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248.全力を出させていただきます

 キョロを正面に据えたまま、俺とユーキは左右に別れてマリアを挟む。


 出だしは俺か、キョロか。これまでの攻めの組み立てからしてそう予測してたんだろう、マリアの警戒は比重で言えばキョロに対してが最も重く、次いで俺、そしてユーキという順番になっていた。


「【真閃】・【山吹剣】!」


「!」


 刀身からオーラを溢れさせながら振るわれた斬撃を、いともたやすくいなしてみせるマリアの反応と技量はやっぱ脅威的だ。


 だがいの一番に飛びかかってきたのがユーキであったことには少しばかり意外そうにしている。


 ちったぁ気が削がれてくれたかよ?


「【黒雷】蹴りぃ!」


「……!」


 俺も即それに続く。同時に、ではなくマリアがユーキの攻撃を凌いだところを攻撃してやった。


 避け辛いだろう背中側へ目掛けて【黒雷】を纏った回し蹴りを放ち――とん、とマリアの角度的に足がどこに来るかは絶対に見えてねえはずなのに、軽く手で止められちまう。


「くっそ……!」


 またこれか! 見もしねえで的確に把握されるのはやりづらいことこの上ねえ。【察知】を持つ俺と戦ってきた奴らも同じように思ってたのか? ……だがマリアのこれは俺のよりよっぽど精密っぽいぞ。


 しかも【闘気】だけのときは蹴り足に触れるときでも【黒雷】の部位は避けてたのに、今はなんも気にせず【黒雷】ごと防いでいる。


 これじゃ勘の良さを掻い潜ってクリーンヒットを奪えたとしてもそこまでの大ダメージは期待できそうにもねえ……。


 ちっ。えれぇもんでマリアの六割ともなれば、ただ身を守ってるだけでもこうも絶望感を与えてくるかよ。


「クゥエ!」


「……、」


 黒い火にくるまれた骨の弾丸。たった二発だが正確に自分を狙い撃ったそれを躱すため、マリアは足を動かした。その瞬間を逃さず俺とユーキはすぐにマリアから離れる。


 よーしよし、キョロの撃つタイミングはばっちりだ。もう少し早くても遅くてもマリアにはそのほうがやりやすかっただろうよ。


「クエーッ!」


「!?」


 抜群の援護射撃を行ったキョロだが、そこでは終わらない。


 俺たちが標的から距離を取ったと見るや骨弾を連発しながらマリアへと突っ込んでいく。


 【呪火】の骨弾マシンガンへ対処させながら、最後には【呪火】体当たりをお見舞いするつもりだ。


 並みの敵ならなすすべなくやられるえげつない戦法だが、あいにくマリアって女はどこを切り取っても並みな部分なんて見つかりっこねえ大物だ。


 この撃ち続けながらの特攻にだって楽々と対応してみせるだろう。現に、もう既に【呪火】込みの骨弾すら捌いているからな。


 だったら今度は俺がキョロを援護してやるぜ。


「【死活】・【武装】! 『不浄の大鎌』!」


 先のスオウとの戦いで不浄のオーラを拭きとられちまった大鎌だが、先日無事に復活を果たした。一週間も戻ってこなかったんで本格的にダメかとも覚悟し始めてたんだが、やはり不浄の封印は一時的なものでしかなかったらしい。


 大鎌の能力にはこれまで何度も助けられてきたもんで、日課になりつつあった朝の確認でオーラが蘇ってるのを目にしたときゃあ、ガチで胸を撫でおろしたね。


 ってなわけで、今回もこいつの力で大いに助けてもらうとしよう。


「うっらぁ!」


「、……!」


 復活したてのその大切な武器を、俺は思いっ切り投げてやった。


 大鎌なんで放り投げることはできても、それでうまく狙った獲物を切れるとは限らない。つーかまず切れやしねえんだが、これのいいところはやはり不浄の能力にある。


 一目見ただけで『ヤバい』と確信させる悍ましいオーラに、臓物で出来た趣味が悪いじゃ済まねえ鎌。


 そんなもんを自分のほうへ投げつけられて焦らねえ奴ぁいねえよな。


 実際に大鎌を――いや不浄のオーラを、か――目にした瞬間、そして俺が思い切りそれを放った瞬間、そのそれぞれでマリアはほんの少しだが顔付きを変えたように思う。


 側面から不浄の大鎌、正面からは【呪火】を翼に燃やすキョロ。そして骨弾による縫い留め。


 これを果たしてマリアがどう捌くか、と注目すると。


「【聖痕】を発動」


「!!」


 マリアの全身からピカッと光った。ごく一瞬のことではあったが、その何もかもを照らすような強烈な光は俺の鎌も、骨弾も、キョロの翼の火も。マリアの身に迫っていた脅威の全てを尽く無力化させていた。


 ――これは【閃光】と同じく、委員長も使っていたスキル! 


 詳しいことは知らんが、闇属性や死属性関連にはめっぽう強い例のアレだ。


 【呪火】は説明した通り純粋な死属性で構成されている。不浄のオーラも死属性から派生したものであるからには、あのスキルにゃ敵いやしねえ。俺にとっては反則級の相性だぜ。


 しかし【閃光】のときも思ったが、同じスキルでも委員長が使ってたときより強力になってる感じがすんのは気のせいか? 


 委員長が【閃光】で斬りかかったときは一部だけとはいえあのときの俺でも視認できたのに、さっきのマリアの動きはまるで追えなかった。


 そんで今の【聖痕】も絶対に委員長のものより輝き方が凄まじかったぞ。


「これも通じねえか……!」


 勢いを失って地に落ちる大鎌に骨弾。

 攻撃の要である【呪火】を消されたことで突撃を中断し慌てて方向転換するキョロ。


 追い込んでいるように見えた状況から一転、たった一個のスキルでマリアを攻め立てていた全部が這う這うの体だ。


 作戦失敗に歯噛みする――ことになっていただろうな。


「【真閃】――」


「!」


 ユーキがマリアのすぐ傍で、刀を振りかぶっていなけりゃあな!


「――【石火斬り】!」


 キンッ、と短く刀が鳴る。速ぇ……! どう斬ったのか見えなかった!


「っ……!」


 名称からしておそらく速度特化の斬撃スキル。

 ずっと使ってる【真閃】ってのは斬撃スキル全般を強化するためのもんなんだろう。


 スキルを使って物量を凌いだばかりのタイミングで強化された高速剣を叩き込まれちゃ、さすがのマリアも防ぎ切ることはできなかったようだ。


 しかしやはり勘の良さが彼女の難攻不落っぷりを押し上げているか……食らいはしても急所を避けることだけは徹底して、受けるダメージを最小限度に抑えたってのがわかる。


 なんせ多少よろめいただけで今のを耐えやがったんだからな……!


「なるほど、これは……」


「っ、」


 ユーキとしても会心の一撃だったんだろう。それがヒットしても母の笑みが崩れないことに愕然とした様子だったが、すぐに気を取り直し、反撃を警戒してそこから飛び退いた。


 欲張らずに退避したのは好判断だろうよ。

 なんの用意もなく追撃したってマリアにゃまず通用しやしねえからな。


 俺たちの補助を求めてクレバーな選択をしたユーキ。もちろんキョロも俺もそれに応えるつもりだ。もう一度……いや一度と言わずに何度でも。


 マリアが両手を上げる気になるまでそこへユーキを導いてやろうじゃねえか。


 と、いう俺たちの言葉なしの意思表示をマリアも読み取ったのか。


「別方向、かつタイミングをズラしての三者三様の攻撃……それも締めを請け負うはずのユーキにまず斬り込ませて援護の土台を作らせ、然るのちに余裕を持って作り上げた飽和攻撃への対応を迫り、その直後真の本命を繰り出す。――素晴らしい」


 ぱちぱち、とマリアは満足そうに頷きながら拍手なんてもんをした。


「私が言葉で指摘するまでもなく、驚異的な速度で連携の練度が上がっていく。加速度的に互いの呼吸が合っていく。殊更に『合わせよう』という意識なくそれができていることが何より素晴らしい……。あなたたちは良きパートナーとなる。その未来を私へ示したと言えます」


 深々と。

 手を叩くのをやめたマリアは、今度は何故か頭を下げて。


「感謝申し上げます。私という至らぬ人間を母と呼んでくれるユーキへ。ユーキと共に戦うことを決断してくださった柴様へ。……心よりの感謝をしたく」


「母上……?」

「……、」


 そして、と顔を上げた彼女は続けた。


「これほどに洗練された、初めての共闘とはとても思えないほどのコンビネーションを見せられたからには、もはや確認の必要もない。――なのでより本格的な実戦形式の勝負へと移らせていただきます」


「「……!」」


 ゾワリ、と俺の体を上から下まで貫く悪寒。同じもんをユーキも、そしてキョロも感じているようだ。


 プレッシャーが、また跳ね上がった。

 しかもさっきの比じゃねえほどにだ……!


「八割、といったところです。これ以上はさすがに危険でしょう……とはいえ八割でも今のあなたたちにとって荷が重いことに変わりはない。ですので、ユーキ。紅蓮魔鉱石の力を解放することを許可いたします」


「……!」

「解放……?」


 訝しむ俺とは反対にユーキは驚いた顔を見せつつも、やがて決意の表情となって。


「かしこまりました母上。これよりユーキ、全力を出させていただきます……!」


 そんな言葉のあと、少女の変化は如実に表れた。


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