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246.対マリア用布陣

「【死活】・【武装】、『骨身の盾』!」


 やりたいことをユーキへ伝え終えた丁度そのとき、マリアがすっと人差し指を伸ばした。

 それは搭載してた【黒雷】を消費し終えて骨弾がノーマル骨弾に戻ったタイミングでもあった。


 連射される弾を忙しなく捌きながらもやはり余裕たっぷりにマリアが指差す先は当然、その発射元である空中のキョロだ。


 あの指からレーザービームが飛び出すことを知ってる俺としちゃあ、とても見過ごせねえぜ。


「おや……」


 ってなわけで盾を構えながら目の前に躍り出た俺を見て、マリアは驚いたような感心したような半端な声をこぼした。


 その目の端ではまだキョロを捉えているようだが、あいつは俺が飛び込むと同時に射撃を中断している。


 これでマリアはキョロを撃てねえ。

 背中に回らせることで射線は俺が遮ってるからな。


「柴様が出てくるとは」


「キョロに気を引かせて、俺が隙を突くってか?」


「ええ、そのように考えておりましたが……」


 じっと俺の手元の黒い盾を眺めてマリアは。


「何故ここで盾なのでしょう。私には柴様の意図が読めません。召喚獣を守り、己が身も守る。なるほど一ギルド長として立派な姿勢ではありますが……それだけでは勝つことはできませんよ」


「考えが読めねえってんなら結構なことじゃねえっすか。だって俺たち戦ってんだぜ?」


「…………」


「ちょっと思ったんだがよぉ。いくら稽古をつけてもらってるようなもんとはいえ、敵役の言うことをほいほい素直に聞くのもおかしな話だ。だからすんませんマリアさん。ここまでのアドバイス、全部まるっと無視させてもらいますんで」


「……!」


 マリアが反応したのは言葉にじゃない。にじり寄ってく俺の背後。盾で隠してる俺の体にさらに隠れてるキョロとユーキが、準備を終えて空へ舞い上がったからだ。


「いけますっ、オレゼンタさん!」

「クエェー!」

「よっしゃ、やるぜお前ら!」


「これは……、」


 旋回して自分の視界の外へ行こうとするユーキonキョロをマリアは見ているが、その視線――ちょいとこっちに寄越してもらうぜ!


「『シールドバッシュ』!」


「!」


 ここ数日は諸々の事情もありクエストを受注してる場合じゃねえってんで街の外に出てこそいねえが、訓練自体はしてたぜ。キョロの新形態を確かめたのもその一環だ。


 そんでこいつも訓練の成果、サラ直伝のシールド闘争術! 


 俺だって盾を持ってるんだからと習っておいたのは正解だったな。守りを固めながら攻めていけるってのは便利だが、実戦でやってみるとこれが意外と難しいんだ。戦斧や大鎌のように我流じゃこうはいかなっただろう。


「ふぅ――」


「っ!」


 だがマリアはそんな付け焼刃じゃねえ一撃でも簡単に堪えやがった。


 いい感じに入った手応えだったんだがな……つってもインパクトの瞬間に半身になられて当てどころをズラされた自覚もあった。


 なもんで、すぐに反撃がくるってことも予想済みだぜ。


「【輝爆】を発動」


「【金剛】発動ォ!」


 ズガンッ!! と本日二回目の光の爆発は盾越しにギラギラとした輝きを撒き散らした。――うし、凌いだ。【金剛】だけだと意識がグラつくほどキッツい攻撃だったが、『骨身の盾』で受けつつ体を【金剛】で硬くすりゃあなんとか耐えられなくもねえようだ。


 だが耐えたと言っても【金剛】は発動中ほぼ動けなくなるっつーデメリットがある。


 耐えたあとに攻めようと思っても一旦解除してから改めてってことになるんで、どうしても若干のタイムラグが生じちまう。


 それはつえー相手には致命的なラグ。

 言うまでもなくマリアへの攻撃を成立させるには絶対あっちゃいけない間だ。


 だから、いかに身を守れると言っても次の一手に繋がらねーんじゃそれこそマリアの指摘通り。


 勝利なんてもんは到底程遠い……そこを補う仲間がいなけりゃの話だがな!


「!!」


 マリアのスキル攻撃を俺が食らい、踏ん張った瞬間を目掛けてあいつらは来た。


「【真閃】――【大岩斬り】!」

「クウエッ!!」


 一塊となっての滑空! キョロを足場にユーキは自らが風を切り裂くようにして接近し、力強く刀を振るった。その刃は彼女の腕前とキョロの飛翔速度が合わさって目にも留まらぬほど鋭い太刀筋を生んでいる。


「くっ……!」


 技後硬直。攻めて、それを防がれた瞬間ばかりはマリアとて満足にゃ動けねえ。

 軽いジャブ程度のもんならともかく、今のはスキルも使ったちゃんとした攻撃だったしな。


 俺共々固まってるマリア。を、横薙ぎの剣閃が打つ。


 えれぇもんでマリアは刃と自分の間に腕を挟んで急所への直撃こそ避けていたが、それで防御が間に合うほどユーキの一撃は軽くなかった。


 吹っ飛ぶ。さんざっぱら俺もキョロも転がされたが、今度はマリアがそうなる番だ――ってほど甘くはねえか。


「これは本当に予想外でしたね……」


「そのまんままごついてくれるとありがてえ!」


 飛ばされても俺のように倒れたりはせず、難なく着地したマリアへとすかさず詰め寄る。


 俺の役割は最初と変わってねえ、足止め役。

 ひたすら亀みてーに守ってマリアを釘付けにするのが仕事だ。


 だがキョロによる先鋒は廃止し、結びの一撃を入れるユーキへ協力させることにした。つまり攻守のバランスを極端な形にしたってわけだ。


 マリアにとって目障りな位置で守ることしかしねー俺。

 キョロの機動力を得て宙を自在に舞うユーキの剣技。

 盾と矛を揃えた状態、これぞ即席の作戦から即席で発展した対マリア用布陣!


「もういっちょぉ! 『シールドバッシュ』!」


「……、」


 守ることに徹するっつっても、仕掛けられるときにゃ仕掛けねえとな。


 何をさせる暇もねえほどの速攻を繰り出したつもりだったんだが、マリアは【闘気】のオーラに包まれた手で、ぐいっと。俺の盾に横から力を加えて流しやがった。


 っ、これだ、この技術。おそらくスキルとは関係ねえ純粋な技量! こいつの厄介さよ!


 似たようなことをマーニーズが子供型ゴーレム(あとから聞いたが『ピースゴーレム』とかいう名前だったらしい)にもしていたが、あれよりもさらに巧みだ。


 まるで魔法にでもかけられたみてえだぞ!?


「ふっ――」


「【金剛】!」


 突き出した盾がよけられたことで攻めどころができちまった。

 サラの教え通り盾だけを突き出すんじゃなく自分の重心ごとぶつけるつもりでやってたんで、それを押しのけられたからって大きく身を晒したわけじゃあねえが……片側はどうしてもがら空きになる。


 そこにくるフックの軌道での掌打。


 速度を優先したのかスキルは使っちゃいないが、マリアの一打ならスキルを乗せなくたって十分脅威だ。


 しかもそれが【闘気】で威力を上げてるだろうことを思えば、惜しまず全力でガードに臨むべきだってのは思考を介さずとも本能で理解できる。


「づぅ……っ、」


「硬いですね」


 ガツンッと頬を殴られて視界が揺さぶられる。HP上のダメージはほぼないが、ただのフックでこの衝撃の凄まじさはなんなんだ。


 しかもあのスオウでも顔をしかめるくらいの硬度になってる俺を、素手のまま叩いておきながら涼しい顔をしてやがる。


 ――さすがは魔皇を倒した勇者。レベル100の大先輩だ。


 そんな存在ともなれば、来訪者らしい強味とはまったく別の部分でも強力この上ねえな。基礎戦闘力が俺とじゃあ天と地ほどに差がある。


 そして、手加減込みだろうと人数差があろうと。


 そんな相手と戦えていることの喜びが、俺の中に湧き上がってくる。


「【真閃】――」


「そう、まさにそれなのですよ柴様」

「!」


「――【天来斬り】!」


 直上。まるで雲の上から神の裁きが降ってくるようにして落ちる斬撃を、防ごうとも躱そうともせず。


 その瞬間、マリアは嬉しそうに微笑みを見せただけだった。


「ユーキと力を合わせて難敵へ挑むこと。その体験をあなたにしてほしかった。成果は上々、柴様とユーキの相性はやはり悪くない――」


 直撃する。言葉の途中で巨大な斬撃に頭から飲み込まれたマリア。その傍にいた俺も余波で一瞬、目を閉じちまった。


 慌てて瞼を開けてマリアがどうなったかを確認すれば、既にその姿は目の前になく。


「もうよろしいでしょう……遊びはこのくらいに、本格的な訓練を始めます」


「なん……!?」


「あるスキルによって調節している力を、これより段階的に引き上げて参ります。そうですね、まずは六割ほどでゆっくり、じっくりと。そうでなければあなたたちが壊れてしまいかねませんから――」


 離れた場所から俺たちを慈悲深い瞳で見つめながら、そんな空恐ろしいセリフをマリアは吐いた。


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