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250.イモータルゴーレム

「一応聞くがどうして向こうにいるんだとわかる?」


「微かにですが、霧の密度に差が。それに精霊たちの動きも私たちをあそこから引き離そうとしている印象を受けました」


「マジか?」


 俺にゃあ自由に飛び回ってるようにしか見えなかったが……でもユーキがこう言うってこたぁそれは確かなはずだ。精霊たちのフォーメーションが定まったものだったってのはよ。


「払った霧も戻ってきていますね。――私がもう一度切り開きます。今度は母上の居場所まで一気に……!」


「やれんのか? 密度が高いってことはそんだけ払うのも苦労するはずだぜ」


「霧を斬るコツは掴みました、やってみせます。【真閃】発動!」


 たった一回でコツを掴んだ? 頼もしいことを言いやがる。末恐ろしいまでの才能だ。


 斬撃系、というか武器攻撃に特性を持たせる系のスキルってのは、使い手の技量によって威力や効果が左右されるんだろう。体に乗せる【黒雷】が体術、つまりは打ち方や打ちどころによってダメージ量が変動するのと同じように。


 コツを掴んだと言い切ったユーキの剣技は、まさにそれを証明していた。


「――【無間斬り】!!」


「おお……!?」


 抜け穴、どころじゃねえ。霧が真っ二つに割れた! 海を割ったモーセの逸話を思い起こさせるような光景が俺の前に広がっている……そして宣言通りに切り開かれたその一帯。


 邪魔な霧がなくなってよく見えるようになったそこに、やはりいたな。


 マリアだ!


「見つけた! ですが、すぐに霧は戻ります!」


「おう、周囲のもんだけじゃなくマリアさんがまた新しく出すかもしれねえ! ここは速攻だ、見失う前に決めっぞ!」


「はい!」


 駆ける。マリアに向かって道なりに一直線で進む。必ず未だ見ぬスキルによって狙い撃ちされるだろうと俺は覚悟していたし、ユーキだって同じ警戒をしながら走っていたはずだが……マリアは不思議と何もしてこなかった。


 予想は外れたが、油断はしちゃいけねえ。

 マリアがなんもせず攻撃を食らうとは思えん。


 とはいえ俺たちのキルレンジは基本近距離。飛ぶ斬撃やキョロの航空支援もありはするが、やはり自分の手で直接ぶち込むのが本来の戦い方。


 近づかねえことには話にならねえ。


 たとえマリアがどんな企みをしていようが、だ。


「【死活】・【技巧】……!」

「【真閃・重】……!」


 間合いに入る直前、強化スキルを仕込む俺たちを迎え入れるマリアは――。


「迂闊」


「「!?」」


 マリアも含めて俺たちの四方八方が強さを増した煌めきに埋め尽くされる。それはまるで、夜空の星たちが一斉に地上へ落ちてくるような……!


「一斉起爆。何故その可能性を考慮に入れなかったのか……私には【転換】以外にもダメージを消すスキルがあります。残念ながらユーキにはまだそういったものはありませんね。柴様はどうでなのでしょう?」


「……っ!」


 字面通りの自爆攻撃! 今や偽界中に及ぶこの霧の全てを一度に爆破させようってのか! 


 そうなりゃ同じ空間にいるマリアだって大打撃を受けることになる。が、それをなんらかのスキルで無効化するってんなら。


 ――俺とユーキだけが大爆破の被害を受けるってわけだ。


 しまった、この場所。マリアが霧を生み出し続けていたこの位置は、範囲でも濃度でも紛うことなき中心地だ……今からじゃどうあっても爆破の範囲外へ逃げることなんてできやしない!


 まんまと獣の口へ首を差し出しちまった気分だぜ。


 だが!

 俺だって何もせず攻撃を食らってやるわきゃあねえ!


「【召喚】、『コープスゴーレム』!」


「!」


 横のユーキを引き寄せながらモルグを呼び出す。詳しく話してる暇はねえ、端的にやってほしいことだけを伝えるとしよう。


「俺たちを守れ、モルグ! アレを使うぞ!」


「! ゴアゴアッ!」


 さすがモルグ、何度も俺の盾代わりになってくれた経験があるだけあって理解が早ぇな。こんな状況でも心得てるとばかりにすぐ承諾してくれたぜ。


「よし、『変態』だ! 来い『イモータルゴーレム』!」


「ゴォオオアアアアアアアァ!!」


 ボチやキョロと違って、モルグは変態しても外見上の差はほぼ出ない。多少色味が変わるかってくらいのもんだ。だが、変化そのものは最も明確と言っていいかもしれねえ。


 何せサイズがまったく違うからな。


 そう、イモータルゴーレムとなったモルグは――いくらでも好きに巨大化することができるんだ!


 いくらでも、と言ってもギルドロボと同じサイズまでしか試してねえし、そもそも偽界っつー限られた空間じゃそこまで巨大になりようもねえが、それでもいい。


 今は俺とユーキを隠せるくらいの大きささえあればそれで……!


「ゴォアッ!」


 デカくなったモルグがさっと俺たちを覆う。

 腹を天井に、手足を壁に。

 肉のドームに覆われた俺とユーキにはもう外部の様子を窺い知ることはできねえ。


 けれど直後に響いた爆音。そしてここまで衝撃を伝えてくる空気の振動が、外で今どんな地獄が広がっているのかをよくよく知らせてきやがるぜ。


「ゴォ……ッ!」


「頼む、耐えてくれよモルグ! お前が力尽きたら俺たちも終わりだ!」


「も、モルグさんと仰るんですか? 私からもお頼みします、どうか与力を……!」


「――ゴアッ!」


 この世の終わりみてえな轟音が続く。モルグの後ろ側は途轍もねえ熱と痛みに絶え間なく襲われているはず。だがこいつは元から傷やダメージには鈍感だ。巨大化してれば余計にちょっとやそっとの損傷なんか気にならなくなるはず。


 問題はこの絨毯爆撃ならぬ蹂躙爆撃が『ちょっとやそっと』の程度には収まらねえってことだが……モルグなら耐え切ると信じる! 俺にはそれしかできねえ……!


「ん……!」


 実際には僅かな時間だったろうが、延々に続いたように思えた爆撃もとうとう終わりのときがきた。


 轟音がぴたりと止んだ――霧が全て爆発して消え去るまで、モルグは俺たちを守ってくれたんだ!


「よ、よくやったモルグ……お前マジですげえぞ、よく耐えたな!」


「ゴアァ……、ゴッ!?」 


「!? モルグさん!」


「なにっ……、」


 喜びを感じさせたモルグの声が急に震え、詰まった。

 何が起きたのか――なんて、そんなのは明白だ。


「驚きました。このような方法で【輝爆陵】の一斉起爆を凌いでしまうとは。滅私の精神大変敬服いたしました……ですがモルグさんにはここでご退場願いましょう。残していては面倒になりそうなので」


「ゴ、ア……、」


「くそっ、モルグ……!」


 最後の力で俺たちを自身の体の下からどかしたモルグ。その頭には深々と何かが突き刺さっていた。――光でできた巨大な槍、か? 頭部だけじゃなく胴体にまで達してるそれが、モルグの背中をめりめりと引き裂きながら出てくる。その動きはマリアの腕の動作と連動してるようだった。


 あ、あんなもんで頭蓋から背骨まで潰されちゃさすがのモルグも一溜まりもねえわな……ただでさえ爆撃のダメージも深刻だったろうに、本当によくやってくれたぜ。


「ありがとよ、モルグ。お前はいい仕事したぜ。ゆっくり休んどけ」


 キョロのときとは違って【召喚】が強制解除されちまったが、俺の言葉はきちんと届いたようだ。モルグは異形丸出しのその顔に意外なほど人懐っこい笑みを浮かべて消滅した。



『レベルアップしました』

『レベルアップしました』



「……キョロは積極的にゃ消そうとしなかったってぇのに、今はずいぶん手早く処理したな。そんだけモルグを脅威に思ったってことかよ?」


「それも間違ってはいませんが、使える手段の差でもあります。先ほどまでの私はキョロさんに有効なスキルの持ち合わせが【極光】のみだったのです。似たような攻撃法は他にもいくつかありましたが、柴様は私がそれらの手段を用いることを、その身で封じていましたね」


「なるほどな……八割のマリアさんともなりゃあ、切れる手札が盛りだくさんってわけだ。そのけったいな槍も解禁した攻撃法のひとつだと」


「その通りです。さて、モルグさんを屠るための【神槍】ですが……その役目を果たしたからといって消す必要はありませんね」


「「っ……!」」


 消すのはお前たちのほうだ、と。

 言外にそう告げたマリアはひょいとごく軽い仕草で腕を振って。


 それに従い刃先をこちらに向けた光の槍が、とんでもねえ速度で迫ってきた!


「【領域】発動!」

「【死活】・【武装】!」


 あの槍はヤバい。


 言葉を交わさずして意見を一致させた俺とユーキは、ひとまずその対処に全力を振り絞ることになんの躊躇いもなかった。


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