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255.『絶死拳』

 ようやくのワンダウン。俺らはここまで数えるのも面倒なほど転がされてきたんだ、回数的にゃちっともつり合いは取れちゃいねえが……しかしたった一度でも最強の聖女様から奪ったダウン。


 価値で言やぁ今までの負債をチャラにできるだけのもんはあるだろうぜ。


「!!」


 胸に押し寄せる感慨へとっぷりと浸りてえところだが、俺にはそんな時間もねえ。


 倒れた瞬間にマリアの両足がユーキの足を掴み、身を捻ることで引き摺り倒したからだ。


 ちぃっ、マリアめ! 

 お上品な顔してこんな真似もできるのか!


 喧嘩殺法に近いもんを見たことで俺のギアが自然と一段上がった。倒れたままの姿勢でユーキを攻撃すべく手を光らせたマリア。だが俺の打ち下ろしの飛び蹴りがそれを中断させる。


 転がり、素早く起き上がるマリア。あんな体勢からよく避ける。だが当てるのが目的じゃねえ、その動きをさせたかったんだ。


 俺の予測はドンピシャだ!


「っしゃおらぁ!」

「……っ!」


 顔を上げたところへ【黒雷】蹴りをぶち込んでやる。まったくロスなくやってきた追撃にマリアも驚いたようだったが、だからって反応は鈍らず【闘気】に覆われた手で俺の足はバシンと捌かれた。


 今度は当てるつもりで蹴ったんだがすかされたか――しかし捌く手付きがさっきまでと比べ、ちと乱暴になってんじゃねーか? 


 そりゃつまり余裕がなくなってるってことだ。


 俺の当て勘と【明鏡止水】は、マリアっていう超強敵にもようやく食らい付き始めたらしい。


「【足切り】!」


「っ!」


「ナイスだユーキ!」


 身を低くしたユーキが地面すれすれに刀を振り、そこから飛び出した小さな斬撃が地をなめるようにしてマリアの足首を叩いた。


 威力はほぼないようだが僅かにでもマリアの動きを止めたのはイカしてるぜ。


「【死活】・【黒雷】!」


 ユーキのくれた猶予を使って三度目の正直だ。今度こそ、という思いで打ち込んだ拳はマリアの横っ面をしっかり捉えた。そのまま力の限りに振り抜いて――あまりにもマリアのリアクションが大きすぎることに気付く。


「【流麗】を発動」


「ぐげっ……!?」


 打撃に逆らうことなくクルリと回ったマリア。その動きが途中から急激な加速を見せ、流れるように反撃がきた。


 殴った頬と同じ側を俺もぶたれ、のけぞる。だが倒れはしねえ、くらりときたが歯を食いしばって耐える。


「しっ――」


 っ、倒れちまったほうがよかったかもしれねえ。

 もっぺん流れる動きで第二撃が繰り出されたのを見て意地を張ったのを後悔しちまった。


「【真閃】・【山吹剣】!」


 が、ユーキが俺を守ってくれた。さっきとは逆だな。日の光を思わせる暖かなオーラに包まれた刀身を俺とマリアの間に滑り込ませたユーキは、攻めるのを中断し距離を取り直したマリアへ目掛けて突っ込んでいった。


「【真閃・重】! 【桜突】!」


「『ショックウェーブ』」


 マリアに引っ付くように動き、ほぼゼロ距離からの突きを放ったユーキ。けれどマリアはそれにすら難なく手を打った。無属性魔法。その出の早さを活かしたんだ。


 びりびり、と離れていても感じられる激しい振動……ってよりも波か。それがユーキの刀を、刀を持つ手を、そして全身を叩いた。


 ユーキの突きもマリアに当たりはしたが、魔法を食らった影響で精細を欠いてる。しかも刀の切っ先はマリアの手の平に受け止められてまでいた。


 これじゃ相打ちとは言えねえか……!


「惜しいですね。しかし迷いのない良い突きです。【衝角】を発動」


「がふ……っ!」


「ユーキ!」


 なんのスキルから知らねえが、とにかく目には見えねえ何かを食らってぶっ飛ばされるユーキ。真後ろにいた俺がその体を受け止めれば、マリアはもう次の攻撃に入ろうとしていた。


「【破城】を発動――【聖撃】」


「「……!!」」


 やはり見えはしない。だが確かな力がマリアを中心に渦巻き、それがスキルをさらに強力なものとさせた。


 マリアの手が光る。それを認識するかしないかってところで巨大なハンマーでぶん殴られたような衝撃がやってきた。


 防ぐすべなんざねえ。


 まともに食らった俺もユーキもゴルフボールのように飛ばされ、転がり、もう何度目かもわからねえダウンをまたしても奪われた。



『レベルアップしました』

『レベルアップしました』

『レベルアップしました』



 ……はっ、いっそ清々しいな。


 少しくれぇはやり合えるようになったかと思えば、とんでもねえ誤解だ。そんなことはなかった。【明鏡止水】が学習の成果を見せてくれようとしてるってのに、それでもまだマリアの八割を相手取るには荷が勝つ。ちっとも底が見えやしねえぜ。


 いや……ちっともってのは自虐が過ぎるか。


 実際、対応に追われるだけだった八割を解放した当初と比べりゃあ、こっちから攻めていけるだけ既に成果は上がってるとも言える。


 戦闘の成果。

 この修行で得られる実ってもんを、俺ぁもう食えてんだ。


 問題は食っても食ってもまだ足りてねえって点なんだが……。


「どーだよユーキ。まだやれっか」


「……変身時間は残っています。体力も、レベルアップしたので問題ありません」


「気力はどうだ」


「一切陰りなし。私の闘志はなお盛んに燃え上がっているところです。オレゼンタさんはのほうは?」


「一言一句違いねえ。どうせ張った意地なら最後まで貫くっきゃねえからな……何がなんでもマリアさんを全開にさせっぞ」


「はい!」


 再び並び立ち、ぐっと構える。

 俺もユーキも前を目指す姿勢を隠しもしない。


 マリアの下まで真っ直ぐ、最短で行く。


 これはそういう意思表示だ。


「できますか? 未熟なあなたたちにそのようなことが――【破城】を発動」


「「……、」」


「【聖撃】」


 ずん、と広がる光の衝撃波。威力も速度も範囲も圧倒的過ぎるそれは、けれど見るのは二度目だ。


 ――マリアの発動と同時にユーキも刀を動かしている。


「【真閃】・【無間斬り】!」


 連撃を一振りで空間に伝えるユーキの強スキル【無間斬り】はマリアの【聖撃】すらも切り裂いてみせた。ギッギギギギギギギギギギギギギィィッン!! と【輝爆陵】の白霧を払った際以上の撃音が鳴り響くが、鼓膜を抉り抜くようなそれに包まれながらも俺は耳を塞ぐことなく駆けた。


 両手はとっくに埋まってるんでね……!


「【同刻】発動、二色! 【黒雷】・【呪火】――『絶死拳』!」


「!」


 ひとつの拳に【黒雷】と【呪火】を同時発動。それを両手に纏わせる。


 色濃くさらに禍々しくなった死属性に黒い雷が弾け、俺の殴打は真に殺戮兵器となった。


「うっらぁあ!!」


 捌きにかかったマリアの手を、ものともせずに。

 雷火の右拳は【闘気】を突き破って命中。

 聖女の腹に突き刺さり、頭を下げさせた。


「もういっちょぉ!」


「っ……、」


 左拳も振り上げる。喧嘩でもまずやらねえってくらい全力のアッパーはマリアにスキルの発動も許さず顎をかち上げたが、直後その手をぐっと掴まれた。すげえ力だ。解けない。


 何かされる、と俺が冷や汗をかくよりも早く。


「【天来斬り】!」


 上からユーキが降ってきた。


 かなりの速度で、だが的確に俺の前腕を握るマリアの手首へ刃を当てた。拘束が緩む。そこを逃さずに振り解く。


 自由になったからにはすることはひとつ。


「【死活】・【技巧】!」

「【真閃・重】!」


「……!」


「七連『絶死拳』!」

「【唯斬り】!」


 俺の七連打とユーキの一閃が同時にマリアを打つ。これまでにねえ抜群の手応え。重ねがけた【黒雷】と【呪火】は互いに互いの威力を引き上げているようだ。


 その代わり片手ずつで発動するよりも遥かにSPを使ってるのがゲージの減り方で伝わってくるが、それは今どうでもいい。何故って――、


「【聖痕】を発動。続けて【収斂】を発動――【白蓮】」


「「うぐ……っ、」」


「【聖句】と【神槍】を発動」


「「があッ……!!」」



『レベルアップしました』



 これだ。立て続けのレベルアップ。激痛と全回復の連続でそろそろ頭がおかしくなってきそうだが、SPの残量を気にしなくていいってのは助かる。


 そこにまで気を揉んでたらいよいよ変になってたかもしれねえ。


 そうならねえためにもシンプルに考える……この手足が動く限り、死力を尽くしてマリアへ挑む。たったそれだけをひたすら考えるんだ。


 それが今の俺にできること。


 なんとしても! 

 この勝負でマリアを()()させてやるためにも――!


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