧通し】

 【禍断ち】

 【光の加護】

 【食いしばり】

 【挺身】

 【閻魔斬り】

 【凶裂き】

 【呪裁ち】

 【癒しの波動:LV7】

 【避雷針】

 【石火斬り】

 【天来斬り】

 【縮地斬り】

 【持続】

 【連戦】

 【逆境】

 【大器】

 【全環境適性:LV4】

 【焔剣】

 【土壇場】

 クラススキル

 【真閃:LV10】

 【接閃:LV8】

 【人刃一体】

 【剣の道:極】

 【首狩】

 【流し斬り】

 【勇猛邁進】

 【凌雲:LV10】

 【突破】

 【桜竜】

 【桜突】

 【桜舞】

 【無手の剣:改】

 【領域:LV5】

 【無間斬り】

 【唯斬り】

 【偽界:LV5】

 【盟友】

 【果斬り】』



 んー……ユーキもやっぱスキルの割合はマリアと同じようなもんか。スキル数も俺よりちょい上だがマリアよりはだいぶ下っていう、レベルに相応しい塩梅と言える。ステータスの数値もだいだいそんなもんなんで、そこは納得がいくぜ。


 だが、そんなこたぁどうでもよくなるくらいに強く目を引くのがスキルの種類だ。


 ブレイバーという職業クラスでありながら、マリアとはあまりに毛色が違いすぎる……! 

 というかユーキのスキル欄は勇者ってより純粋な剣士って感じのラインナップにしか見えねえぞ。


 マリアには光属性と無属性の魔法だってあるのに、ユーキにはMP自体がねーしよ……これで本当に同じ職業クラスだってのか?


「この通り、同職であっても本人の資質によって育ち方はまるで違うものになります。私のスキルに『聖騎士パラディン』や『司教ビショップ』と共通するものが多いのに対し、ユーキのスキルの殆どは『剣士ソードマン』や『祈祷師シャーマン』と共通しています」


「確かにマリアさんのスキルには知り合いのパラディンが持ってるものもちらほらとあったが……じゃあ戦闘においてはそういう職業クラスと変わらねーってことっすか?」


「似たような戦い方ができる、というだけで極まったパラディンと同じようには戦えませんよ。反対にパラディンが私のように戦えることもない。共通しているだけでスキル全てがまったく一緒、というわけではありませんからね」


 聞けば【神槍】を始めとした神系スキル(でいいのか、呼び方?)はパラディンじゃ絶対に入手できねーんだそうだ。

 委員長がこの先どんだけレベルアップしても使える日はこないってことだな。


 ユーキのほうで言えば、【真閃】。それから現状一番の必殺技である【唯斬り】なんかはいかにもソードマンの本領っぽいスキルだが、マリアの仲間にいた剣士にゃこんなスキルはついぞ使えなかったという。


「ってこたぁ、ひょっとしてブレイバーってのは……」


 俺のふとした思い付きがちゃんと言葉になる前に、マリアからの返事が返ってきた。


「ええ、まさに。本人の資質が他のどの職業クラスよりも前面に押し出される職業クラス。それが『勇者ブレイバー』という職なのです」


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