253.二重のデバフ
「……!?」
ドラッゾ、ボチベロス、ユーキの怒涛の連撃が決まったことで内心手を叩いていた俺だが、すぐにそんな浮かれ気分はどっかへ消えた。
「っ……、」
着地したユーキの顔色が優れない。見れば左手がうまく刀を握れてねえ。
まさかと思ってボチベロスのほうも確かめてみると、やはり前脚に決して浅くない傷を負っていた。
なんだ……!? いつやられた!?
困惑するが、ユーキとボチベロスは自分の不調を確かめるよりもマリアから注意を逸らさないことを優先させている。それに俺も従えば。
あれだけの集中砲火を受けても地に伏すことを己に許してなかったマリアが、ゆらりと姿勢を正していて。
「油断とはまさに大敵ですね。私にとっても、あなたたちにとっても」
「……!」
にゃろう、やっぱ何かしやがったな!
俺の目には攻撃を食らいっぱなしだったようにしか見えなかったが、きっちりと反撃をしてたらしい。そのせいでユーキもボチベロスも片腕にハンデを負った。
どっちも片手をピンポイントでやられてるってこたぁ、そういうスキルか? それともマリア本人が持つ技術がそうさせたのか。
……どっちにしろここは!
「ドラッゾ、頼むぜ!」
「グラウ!」
伸ばした俺の手をドラッゾが掴み、飛ぶ。そしてすぐに最高速へ達し。
「いいぞ!」
「ッグラァ!」
――ぶん投げてもらう。空中でハンマー投げのごとく放り出された俺。その着地点にはもちろんマリアの姿がある。
「【死活】・【呪火】!」
「!」
手を強化した呪いの火で包んだ俺を、マリアは迎え撃とうとする。いくら勢いがあろうとたった一人で直線的に突っ込んだって結果は目に見えてるわな……だからこいつの出番だ!
「【怨念】発動!」
「っ!?」
マリアの動きが明らかに鈍った。
まるで全身に重りをつけたみてーに鈍重さだ。
それでも普段のマリアと比べてって意味なんで、まるっきりのノロマになったわけじゃあねーが。
しかしこれで、単純な攻撃だろうと攻め込めるぜ。
「うっらぁ!」
落下のままに上から【呪火】を叩き込む。迎撃が間に合わないと悟ったマリアは瞬間的に対応策を防御へ切り替えていて、ドラッゾの協力を経て繰り出した渾身の掌打も結局は防がれちまった。
ちっ、本来なら防御だって間に合わなかっただろうによ。
だがそれでもいい、俺の腕は無事だ。ユーキたちがやられた妙な攻撃は食らってねえ。
つまりそりゃあ、マリアが完全に受けに徹してるってこと。
絶好の攻め時を意味してるってことだぜ!
「【死活】・【技巧】ぉ!」
「!」
「七連【黒雷】っ!!」
遠慮なく全力でたたみかける。数を増した【黒雷】のラッシュはいずれもマリアのガードによって狙った位置への着弾こそ防がれたが、当たりはした。これでマリアは二重のデバフを受けたことになる。
ひとつは言うまでもなく【黒雷】が持つ雷属性のおまけで発生する、痺れによる麻痺効果。
もうひとつはついさっきのレベルアップで得た『死霊術師』としての新スキル【怨念】の効果だ。
体を重くさせる、いわゆる鈍重化ってやつか? それが近場の敵へかけられる。
しかもこのスキルにゃ仲間がやられたあとだと効果が増すという特性もあるらしく、俺たちを守るために散ったモルグのぶんも乗っかって、殺った当人であるマリアにはより強く鈍重化が働いてるようだ。
そこに【呪火】と【黒雷】を立て続けに食らったんだ。どっちも何かしら身を守るためのスキルで阻まれてるような感触はあったが、その大半は死属性にかかるものだった。
雷属性は完全にシャットアウトされちゃいない――マリアの肉体に通ったという確信が俺にはある。
重さと痺れで正常に動けない今!
マリアの卓越した技量は無に帰したも同然ってこった!
「いっせいにかかれぇっ!」
「「「!」」」
全員がいい反応速度を見せてくれたぜ。
特にユーキは俺が号令を言い終わらないうちからスキルを発動させている。
「【真閃】・【縮地斬り】!」
「くっ!」
一足でマリアの反対側へと移動。その通り抜け様に神速一閃。
見えてはいたようだが体が追いつかずに斬撃を浴び、たたらを踏むマリア。その体を影が覆う。
「!?」
「バウル!」
負傷もなんのその。こちらもひとっ飛びでマリアの背後を取ったボチベロスが、あえて傷付けられたほうの腕を使って殴りつけた。
めきめき、とマリアの体がくの字に曲がって……ぶっ飛ぶ。ケルベロスとなったボチの四肢の逞しさは尋常じゃない。その強靭な脚力から繰り出される攻撃は全てが必殺級の威力を持つと言っても過言じゃねえ、が。
クエストで普段相手してるようなそこらのモンスターならいざ知らず、マリアに対しては必ずしもそうとは言い切れねえよな。
「グッ――ッラアアウ!」
だから追い打ちをかける。
吹っ飛ばされた先に待ち構えていたドラッゾ。
その身には吹き荒ぶ冷気が宿っている。
氷属性を持つブレスを自らの全身に吹き付けることで完成する、冷気のオーラ。対シガラ戦でやったブレスと一体になっての特攻を元に、その発想をブラッシュアップして完成した新たな闘争法。
ドラゴンの膂力と氷属性が融合した『冷竜撃拳』が炸裂した。
「……!!」
マリアの表情が歪むのが見えた。ガードも挟まずに受けるにゃあ、この三連撃は重かったろう。さすがのマリアでも苦痛の色が隠せてないのがその証拠。
だが、しかし。
「っ、それでもかよ……!」
殴り飛ばされて地に手をついたマリアだが、やーっぱ倒れちゃくれねえ。
別にそうなりゃあ俺たち側の勝利とかいうルールはねーんだが、妙に拘ってるよな。こりゃあユーキの母としての拘りなのか。もしくは教会の聖女としての矜持か?
俺だって何が何でもこけさせてえってわけじゃねえが、ひとつの目途にはなる。
最強格にもここまでさせてやったんだぞっていう、この勝負の一区切りにはな。
最初にマリアを退かせたのと同じように、ここらで新たに達成感がほしいところだったが……どうやら今のマリアはそんな些細なプレゼントすらもくれねーようだ。
「――【聖刻】を遅延発動」
「うあぁっ!」
「バウッ……、」
「グ、ラァッ!」
「なんだとっ……!?」
相手に奇妙な熱と痛みを与える、マリアの【聖刻】。それが俺以外の全員を一遍に襲った。
遅延発動……!? どうなってる、あれは【輝爆】とか【接触】なんかと一緒で相手に触れたときしか使えねーもんじゃねえのか?!
まさかそれは勘違いで、俺が食らった時点で実はユーキもその対象になってたのか……いやだとするとボチベロスとドラッゾまで食らってるのはおかしい、いったいいつ仕込んだ? 今回俺が食らってねえのはどういう理由だ?
っ、考えてる場合じゃねえ。ユーキたちが誰も動けえねこのタイミング。
マリアが狙うとしたら――唯一フリーの俺!
「【金剛】・【接触】!」
案の定恐ろしい速さで間合いを詰めてきたマリアを見て、気持ちではカウンターを取るくらいのつもりで硬化と恐怖効果のスキルを使ったが。
「【煥発】を発動」
「がぁっ……!!」
触れて、こなかった。
その手前までは近づいてきたが、決して俺の体には触ろうとせず。
マリアから溢れた閃光が【金剛】で固めたはずの俺の身体を、易々と吹き飛ばした……!
『レベルアップしました』
「く、っそが!」
嬉しいはずのレベルアップがこうも虚しく感じるときがくるとはな。
だが感情は別にして、おかげで衝撃によってくらくらしてた脳みそが元に戻ったんだ。この回復はありがたく利用させてもらおう。
すぐに体勢を整え、早くも切れちまったらしい【怨念】をもう一度マリアにかけ直して……なんて思考を巡らせた俺だったが。
「【収斂】を発動」
「――なぁ!?」
吹っ飛んでる最中だったってえのに、ギュンと。映像を逆再生するみてーに宙に浮いたままでマリアの真ん前に引き戻された?!
それは俺だけじゃない、ユーキもドラッゾもボチベロスも。【聖刻】のダメージに苦しんでいたところを移動させられていた。
――当然これは俺たちの意思じゃねえ。マリアによって強制的にその目の前まで招集されたんだ!
まるで互いに吸い寄せ合うように四者ひとまとめにされて、次に何が起こるかなんてのはわかりきっていた。
攻撃しやすい位置へ敵を集めたんだから、あとは思う存分に攻撃するだけだよな……!
「【聖撃】を発動」
「「「「っ……!!」」」」
誰も何もできなかった。そんな暇は与えてくれなかった。痛みを押して先制しようとするユーキたちよりも、【怨念】を発動しようとする俺よりも、当然のように速く。マリアはその手を光らせた。
美しも暴力的な輝きが、俺たちの目と全身を潰すようにして叩き付けられた。
「がっはぁ……! ぐっ、この……、」
「【神槍】を発動。続けて【聖句】を発動。対象は【神槍】」
「?!」
「発射」
マリアの作り出した神々しい槍。
それが固まって投げ出されている俺たちを仕留めるべく、罪人の首を落とすギロチンのような無慈悲さで迫ってきた。




