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251.追いつけるビジョンがまったく見えねえ

「【大岩斬り】!」


 【領域】によって間合いを広げたユーキの斬撃スキルが発動される。マリアの槍を叩き落とそうとしてるんだ。


 あれだけ大量の土塊もぶっ飛ばしてみせた【大岩斬り】の威力は本物、槍だってそんなもんをぶつけられちゃ勢いを削がれるのは当然ってもんだが……。


「っ、止まらない……!」


 停止させるつもりで放った一撃でも、僅かに速度が落ちただけ。ユーキでも止められねえってことがあの槍がどんだけ危険な代物かをより克明にする。


 まあそいつはモルグがさっくりやられた時点でわかりきってもいたがな。


「『非業の戦斧』――【死活】・【黒雷】!」


 戦斧に強化【黒雷】を纏わせる。武器に【黒雷】を乗せるのもだいぶ慣れた、今なら手足から打つのとも遜色ねえぜ。


 この場面で【武装】を使ったのはもちろん、ユーキほどとはいかずとも俺なりに間合いを広げるためだ。


「『パワースイング』!」


 最大まで戦斧を伸ばしてしならせ、槍へぶち込む。【黒雷】込みのギミック攻撃は前にやったとき以上の手応え。


 今出せる百パーセントの威力を槍へ伝えてやったという実感がある――なのにやっぱり止まらねえ、俺もほんの少ししか勢いを削れなかった……!


「くそったれ! ユーキ!」


「はい!」


 もう槍は目前まで迫ってる。思ったほど殺せはしなかったが先に二度も攻撃できたことを喜んでおくべきか。だがもう先手を打つ時間もねえ……あとは直接やるっきゃねえわけだ。


 攻めのタイミングをズラすことを覚えた俺たちではあるが、今ばかりは寸分の狂いも許されん。こいつを止めるにゃ完璧に息と攻撃を合わせる必要がある!


 大急ぎで戦斧を返し、俺はもう一回スキルを発動させた。


「【死活】・【黒雷】……『パワースイング』!」

「【接閃】・【閻魔斬り】!」


 続けての【黒雷】ギミック攻撃。そんでユーキの連続斬り。真っ赤なオーラを持った刀と真っ黒な雷とオーラを纏う斧が、まったく同時に槍を捉えた。


 だがそれは槍のほうも俺たちを捉えたってのと同義だ。


「ぐぅ……!?」


「っく……!」


 お、重てぇ! 多少なりとも速度を落とせたってのがてんで勘違いなんじゃねえかと思えるほどに……そんだけマリアの槍は強烈だ!


 俺の『パワースイング』は弾かれ、ユーキの連続斬りも途切れた。だが槍だけは止まらない。止まってくれない。このままじゃ俺たちもモルグ同様こいつの餌食になって終わりだ。


 ――んなことにはさせっかよ!


「【金剛】・【武装】! 『骨身の盾』!」


「【持続】発動! 【接閃】を継続!」


 さっき手から落として離れたことで【武装】が解除されてた骨の盾。それを再度呼び出し、硬化スキルとともに槍を受け止めた。隣ではユーキも技が途切れたことを感じさせない滑らかさで再度連続斬りを繰り出している。


「ぐ、ぉおおおおおおおおっ!!」


「はぁああああああああっ!!」


 死力を尽くす。そういう表現がぴったりの鬼気迫る様子でユーキが刀を振るう。


 かくいう俺も必死だ、【輝爆】を受けられたコンボもこの槍を相手にはちっとも余裕なんざありゃしない。


 やはりこの【神槍】ってえのは強力だぜ。反吐が出るほどにな。だが俺らの度重なる攻撃で少なからず威力が減退していることも確かだ。


 押し返せる。

 盾越しの感触でそう思えた。

 おそらくユーキも斬ってる感覚で同じもんを味わってるはず。


 あと一歩でこのヤベー槍を殺し切れるだろうと……!


「【神火】を発動、エンチャント。対象は【神槍】」


「「!!」」


 希望の芽を摘み取るように。

 確かに見えた光明を閉ざしてしまうように……槍の勢いが再燃した。


 そうだ燃えだしたんだ! 槍がいきなり火に包まれた――それもただの火じゃねえ、物と物を介していても地肌で触れてるみてえに熱いぞ……! HPもゾッとする速さで減ってく!


「なぁっ……!」


「こ、れは……っ、」


 さらに悪い知らせが俺たちの目に映った。槍の勢いが戻るどころか、明らかに射出直後よりも力強くなった。それもこの火のせいだ。ジェット噴射! 神の火とやらはロケットみてーにして槍の速度を極端に上げてやがる……!


 ただでさえカツカツだったところにこんなパワーアップをされちゃ、もはや堪えるなんてできやしねえ。


「「うぁああっ!?」」


 俺もユーキも、貫かれた。

 当然そりゃ比喩だ。

 来訪者の体は切れも刺されもしない。


 しかし攻めも守りも突破されて綺麗に吹っ飛ばされちまえば、傷こそなくてもそう感じるってもんだぜ。


 ……あー、強い。

 嫌んなるほど強いな、聖女様はよ。


 【輝爆陵】に【神槍】、【神火】。そして精霊の召喚……使ったのはこんくらいだが、どれもこれもとんでもねえスキルだ。


 八割で戦ってるってことはこれでもまだ使うスキルを選んでる状態だろ? 


 つまりマリアにはもっともっと強力なスキルの手持ちがあるってこったな。


 追いつけるビジョンがまったく見えねえ。ユーキがいなきゃまず最初の【輝爆陵】の時点で詰んでただろうしよ。


 天と地ほど差がある、なんて思ったのは自惚れだったか? 

 そんなもんじゃ済まねーわ、地中の砂利と何億光年先のお星さまくれえの差だぜ。


 こっから先、もっと上のレベル帯に入っていくにあたってマリアの戦闘は参考になるだろうとも考えてたんだが……今んとこさっぱりだな。なんの参考にもなりゃしねえわ。


「ふげっ」

「うぐっ」


 槍に吹っ飛ばされ宙を舞い、やがて落ちた俺たち。そのまま仲良く地を転がり、それもようやく止まって、寝転がったままで。


「よぉユーキ……まだいけっか?」


「――はい、私はまだへっちゃらです。今のでレベルも上がりました」


「そうか、そりゃ奇遇だな。俺もだよ」


「オレゼンタさんも? ならばお互い、もうひと踏ん張りくらいはできそうですね」



『レベルアップしました』

『レベルアップしました』

『レベルアップしました』

『レベルアップしました』



「へっ、もうひと踏ん張りか……。そうだな、いくらでも踏ん張れそうだぜ」


 上がったばっかでもう上がった。それも四つもだ。


 そんだけ【神火】・【神槍】のコンボがえげつなかったってことでもあり、俺が死にかけたってことでもある。


 俺ぁ見逃したりしてねえ。

 槍を食らった瞬間、HPバーが消えちまったのをよ。


 いや、本当に消えたわけじゃない。そうなったら死んでいるわけだからな。その寸前までいったってことだ。


 ミリも切るほどに、1すら下回るほどにHPが減った。

 だがそこで止まってゲームオーバーまでいかなかったのは……たぶんマリアの力だな。そういうのも調節してるんだ。


 殺し切らないためのみねうちめいたスキルでもあるのか、手動の加減でそうしてるのかは知らんが、とにかく死なせないための工夫はばっちりできてるらしい。


 そうじゃなきゃ俺なんかもうとっくにくたばってるわな。

 思い出せるだけでもざっと四、五回はそのチャンスがあったぜ。


 ――だけど、死んでねえ。

 それどころかレベルアップを重ねて今もどんどん強くなってってる。


 マリアに追いつけるビジョンは見えてなくても、俺がそこに近づいてることは確かなんだ。


「よっこらせ、と」


 立ち上がる。俺の体は軽かった。

 

 やっぱレベルアップの恩恵は大きいぜ。HP、SPだけじゃなく元気まで戻ってくるんだからな。痛みも疲労もねえ、あるのは……どんだけやられてもあとからあとから湧いてくるこの闘志だけだ。


 刀を構え直しているユーキも同じようで、瞳が戦意で燃えているのがわかる。


「あの槍は……消したか。またけしかけてくるかと思ったが」


「他のスキルも見せるつもりなんでしょう。……来ていますよ」


 ユーキの言う通り、開いた距離をマリアのほうから詰めてきてる。急ぐでもなくただのんびりと歩いているだけだが、俺たちにはその歩みが恐怖の象徴のようだった。何もされねえうちから身の竦む思いだ。


 けっ、あんだけ遠距離戦に適したスキルを暴れさせたあとでわざわざ近づいてくるかよ。


 とくりゃあ、またぞろ強力な別のスキルを出してくるだろうってのは道理だな。


「どうします?」


「真っ向から迎え撃つ。それしかねえ。何度ぶっ飛ばされようが手を伸ばしてやる――【召喚】と【契約召喚・改】、発動だ……!」


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