245.そのマシンガンを撃ってみろ
打ち込まれた掌打。
胸元で起こる光の爆発。
苛烈なまでの衝撃に俺の頭と目がぐるぐると回りかけたが、なんとか耐える。【金剛】をかけてなけりゃキョロみてーに沈められてたな、こりゃ……!
ダメージはかなりのもんだが……マリアのほうから触れてきたのはめっけもん!
「【死活】・【接触】!」
「!」
「そんでもって【死活】・【黒雷】だ!」
「……っ!」
強化した【接触】の恐怖効果。それから自分の身体に【黒雷】を撃つことで巻き添えにしてやった。
俺ぁこれを狙ってたのよ。いくら【死線】と【亡骸】のコンボを決めたからって、マリア相手に易々と攻撃が通るなんざ思っちゃいねえ。
端からやり返されることを見越して、またHPがゴリっと削られるのも覚悟のうえでマリアの動きを止めるつもりだったんだ。
なんのためってそらぁもちろん……本命をアシストしてやるためさ!
「【真閃】発動――【烈風斬り】!」
「!!」
ユーキはその瞬間を逃さなかった。まるで俺のすることがわかってたみてーにぴったしのタイミングで斬撃を飛ばして、しっかりと命中させた。
今度はマリアがその衝撃に体を揺らす番だった――が、しかし。
「……今のもとても良い太刀筋でしたね。柴様のアシストも同様に」
「なんだって……!」
マリアのやつ、止めやがった。まだ右手に残っていた『ホワイトヴェール』とやら……おそらくは光属性の防御系魔法であろうそれで、飛来した斬撃を握り潰しやがった。
そのせいでヴェールは散ってなくなったみてーだが、肝心のマリア本人にダメージは通ってねえようだ。
……ガチにとんでもねえな。
【黒雷】もだが、【接触】だって耐性系のスキルを切ってるなら効果は出てるはず。
それでもあの状況からガードを間に合わせるたぁどうなってやがんだよ。
肉を切らせて骨を断つ。のつもりだったんだが、皮すら切れなかったな。結果としちゃ俺とキョロが新たに傷を負っただけだ。
――だが、それなりの達成感はあったぜ。
「へへっ」
「おや、柴様。何かおかしなことでも?」
「おっと、勝負中に悪い。嬉しさが抑えきれなかったぜ」
「嬉しさ……?」
「なに、そう大したことじゃねえさ。マリアさんをたった一歩……ほんの一歩分、退かせた。ただそれだけに過ぎねえんだからな」
「……!」
はっとした顔で足元を見るマリア。『まだ動いていない』と言ったその場所から、自分が確かに一歩――ひょっとしたら半歩程度かもしれねえが、けれど確実に退いていることをこのときになって認識したようだ。
ガードはできても、押し込まれたわけだ。
そんだけユーキの一振りは強烈だったってことだな。
そんでもって俺たちの身を挺した囮だって無関係じゃねえだろうから……ま、やったことの全部が全部無駄だったってわけじゃあないってこった。
そのことはマリアも認めたようで。
「――うふふ。なるほど、この私が意図せずして動かされてしまったと……これは餞別を差し上げる必要がありますね」
「餞別だと?」
「ええ。【闘気】を発動」
「!?」
マリアの全身に一瞬にしてオーラが漲った。それは俺の纏ってる【死活】の強化オーラにもよく似ているが、透き通るような色合いだけは真逆と言える。
……スキル名からしてもこいつの効果は明らかだな。
「マリアさん、あんた――?」
「格闘戦。柴様はそれをお望みのようですから、これよりしばしお付き合いいたししましょう。さあ、ユーキもこちらへ」
「……かしこまりました、母上」
刀を手に持ったまま粛々と母の言葉に従い、ユーキが近づいてくる。
これで三者ともに近距離、近接戦の間合いとなった。
「キョロさんが先鋒で一撃離脱。柴様が中継ぎの足止め。ユーキが結びに一撃必殺。……各々の能力を加味しての連携、即席のものとしては悪くありませんでした。ですのでここからはもっと突き詰めて参りましょう。この距離では常に順番通りとはいきません、余程息を合わさない限りは互いに足を引っ張るだけに終わってしまいますよ」
「高説ごもっとも……ユーキ、両メインでいくぞ」
「二人で攻めながら合わせていくってことですね。りょうかいしました!」
「「「…………、」」」
しばらくの無言。張り詰めた空気の中で、バサリとキョロが飛び立ったのと同時。
俺とユーキは動き出した。
「っら!」
「しっ!」
左でのボディー狙い。を、逸らされる。ユーキの剣撃も的にしたその足で止められている。ちっ、圧巻の捌き具合だ。体感時間に圧倒的な差を感じるぜ。
だが俺だって戦えば戦うほどに【明鏡止水】によってマリアの動きを見切れるようになっていくんだ……ここはそれを待ちつつ、休まず攻め続けるのみだな!
「【技巧】!」
「【接閃】!」
俺の連打とユーキの連続斬りが同時に襲い掛かる。もはや面も同然となって逃げ場も防ぎようもねえそれを、マリア側もまた連撃で迎えた。
「づうっ、」
「くっ!」
「ユーキも柴様も、それでは邪魔にならぬように避けているだけ。息を合わせているとは言えませんよ」
殴打も斬撃も丁寧に打ち落とされた俺たちにマリアの叱咤が贈られてくる。
かーっ、二人分のラッシュへ対応しながら説教までする余裕があんのか!
「ちちっ――はぁ!」
「んんっ!」
体勢を直すよりも先に【黒雷】蹴りを放つ。ユーキも咄嗟にではあるが回転斬りを俺の蹴りとは反対側からマリアへぶつける。つまり俺の蹴りを避けるか防げばユーキの刀に当たり、ユーキのほうへ対処すれば俺の蹴りにぶち抜かれるって寸法だ。
指摘されてすぐ戦法を変えた俺たちにマリアも満足そうに。
「そう、こうやって異なる方向から攻めるべきですね」
などと言いつつも片手で俺の向こう脛を掴み、もう一方は視線をやることもなくユーキの刀身に指を沿わせ。
「はい」
「「っが!?」」
な、何が起きたかわからねえ――ひゅるりと力を流されて、気が付きゃ俺たちは互いに激突させられちまっていた。
小柄とはいえミサイルみたいな勢いで突っ込んできたユーキの頭突きを腹に食らったもんで、ぐっと息が詰まる。ユーキのほうも頭をぶつけたことで目がふらついてる。
これはマズい……! 敵の目の前で固まって動けねえなんざ、どうぞ狩ってくださいと言ってるようなもんだ!
「枷の時点で加減は十分、ですので失敗には相応の痛みを味わってもらいましょう――、っ!?」
転がってる俺たちに攻撃を加えようとするマリアだったが、すぐに身を翻して飛び退いた。そしてその場所に飛んでくるいくつもの弾丸。……なに、弾丸だと!?
こ、これは骨で出来た弾じゃねえか!
撃ったのはもちろん、あいつしかいねえ!
「キョロ! お前こんなこともできるようになったのか!」
「ク、クゥエェ!?」
「なんでお前のが驚いてんだよ!?」
あの態度からしてたった今、偶然できた技って感じだな。
見ればにょっきりとキョロの翼の一部に砲塔のようなもんが生えてる。
あそこから骨弾をマシンガンよろしく撃ったのか……。
デカくなって『搭載』の能力を得ても、攻撃するためには体でぶつかっていくしかなかったキョロ。だがそれではマリアに通じねえ、ってんでこうなったのかもな。
俺とユーキのピンチを救おうと新技に目覚めるたぁ、なかなかどうしてイケ鳥だぜキョロの野郎。
今は鳥ってよりそれに似た形の戦闘機って見た目だが、弾を撃てるようになったおかげでますますその見た目に相応しくなったな!
「よーしキョロ! 次は【黒雷】を乗せてそのマシンガンを撃ってみろ!」
「! クエクェ!」
「そうきますか……!」
思った通り、一度搭載された【黒雷】は骨弾にも乗っかるようだ。それをキョロはばら撒いた。
単にマリアだけを狙っても当たりゃしねえってのがあいつにもわかってるらしく、近づき過ぎないようにしながらマリアの周辺に射撃を散らしているんだ。
そうされちゃマリアも下手には動けない。
移動を控えて自分に当たりそうな弾だけを手で払っている。
……【黒雷】が付着した弾にゃ触れるだけでも属性ダメージが入るはずだが、どうやら【闘気】にも『ホワイトヴェール』と同じく防御効果があるっぽいな?
だがマリアの表情からして完璧には防げちゃいねえようだ。だったらこれはチャンス。
キョロが時間を稼いでくれているうちに再度の作戦会議としゃれこもう。
「ユーキ、おい。大丈夫か?」
「は、はい。ちょっとびっくりしたけどへっちゃらです」
「俺もさ。だがもう一度さっきみてーに攻めてもまたさっきみてーにやられちまうよな」
「そうかも、です」
「そこでひとつ、俺にいい考えがあんだがよ。乗ってみるか?」
「ユーキにやれることなら!」
「いい返事だな! そんじゃあユーキ、お前は今からパイロットだ!」
「ぱいろっとってなんですか?」
あ、それも知らねーのか。……そんじゃあなんて説明したもんかねぇ。




