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247.ガンガンいこうぜ

「これは『決闘』ではない。ですのでより真剣に、一意専心に臨んでください。あるいはこの戦いが悲劇で終わってしまわないためにも」


「……っ!」


 なんつープレッシャーだ!


 勝負の始まりから感じてたもんではあるが、マリアから発せられるその重みがはっきりと跳ね上がった。今が六割程度だと? さっきまでが半分、つまり五割だったんだぞ。


 たった一割の差でここまでの重圧になるってのか……!?


「ちっ……キョロ! 撃て!」

「クエッ!」


 ズガガガガッ! と骨弾のマシンガンがキョロの両翼から撃ち出される。何か行動を起こされる前に機先を制す。そのつもりで指示を出したんだが。


「!? き、効いてねえ!?」


 さっきと同じく広範囲にバラ撒かれた弾を、今度のマリアは一切防ごうとはしなかった。ただ突っ立ったままで自分に当たる軌道の弾すらも放ったらかしだ――そしてまったく微動だにしない。


 確かに直撃を受けてるってのに、まるでそよ風の中にでもいるみてーに!


「母上がちからを引き上げたからには、使うスキルもそれだけ増やしたはずです! 気をつけてオレゼンタさん!」


「そうか、そういうことか……!」


 キョロの上からユーキの言葉が届き、俺も理解した。マリアは既に新スキルを切っているんだ。【天来斬り】を食らいながらも俺の目の前から消えたのも、今までは使ってなかったなんらかのスキルの能力に違いねえ。


 おそらくマリアは【闘気】以外の何かで身を守っているんだ! 


 それが俺の【金剛】みてーに防御専門のものなのか、【超活性】みてーに耐久が上がるのはあくまで副次的なものなのか……そこまではさすがに現状じゃ見抜けやしねえが、いずれにしろ【黒雷】の搭載なしじゃ骨弾はもう牽制にすらならねえってこたぁ確定しちまった。


「詰めるぞ! すぐに続け!」


「はい!」


 やっぱ俺が身を張っての足止め役に徹するしかねえ。

 マリアに自由に動かれるのはどう考えたってマズいからな。


 さっきまでは割かし上手くいってたんだ。未知のスキルにさえ注意してりゃあ、もっぺん張り付くくれえのことはできるはず……!


「『シールドバッシュ』!」


 【超活性】の運動能力を全開にして駆け寄り、勢いのまま盾をぶつける。その途中で迎撃がくると見越していたんだが、マリアは俺が迫るのをただ見ているだけだった。


 まさか骨弾みてーになんもせず受けるつもりか?

 後悔すんじゃねえぞ!


「おっらぁ! ――あ?!」


 攻撃の瞬間。盾が触れる寸前まで確かにそこにいたはずのマリアを、見失った。音も気配もなく消えた標的に困惑する俺だったが。


「【閃光】を発動……」


「!」


 【閃光】! それは委員長も使ってた、高速移動を可能にするスキル!


 手品の種に思い至ると同時に背後から聞こえた声に反応して振り向こうとしたが、遅すぎた。そんときにはもうマリアだって攻撃準備を終えている……どころかとっくに攻撃が始まっていた。


「【聖刻】を発動」


「っぐぁ!?」


 速く、それでいて優しい手付きで。俺の横っ腹に手を置いたマリア。

 そのまるで攻撃のようには思えねー動作についてきた威力はとんでもなかった。


 痛くもあり熱くもあり、だがそれだけでは表現しきれねえ不可思議な衝撃がマリアの手から俺の全身へと広がっていく。


 かは、と俺の口から呼気が漏れてく。吐き出した分をすぐ吸いたいところだがそれができねえ。盾も手から落としちまった……そんくらいに苦しいわけだが、ずぐずぐと熱を持つ痛みに喘いでいる暇もない。


「【輝爆】を発動」


「【挺身】・【避雷針】発動!」


 ズドンッ!! 腹の底を揺らす、重い空気の振動。

 そして目を眩ませるような光の破裂。


 だが俺はそこに降ってくる刀を確かに見た。マリアの手が伸ばされようとしたところへ、俺たちの間に差し込むようにユーキが刀を投げつけたんだ。


 俺を狙っていたはずのマリアの攻撃は刀へと逸れ、そこで起爆。直撃を免れた。しかもこの至近距離にいながら俺はその爆発の影響をまったく受けちゃいない。


 ユーキのスキルか……!


「無事ですか、オレゼンタさんっ」


 キョロに乗ったままでユーキは刀と俺を回収し、さっとマリアから距離を取った。さすがに二人乗りは重量オーバーなもんで、すぐに降りたがな。


 ……それにしてもユーキのやつ、めっちゃ俺を軽々と持ったな? やっぱかなりバワーあるぜこいつ。


「ありがとよ、助かった。いいスキルコンボだな」


「どういたしまして! それよりオレゼンタさんは大丈夫ですか?」


「ああ、まだ攻撃の余韻は残ってるが動けねえってことはない……なに?」


 ユーキに言われ改めて自分の具合を確かめて、そこでようやく気が付いた。痛みやHPの減り方よりもよっぽど着目すべき異変にな。


「いつの間にか【死活】が消えてる――消されてるだと!?」


 いや。いつの間にか、じゃねえな……考えられるのはマリアのスキルしかねえじゃねえか。


 なんてこった。【聖刻】とかいうスキルは【死活】を強制解除できるらしい。

 委員長の『サンドリヨンの聖剣』やスオウの『滅法』と似たようなスキルか。


 しかし強化している【超活性】ではなく【死活】のみが消されたってことは、なんでも無条件に消せるわけじゃないと見るべきか。


 だが条件があるにしたって、それが判明しない限りはどのタイミングで消されるかわかったもんじゃねえ。結局はいつスキルが解除されてもおかしくないという前提で動くしかねえわけだ。



『レベルアップしました』



「!」


 ……マリアが六割になった途端に上がるかよ。こりぁあもう入ってくる経験値まで変動してることは確定か。


 こうなるとどういう調節の仕方をしてんのかってところも気になってくるが、今はそんなことに脳みその能力を割いてられる場面じゃあねえよな。


 だったら、と俺はざっと自分のステータス画面を見てとあることを決めた。


「――【死活】再発動」


「! オレゼンタさん?」


「たった今レベルが上がったぜ、ユーキ。これでもうちょい無茶ができそうだ」


「さくせんぞっこーですか?」


「いや、今のレベルアップでちょいと他に試したいことができた。パイロット作戦は一旦中止しよう」


 話す俺たちを見つめたままマリアは動かない。六割の状態。その強さを体感した俺たちが、それを踏まえてどんな風に攻めてどんな風に守るのかってのを確かめようとしてるんだろう。


 おそらく次に動き出したらもう止まらねえだろうな……さらに上の段階に行くまでは、な。


 正直言うと今の俺はもういっぱいいっぱいだ。

 六割についていくのすらかなりしんどいんだが、そんな弱音を吐いてはいられねえ。


 期待に応える、なんてのは俺のガラとは言えねえんだけどよ。


 俺たちに託したい。後顧の憂いをなくして魔皇へ挑みたいと……この勝負を受けるべきか迷った俺にそんなことを言ってきたマリアへ、情けねえ格好は見せたくねーんだ。


「キョロ、『搭載』だ。対象は【呪火】」


「クゥエ!」


「わ!」


 ボウッ! と。

 キョロの翼へ黒々とした不吉な火が宿る。こりゃあユーキが乗ったままだとえらいことになってただろうな。


 実は【呪火】のスキルLVは前より上がってて、スオウ戦では指先。っつーより爪の先くらいにしか火が出なかったんだが、LV2になった今は五指全体を覆うようになってる。


 ……しょぼい変化にしか思えねーかもだが、使う側からすると指先と指全体とじゃかなり違うってことだけは言っとくぜ?


 ま、1から2に上がっただけならこんなもんだろう。

 他のスキルだって実用的というか、はっきり強さが感じられるようになったのはLV3くらいだからな。


 それで、だ。

 今のレベルアップで【呪火】のスキルLVもとうとう3へと上がった。


 だったらキョロに搭載する方法でもそこそこ使い物になるんじゃねえかと思ってやってみたら、大正解。LV2のときとは搭載量がダンチだぜ!


 ふんだんに全身へ雷を纏ってた【黒雷】に比べれば大した量ではねーが、これなら最低限骨弾に乗せて撃っても一瞬で弾切れなんてことにはならねーだろう。


 火のような性質を持った死属性の塊である【呪火】は、ある意味じゃ混合属性の【黒雷】よりも厄介なスキルだ。

 最大ダメージは【黒雷】に分があるが、確実に一定のダメージを与えるのが【呪火】って感じだな。


 こいつをばんばん撃ち出してくる航空戦力ってのは敵からすりゃすげー鬱陶しいだろう。


 そのうえで。


「【黒雷】……!」


 地上の俺が【黒雷】を担当する。

 【呪火】と違ってダメージだけでなく、雷属性による若干の麻痺効果も狙えるのがこいつの便利なとこだ。


 キョロとともに俺の持つ二大攻撃スキルでマリアへ圧を与え、隙を作る。そしてそこへ変わらず本命のままのユーキにその剣技とスキルを存分に振るってもらう。それが次なる作戦だ。


「いいかユーキ。こっからの作戦は『ガンガンいこうぜ』だ」

「はい、オレゼンタさん。ユーキもがんがんいきます……!」


「――なるほど。今の私相手では防御に徹するのは得策ではないと判断しましたか。柴様もようやくの本気ということですね。ユーキもそれに応える気合は十分と……よろしい。受けて立ちましょう」


 いっそうの戦意を以って構える俺たち。あくまでも自然体に佇むマリア。

 ――動き出しはまたしてもキョロの羽ばたきが合図となった。


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